親知らずを4本同時に抜歯することはできる?忙しい社会人の悩み

親知らずは口腔トラブルの原因になりやすいため、「生えてきた段階で抜歯を検討する」という考え方が主流になってきています。ただ、最終的に4本すべてを抜歯する場合でも、身体への負担を考慮して「1本ずつ」あるいは「左右2本ずつ」の抜歯が原則です。

しかしながら、「通院時間となかなか取ることができない」といった理由で、4本同時の抜歯を希望する患者さんも多いようです。こちらの記事では、親知らずを4本まとめて抜歯する際の方法を解説したいと思います。

この記事の目次

1.基本的な親知らず抜歯は、左右2本ずつ!

ごく普通の歯科医院では、基本的に、一度に抜歯する親知らずを「2本まで」としています。「左の上下」または「右の上下」に生えている親知らずを、2本まとめて抜歯するわけです。多くの歯科医院が「左右いずれの2本」を同時抜歯の上限としているのには、以下のような理由があります。

1-1 抜歯後、問題なく食事がとれるように

抜歯すると、しばらくの間は歯茎に傷が残ります。当然、傷がある側で食べ物を噛むことには、多少の困難が伴います。特に、刺激物(辛いものなど)・熱いものが触れると、強い痛みを感じる恐れもあるでしょう。

それならば、たとえば、「左の上下2本を抜歯したあと、傷口が塞がるのを待ってから右の抜歯をおこなう」という方法を選んだほうが合理的です。左の傷口が治るまでは、右で噛めば良いからです。左右で抜歯するタイミングをずらせば、抜歯後の食生活に特段の配慮をする必要がありません。

1-2 難抜歯が含まれる場合、手術時間の問題も…

親知らずを抜歯するときの難しさには、3段階が存在します。容易なほうから順に、普通抜歯、難抜歯、埋伏歯となります。

普通抜歯

「真っ直ぐ生えている歯」または「傾いて生えているものの、特に抜歯を困難にする理由が存在しない歯」は普通抜歯になります。

難抜歯

歯が歯槽骨(歯を支える骨)に癒着している場合、歯根肥大・歯根湾曲など歯根の形状に問題がある場合は、骨を削る「骨開削」をしなければなりません。骨開削を伴う抜歯は、難抜歯の扱いになります。また、歯を分割して、一部の歯根だけを抜歯する「歯根分離術」をおこなったときも難抜歯の扱いです。

埋伏歯

歯が横向きのまま歯槽骨に埋まっている場合、「骨性埋伏歯」と呼ばれます。埋伏しているのが親知らずならば、特に「水平埋伏智歯」と呼称します。水平埋伏智歯に対しては「水平埋伏智歯抜歯術」をおこなう必要があり、難抜歯と比べても、さらに抜歯の難しさが上がります。

難抜歯・埋伏歯は、抜歯に30分~1時間ほど要することもあるので、局所麻酔での4本同時抜歯は非現実的です。局所麻酔下の患者さんは「自分の意思で口を開けて、治療を受けている状態」に置かれます。口を大きく開けて治療を受け続けるのは、1時間程度が限界とされています。難抜歯・埋伏歯を含む場合、4本すべてを抜歯するまで口を開けている…というのは非現実的です。

2.総合病院などの歯科口腔外科なら、4本同時抜歯も可能!

ただ、冒頭で記述したとおり、「通院時間を取ることができない」などの理由で4本同時抜歯を希望する患者さんもいます。その場合、総合病院・大学病院などの歯科口腔外科で「4本同時抜歯」を受けることが可能です。この章では、「親知らずの4本同時抜歯」がどのようにおこなわれるかを解説することにしましょう。

2-1 親知らず4本の同時抜歯は、静脈内鎮静法 or 全身麻酔!

基本的に、抜歯は局所麻酔でおこないますが、4本同時抜歯する場合は「静脈内鎮静法」または「全身麻酔」のいずれかになります。意識がはっきりした状態で長時間、口を開けたまま治療を受けるのは困難だからです。

静脈内鎮静法

点滴から鎮静剤を入れて、意識をぼんやりさせる鎮静法(セデーション)の一種です。分量が異なるだけで、薬剤そのものは全身麻酔薬・全身麻酔導入剤を用います。静脈内鎮静に用いられる代表的な麻酔薬は、「デクスメデトミジン」「ミダゾラム」「プロポフォール」などです。

鎮静の場合、意識が全くなくなることはありません。半分眠っているくらいの意識は保たれていて、医師からの呼びかけに応えることも可能です。また、全身麻酔と異なり、自発的な呼吸も保たれます。

鎮静が切れてから1時間程度で、普通に動けるようになるので、必ずしも入院する必要はありません。ただ、親知らずの4本同時抜歯は身体的負担が大きく、術後は食事をとることもままならないので、1泊2日で入院し、全身管理をおこなうのがよくある方法です。

全身麻酔

患者さんの意識を消失させる麻酔です。「全身麻酔」という薬があるわけではなく、複数の薬剤を組み合わせて「全身麻酔下の状態」を作りだします。静脈麻酔薬と「フェンタニル(合成麻薬)」で患者さんを眠らせ、気道確保した上で「ロクロニウム」などの筋弛緩剤を投与します。その後、気管挿管をして人工呼吸の状態にすれば、全身麻酔の導入が可能です。その後は、静脈麻酔薬あるいは吸入麻酔薬を継続的に投与して、全身麻酔の維持をおこないます。

自発呼吸が停止することもあり、麻酔の前後も一定の管理が必要です。麻酔から醒めて数時間は酸素マスクをつける必要がありますし、麻酔をする前日夜からは絶食しなければなりません。そういった管理の必要性から、基本的に2泊3日の入院を要します。

2-2 抜歯自体は、1~2本ずつ抜くときと同じ!

抜歯そのものは、歯科医院で1~2本ずつ抜歯するときと同じようにおこなわれます。テコの原理で歯根を脱臼させるだけで抜けるなら「普通抜歯」、骨開削などを伴えば「難抜歯」、水平埋伏智歯なら「水平埋伏智歯抜歯術」です。

3.まとめ

以上から、総合病院・大学病院の歯科口腔外科なら、親知らず4本を同時に抜歯することは可能です。ただ、静脈内鎮静法や全身麻酔をおこない、全身管理のもとで抜歯することになります。

ただし、術後は左右両側とも食事に困る状態ですから、患者さん本人の負担は決して軽くありません。特段の事情がない限りは、左右2本ずつの抜歯を推奨します。

先生からのコメント

親知らずの抜歯はご自身の生活サイクルやお仕事などを十分考慮して無理なく抜歯をされるのがよろしいと思います。歯科口腔外科の医師、もしくはかかりつけの歯科医師にご相談ください。

執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。