顎関節症は、口を開けると痛い、口が開きにくい、顎を動かすと音が鳴るといった症状がみられる、比較的身近なお口まわりのトラブルです。多くの場合は一時的な症状で、生活習慣の見直しや保存療法によって症状の軽減を目指します。しかし、その一方で症状が改善せず、複数の医療機関で相談する方もいます。
顎関節症の治療は、基本的に手術をしない保存療法が中心です。ただし、さまざまな治療をしても症状が改善しない場合や、関節内の状態によっては、必要に応じて手術を検討することがあります。ここでは、なぜ顎関節症で手術が必要となる場合があるのかを紹介し、診察から治療までを解説します。
この記事の目次
1.顎関節症の手術とは
1-1 顎関節症で手術になるケース
顎関節症の多くは、手術を必要としない保存療法が中心です。しかし、保存療法を続けても症状が改善せず、関節内に癒着が生じたり、関節円板(下顎と上顎の間にあるクッションのような組織)が変形したりして、痛みや開口障害のコントロールが難しい場合は、手術を検討することがあります。
ただし、顎関節症で手術を必要とするケースは限られています。手術が必要かどうかは、症状の程度、画像検査の結果、保存療法への反応、全身状態などを踏まえて、歯科口腔外科などで慎重に判断されます。
1-2 顎関節症の手術は、大きく分けて2つ
顎関節症の手術は、癒着を剥がしたり、関節円板の状態を確認・処置したりするために行われることがあります。手術方法は、主に2つあります。
1つは、皮膚の切開を伴う「関節開放手術」です。もう1つは、内視鏡の一種である関節鏡を使う「関節鏡視下手術」です。どちらも、症状や処置内容によっては全身麻酔で行われることがあります。このほかにも、関節腔洗浄療法やパンピング・マニピュレーションなど、状態に応じた処置があります。
1-3 顎関節症の手術後からリハビリまで
手術後は、炎症や痛みを抑えるために薬を内服する場合があります。また、顎を動かさない状態が続くと、新たな癒着や開口障害につながる可能性があるため、医師の指示に従って早い時期からリハビリを行うことがあります。
回復までの期間は、手術内容や症状の程度、リハビリの進み方によって異なります。元の状態に近づくまでに時間がかかることもあるため、治療後も継続的な通院やセルフケアが大切です。
2.顎関節症の手術の種類と費用
2-1 関節腔洗浄方法
対象
保存療法では十分な効果が得られず、慢性的な痛みが続くときや、関節内に炎症があるときに検討されることがあります。
目的
関節内に溜まった炎症性物質などを洗い流し、痛みや動かしにくさの軽減を目指します。
処置方法
ベッドにあおむけの状態で、関節部の皮膚に局所麻酔をします。次に、関節内部にある関節腔に針を刺し、洗浄液を流します。もう一方の針やチューブから洗浄液を排出し、関節内を洗い流します。必要に応じて、炎症を抑える薬を注入することもあります。
処置時間や入院の有無は、医療機関や症状によって異なります。日帰りで行われることもありますが、事前に医療機関で確認しましょう。
2-2 パンピング・マニビュレーション
対象
口が開きにくい場合や、関節円板の位置異常などが疑われる場合に検討されることがあります。
目的
関節内に薬液を注入したり、下顎を動かしたりすることで、関節の動きを改善することを目指します。
処置方法
わかりやすくいうと、顎の動きを補助する処置です。医師が下顎を下方や前方に動かし、関節の動きを改善するよう働きかけます。施術の際に痛みを伴うことがあるため、局所麻酔を行うことがあります。
2-3 関節鏡視下手術
対象
画像検査などによって、関節内の癒着や異常が確認され、保存療法やその他の処置で十分な改善が得られない場合に検討されることがあります。
目的
癒着部分を切り離し、顎関節を動きやすくすることを目指します。
処置方法
関節鏡という内視鏡を使用した手術です。耳の穴の前方に小さな穴をあけ、そこから関節鏡を挿入して、関節内をモニター画面で観察します。必要に応じて、小さな器具を使って癒着した部分を剥がします。
2-4 関節開放手術
対象
関節鏡視下手術や保存療法などでも症状の改善が難しい場合に検討されることがあります。
目的
関節内を直接確認し、変性した関節円板や癒着などに対して処置を行うことを目的とします。
処置方法
耳の穴の前方の皮膚を切開し、肉眼で確認しながら手術します。必要に応じて、変性した関節円板を切除したり、関節内の状態を整えたりします。全身麻酔を必要とすることが多く、手術時間や入院期間は症状や医療機関によって異なります。
2-5 手術の費用
この章では、顎関節症の手術費用についてお伝えしていきます。下記は、保険適用で3割負担の場合のおおよその目安です。ただし、実際の費用は手術内容、検査内容、入院の有無、医療機関、患者さんの負担割合などによって異なります。
| 手術の種類 | おおよその費用 |
|---|---|
| 関節腔洗浄方法 | 5,000円~15,000円 |
| パンピング・マニビュレーション | 30,00円~5,000円 |
| 関節鏡下手術 | 30,000円~80,000円 |
| 関節開放手術 | 50,000円~150,000円 |
手術費用は、手術の内容や病院により異なり、他にも検査費、薬代、入院費などがかかることがあります。詳しい費用は、治療を受ける医療機関で確認しましょう。
※2026年現在の3割負担の場合の保険診療の費用(ここでは初診料やレントゲンは含んでいません。区分や制度の改定でも変動しますので、あくまで目安としてください)
3.顎関節症の手術に至るまでの診察
では、「顎関節症かな?」と感じたときは、どんな病院へ行けば良いのでしょうか。ここでは、診療する科やそこで受ける診察についてご説明します。
3-1 顎関節症はどこで診てもらえば良いのか
顎関節症が疑われる場合は、まず近くの歯科や歯科口腔外科へ相談しましょう。顎関節症は、歯や噛み合わせ、顎関節、筋肉などが関わるため、歯科や歯科口腔外科で相談しやすい疾患です。
最近では、顎関節症の治療を専門的に行う大学病院や歯科医院もあります。顎関節症かなと思ったら、まずはかかりつけの歯科医院に相談し、必要に応じて専門的に治療している医療機関を紹介してもらいましょう。
3-2 歯科での診察シミュレーション
診察は、問診、視診、触診の流れで行い、必要がある場合はいろいろな検査を行います。ここでは、診察をシミレーションしてみます。
問診
顎関節症の診察では、問診が重要です。受診前に、下記の内容をまとめておきましょう。
①健康状態(現在の健康状態、病歴、常用している薬)
②気になる症状(どんな症状がいつから始まったのか、どこが痛いか)
③症状の変化(どんなときに症状が起こるか、痛みが強くなるきっかけは何か)
④生活習慣(学校、仕事、自宅などの生活の様子、睡眠、ストレス)
⑤就寝時の様子(歯ぎしりや食いしばりがあるか)
視診
腫れ、顔のゆがみがないか確認します。
触診
押して痛みがあるか、関節雑音を指で感じるかどうか、病気の部位を調べます。
口の中の確認
炎症がないか、舌や頬の粘膜の様子、噛み合わせを確認します。
顎の動きの確認
口を開くときの顎関節の動き、どのくらい口が開くのかを確かめます。
画像検査
レントゲンなどで撮影し、顎関節の骨に異常があるかどうか調べます。必要に応じて、MRIやCTなどの検査が行われることもあります。
3-3 顎関節症の診断
「顎が痛い」「口が開かない」という症状でも、必ずしも顎関節症とは限りません。検査によって、顎関節症と似た病気ではないかを確認します。
そのうえで、顎関節や咀嚼筋の痛み、開口障害、関節雑音などの症状、画像検査の結果、ほかの病気の可能性などを総合的に確認し、顎関節症かどうかを診断します。
4.手術以外の治療と顎関節症の保存療法
4-1 薬物療法
顎関節症では、症状に応じて薬を使用することがあります。症状を見ながら、一定期間服用し、症状が軽くなれば薬の量や使用期間を調整します。
鎮痛剤
痛みが強いときに処方され、痛みをやわらげるために使用します。
筋弛緩薬剤
痛みによって顎の筋肉が固くなったときに処方され、筋肉の緊張をやわらげるために使用されることがあります。
抗不安薬など
痛みへの不安や緊張が強い場合など、必要に応じて処方されることがあります。使用するかどうかは、症状や全身状態を踏まえて医師が判断します。
4-2 理学療法
電気刺激、温熱療法、超音波療法、マッサージ、開口訓練などを行い、顎関節や筋肉の痛みをやわらげて、運動機能の改善を目指す治療法です。
自己流で強く動かすと症状が悪化することもあるため、歯科医師や医師の指示に従って行うことが大切です。
4-3 認知行動療法
歯ぎしり、食いしばり、頬杖、片側だけで噛む癖など、顎関節症に関わる可能性がある習慣に気づき、改善を目指す治療法です。
顎関節症である本人自身が、顎の構造、顎関節症の原因、症状を悪化させやすい習慣などを正しく理解し、無意識で行っている癖を自覚することが大切です。
4-4 スプリント療法
マウスピース型の装置を装着して顎関節や咀嚼筋への負担を軽減する治療法です。顎関節症の治療で広く行われています。
5.まとめ
顎関節症で手術が必要となるのは限られたケースで、癒着などにより症状が改善しにくい場合に検討されます。多くの顎関節症は、保存療法で症状の軽減を目指します。
大切なことは、症状を我慢して悪化させないことです。顎関節症かなと思ったら、歯科医師に相談し、症状や原因に合わせて治療を進めていきましょう。
【参考サイト】
・日本顎関節学会「顎関節症治療の指針 2025」
https://kokuhoken.net/jstmj/publication/file/guideline/guideline_treatment_tmj_2025.pdf
・Mindsガイドラインライブラリ「顎関節症初期治療診療ガイドライン2023 改訂版」
https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00780/
・日本顎関節学会「診療ガイドライン」
https://kokuhoken.net/jstmj/publication/guideline.html
・厚生労働省 令和8年度診療報酬改定について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
1968年 東京歯科大学 卒業
1968年 飯田歯科医院 開院
1971年 University of Southern California School of Dentistry(歯内療法学) 留学
1973年 University of Southern California School of Dentistry(補綴学・歯周病学) 留学
1983年~2009年 東京歯科大学 講師
現在に至る

執筆者:
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