しゃくれは治せる!?自分でできる日常の改善法や歯医者さんでの治療法を紹介

しゃくれは、咬み合わせや滑舌に影響を与えることがあります。見た目にコンプレックスを抱えてしまう人もいます。

この記事では、しゃくれのセルフチェックをはじめ、自分でできる改善法や歯医者さんでの治療法を紹介しています。

しゃくれとはどんな状態を指すのか、しゃくれの原因にはどんなものがあるのか、受け口との違いは何か、といった基礎知識も併せて解説しています。

この記事の目次

1.しゃくれかどうかセルフチェックで診断

まずはしゃくれかどうか、セルフチェックしてみましょう。
以下の症状で当てはまる数が多いほど、しゃくれの状態が疑われます。

上下の歯を咬み合わせたときに上の前歯が下の前歯より内側にくる
前歯だけで麺類を噛み切るのが困難(舌を使わないと噛み切れない)
舌小帯(ぜっしょうたい=舌の下側にあるスジ)が短い
サ行やタ行といった発音しにくい音がある
滑舌が悪いと言われることがある(または自覚がある)
下唇がE-Line(鼻の先と顎の先を結んだライン)よりも前に来ている

※上記のセルフチェックは、必ずしも「しゃくれであることを診断する」ものではありません。診断結果は「どれだけしゃくれの疑いがあるか」の目安となるものです。歯医者さんを受診すべきか迷ったときの判断材料の一つとして活用してください。

2.セルフケアで改善が見込めるしゃくれ

しゃくれの中には、セルフケアである程度改善が見込めることがあるものや、予防または症状の悪化防止が期待できるものがあります。

具体的には、

  • 顎の筋肉が不自然な状態で凝り固まり、顎の骨に影響を与えている
  • 日常生活の習慣や癖(くせ)が、顎の骨や顎の筋肉に影響を与えている

といったことが原因で生じているしゃくれです。

顎の骨格や歯並びといったことが原因のしゃくれは、セルフケアでの症状改善が難しいことがあります。
セルフケアとは、顎の筋肉をほぐしたり、顎の骨と筋肉に影響を与えてしまう習慣や癖を改善したりすることです。

以下に、しゃくれの原因となりうる「顎の筋肉の不自然な硬直を招く習慣や癖」と「改善や予防を目指すときに意識したいポイント」を5つ紹介していきます。

しゃくれは、原因によって改善法や治療法が異なります。

自己判断で治そうとすると、症状を悪化させてしまうかもしれません。

そのため、まずは歯医者さんを受診し、しゃくれの原因や改善方法について、先生に相談してみることが大切です。

2-1 左右どちらか一方の歯で噛む

顎の筋肉のバランスが崩れると、負担が多くかかる方の筋肉が疲労し、固まってしまうことがあります。
下顎が不自然な角度で固まると、しゃくれの原因となることがあります。

左右どちらか一方の歯で噛む習慣がある人は、よく噛む方の顎の筋肉が特に発達し、左右の筋肉のバランスが崩れやすくなります。
左右の歯でバランスよく噛むことを心がけ、改善や予防を目指しましょう。

2-2 うつぶせや横向きで寝る

うつぶせや横向きで寝る習慣がある人は、顎の骨にひずみが生じやすくなり、場合によってはしゃくれの原因になります。
うつぶせや横向きで寝ると、顎の骨に直接、外からの強い力が加わるためです。

顎の骨にかかる負担が少ない「あお向け」で寝ることで、予防や改善を目指しましょう。

2-3 舌の位置が悪い・口呼吸

舌の位置が悪かったり、口呼吸が習慣だったりすると、しゃくれてしまうことがあります。
舌が下顎に落ちてしまうことがよくある人は、舌が上顎に触れる位置に落ち着かせることを意識して、改善や予防を目指しましょう。

また、口呼吸の習慣がある人は、鼻呼吸を心がけましょう。

通常、口を閉じているとき、舌は上顎に触れています。
しかし、舌が下顎の内側に落ちている場合、舌が下顎を押し出す力によって、徐々にしゃくれてしまうことがあります。

特に注意したいのが、口呼吸の習慣がある人です。

口呼吸をしているとき、舌は下顎の内側に落ちているためです。

口呼吸の時間が長くなるほど、舌が下顎を押し出そうとする時間も長くなり、しゃくれにつながってしまうことがあります。

2-4 食いしばりや歯ぎしり

強い力による食いしばりや歯ぎしりが長期間続くと、顎の筋肉が固まってしまうことがあります。
下顎が不自然な角度のまま固まってしまうと、しゃくれの原因となることがあります。

食いしばりや歯ぎしりは、顎の筋肉に大きな負担をかけます。
気づくと食いしばっているという人は、意識的に歯を咬み合わせないようにすることで、予防や改善を心がけましょう。

寝ている間に歯ぎしりする癖がある人は、意識して改善することが困難です。
歯医者さんで、自分専用のマウスピースを作製してもらうことも検討しましょう。

マウスピースがあれば、食いしばりによって顎の筋肉にかかる負担の軽減も期待できます。

2-5 頬杖(ほおづえ)

頬杖は、顎の骨に強い力が加わります。
無意識のうちについてしまう頬杖ですが、意識して減らすことで改善や予防につなげましょう。

頬杖が癖になっている人は、少しずつ顎の骨が歪んでしまう恐れがあり、歪んだ角度によってしゃくれの原因となることがあります。

3.歯医者さんでしゃくれを治す方法

しゃくれは、必ずしも治療しなければならないものではありません。

しかし、中にはコンプレックスに感じ、治療法を探している人も多くいます。
また、十分に咀嚼(そしゃく=よく噛むこと)できないことから、消化器官にかかる負担を気にして、治療を検討している人も少なくありません。

まずは歯医者さんを受診し、治療の必要があるかどうか、改善法や治療法は何かといったことを相談しましょう。

3-1 歯並びが原因のしゃくれには「歯列矯正」

顎の骨格ではなく、歯並びが原因でしゃくれているように見える(※)場合、歯列矯正で改善を目指す方法があります。

※歯並びに問題があり、上の歯よりも下の歯の方が前に出ていることを「受け口」と呼ぶことがあります。受け口については、4章で詳しく紹介しています。

■歯列矯正について

歯にブラケットと呼ばれる装置を装着し、ブラケットにワイヤーを通します。
ワイヤーが張るときの力を利用して少しずつ歯を動かし、歯列を矯正します。
上の歯を前に出す、または下の歯を後ろに引っ込めることでしゃくれの改善を目指します。

■メリット・デメリット

メリットとしては、歯並びがよくなることでよく噛めるようになる、発音しやすくなるといったことが挙げられます。
しゃくれが改善されると見た目も変化するので、コンプレックスの解消も期待できます。
一方のデメリットとして、顎の骨格にも問題がある場合、歯列矯正だけでは十分な結果が得られにくいことが考えられます。

また、ブラケットやワイヤーを装着している間は、歯磨きがしにくくなります。
磨き残した部分に溜まった細菌が原因で、虫歯や歯周病を発症しやすくなるといったリスクも生じます。

■治療期間の目安

治療期間の目安は1~2年程度が目安です。
しゃくれの症状や度合いによって異なるほか、前歯のみ、または歯列すべてといったように、矯正する範囲によっても大きく異なります。

歯列矯正した後は、「後戻り(※)」を防ぐための保定期間を設けるの基本です。
保定期間の目安は1~2年程度が多いため、トータル4年程度の治療期間を見ておくと良いでしょう。

※後戻りとは、歯並びが矯正前の状態に戻ってしまうことです。

■費用の目安

歯列矯正は自由診療のため、全額自己負担となります。

使用する矯正装置の種類、矯正の範囲といったことで大きく変わってきますが、10~150万円程度(上下の顎を対象とした場合※1)が目安となります。

そのほか、検査料、診断料として3~5万円程度、処置料として1回につき5千~1万円程度、保定装置および管理費(※2)として5万円程度の費用が必要になることがあります。

※1歯の教科書調べ
※2保定装置および管理費は、基本料金に含まれているケースもあります。詳しくは、治療を受ける歯医者さんに確認しましょう。

3-2 顎の骨格が原因のしゃくれには「外科的手術」

しゃくれの原因が、歯並びではなく顎の骨格にある場合、顎の骨を切ることで後ろに移動させる、または顎自体を短くするといった外科的手術で治す方法があります。

■外科的手術について

多く用いられるのは、下顎枝矢状分割法という手術で、下顎を後方に移動させる方法です。
全身麻酔を使用し、口の中を切開して顎の骨を切り、必要な分だけ移動させます。

ただし、顎の骨の長さや、患者さんがどのような仕上がりを希望するかによって、移動させる量が変わってきます。
顎の骨が長い人は、同時に顎を短くする手術をおこなうこともあります。

顎の骨格と同時に歯並びにも問題があれば、手術の前と後に矯正治療をおこないます。

■メリット・デメリット

咬み合わせが改善されるほか、顎の変形が改善されるメリットがあります。

また、骨格が移動することで頬や唇、鼻などにも多少の変化が見られることがあります。
特に唇は、これまでより楽に閉じられるようになることが多いようです。

見た目も変化するので、外見に対する悩みの解消も期待できます。

手術後は、上顎と下顎が開きすぎないように、一定期間矯正装置で抑制します。
そのため、口を開く行為が一時的ですが制限されるデメリットがあります。
下の第一小臼歯が健康だった場合、抜歯することをデメリットに感じる人もいるようです。

なお、手術は口の中だけでおこなうので、顔の見た目に傷が残るといった心配はありません。

■治療期間の目安

手術前におこなう、矯正治療の期間の目安は1~2年程度です。

手術は2~5時間程度で済むことが多いのですが、前日や前々日からの入院が必要で、トータルで1週間~10日間程度、入院するのが目安です。

また、手術で移動した骨は金属のプレートで固定する必要があるほか、正しい咬み合わせの位置を微調整し、それを保つための矯正治療も必要になることが多いです。
移動した骨の固定には1年程度、正しい咬み合わせの位置を保つための矯正治療は1~2年程度かかることが多いようです。

症状や手術の範囲といったことで個人差が出てきますが、手術前の矯正治療も含め、期間は4年程度を見ておくと良いでしょう。

■費用の目安

顎の骨格に問題があり、下顎が上顎よりも前に出てしまっていることを「顎変形(がくへんけい)を伴う下顎前突症(かがくぜんとつしょう)」と言います。
しゃくれや受け口、出っ歯などは、すべて顎変形症に当たります。

顎変形症の診断を受けておこなう外科的手術、および、手術に伴う矯正治療に関しては、保険が適用されます。
矯正治療にかかる費用の目安は3割負担で15~30万円程度、手術や入院にかかる費用の目安は、同じく3割負担で30~50万円程度となります。

ただし、保険診療を受けるには、厚生労働省が認定している「保険適用される矯正歯科治療をおこなうことができる医療機関」で治療を受けなければなりません。

4.しゃくれている状態の定義と原因

そもそも「しゃくれている」とは、どういう状態を指すのでしょうか?

「歯並びが原因で下顎が出ているように見える(受け口)」場合と、「骨格が原因で下顎が上顎よりも前に出ている」場合とでは、見た目には違いが分かりづらくても、症状や原因が異なります。

ここでは、「しゃくれている状態」の定義と原因、しゃくれと似ている「受け口」との違いなどを解説します。

4-1 しゃくれとはどのような状態か?

しゃくれは、下顎が上顎よりも前に出ているといった「輪郭(りんかく)の状態」を指します。
歯並びが原因で、下顎が上顎よりも前に出ているように見える状態は受け口と呼ばれ、厳密にはしゃくれとは言わないようです。

しかし、見た目の特徴から、下顎が上顎よりも前に出ている(出ているように見える)状態全般を、しゃくれと言うことがあります。

4-2 しゃくれの原因

しゃくれの原因は、遺伝といった「先天的」なものと、歯並びや習慣、癖といった「後天的」なものが考えられます。

■先天的なしゃくれの主な原因

顎の骨格に問題があってしゃくれている場合、遺伝的要因が影響していることがあります。
例えば、親御さんがしゃくれている場合、子どもは、将来的にしゃくれる遺伝的要因を持っていると言えます。

また、多少ではありますが、歯並びも遺伝的要因の影響を受けることがあります。

■後天的なしゃくれの主な原因

左右どちらか一方の歯で噛む、うつぶせで寝る、口呼吸するといった習慣や、食いしばり、頬杖といった癖が顎の骨や筋肉に影響を与え、しゃくれてしまうことがあります。

4-3 しゃくれと受け口の違い

しゃくれと似たような症状に、「受け口」があります。受け口は、「反対咬合(はんたいこうごう)」や「下顎前突(かがくぜんとつ)」と呼ばれることもあります。

しゃくれと受け口は、見た目が似ているため同じように考えられがちですが、その定義には次のような違いがあります。

■しゃくれ

下顎が上顎よりも前に出ているといった、「顎の骨格の状態」を言います。
歯列矯正だけでは顎の骨を動かすことができないため、治療には外科的手術が必要になることが少なくありません。

■受け口

下の歯が上の歯より前に出ているといったように、「咬み合わせが正常とは反対になっている状態」を言います。
歯列矯正で改善が期待できます。

このように、しゃくれと受け口は、原因や症状、改善方法などが異なります。
しかし、受け口が原因でしゃくれのような印象を与えることもあります。

しゃくれの原因を詳しく知るには、歯医者さんを受診し、先生の診断を受けましょう。

5.まとめ

自分でできるしゃくれやその改善法、歯医者さんでおこなう治療、受け口との違いといった、しゃくれの基礎知識を紹介してきました。

しゃくれは個性の一つでもあり、必ずしも治療しなければならないものでもありません。

しかし、しゃくれをコンプレックスに感じている人や、咬み合わせが悪いことが原因で体に不調をきたしている人もいます。

しゃくれにはいくつか原因があり、また症状によって改善策や治療法が異なります。
そのため、自己判断は避け、まずは歯医者さんを受診し、原因や治療が必要かといったことを診断してもらいましょう。

明海大学 歯学部 病態診断治療学講座
山本信治教授監修
経歴・プロフィール

明海大学 歯学部 病態診断治療学講座 口腔額顔面外科学分野Ⅰ 主任教授
東京歯科大学 口腔顎顔面外科学講座 客員教授

【略歴】
東京歯科大学卒業
東京歯科大学大学院歯科学研究科(口腔外科学専攻) 修了
東京歯科大学口腔外科学第一講座 病院助手
東京歯科大学口腔外科学講座 助手
学命により中国北京大学口腔医学院顎顔面口腔外科講座に研究留学
東京歯科大学口腔がんセンター 講師
東京歯科大学口腔外科学講座 講師
東京歯科大学口腔外科学講座 准教授
神奈川歯科大学大学院歯学研究科歯学教育学講座 准教授
神奈川歯科大学 客員教授 臨床教授
東京歯科大学口腔顎顔面外科学講座 講師
明海大学 歯学部 病態診断治療学講座 主任教授
東京歯科大学 口腔顎顔面外科学講座 客員教授
現在に至る

ドクター詳細ページへ
経歴

1987年 日本歯科大学 卒業
1987年~1996年12月 氷川下セツルメント病院歯科勤務
1997年 歯科大橋 開業
現在に至る

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執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。