治療から予防へ!虫歯に立ち向かうための生活習慣を解説

治療から予防へ!虫歯に立ち向かうための生活習慣を解説

歯が痛いとき、最初に思いつく原因は何ですか? 10人に訊いたら10人全員が「虫歯」と答えることでしょう。虫歯の痛みに苦しんだ経験が1度もない…という人は、逆に珍しいと思います。

◆少しでも早く虫歯治療を受けたい!
◆痛いのは嫌だから、苦痛の少ない治療方法を探したい!
◆二度と虫歯にならないように、予防方法を知りたい!

そんな思いを抱えている人は、たくさんいるはずです。虫歯治療に関する知識があれば、自分に合った歯科医院を探すときの助けになるかもしれません。虫歯予防の心得があったなら、今後の人生で虫歯になるリスクを減らすことができるでしょう。
口の中の健康状態を「口腔環境」といいます。この記事を読めば、きっと将来の口腔環境を改善するための第一歩を踏み出すことができるはずです!

この記事の目次

1.進行度別!虫歯治療の基礎知識

本当なら、まずは予防の話をしたいところですが、日本における歯科治療は「虫歯になってから治療する」という考えも少なくないでしょう。まだまだ、予防診療が普及しているとは言えません。実際、歯科に関する情報を探している皆さんの中にも、「治療法」を探している人のほうが多いだろうと思います。

ここはまず、日本における歯科治療の現状に即して、「虫歯の治療法」から解説することにしましょう。「虫歯の進行度」に応じた歯科治療の選択肢をお伝えしますので、ぜひ治療法を選択する際の一助としてください。

1-1 要観察歯【CO】の症状・治療

虫歯になる一歩手前の状態を「CO(シーオー)」と表記します。「Questionable Caries under Observation(虫歯が疑われるので要観察)」の略称で、「CO:要観察歯」と表現しています。

「CO」は、「日本学校歯科医師会」が定めている基準です。以下にかかげる3条件のいずれかに該当していると、「CO」となります。

◆歯の表面(平滑面)が白濁しているか、茶色く斑(まだら)になっている
◆奥歯の噛み合わせ面(咬合面)にある溝が茶色くなっている
◆歯と歯の隙間(隣接面)に、虫歯が疑われる箇所が存在する

条件の1つに「虫歯が疑われる箇所の存在」という項目がありますので、「COだから…」と軽視するわけにもいきません。「CO」と診断されても、「実際には一歩手前ではなく、すでに虫歯になっている」という恐れもあるわけです。「CO」と診断されたら、「歯科医院を受診するべき状態」と認識しましょう。

「CO:要観察歯」とは…?

さて、「虫歯の一歩手前」とは、どういう状態を指しているのでしょうか? きちんと「一歩手前」には明確な定義があります。「虫歯の一歩手前」とは、「エナメル質が脱灰を起こした状態」です。

歯の表面は「エナメル質」で覆われていますが、このエナメル質を構成する成分が溶け出すことを「脱灰」といいます。具体的には、エナメル質に含まれている「リン酸」と「カルシウム」が溶け出します。

ただ、脱灰が起きても、まだ虫歯ではありません。構成成分が溶け出しただけなので、きちんとケアをすれば進行が止まる場合もあります。物理的に穴があいた段階で、はじめて虫歯と定義されます。

「CO:要観察歯」の治療方法

「CO」と診断された歯に対しては、どのような処置をおこなうのでしょうか?基本的には、次の4つの選択肢が考えられます。

◆フッ素塗布

フッ素(正確にはフッ化物)を歯の表面に塗ると、エナメル質が脱灰しにくくなります。エナメル質を構成する物質―「ハイドロキシアパタイト」は、基本「pH5.5以下の酸性環境」で脱灰をはじめます。

しかし、フッ素はエナメル質のハイドロキシアパタイトを「フルオロアパタイト」という物質に変えて、溶けにくくしてくれるのです。

歯科医院でのフッ素塗布は予防処置なので、基本は自由診療です。しかし、以下の条件を満たす人は保険診療でフッ素を塗布してもらえます。

・虫歯になりやすい人(う蝕多発傾向者)
・要介護状態などで訪問診療を受けている人(在宅等療養患者)
・エナメル質の初期う蝕になっている人

また、自治体によってはお子さんのフッ素塗布に何らかの助成をしていることもあるようです。そのほか、歯科医院によっては「虫歯治療と同時なら、お子さんのフッ素塗布は無料」などの対応をしているところも散見されます。

自由診療になる処置は「保険診療にならない」というだけなので、「歯科医院の判断により、無料でおこなう」というなら別に問題はないのです。ただ、自由診療だとしても、フッ素塗布はそれほど高くありません。1,000~3,000円程度で塗布してくれる歯科医院が多いので、「いくらで塗布してくれるか」を問い合わせてみると良いでしょう。

◆シーラント

奥歯の噛み合わせ面にある溝(小窩裂溝)は、虫歯になりやすい場所です。歯垢が溜まりやすいですし、歯ブラシの毛先がうまく届かないこともあります。そこで、溝の中に「CO」の脱灰が見つかった場合、「あらかじめ溝を埋める」という考え方があるのです。虫歯菌が溝の中に入らないように、フタをしておくわけです。世間一般で「シーラント」と呼ばれる処置になります。

乳歯・幼若永久歯(小中学生くらいまでの歯)が初期虫歯になっている場合、シーラントは保険適用です。診療報酬規定では「早期充填処置」と呼ばれています。予防目的で「健康な歯」に対しておこなう場合は「予防充填」と呼ばれ、こちらは自由診療です。自由診療の費用は歯科医院が自由に設定しますが、多くは「1,000円~」と決して高額ではありません。

◆ブラッシング指導

エナメル質が脱灰した段階では、まだ物理的に穴は開いていません。この状態であれば、まだ自然治癒の可能性もあります。脱灰によって唾液中に溶け出した「リン酸」と「カルシウム」がエナメル質に戻っていく場合があるからです。この現象を「再石灰化」と呼んでいます。

自然に再石灰化する可能性があるので、「CO」に対しては「正しいセルフケアを指導する」という方法を選択することもあります。初期虫歯が疑われるなら、ブラッシング指導は保険内になります。保険診療の診療報酬規定に「歯科衛生実地指導料」という規定が存在するからです。

◆PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)

虫歯・歯周病を予防するための処置に「PMTC」と呼ばれる方法が存在します。先ほども記述したとおり、エナメル質が脱灰しただけなら正しいなオーラルケアによって再石灰化が期待できます。PMTCのような予防処置をすることで、再石灰化の確率を高めることも可能でしょう。

ただ、問題はPMTCの定義です。PMTCは「専門家(歯科医師または歯科衛生士)が機械を用いて歯をきれいにすること」です。「何分間、クリーニングをする」「どの程度きれいにする」などの決まりは存在しません。だいたい、以下のような器具を使って清掃をすれば、一応はPMTC扱いになります。

・ラバーチップ(歯と歯の隙間を清掃する)
・ラバーカップ(歯と歯茎の境目を清掃する)
・ポリッシングブラシ(歯の表面をきれいにする)
・スケーラー(歯周ポケットの歯石・歯垢を除去する)
・キュレット(歯周ポケットの歯石・歯垢・汚染組織を除去する)

ただ、どこまでクリーニングをするかは歯科医院によって異なるので、一概に「PMTCはこれぐらいの変化が期待できる」とは断言できません。「医院の方針」「保険診療か自由診療か」によって大きく変わってきます。

虫歯・歯周病治療と同時に実施するなら保険診療になりますが、保険では「機械的歯面清掃処置:68点」という診療報酬になっています。保険点数は「1点=10円」なので、医院の収入は680円(3割負担なら、患者さんが支払うのは204円)です。この金額では「投入できる時間・労力は限られている」と判断せざるを得ません。時間にして5~10分が妥当で、期待できる予防作用は限定的でしょう。

自由診療であれば、60分以上かけて口腔内をクリーニングするPMTCを受けることができます。ただ、保険外なので費用は高くなります。自由診療の価格は医院が自由に決められるので、一概には言えませんが「1~2万円程度」が普通です。

1-2 エナメル質う蝕【C1】の症状・治療

歯の表層―エナメル質に穴があいた状態を「C1:エナメル質う蝕」と呼びます。物理的に穴があいてしまうと、もう自然に治ること(=再石灰化)はありません。珍しいケースとして「進行が止まること」ならありますが、あえて期待するほどの高確率ではないので、基本的には虫歯治療の対象になります

外見的には「歯の一部が茶色くなり、周囲が白濁する」などの様相を呈するのが普通です。肉眼では汚れのように見えることも多く、「穴が開いている」と感じる人はほとんどいません。そのため、患者さん自身が「C1」の虫歯を発見することは困難です。実際、「C1」で歯科医院を訪れた患者さんの受診理由は、「歯科検診で指摘された」という内容が多いようです。

さて、エナメル質の厚みは「2.0~2.5mm」くらいです。虫歯がエナメル質にとどまっている段階であり、虫歯の痛みは出ません。この段階ならば治療もシンプルなので、「初期虫歯」と考えて良いでしょう。

「C1:エナメル質う蝕」の治療方法

「CO」と区別するのが難しいレベルの初期虫歯であれば、「ブラッシング指導・フッ素塗布をして経過観察」という方針を採る歯科医師もいます。しかし、明確に穴があいているようなら、要治療と判断します。

◆コンポジットレジン充填

「エナメル質に穴があいている(=C1)」であれば、一般の歯科治療をおこないます。一般診療でおなじみの器具―「タービン(ドリル)」を使った治療です。とはいえ、「C1」の時点で受診したなら、あまり怖がる必要はありません。エナメル質を削るだけなら、痛みはほとんど出ないからです。

虫歯を削ったら、詰め物として「コンポジットレジン(CR)」を充填します。白色のプラスチック樹脂なので、見た目はわりと自然です。型をとる必要がないので、1日で詰め物を入れるところまで完了します。

1-3 象牙質う蝕【C2】の症状・治療

虫歯菌がエナメル質を突破して、象牙質に及んだ状態を「C2:象牙質う蝕」と呼んでいます。象牙質に神経はありませんが、「象牙細管」と呼ばれる管が歯髄(神経)まで貫通しています。そのため、たとえば「冷たいもの」「甘いもの」が触れると痛みを生じる場合があります。

しかしながら、「C2」の段階で歯科医院を受診する人の割合は決して多くありません。「冷たいもの」「甘いもの」にしみる程度で、「何もしていないのにズキズキ痛む(自発痛)」わけではないからです。「耐えられないほどの痛みが現れるまで歯科医院に行かない人」は、まだまだ多いのが現状です。

さて、「C2」まで進行すると、多くは「黒っぽい穴があいている」と判別可能です。エナメル質が溶けはじめるのは「pH5.5以下の酸性環境」でしたが、象牙質は「pH6.0~6.2」で溶けはじめます。「pH7.0が中性で、数値が低いほど酸性(高いほどアルカリ性)」なので、象牙質はエナメル質より溶けやすいことになります。「C2」まで進行すると、あとは急速に悪化しますから、早めに歯科医院を受診しましょう。

「C2:象牙質う蝕」の治療方法(切削編)

虫歯が象牙質に達しているなら、「タービン(ドリル)」で虫歯を削る治療が普通です。とはいえ、最近は「タービンを使わない治療」も出てきました。歯を削ることを「切削」と言いますが、まずは切削方法のバリエーションに関して触れることにしましょう。

◆タービンによる切削

昔からおこなわれてきた「ドリルで歯を削る治療法」です。「振動が不快」「作動音に恐怖を感じる」など、患者さんからの悪評が多いのも事実ですが、しかし、現在でも歯科治療の主役はタービンです。とはいえ、最近は「振動が少なく、作動音が静かなドリル(5倍速コントラ)」を使用する歯科医院も増えており、昔より不快感は減ったと思います。

虫歯_タービン

◆レーザーによる切削(Er:YAGレーザー)

患者さんの苦痛を抑えるため、痛みを抑えた治療に力を入れる歯科医院が増えてきました。虫歯を削るときに「Er:YAGレーザー」を用いるのもそのの1つです。Er:YAGレーザーは水分子にエネルギーを与え(=励起)、水蒸気爆発を起こします。爆発のエネルギーで歯を切削することができるのです。

深い虫歯には使えませんが、「C2」の虫歯なら切削可能。Er:YAGレーザーは保険診療で使える唯一の歯科用レーザーであり、保険点数では「う蝕歯無痛的窩洞形成加算:+40点」の規定になっています。患者さんの負担は「+120円」で済むわけです。

◆薬剤で虫歯を溶かす治療

薬剤を使い、虫歯になった部分を溶かす方法です。健康な歯質には影響を与えず、虫歯だけを溶かすのが特徴です。ただし、神経に達するほどの深い虫歯には使えません。また、エナメル質を溶かすことはできないので、補助的にドリルを使うことはあり得ます。

2017年9月現在、この方法は保険適用外となっています。自由診療なので、費用は歯科医院ごとに異なります。もし、薬剤による虫歯治療を強く希望しているなら、この方法を採用する歯科医院に直接、問い合わせてみてください。

相場は歯1本あたり「5,000~1万円」ですが、自由診療をおこなうと詰め物の費用なども自費になり、合計金額は高額になりがちです。1つの治療に関して、保険診療と自由診療をまぜこぜに実施すること(=混合診療)は禁じられているからです。

「C2:象牙質う蝕」の治療方法(充填編)

虫歯治療は、削ったあとに詰め物を入れて修復します。詰め物などを入れる処置を「充填(じゅうてん)」と呼んでいます。今度は、「C2」の歯科治療における充填方法のバリエーションを確認することにしましょう。

◆コンポジットレジン充填

虫歯が比較的小さい場合には、コンポジットレジン(CR)を詰めて修復します。特に「前歯の治療」「奥歯の溝にできた虫歯治療」では、コンポジットレジン充填を適用するのが普通です。ペースト状のレジンを穴に詰めてから、光をあてて固める「光重合型」が主力であり、物理的に型をとる必要がありません。そのため、歯を削ってCRを詰めるところまで即日で終わります。

◆インレー修復形成

「奥歯の隣接面にできた虫歯」「奥歯の比較的大きい虫歯」は、詰め物(インレー)による修復をおこないます。「型をとり、歯科技工士がインレーを作製する」という流れなので、治療が完了するまでに複数回の通院が必要です。

保険診療では、「12%金銀パラジウム合金(いわゆる銀歯)」のインレーを入れることになります。自由診療で構わないならば、「セラミックインレー(白い詰め物)」「ゴールドインレー(機能性の高い金歯)」などを選択することも可能です。自由診療の費用は歯科医院ごとに異なりますが、相場は「歯1本あたり4万円~」と考えてください。

基本的に、保険診療と自由診療を組み合わせる混合診療は禁止されており、1つでも自由診療をおこなうと、一連の治療はすべて自由診療になります。しかし、補綴(ほてつ:歯を補い、修復すること)を自由診療にする場合は例外規定があり、虫歯処置など一般診療にあたる部分を保険診療でまかなうことが可能です。

◆ダイレクトボンディング

ダイレクトボンディングは、自由診療で、より美容面・機能面を意識した「コンポジットレジン」です。保険診療のコンポジットレジンには、いくつかの欠点が存在しています。以下に、保険のコンポジットレジンが有するデメリットをまとめてみます。

・経年劣化で着色汚れが目立ってくる
・色のバリエーションが10種類ほどで、歯の色に合わないことがある
・あまり丈夫ではなく、時間が経つと摩耗する

ダイレクトボンディングは、コンポジットレジンの欠点を補う修復方法といえます。素材自体はコンポジットレジンと同じなのですが、品質が異なります。コンポジットレジンは、プラスチック樹脂に「セラミック・ガラスなどの粉末(フィラー)」を混ぜた素材で、厳密にはハイブリッドレジンと呼ばれます。フィラーの品質・比率を変えたレジンを充填する治療が、ダイレクトボンディングです。

ダイレクトボンディングに使われるレジンは、着色汚れがつきにくく、色のバリエーションが多様です。さらに、保険診療のレジンより頑丈なので、そう容易に摩耗することはありません。美容面・機能面ともに性能が向上しています。費用は歯1本あたり「1~4万円」が相場で、自由診療の修復素材としては負担の少ない価格です。

1-4 歯髄の仮性露出【C3】の症状・治療

虫歯菌は象牙質を突破し、歯髄(神経)に感染した状態を「C3:歯髄の仮性露出」と表現します。多くの人が歯科医院を訪れるのは、「C3」に達した段階です。歯髄が細菌感染しているので、歯髄炎という炎症が起きています。そのため、「何もしていないときにズキズキと痛む症状(=自発痛)」が見られるようになります。

歯髄が生きているうちは虫歯菌に抵抗できますが、歯髄が死んでしまうと細菌に抵抗することはできません。「C3」の状態を放置すると、歯髄が死んで、歯の内部が細菌に汚染されていきます。限度を超えて内部の汚染が進めば、歯を失うことになりかねません。歯の自発痛が生じたら、速やかに歯科医院を受診しましょう。

「C3:歯髄の仮性露出」の治療方法(抜髄・根管治療編)

虫歯が歯髄に達している場合、歯髄を保存することはできません。世間一般で「神経を抜く」と言われている処置が必要になります。また、歯の内部が汚染されていれば、「根の治療」が必要です。まずは、「歯を保存するための処置(根管治療)」をまとめたいと思います。

◆抜髄

歯髄が感染し、歯髄炎を起こした状態なら「抜髄(ばつずい)」をおこないます。これは「神経を抜く」と表現される処置です。まずは局所麻酔下で虫歯を削り、歯髄を露出させます。歯髄が露出したら、「ファイル(針の先がヤスリ状になった器具)」を使って、歯髄を取り除きます。歯の中身を空にする処置と表現すれば、わかりやすいかもしれません。

◆感染根管処置

歯髄が死んでしまい、歯の内部が細菌に汚染されているなら、感染根管処置が必要です。感染根管処置の目標は「歯の内部を無菌化すること」になります。歯の内部とは、具体的には以下の部位を指しています。

・歯髄腔(歯髄の入っていた空間)
・根管(歯の根元方面につながる血管・神経の通り道)

「ファイル」を使って、歯髄腔・根管の虫歯を除去していきます。虫歯になった「感染歯質」を取り除くと同時に、複雑に分岐した根管を削り、数本の太い管にまとめます。根管を拡大し、まとめる処置を「根管拡大」と呼びます。

◆根管貼薬(てんやく)

根管内部を無菌化しなければならないので、洗浄・殺菌します。歯の内部を洗浄して、殺菌作用のある薬剤を入れて仮の詰め物を入れるわけです。

◆根管充填

内部がきれいになったら、再感染を防ぐための薬剤を詰めこみます。保険診療では、「ゴム状で棒のような形をした薬剤―ガッタパーチャポイント」を用います。自由診療なら、「MTAセメント」を充填する場合もあるでしょう。日本では「歯髄を保護する薬」として認可されており、根管充填の薬剤として認可されていません。しかし、多くの歯科医師が「MTAセメントのほうが再感染リスクは低い」と考えています。

「C3:歯髄の仮性露出」の治療方法(歯冠修復編)

「C3」においては、「タービン(ドリル)で切削し、根管治療をおこなう」という前提がまずあり、それから歯本体(歯冠)の修復を実施します。虫歯の大きさによって、「インレー(詰め物)」または「クラウン(かぶせ物)」になります。

ちなみに、穴が小さければ「コンポジットレジン充填」「ダイレクトボンディング」で修復できることもありますが、わずかに見られる程度の例外的な症例です。なので、項目を立てて解説することはしません。

◆インレー修復形成

虫歯の穴が小さければ、インレーによる修復をおこないます。保険診療なら「12%金銀パラジウム合金(いわゆる銀歯)」を詰めます。自由診療で構わないなら、「セラミックインレー(白い詰め物)」「ゴールドインレー(機能的な金歯)」などを選択することも可能です。自由診療の場合、費用は歯科医院ごとにまちまちですが、「歯1本4万円~」が目安と言われています。

◆歯冠形成

大きな虫歯は、「虫歯の除去」「根管治療」を終えた時点で、ほとんど歯根だけしか残りません。そこで、歯の本体(歯冠)を人工物で補う必要があります。歯全体を覆う「クラウン(かぶせ物)」で修復するわけです。

インレーと同様、見た目・機能性を重視するなら自由診療になります。とはいえ、「保険診療=必ずしも銀歯」というわけではありません。前歯・小臼歯・大臼歯など、歯の種類によって素材が変わってきます。以下では、「主な素材」を紹介することにします。

◇12%金銀パラジウム合金
世間に「銀歯」と呼ばれているのが、「12%金銀パラジウム合金」です。主に大臼歯のクラウンを保険内で作製するときに選択されます。「歯茎が黒ずむ」「人によっては金属アレルギーの原因になる」などのデメリットが知られていますが、決して悪い素材ではありません。「奥歯の歯茎なら、多少の変色は問題ない」と考える人も多いですし、金属アレルギーになる人は少数だからです。

◇硬質レジン前装冠
前歯と犬歯における保険内のクラウンとして採用されています。全体は銀歯ですが、表面に「硬質レジン」と呼ばれる白色のプラスチック樹脂を使っています。前歯・犬歯に関しては、保険診療で「少なくとも外見的には白く見える素材」を使用できるのです。ただ、天然の歯をそっくりな色合い…というわけではありません。美容面では今一歩…と感じる人も多いでしょう。

ちなみに、奥歯に硬質レジン前装冠を用いる場合は自由診療になります。口を開けると小臼歯は見えてしまうので、かつては「セラミックより安価な自由診療の選択肢」でしたが、近年、あえて奥歯を硬質レジン前装冠にする人はあまりいません。次に解説する「CAD/CAM冠」が登場したからです。

◇CAD/CAM冠
小臼歯に限り、保険診療で作製できるのが「CAD/CAM冠」です。CAD/CAMシステムは、「スキャナー」と「ミリングマシン(3Dプリンタ)」を使いコンピューターの力でクラウンを作製します。この方法で作製するなら、ハイブリッドレジンの白いクラウンを保険内で作製可能です。

◇自由診療
天然歯に近い外見を求めるなら、自由診療のクラウンになります。「オールセラミッククラウン」「ジルコニアセラミッククラウン」などは、天然歯に近い色をしている上、耐久性にも優れています。ただし、「歯1本あたり10万円~」と高額なのがネックです。

1-5 残根【C4】の症状・治療

歯髄が死んでしまい、歯の内部が虫歯菌に感染すると、もう痛みを感じることはありません。「痛くなくなったから良いや…」と放っておくと、しまいには歯が崩壊するほどの末期虫歯に進行します。この状態を「C4:残根」と呼びます。歯の本体(歯冠)はほとんど崩れ、歯根だけが残っている状態です。

多くの場合、根管が細菌の巣窟になったことで、歯根周辺に病巣ができています。根尖病変(根尖病巣)と呼ばれる状態です。歯茎が腫れ、膿の出てくる白いできもの(サイナストラクト)が生じている場合も多いでしょう。

「C4:残根」の治療方法

もはや、歯根が残るだけの末期虫歯は、痛みを発しません。しかし、「歯茎の炎症」を引き起こし、周囲の歯・歯周組織にも悪影響を及ぼします。「痛みが出ていないから…」と放置せず、直ちに歯科医院を受診してください。

◆抜歯

歯冠が崩壊しているような末期虫歯の場合、歯を保存することはできません。すでに歯根も壊れはじめているので、「根管治療で無菌化する」というのも非現実的です。「歯茎の感染」「周囲への悪影響」を解決するため、原因歯を抜歯することになります。

歯を失った箇所は、入れ歯・ブリッジなどで「補綴(ほてつ:失われた歯を補う治療)」をおこないます。放置すると、「全体の歯並び」「噛み合わせ」などに悪影響が出るので、歯科医院に相談の上、何らかの補綴をしてください。

2.治療より予防!虫歯にならないための必須知識

日本では、まだまだ「虫歯が痛み出してから歯科医院を受診する」という人が大半を占めています。日本では「65~74歳」の年齢層で残っている歯の平均本数が19.2本と20本を切っているのですが、やはり、予防意識の欠如によるところが大きいでしょう。

虫歯_虫歯にならないための知識

一方、虫歯が少なく、「80歳で20本以上の歯が残っていて当たり前」のスウェーデンでは、多くの人が「歯科医院は予防のために通う場所」と認識しています。口腔ケアの意識も高く、過半数の人がデンタルフロスを使っているそうです。日本は5人に1人以下…とされているので、その差は明確と言えます。

さて、日本とスウェーデンの差を考えれば、やはり「末永く、歯を残すためには予防に関する意識改革が必要である」と結論づけるしかありません。そこで、この章では「虫歯予防の基礎知識」を解説したいと思います。

2-1 歯科医院で予防する~プロフェッショナルケア!

まずは、スウェーデン人に習って「予防のために歯科医院に行く」という感覚を身につけたいところです。虫歯になる前なら、歯を削ることもないので、「痛い…、怖い…」と身構える必要もありません。

もっとも、スウェーデンは国をあげて予防を推進するため、「治療するより予防するほうが負担の少ない医療制度」を築きあげてきました。日本は「予防は自由診療、治療は保険診療」という真逆のシステムなので、今すぐにスウェーデンの真似をするのは難しいでしょう。ただ、それでも「どれくらいの費用で、どのような予防ができるのか」を知っておくことには、大きな価値があると思います。

フッ素塗布

予防歯科の代表格としては、歯を強くする性質がある「フッ素」を歯に塗る処置です。厳密にはフッ素ではなく、「フッ化ナトリウム」「フッ化第一スズ」などの「フッ化物」を塗布しているのですが、一般には「フッ素塗布」と呼ぶことが多いです。

この記事内で(「CO:要観察歯」の治療法)で、すでにフッ素塗布に関する解説をおこなっていますので、同じ内容を再掲しておきます。

フッ素(正しくはフッ化物)を歯の表面に塗ると、エナメル質が脱灰しにくくなります。エナメル質を構成する物質―「ハイドロキシアパタイト」は、「pH5.5以下の酸性環境」で脱灰をはじめます。しかし、フッ素はエナメル質のハイドロキシアパタイトを「フルオロアパタイト」という物質に変えて、溶けにくくしてくれるのです。
歯科医院でのフッ素塗布は予防処置なので、基本は自由診療(自費)です。しかし、以下の条件を満たす人は保険診療でフッ素を塗布してもらえます。
 
・虫歯になりやすい人(う蝕多発傾向者)
・要介護状態などで訪問診療を受けている人(在宅等療養患者)
・エナメル質の初期う蝕になっている人
 
また、自治体によってはお子さんのフッ素塗布に何らかの助成をしていることもあるようです。そのほか、歯科医院によっては「虫歯治療と同時なら、お子さんのフッ素塗布は無料」などの対応をしているところも散見されます。
 
自由診療になる処置は「保険診療にならない」というだけなので、「歯科医院の判断により、無料でおこなう」というなら別に問題はないのです。ただ、自由診療だとしても、フッ素塗布はそれほど高くありません。1,000~3,000円程度で塗布してくれる歯科医院が多いので、「いくらで塗布してくれるか」を問い合わせてみると良いでしょう。

シーラント

奥歯の噛み合わせ面が虫歯になるのを防ぐ方法としては、シーラントが知られています。ただ、シーラントは小児歯科で多用される方法であり、成人に適用されることはほとんどありません。

こちらも、記事内の「CO:要観察歯」の治療法を解説する際、すでに記載済です。同じ説明を繰り返しても致し方ありませんので、内容を再掲するだけにとどめます。

奥歯の噛み合わせ面にある溝(小窩裂溝)は、虫歯になりやすい場所です。歯垢が溜まりやすいですし、歯ブラシの毛先がうまく届かないこともあります。そこで、溝の中に「CO」の脱灰が見つかった場合、「あらかじめ溝を埋める」という考え方があるのです。虫歯菌が溝の中に入らないように、フタをしておくわけです。世間一般で「シーラント」と呼ばれる処置になります。
 
乳歯・幼若永久歯(小中学生くらいまでの歯)が初期虫歯になっている場合、シーラントは保険適用です。診療報酬規定では「早期充填処置」と呼ばれています。予防目的で「健康な歯」に対しておこなう場合は「予防充填」と呼ばれ、こちらは自由診療です。自由診療の費用は歯科医院が自由に設定しますが、多くは「1,000円~」と決して高額ではありません。

PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)

成人にも適用できる予防ケアとしては、PMTCが知られているでしょう。歯垢・歯石などを落とし、虫歯・歯周病リスクを下げるための口腔クリーニングです。やはり、「CO:要観察歯」の治療に関する項目で触れていますので、内容を再掲します。

虫歯・歯周病を予防するための処置に「PMTC」と呼ばれる方法が存在します。先ほども記述したとおり、エナメル質が脱灰しただけなら正しいオーラルケアによって再石灰化が期待できます。PMTCのような予防処置をすることで、再石灰化の確率を高めることも可能でしょう。
 
ただ、問題はPMTCの定義です。PMTCは「専門家(歯科医師または歯科衛生士)が機械を用いて歯をきれいにすること」です。「何分間、クリーニングをする」「どの程度きれいにする」などの決まりは存在しません。だいたい、以下のような器具を使って清掃をすれば、一応はPMTC扱いになります。
 
・ラバーチップ(歯と歯の隙間を清掃する)
・ラバーカップ(歯と歯茎の境目を清掃する)
・ポリッシングブラシ(歯の表面をきれいにする)
・スケーラー(歯周ポケットの歯石・歯垢を除去する)
・キュレット(歯周ポケットの歯石・歯垢・汚染組織を除去する)
 
ただ、どこまでクリーニングをするかは歯科医院によって異なるので、一概に「PMTCはこれぐらいの変化が期待できる」とは断言できません。「医院の方針」「保険診療か自由診療か」によって大きく変わってきます。
 
虫歯・歯周病治療と同時に実施するなら保険診療になりますが、保険では「機械的歯面清掃処置:68点」という診療報酬になっています。保険点数は「1点=10円」なので、医院の収入は680円(3割負担なら、患者さんが支払うのは204円)です。この金額では「投入できる時間・労力は限られている」と判断せざるを得ません。時間にして5~10分が妥当で、期待できる予防作用は限定的でしょう。
 
自由診療であれば、60分以上かけて口腔内をクリーニングするPMTCを受けることができます。ただ、保険外なので費用は高くなります。自由診療の価格は医院が自由に決められるので、一概には言えませんが「1~2万円程度」が普通です。

歯科ドック

虫歯になる確率を難としても下げたい…という場合、「歯科ドックの受診」を検討してみても良いでしょう。歯科ドックは「人間ドックの歯科版」のような検査で、虫歯リスクを詳細に確認することができます。当然、結果に合わせて歯科医師から予防指導を受けることができますから、虫歯予防を考える上では有用です。歯科ドックの内容は歯科医院によって異なりますが、主には以下のような検査項目が存在します。

◆唾液量検査
唾液の分泌量を検査します。唾液が少ないと、口腔環境が悪化しやすく、虫歯・歯周病リスク増大するのです。

◆緩衝能検査
食後、酸性になった口腔内を中性に戻す能力を検査します。

◆口腔内細菌検査
「位相差顕微鏡」を使い、口腔内の細菌量・細菌の種類を確認します。

◆SM菌・LB菌検査
SM菌は「ストレプトコッカス・ミュータンス」の略で、いわゆる虫歯菌のことです。酸を作り出し、歯に穴をあけます。LB菌は「ラクトバチルス」の略です。ラクトバチルス属の細菌は、多くが虫歯の進行を促進する性質を持っています。これらの細菌量を測り、虫歯リスクを確認するわけです。

2-2 自宅で予防する~セルフケア!

虫歯予防を考える上では、やはり「自宅でのセルフケア」が重要になってきます。歯科医院でのプロフェッショナルケアも有用でしょうが、予防のために通院するのは「3か月に1回」が良いところでしょう。数か月に1回のケアだけで、虫歯を予防しきれるか…というと、当然、そんなことはありません。

そこで、今度は「自宅で続けるセルフケア」に焦点をあてて、「虫歯を防ぐために、何をするべきか」を明らかにしたいと思います。

フッ素配合の歯磨き粉・洗口液

虫歯予防のために、「フッ素(フッ化物)」を配合した歯磨き粉・洗口液が市販されているのをご存じでしょうか? 歯科医院の「フッ素塗布」に比べれば、フッ化物濃度は低くなりますが、それでも一定の虫歯予防作用は認められています。

「公益財団法人 ライオン歯科衛生研究所」の発表によれば、「フッ化物濃度1,100ppm(1mlあたり1.1mg)」の歯磨き粉を使用することで、歯冠の虫歯が41%、歯根の虫歯が67%減少する…という統計結果が得られています。

参照URL:https://www.lion-dent-health.or.jp/basic/basic14.htm

歯磨き粉を選ぶときには、なるべくフッ化物濃度の高い製品を選ぶのがポイントです。現在、日本国内では「最大1,500ppm以下」と定められており、市販されている最大濃度の製品は「1,450ppm」となっています。可能な限り、「フッ化物濃度1,450ppm」の歯磨き粉を使用してください。

ちなみに、フッ化物配合の歯磨き粉を使用するにあたっては、重要なポイントが存在します。歯磨きのあと、何度もうがいをしてはいけません。せっかくのフッ化物が流れてしまっては、わざわざ歯磨き粉を変えた意味はなくなります。歯磨きをしたら、歯磨き粉の泡を吐き出さず、そのまま10ml(おちょこ1杯)の水を口に含んで、すぐ吐き出しましょう。フッ化物を口腔内に残すためです。

どうしても、うがいをしたいなら、フッ素洗口液でうがいしてください。フッ化ナトリウム配合のフッ素洗口液が市販されていますので、薬剤師のいる薬局・ドラッグストアなどで入手すると良いでしょう。

虫歯_フッ素コート

プロバイオティクスで虫歯予防

「プロバイオティクス」という用語を聞いたことはありますか? わかりやすく表現するなら、「善玉菌を活用して健康を増進する考え方」です。たとえば、お腹の調子を整えるためにヨーグルトを摂取するのは、プロバイオティクスの一環と言えます。腸内の細菌バランス(腸内フローラ / 腸内細菌叢)を整える善玉菌としては、乳酸菌が知られているのではないでしょうか。

虫歯_プロバイオティクス

同じように「口腔内の環境を整えて、虫歯リスクを減らせないか?」と考えてみてください。口腔内の悪玉菌(虫歯菌・歯周病菌)を減らしてくれる善玉菌が存在するなら、十分に可能性があるはずです。

実際、虫歯菌をはじめとする悪玉菌の増殖を抑えてくれる善玉菌は存在します。「ラクトバチルス・ロイテリ(L.ロイテリ菌)」と呼ばれる乳酸菌の一種です。L.ロイテリ菌が生成する物質―ロイテリンは、虫歯菌をはじめとする有害な菌の増殖を抑える作用を持っています。

ちなみに、L.ロイテリ菌を活用したプロバイオティクス製品の大半は、スウェーデンの「バイオガイア社」が特許を取得しています。そのため、L.ロイテリ菌を活用して虫歯予防をするなら、同社のサプリメントを用いるのが現実的でしょう。

とはいえ、「口腔環境を改善し、虫歯リスクを減らす善玉菌」は、ほかにも見つかっています。3種の歯周病菌に対して殺菌作用を有する「乳酸菌TI2711」、悪玉菌を減らすと同時に歯周病菌の毒素を中和する「乳酸菌L8020」などです。歯科医院の中にはプロバイオティクスを活用した予防指導をおこなっているところもあるので、関心があれば、相談してみるのも良いと思います。

3.生活習慣から改善!虫歯を遠ざけるためのワンポイント講座

虫歯になったら早期治療を心がけるべきですし、予防歯科を受診するのも大切です。また、セルフケアのために歯磨き粉・サプリメントを活用することは、虫歯予防の基本といっても良いでしょう。

ただ、治療・予防が功を奏するのは、日頃の「健康維持に対するたゆまぬ努力」があってこそです。フッ化物配合の歯磨き粉を使っていても、「1日中、暇さえあれば甘いものを食べている」というのでは、虫歯リスクを減らすことなど望めません。

そこで、この章では「すべての健康管理の基本となる生活習慣」にスポットをあてて、「虫歯リスクを下げるための正しい食習慣」を解説することにしました。ふだんの何気ない行動にリスクが潜んでいないか…、しっかりと確認してみてください。

3-1 いつも何かを食べている生活…はNG

1日3食のほかに、ずっとお菓子を食べ続けるような生活を送っていませんか? 絶え間なく何かを食べていると、虫歯リスクは増大します。理由は、口腔内が酸性に傾きやすくなるからです。実際、歯の表面にあるエナメル質は「pH5.5以下の酸性環境」で溶けはじめます。

ところで、「pH5.5」というのは、どれくらいの酸性なのでしょうか? 「そんなすぐに、エナメル質が溶けるほどの酸性になるの?」と不思議に思っている人もいるはずです。そこで、まずは「pH5.5以下の食品」を紹介することにしましょう。

◆pH5.5以下の酸性を示す食品の一例

・リンゴ
・柑橘類(レモン・みかんetc.)
・トマト
・ビール
・ワイン
・清涼飲料水
・ドレッシング
・醤油
・食酢

以上のように、私たちの食卓には酸性の食品があふれています。正直なところ、人が酸味を感じるような食品は、たいてい「pH5.5以下の酸性」です。酸性の食品がこれだけ多いのですから、食後、口腔内が酸性になるのは当然と言えます。

また、食後は虫歯菌の「糖質を乳酸に変える働き」も活発になります。「糖質」は砂糖だけでなく炭水化物も含みますから、「食後、口の中に糖質がない」ということはまずありません。口腔内には乳酸が増加し、どんどん酸性環境に傾いていくはずです。

これらの事実から、「食後はとくに歯が溶けやすい時間帯である」とわかりました。1日中、だらだらと何かを食べ続けていると、起きている時間ずっと「食後」みたいなものです。酸性食品・糖質が口の中に残っている時間が長いからです。当然、長時間にわたって「pH5.5以下の酸性環境」となり、エナメル質は溶けていくことでしょう。

もちろん、1日3食をきっちり食べることには何の問題もありません。唾液には「酸を中和し、口腔内を中性にする機能(緩衝能)」があるからです。具体的には、唾液に含まれる「重炭酸イオン(HCO3-)」が、水素イオン(H+)と結合し、二酸化炭素と水に変わります。薬学的観点において、「酸性である」ということは、「水素イオン(H+)を持っていること」と同義ですから、水素イオンを減らせば酸性を中和できるのです。

食後、だいたい40分くらいで、口腔内は中性に戻ります。大切なのは、何も食べない時間をしっかりととり、中性の時間を設けることです。食事の時間をきちんと決めて、間食を控えれば、それだけで虫歯リスクは低減するでしょう。目安として、「食後90~120分は何もたべず、寝る前30分にも飲食しない」というのがおすすめです。

3-2 虫歯になりにくい!非う蝕甘味料とは…?

虫歯リスクを下げるなら、「間食を控えること」が基本になります。しかし、「甘いものをまったく食べずに暮らす」というのは困難をきわめるでしょう。そこで、こちらでは「虫歯リスクの低いお菓子はないものか」と考えてみることにしました。

虫歯ができる原因は、虫歯菌(ストレプトコッカス・ミュータンス)が「糖質を乳酸に変えること」です。「糖質→乳酸」の変化は、虫歯菌の代謝によるものですから、「虫歯菌によって代謝されない甘味料」が存在するなら、「甘いものを食べても大丈夫」という帰結になります。そして、「虫歯菌に代謝されにくい甘味料」「代謝されない甘味料」は、きちんと存在しているのです。

糖アルコール

虫歯菌は、さまざまな糖類を乳酸へと代謝します。しかし、糖アルコールは代謝効率が非常に悪くなりますので、ごくわずかな乳酸しか産生されません。一言で表現するなら、「ほとんど酸にならない甘味料」ということです。

また、糖アルコールは小腸であまり吸収されません。そのため、「甘味料のわりにカロリーが低い」という特徴もあります。虫歯になりにくい上、ダイエット甘味料としても有用で、糖アルコールは「多くの女性の味方」と言えるかもしれません。それでは、主な糖アルコールを紹介したいと思います。

・キシリトール
・マルチトール(還元麦芽糖 / 還元麦芽糖水飴)
・エリトリトール(エリスリトール)
・ソルビトール(ソルビット / グルシトール)
・マンニトール(マンニット)

虫歯_キシリトール

上述のとおり、「虫歯リスクの低い甘味料」の代表格―キシリトールもまた、糖アルコールの仲間です。「どうしてもお菓子を食べたい」というときは、非う蝕甘味料である糖アルコールを使った製品を探してみてはどうでしょうか?

非糖質性甘味料

「非糖質性甘味料」は、味覚的に甘みを感じるものの、糖質ではない成分です。虫歯菌は「糖質を乳酸に変える菌」です。糖質でない物質は、乳酸に変えられません。非糖質性甘味料は、虫歯の原因にならない甘味料なのです。

・アスパルテーム
・ステビア
・スクラロース
・アセスルファムカリウム
・サッカリンナトリウム

アスパルテームはショ糖の100~200倍、ステビアは300倍、スクラロースは600倍に相当する甘みを持っています。砂糖の代わりに使用すれば、非常に少ない分量で甘味料として機能するのが特徴です。

4.まとめ

虫歯は治療すること以上に、予防することが大切です。プロフェッショナルケアとセルフケアを組み合わせて予防習慣をつけると同時に、虫歯リスクの低い生活習慣に変えていく努力をしなければいけません。

厚生労働省と日本歯科医師会は「80歳で20本の歯を残す習慣づけ(8020運動)」を推進してきましたが、まだまだ達成には遠い状況です。1人ひとりが「歯の大切さ」を自覚し、日頃の習慣のレベルから見直さなければ、状況が大きく変わることはないでしょう。予防大国―スウェーデンに続き、「健康寿命が長く、自分の歯で食事ができる国」―、本物の長寿国を目指しましょう!

先生からのコメント

虫歯は万病の元と言われています!定期的管理を怠らず、しっかりケアしてくださいね!

執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。

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