歯が抜け落ちるのは大きく分けて2つの原因が考えられます。
一つは、転倒したり、物にぶつけたりというような大きな外力が歯に加わったため、元々は動揺のなかった健全な歯が脱臼して抜け落ちる場合です。
このような場合は「再植」という方法で、歯を抜けた位置に戻す処置が可能なケースがあります。後から述べる、歯が抜け落ちた際の応急処置を参考にしてください。
もう一つは、歯周病です。歯を支えている歯根膜や歯槽骨など歯の周囲組織が破壊され、以前より歯に動揺があり、それが悪化して歯を支え続けることができなくなって自然脱落する場合です。
歯を支えていた骨が溶けているので、もちろんその歯をもう一度再植する事は不可能です。傷が治ってから、何らかの人工的な方法でその部分を補う必要があります。その方法も併せて解説しているので、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次
1.歯が抜けたときの3つの応急処置
歯が抜けたとき、すぐに歯医者さんに行けない場合にできる応急処置を紹介します。応急処置は「再植(さいしょく=歯を元の場所に戻すこと)」の可能性を高めるためにも大切です。
1-1 出血があれば止血する
歯が抜けた部分から血が出ていたら、ガーゼを噛むといった方法で圧迫し、止血しましょう。急なことで手元に清潔なガーゼがなければ、できるだけ清潔なティッシュでもよいです。
15分程度を目安にしっかり噛むことが大切です。15分経っても血が止まらないときは、さらに15分ほど噛んで様子を見ましょう。
1-2 口内を清潔に保つ
軽くうがいをして、口内を清潔に保つように心がけましょう。
指先や歯ブラシ、爪楊枝などで歯が抜けた箇所に触れると、細菌に感染したり、歯茎を傷つけたりしてしまう恐れがあります。違和感があっても、できるだけ触れないようにしましょう。
1-3 抜けた歯の取り扱いも重要
- ・抜けた歯を弱い水流の水道水で数秒間すすぐ
・抜けた箇所に歯を差し込む
抜けた歯を再植できる可能性を高めるために、ガーゼを噛んでいる時間を利用して、このような処置をおこないましょう。
抜けた歯に砂や汚れが付着していたとしても、石鹸やアルコールなどは使わずに、流水で洗い流しましょう。歯の根を包んでいる歯根膜を温存することが大切になります。
できれば、歯を清潔なガーゼで挟んで持ち、抜けた部分に差し込んでみましょう。
◆自分で元の位置に戻せない場合
うまく元の位置に差し込めなくても、歯根膜を生かすため抜けた歯を乾燥させないようにしましょう。牛乳もしくは生理食塩水に浸けて保存しておく方法も良いと言われています。
歯医者さんに行ける場合は、頬の内側に歯を入れて湿らせておくのも良いでしょう。ただし、誤って飲み込んでしまわないように十分注意しましょう。
口の中に入れておくのが難しい場合は、牛乳や水に浸けたまま歯医者さんに持参しましょう。
1-4 歯周病で歯が抜けた場合は?
歯周病が悪化すると、歯がグラグラになり、やがて自然に抜け落ちてしまいます。
冒頭でも伝えた通り、歯周病で歯が抜けた場合、歯槽骨(しそうこつ=歯を支える骨)自体が溶けてしまっているため、元に戻すことができません。できるだけ早く、歯医者さんを受診することが望ましいです。
また、歯周病が悪化し、口の中が不衛生な状態になっている可能性が高いです。歯磨きといったケアを入念におこない、清潔な口内環境を保ちましょう。
抜けた箇所に出血や痛みがあれば、上記のガーゼを噛む方法で止血したり、鎮痛剤を服用したりして症状を抑え、早めに歯医者さんを受診しましょう。
※市販薬を使用する際には薬剤師の指示に従い、用法用量を守って使用してください。
2.歯医者さんでの応急処置
歯医者さんでの応急処置は、歯が抜けた原因や抜けた箇所によって変わります。ここでは、ケガなどの外傷と、歯周病で歯が抜けた場合の応急処置をお伝えします。
2-1 外傷によって歯が抜けた場合
ケガの程度にもよりますが、例えば「歯が一本抜けた」などの場合は、周りの歯と抜けた歯を接着剤や針金を使って固定する方法があります。
歯が抜けた部分の骨をレントゲンで確認し、問題がなければ抜けた歯をきれいに消毒して、麻酔した後に抜けた歯を元の位置に戻します。
だいたい10日~1カ月程度で固定している針金を取り除き、歯の神経の治療や、必要な場合は神経を抜き取る処置をして経過を見ます。
抜けた歯が戻らない場合、位置によっては大きく抜けた箇所の縫合することもあります。
2-2 歯周病で歯が抜けた場合
何らかの形で歯を補綴するのが基本です。まずは抜けた部分の歯茎の穴が修復されるまで、プラスチックの仮歯を入れるといった処置をおこなうことがあります。
その後、入れ歯やブリッジ、インプラントといった補綴物で歯の機能を取り戻す処置へと進むのが基本です。
3.歯が抜けた箇所を補う治療
外傷で歯が抜けた場合でも、応急処置を施した結果、残念ながら歯を再植できないケースがあります。また、歯周病で抜けた場合も戻すことはできません。
しかし、痛みや出血が治まったからといって応急処置のまま放置したり、抜けた箇所をそのままにしたりしないように注意しましょう。
「かみ合わせが変わる」「虫歯や歯周病を発症しやすくなる」など、さまざまなリスクが生じるためです。
歯周病で抜けた場合や再植できなかった場合は、次に紹介するような方法で補うことができます。
検査料や処置料などは別に必要になるほか、口内の状態によっても必要な金額が変化します。また、自由診療の費用は歯医者さんによって異なるため、じっくり検討して納得のいく方法を選びましょう。
3-1 インプラント
自由診療 費用目安150,000~500,000円 |
◆インプラントのメリット
- ・天然歯と変わらない見た目になる
・しっかり噛める
・違和感はほとんどない
・顎の骨に固定するので安定する
◆インプラントのデメリット
- ・外科的手術が必要になる
・治療期間が長くなる
・骨の量や厚さによっては不可なことも
・定期的なメンテナンスが必要
インプラントとは、歯が抜けた箇所の顎の骨に人工の歯根を埋め込み、それを土台にして人工の歯を被せる方法です。両隣の歯を削らずに入れることができます。
天然の歯に近い機能性を取り戻せるほか、自然な見た目に仕上がることが多いため、歯が抜けた部分を補ったことに気づかれにくい特徴があります。
内科的な病気や全身状態、投薬の内容によっては、外科的な手術が適さない場合もあります。
インプラントは、ごく一部の限られたケースで保険適用となる場合もありますが、ほとんどは自由診療です。
3-2 ブリッジ
保険診療 費用目安20,000~30,000円 |
◆ブリッジのメリット
- ・天然歯に近い噛みやすさ
・インプラントよりも短期間で済む
・外科的手術は必要ない
・接着剤で固定するので安定する
◆ブリッジのデメリット
- ・支えとなる両隣の歯が必要
・健康な歯を削る必要がある
・土台の歯に負担がかかる
・連続など本数によっては不可なことも
抜けた歯の両隣の歯が健康な場合、ブリッジで補えることがあります。
ブリッジとは、抜けた歯の両隣にある歯を削って土台とし、つなぎ合わせた人工の歯を橋のように被せる方法です。健康な歯を削らなくてはいけないのがデメリットと言えます。
ブリッジは、使用する素材や補う本数、そのほかの条件によって保険診療と自由診療に分かれます。保険が適用されるかどうかは、歯医者さんを受診したときに確認しましょう。
3-3 入れ歯
保険診療 費用目安8000~10,000円 |
◆入れ歯のメリット
- ・ほとんどの症例に対応できる
・外科的手術は必要ない
・安価で他の方法よりも短期間で済む
・手入れがしやすい
◆入れ歯のデメリット
- ・他の方法よりも機能性に劣る
・金属部分が目立つことがある
・着脱式で不安定、違和感がある
・バネをかけた歯に負担がかかる
取り外し可能でメンテナンスしやすいのが入れ歯です。顎の骨や健康な歯を削ることがないため、身体的な負担が少なくて済みます。
見た目や機能性にこだわると自由診療になることがありますが、保険の範囲内で作ることもできるため、費用の負担を軽減することが可能です。
ただし、機能性はインプラントやブリッジに比べると劣るとされています。また、金属部分が見えてしまうものもあるため、見た目を気にする人には向いていないケースもあります。
4.歯が抜けてしまう2つの大きな原因
お伝えしたように、歯が抜けてしまう原因は大きく2つあります。外からの強い力が加わることで歯が抜けてしまう外傷と、重度の歯周病です。それぞれ、具体的に見ていきましょう。
4-1 強い力が加わって歯が抜ける
たとえ健康な歯でも、交通事故や転倒、スポーツの最中にぶつけてしまうなど、外からの強い力が歯に加わることで抜けることがあります。外傷は、自分が注意していても防げないケースがあります。
外傷で歯が抜けたときは、1章で紹介した応急処置を施し、できるだけ早く歯医者さんを受診することが大切です。
再植などの方法が無理であると歯医者さんで判断された場合、先に述べたようないくつかの治療の選択肢があります。
基本的には、保険適用の可否が治療費用に大きく関わってきます。歯が抜けた原因が交通事故や偶発的な事故であるときは、事故に関する保険で、治療費を保険会社が補填してくれる場合もあります。
そのことを十分確認したうえで、どの治療法が良いか、歯医者さんと相談して選択するのが良いでしょう。
4-2 重度の歯周病で歯が抜ける
歯周病とは、歯と歯茎の間に溜まった細菌が歯茎に炎症を起こす病気です。進行すると炎症が広がってしまいます。やがて歯を支えている骨が溶け、最終的には歯が抜けてしまいます。
歯周病は、毎日の歯磨きといったケアを丁寧におこない、歯医者さんを定期的に受診することで、予防や改善が目指せます。
5.まとめ
歯が抜けてしまう大きな原因は、外傷と歯周病です。外傷で歯が抜けた場合、応急処置を施し、早い段階で歯医者さんを受診できれば、歯の状態によっては再植できる可能性も高くなります。
この記事で紹介した応急処置を実践しましょう。
また、外傷によって歯が抜けてしまうことは予防できませんが、歯周病は予防や改善が目指せます。毎日のケアを丁寧におこなうと同時に、歯医者さんで定期健診を受けることも検討しましょう。
出身校:大阪大学
血液型:O型
誕生日:1956-11-09
出身地:大阪府
趣味・特技:料理
1983年大阪大学歯学部 卒業
1983年大阪大学歯科口腔外科第一講座 入局
1985年大阪逓信病院(現 NTT西日本大阪病院)歯科 勤務
1988年遠藤歯科クリニック 開業
現在に至る
執筆者:
歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。