歯並び・かみ合わせに問題がある状態を「不正歯列」「不正咬合」と呼びます。近年では歯列矯正する人も増えるなど「不正歯列・不正咬合は矯正するもの」という考えを持つ人が多くなっています。
この記事では、不正歯列の中でも「捻転歯(ねんてんし)」と呼ばれる歯について解説します。捻転歯を解消する方法にも触れているので、ぜひ参考にしてください。
1.捻転歯とは何か?
捻転歯は、読んで字のごとく「歯がねじれて生えた状態」を指します。アルファベットで「ROT」と表記することもあります。「rotated teeth(直訳:回転した歯)」の略語です。
「歯の形状自体がねじれている」というわけではなく、時計回り・反時計回りといったように「ねじれて生えてくる」ことを指します。
例えば、自分から見て右上の前歯なら、歯面(歯のオモテ面)が正面ではなく「外側に向いている(時計回り)」「内側に向いている(反時計回り)」などの状態を捻転歯と言います。
ねじれ具合は個人差があります。軽度のこともあれば、90°近く(歯の側面が見えてしまうほど)など、大きくねじれていることもあります。
1-1 捻転歯のデメリットとは?
捻転歯があることで生じる問題点は、単に「見栄えが悪い」というだけではありません。機能的な側面でも、少なからずトラブルの元になります。捻転歯によって生じる問題点を確認してみましょう。
虫歯・歯周病リスクが増大する
歯ブラシは歯面を磨くようになっているため、途中に捻転歯があると効率的に歯面を磨くことができません。その結果、捻転歯の周辺は磨き残しが多くなり、常に歯垢(プラーク)が付着したままの状態になります。
当然、衛生的ではないため、捻転歯はもちろん隣の歯も巻き込んで虫歯になったり、歯垢が歯石に変わって歯周病の原因になったりします。
捻転歯に限ったことではありませんが、不正歯列は虫歯・歯周病リスクを増大させます。
全体の歯列に影響が出る
「欠損した歯があると、隣接した歯が欠損部位の方に傾いてくる」というのは、よく知られています。これは、歯が「接触する相手がいない方向に傾く性質」を持っているためです。
捻転歯と隣り合っている歯もまた、捻転歯の方向に傾いてくることがあります。捻転歯が90°近くなど大きくねじれている場合、隣接する歯との間に空間ができるからです。
歯並びは、一部が乱れると連鎖的に波及する傾向があります。捻転歯を放置したことで、全体の歯並びが崩れる恐れもあります。
1-2 捻転歯の原因は?
捻転歯の原因はいくつか存在します。いずれも意図して予防できる原因とは言えませんが、知識として「何が原因になり得るのか」を知っておきましょう。
顎のスペースが不足している
「永久歯が生えてくるために必要なスペース」に対し「顎のスペース」が不足していると、捻転歯になることがあります。十分なスペースが存在しない状態で、無理に生えようとするためです。
スペース不足は、捻転歯に限らずさまざまな不正歯列の原因になります。
過剰歯が存在している
基本的に、歯は種類(切歯・犬歯・臼歯等)ごとに本数が決まっていますが、人によっては「過剰歯」と言って正常よりも歯が多く存在することがあります。
特に多いのが、前歯の中央に余分な歯が出てくる「正中過剰歯」です。過剰歯は他の歯より小さかったり(矮小歯)、歯茎の中に埋もれていたりするケースが少なくありません。
歯茎に埋もれた過剰歯が邪魔になって「生えてくるべき歯」がきちんと生えてこないといった場合、捻転歯になることがあります。
遺伝的な原因がある
歯の生え方などは遺伝子が影響していることがあります。
例えば、歯が作られる初期段階で「歯の芽」とも呼ばれている歯胚(しはい)が「ねじれて生える遺伝子情報」を持っていた場合、捻転歯になることがあります。
このケースでは、歯が生えるのに十分なスペースがあったとしても、ねじれて生えてきます。軽度の先天異常です。
上唇小帯付着異常に起因する場合
上唇の裏側には、歯茎と連結された「縦向きの筋」があるはずです。この筋を「上唇小帯(じょうしんしょうたい)」と呼びます。
1歳くらいなら、前歯の間に上唇小帯が入り込んでいることは珍しくありません。成長とともに、高い位置(歯茎の上の方)に移動していきます。
しかし、永久歯が生える頃になっても低い位置(歯に近い方)に付着している場合は「上唇小帯付着異常」かもしれません。低い位置にある上唇小帯が前歯の生え方に影響をおよぼし、捻転歯になってしまうことがあります。
2.捻転歯の治療法
ねじれが小さい場合は、だんだんと正しい向きに直るケースもあるようです。しかし、大きくねじれた捻転歯は自然治癒が期待できません。そのため、治療の対象になることがあります。
ただし、乳歯の捻転歯は何もせずに経過観察するのが基本です。永久歯が正しい向きで生えてくるようなら、あえて乳歯に手を加える必要がないからです。
2-1 歯列矯正
歯列矯正によって、捻転歯を正常な向きに矯正することができます。
全体のかみ合わせに問題がなければ、捻転歯または周辺だけの部分矯正で済むこともあるでしょう。部分矯正なら、費用・痛みなどの負担が少なくなります。
ケースによっては、抜歯をともなう矯正治療になることもあります。
2-2 抜歯
「歯が生えるスペースが不足しているケース」などでは、必要に応じて抜歯することがあります。スペースを作り、矯正せずに自然に治るか経過観察をしていきます。
※永久歯を抜歯した場合、歯は二度と生えてきません。抜歯のメリット・デメリット、後戻りのリスク、抜歯後の処置などについて歯医者さんとよく話し合い、慎重に判断しましょう。
3.まとめ
ほかの不正歯列にも同じことが言えますが、捻転歯を放置すると周囲の歯にも悪影響を与える恐れがあります。永久歯が捻転歯だった場合は、早めに歯医者さんを受診し、どうすれば良いのか相談してみましょう。
何もせず経過観察するにしても、定期的に歯医者さんを受診していれば、大問題が生じる前に手を打てます。
歯列不正は虫歯や歯周病の原因予防としてしっかり治したいものですね!
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歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。