歯牙移植は歯を失ってしまった場合の移植手段で、歯根や歯根膜などの歯の周囲にある組織も一緒に移植していきます。
人工のインプラントを埋め込むよりもなじみが良く、以前と同じ噛み心地を取り戻せます。歯を削る必要がないのも大きなメリットです。
この記事では、歯牙移植が必要な歯の状態や歯医者さんで行われる具体的な治療法などについて解説していきます。
この記事の目次
1.歯牙移植とは?
歯の移植手段である歯牙移植について、その特徴とメリット、治療に必要な条件をご紹介していきます。
1-1 自分の歯を植え換える
歯牙移植という治療は、歯を1本抜歯する必要が出来たときに、その抜けたところに自分の親知らずや埋没している歯(機能しないで骨の中に埋まっている歯のこと)を抜歯して移植する方法です。
抜歯と一口に言っても色々なケースがあるでしょう。重度の虫歯や歯周病、外傷による歯の破損、噛み合わせが歯に負担を与えている場合などが通常、考えられます。
歯の移植という聞きなれない方法ですが、移植する歯の根には「歯根膜」と呼ばれる歯の周囲にある組織も一緒に移植します。自分の歯や組織で治療が行われるため、インプラントや義歯と異なり、生体に対して優しく、条件が合えば非常に有効な方法と言われています。
現在では自分の歯を移植する「自家歯牙移植」と呼ばれる歯牙移植方法がメインとなっています。歯牙移植にも保険が適用される場合とされない場合がありますので、治療してもらう歯医者さんでしっかり確認しておきましょう。
1-2 歯牙移植のメリット
- 入れ歯のような違和感がない
- 自然な噛み合わせを取り戻せる
- 異物反応が出ない
- 普通の歯と同じように違和感なく使える
- 治療の痛みがほとんどない
歯牙移植は人工的に作られるインプラントやブリッジにはない安定感があり、しかも自分の歯で行うので異物反応が起きないというメリットがあります。歯牙移植により約4ヶ月程度で自分の歯として使用することが可能になります。
歯牙移植は一般的に広く行われているインプラントと比べると成功率が劣りますが、若年者に対しては治療後に矯正することも可能なので、インプラントと比べると向いている治療でもあります。
治療自体は難しく複雑なのですが、麻酔による治療が行われ痛みもほとんどないと言われています。それに、歯牙移植後の歯は噛み心地が優れています。その点もメリットが高い治療なのです。
1-3 歯牙移植の条件
この画期的な歯牙移植ですが、ある一定の条件が必要になってきます。それは先ほどのように事故で歯が抜けてしまったような場合や、いままでの治療が思わしくなくて歯牙移植を行う場合でも、不必要な歯がないと出来ません。
事故の場合は抜けた歯を保存しておき、速やかに歯科医院に行きます。また移植する歯自体が歯周病でないことや、移植する歯の根があまり複雑でないこと、移植予定の歯のサイズが類似していること、治療を受ける方が比較的若い方であるなどが挙げられます(もちろん若くなくても、再植して治療出来るケースはあります)。
2.歯牙移植が必要な歯の状態
歯牙移植が必要になるのは、多くの場合虫歯が原因です。その他には、怪我・事故による外傷や、生まれつき歯が欠損しているケースも歯牙移植の対象となり得ます。
2-1 重度の虫歯
虫歯が歯根まで達していて、歯の大部分が溶けてなくなっているような場合、抜歯が必要です。そのような方は歯牙移植の対象となります。
2-2 外傷事故
怪我や事故などによって歯が抜けてしまった場合です。これは他から歯を持ってくるというより、抜けた歯を元に戻す「再植」という方法になります。
抜けた歯に「歯根膜」が残っていることが重要で、それがないと元に戻すことが出来ない場合もあります。また「歯根膜」の組織が残っていて、かつ損傷したり、汚染していないことが条件になります。
2-3 先天的欠損歯
先天的に歯が欠損している方で、例えば永久歯が少なくて歯に隙間が多い場合や、状態の悪い乳歯が残っている場合などが挙げられます。高齢者になればなるほど治療の成功率が下がると言われていますので、この場合は比較的若い年代の方におすすめ出来ます。
また欠損しつつも健康な歯が残っていることが必要なため、治療出来る条件が限られてきます。外科手術を伴うので技術力が必要になってきます。しかし歯牙移植治療後には歯の矯正を行うことも可能なので、人工的に行うインプラントやブリッジよりメリットが高い場合もあります。
3.歯牙移植の具体的な治療方法
では、歯牙移植は具体的にどんな手順で治療を進めるのでしょうか? ここでは治療の流れをご紹介します。
3-1 口腔内の清掃
歯牙移植を行う前には、ブラシなどで歯に付着した細菌を除去します。歯牙移植の手術を行うためには、健康な口腔環境でなければいけないからです。
また、歯周病の場合は先に歯周病治療を行う必要があります。歯周病が進行してしまうと、抜いたところの骨が失われて治療が不可能な場合もあります。
3-2 ダメになった歯の抜歯
虫歯が深くなって抜歯が必要な場合や、歯が欠けてしまって残すことが難しい場合は抜歯します。このとき、抜歯する歯の形とこれから移植する歯の形が似ていることが重要です。あまりにも違う形の場合は移植出来ないこともあります。
3-3 移植する歯の抜歯
移植する歯を抜歯する場合、歯の幅が合わないと出来ません。抜いた歯を移植する場所の骨の幅が合えば移植は可能になりますが、大きすぎても小さすぎても出来ません。
そのため事前に診断や検診を行ってからの抜歯となります。移植する歯は「歯根膜」と一緒に移植しますが、神経などは後で悪い動きをすることもあるので神経を取ってから移植する場合もあります。
3-4 噛み合わせ等を調整し、移植
噛み合わせに問題がないか、一旦調整してから移植します。噛み合わせを考えて歯の移植を行いますので、移植して一ヶ月程度すると骨が修復して歯の揺れがなくなります。
3-5 歯の固定
移植してしばらくは歯を固定して骨の修復を待ちます。骨が修復してくると安定し、歯の揺れやぐらつきもなくなります。また、歯の大きさが合わない場合でも後で被せ物などの治療を行い、見た目の面からも調整していくことが可能です(基本は被せ物を施すのがベーシックです)。
4.歯牙移植に必要な費用や保険適用の有無
歯牙移植に必要な費用はどれくらいかかるのでしょうか? 実は移植する歯の種類によって、保険が適用されるかしないかが決まるのです。
4-1 親知らずを移植する場合のみ保険適用
歯牙移植に保険が適用される範囲は「親知らず」だけです。抜いたその日に移植しないといけません(それが条件となっています)。そのため歯が抜かれていない場合は保険が使えないこともあります。
ただしあくまで親知らずを抜いて移植することだけにかかる費用なので、その移植先の治療費用は含みません。
4-2 保険外の場合の費用
歯牙移植の費用が保険適用されないときは、インプラントほどではないにせよ、目安としては10,000円前後かかる場合もあります。保険適用外のときは、当然その後の被せ物なども保険外になりますので注意が必要です。
5.まとめ
自分の温存している歯を使って治療を行う歯牙治療ですが、最近は冷凍保存するという動きもあるようです。抜歯した後のお子さんの歯をあえて残して将来に役立てようという考えのようです。
一方、魅力的でありながらも実は歯牙移植は術後の予後が難しいとも言われています。また長期の安定性に関しては、歯の神経を抜いてあることから虫歯や骨との癒着といった問題もあります。
しかし、歯牙移植はメリットが多いのも事実です。もしご自身にまだ温存する歯があれば、一度かかりつけの歯医者さんに相談してみると良いでしょう。
1975年 東京歯科大学 卒業
1975年~1977年 新宿ビル歯科 勤務
1978年 早川歯科医院 開業
現在に至る
執筆者:
歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。