歯みがきをしている時、明らかに歯の一部が黒くなっているけれど、特に痛みも出ておらず、虫歯かどうかの判別がつかないことはないでしょうか?
痛みはないから虫歯ではないと考えて安易に放置すると、手遅れになるケースもあります。まずは一度、歯医者さんを受診し「虫歯なのか、そうではないのか」をきちんと判別してもらいましょう。
歯が黒くなってしまった原因によって、どのような対処法があるかをまとめています。
この記事の目次
1.歯が黒くなっているが、虫歯かどうか判別が難しい場合
1-1 着色汚れ
奥歯の咬合面(かみあう部分)には溝がたくさんあり、凸凹しています。この溝は歯ブラシの毛先が届きにくく、汚れが落ちにくい部分です。
そのため、これらの溝には飲食物や、嗜好品などで着色が起こりやすくなります。飲食物・嗜好品による着色を「ステイン」と呼んでいます。
特にステインの付着が起こりやすい飲料としては、「お茶」「コーヒー」「赤ワイン」などが知られているでしょう。そのほかには、タバコのヤニも着色の原因になります。
ステインは、いったん付着してしまうと、ふだんの歯みがきでは落とせないのが特徴です。
奥歯の溝部分に、黒色・褐色の着色がつくと、外見的には虫歯のように見えます。ステインによる着色であれば、歯にダメージはありません。
ただ、着色かどうかを自己判断するのは難しいため、一度歯医者さんで「虫歯なのか、着色なのか」を判断してもらいましょう。
1-2 初期虫歯
虫歯になり始めの段階では、痛みが出ていないのに黒く見えることがあります。
◆痛みが出ない初期段階の虫歯
虫歯にはCO~C4まで段階があり、歯を覆うエナメル質が溶け出してしまう「C1」までは初期段階なので、痛みが出ないのが普通です。
2段階目の、虫歯がエナメル質の下である象牙質までに到達すると「C2」となり、「冷たいもの・甘いもの」がしみるようになります。
3段階目の、歯の神経である歯髄まで虫歯が進行する「C3」で、ようやくズキズキとした痛みを発するようになります。
そのため、軽度の虫歯は痛みが出ないのが当たり前であり、歯の一部が黒くなっているだけでは、それが虫歯なのか、着色なのか、私たちが判別するのは難しいと言えます。
◆初期虫歯が黒く見えるケース
虫歯には、大きくわけて3種類があります。このうち、初期虫歯のとき「黒い色になり、着色なのか虫歯なのか判別が困難」という外見的特徴を有するのは、「小窩裂溝齲蝕」であることが多いでしょう。
小窩裂溝齲蝕(しょうかれっこううしょく)
奥歯の溝にできる虫歯です。初期は黒い着色のように見えることが多く、表面より歯の内部で広がりやすいため、気づいたときには進行している場合があります。
平滑面齲蝕(へいかつめんうしょく)
平らな場所にできる虫歯です。初期は表面が白濁し、象牙質に達する頃から黒い外見に変わります。進行はややゆっくりですが、歯と歯の隣接面にできた平滑面齲蝕は、発見が遅れることも多いです。
根面齲蝕(こんめんうしょく)
「歯と歯茎の境目」にできる虫歯です。加齢により、歯茎が下がってきた頃に好発する傾向があります。
◆初期段階の虫歯治療
歯の一部の変色が初期の虫歯である場合、早期治療が大切です。
幸い、エナメル質が齲蝕の段階なら、歯にほとんどダメージを与えずに治療することができます。進行する前にきちんと歯科治療を受けるようにしましょう。
この段階なら、表面をわずかに削り「コンポジットレジン充填」をおこなえば治療が終わります。コンポジットレジンは見た目も白く、自然な仕上がりになるので「治療後の外見」も気になりません。
1-3 進行が止まった初期虫歯
いったんは初期虫歯になったものの、進行が停止しているケースもあります。奥歯の溝が酸によって黒色に変色後、エナメル質が再び固まり、虫歯の進行が止まる場合があります。
エナメル質を構成する成分が溶けだすことを「脱灰」と呼び、溶けだした成分がエナメル質に戻ることを「再石灰化」と呼んでいます。エナメル質は、ふだんから脱灰と再石灰化を繰り返しています。
いったんは脱灰して「虫歯寸前」になっても、穴があく前なら再生(=再石灰化)することがあります。
この再石灰化の影響により「ほとんど虫歯」という段階のエナメル質が再石灰化すると、「黒く変色しているが、そこから進行していない状態」ができあがります。
こういったケースでは、エナメル質を強化する「フッ素塗布」などの予防処置をおこない、経過観察するのが基本的です。削らずに済む歯を、あえて削る必要はないからです。
1-4 歯の内部で虫歯が進行している
表面的には奥歯の溝が変色しているだけに見えても、歯の内部で虫歯が進行していることがあります。この場合、エナメル質には「目に見えないほど小さな穴」があいているだけですが、内部の象牙質は大きく失われています。
特に「生えてきたばかりの永久歯」は象牙質が柔らかいので、「入口は小さいが、内部で急速に進行する」といった経緯を辿りやすくなります。
レントゲンを撮影すると「内部で虫歯が広がっているかどうか」はすぐに判別できます。なるべく早く治療しないと、神経を抜く「抜髄」が必要になり、歯の寿命が縮むことになります。
こういったケースがあり得るため、「痛くないけれど、表面が黒い」という段階でも早めに歯医者さんを受診することをおすすめします。
2.明らかに虫歯なのに、痛みが出ないのは何故?
明らかに虫歯と判別できるほどの大きな穴が開いていても、痛みを感じないと、治療を先延ばしにしてしまったり、痛みが出てから治療を受けても遅くはないと、放置してしまったりする人もいるのではないでしょうか。
しかし、虫歯を放置することで、大きなトラブルに発展することもあります。
2-1 すでに神経が死んでいる
虫歯には5段階があり、最終段階の「C4」と呼ばれる、歯の根っこだけ残った状態になると痛みを感じません。すでに神経が死んでしまい、感覚を失っているためです。
この場合、痛みはなくても、虫歯としては末期症状になっています。
もともと激しく痛んでいた虫歯が、あるときを境に痛くなくなったのなら、本人にも「神経が死んだのかも…」と自覚できる余地があるでしょう。
しかし、中には「痛みを感じないまま、神経が死んでしまう虫歯」も存在しています。
虫歯によっては、表面には目に見えないほどの穴があいただけで、虫歯が内部で急速に進行してしまうものもあります。虫歯が急速に進行したことで、気がついた時にはすでに神経が死んでしまっているケースもあります。
2-2 虫歯が再発している
たまに、過去に治療した歯の詰め物が外れる場合があります。このとき、詰め物の内側が黒い色になっていたら、虫歯が再発していると考えられます。
今、痛みを感じないとしても、早めに歯医者さんを受診することをおすすめします。
その歯が、すでに神経を抜いた歯であれば、痛みは出ません。放っておくと痛みを感じないまま進行し、抜歯することになるかもしれません。神経が残っている歯なら、痛みだすのは時間の問題といえます。
いずれにしても、できるだけ早く歯医者さんに診てもらいましょう。
3.まとめ
「虫歯かどうかわからないけれど黒い」「虫歯に見えるけれど痛くない」といった状況で、なかなか歯医者さんを受診しない人はたくさんいます。
しかし、こういったケースのほとんどは「何らかの治療を必要とする状態」です。
歯の一部に黒い点を見つけたり、「虫歯かな?」と思うような外見的特徴に気づいたりしたときには、迷わず歯医者さんを受診するようにしてください。
初期虫歯の場合、削って治すか、またはフッ素・唾液による再石灰化で経過観察するかの判定は難しいことがあります。レーザー機器で虫歯の深さを計測し、数値で判断するやり方もあります。今は置いている歯科医院もかなり増えています。計測した際「削る」に相当する数値が出ても、レーザーで蒸散することによって、その数値が良くなることもあります。まずは、歯科医院で良く相談して下さい。
電話:03-3601-7051
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歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。