親知らずを抜かない判断基準は?保存することで生じるメリットも解説

親知らずを抜かない判断基準は?保存することで生じるメリットも解説

親知らずは「基本的に抜歯するもの」と考えている人が多いようです。実際、「歯茎に埋まったまま出てこない」「斜めに生えてくる」など、口腔トラブルの原因になるケースも少なくありません。

ただ、「生えてきたら、抜かなければいけないのか?」というと、一概にそうとも言えません。トラブルの原因になっていなければ、「抜かない」という選択肢もあり得ます。こちらの記事では「親知らずを抜くか、抜かないか」の一般的な判断基準について解説することにしました。親知らずが生えてきたときの情報収集にお役立てください。

この記事の目次

1.親知らずを抜く? 抜かない? 親知らずを保存する条件

さて、「親知らずを抜くか、抜かないか」を左右する条件とは何でしょうか? こちらでは、親知らずを保存するための必要条件を確認することにします。どのような親知らずであれば、「抜かない選択」が可能になるのでしょうか?

1-1 埋伏していない親知らずは、抜かないでOK!

親知らずは「斜めに生えてきて、一部が歯茎に埋まったまま」というケースがよくあります。このような親知らずを「埋伏智歯」と呼びます。埋伏智歯は、うまく歯磨きできないので、周囲の歯を巻きこんで虫歯になることも多いです。あるいは、周囲の歯茎に雑菌が溜まって炎症を起こすこともあります。(智歯周囲炎)

埋伏智歯になっている親知らずは、残念ながら抜歯するのが基本路線です。親知らずを保存するメリットより、「虫歯が増える」「智歯周囲炎を起こす」といったデメリットのほうが大きいからです。逆に、「きちんと全体が歯茎から出てきている親知らず」ならば、保存することができます。埋伏していないなら、「抜かないでOK」という確率が高くなります。

1-2 真っ直ぐ生えている親知らずは、抜かないでOK!

斜め・横向きの親知らずは、口腔トラブルを起こすリスクが高いです。傾いて生えてくる親知らずは、たいてい第二大臼歯の方向に傾いています。結果、第二大臼歯をぐいぐい圧迫して、悪影響を及ぼしてしまうのです。第二大臼歯の根っこが圧迫されれば、第二大臼歯の寿命が縮みます。第二大臼歯の上部が圧迫されれば、第二大臼歯が移動してしまい、全体の歯列に悪影響が出るでしょう。

こういった問題を起こさず、上向きに生えている親知らずなら、抜かないでOKだと思います。「親知らずを保存するための要件」を一言で表すならば、「周囲の歯に悪影響を及ぼさない状態であること」です。

1-3 上下が揃っている親知らずは、抜かないでOK!

最近では「そもそも、親知らずが生えてこない」という人も増えています。むしろ、4本すべて生えてくる人の割合は少ないくらいです。そのため、「上だけ生えてくる」「下だけ生えてくる」というケースも散見されます

上だけ・下だけに生えている親知らずは、歯茎を傷つける恐れがあります。噛み合わせる相手がいないため、反対側の歯茎を噛む場合があるのです。歯は上下が揃っていないときちんと機能しません。上だけ・下だけの親知らずは、害を及ぼすことも多いのです。

逆に、「上下が揃っていて、きちんと噛み合っている親知らず」なら、抜かないで大丈夫です。きちんと噛み合わせができているなら、歯として機能します。あえて、抜歯する必要はありません。

2.親知らずを抜かないことによるメリットは?

世間一般で、半ば「口腔内のトラブルメーカー」のように扱われている親知らずですが、「抜かないで残すこと」にメリットはあるのでしょうか? まずは、「親知らずを保存するメリット」をまとめたいと思います。

2-1 第二大臼歯を失ったとき、ブリッジの土台になる!

親知らずは、三番目の大臼歯ですから、正式名称は「第三大臼歯」です。そして、親知らずの1つ手前にあるのが「第二大臼歯」になります。もし、「第二大臼歯を失ったら…」と考えてみてください。原因は虫歯だったり、破折(事故などで、歯が割れること)だったり、いろいろと考えられます。第二大臼歯がなくなったとき、もし、親知らずが残っていれば、ブリッジで歯を補うことが可能です。

ブリッジは「1」「2」「3」と歯が並んでいて、「2」の歯が失われたときに適用する治療法です。「1」と「3」の歯を削り「1~3」まで連続した「大きなクラウン(かぶせ物)」をかぶせます。すると、「2」の位置に「かぶせ物の歯」が存在する状態になるので、噛み合わせに問題が起こりません。

つまり、第二大臼歯をブリッジで補うためには、「第一大臼歯」と「第三大臼歯(親知らず)」が必要なのです。親知らずを抜いてしまうと、第二大臼歯にブリッジを適用することはできません。ブリッジの条件が、「両隣の歯を土台にすること」だからです。

もちろん、補綴(失った歯を補うこと)の方法はブリッジ以外にも存在します。ただ、ブリッジができないということは、選択肢が1つ減ることを意味します。入れ歯は「普通の歯と異なり、取り外して手入れする必要がある」という欠点がありますし、インプラントは「保険適用外で高額」という問題があります。その点、ブリッジは普通の歯と同じように歯磨きをしながら維持しますし、保険内での施術も可能です。両隣の歯を削る…という問題があるにせよ、ブリッジにはブリッジの良さがあるのも、また事実です。

2-2 歯牙移植に利用することができる!

失った歯を補う治療法の1つに「歯牙移植」というものがあります。これは、ほかの場所にある歯を移植して、歯を補う治療です。たとえば、第一大臼歯・第二大臼歯が保存できないレベルの虫歯になったとき、親知らずが残っていれば、歯牙移植を実施できます。親知らずは「なくなっても全体の歯列にほとんど影響しない歯」ですから、「親知らずをなくして、ほかの場所の歯を補う」というのは、十分に合理的です。

歯牙移植した歯は、「歯根膜」という組織によって歯槽骨に固定されます。歯根膜は「噛んだものの硬さを認識する役割」も有しているので、普通の歯と同じように「噛むときの感覚」を得ることができます。インプラントには歯根膜がないので、歯牙移植した歯は「インプラントよりも自然に噛める歯」といえます。

ただ、歯の神経を生かしたままで歯牙移植することはできません。移植と同時に神経を抜いて、歯の内部に薬剤を詰める必要があります。移植後、2~6ヶ月の間、薬剤を取り換えながら歯内の無菌状態を維持し、最終的な薬剤を詰めてから、かぶせ物をします。移植した歯は「かぶせ物をした歯」として使うことになるわけです。

ちなみに、歯牙移植は条件を満たせば保険適用が可能です。保険適用になるための条件は、「移植先の歯がまだ残っていて、移植元の歯が親知らずor埋伏歯であること」です。失われる歯(末期の虫歯・歯周病、または歯の破折)が一応、まだ存在しなければなりません。抜歯済みだと、保険外です。そして、移植に使用する歯は「親知らず」または「歯茎に埋まったまま出てこない歯(埋伏歯)」でなければいけません。これらの条件を満たしていれば、保険適用で歯牙移植できます。もちろん、自由診療で良いなら、条件に関係なく歯牙移植が可能です。

ただし、歯牙移植は万能ではありません。うまく定着せずにあっさり抜け落ちることもあります。また、うまく定着しても、寿命は5~10年程度になることが多いです。中には10年を超えて問題なく機能するケースもありますが、長持ちする保証はありません。

3.まとめ

親知らずには、「抜かない」という選択肢も存在します。トラブルの原因になっていないなら、きちんと歯として機能します。また、将来的に「ブリッジの土台」「歯牙移植」などの使い道が出てくる可能性もあるでしょう。親知らずの生え方を確認し、歯科医師と相談の上で「抜くか抜かないか」を判断してください。

 

先生からのコメント

最終決断はやはり患者さんご自身ですが、基本的に親知らずが感染源となる場合は特に全身疾患の原因となるため、抜歯をしたほうがよいと思います。

執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。

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