自宅や歯医者で顎関節症を治す方法と治療費や期間について

顎関節に異常が生じて、「顎が痛い」「顎が鳴る」「口を開けにくい」といった症状を感じる顎関節症。症状の程度は人によりますが、辛い疾患であることに違いはありません。

20代から30代の女性がかかりやすく、なかなか治りにくい慢性疾患でもあります。この記事では、この顎関節症を治すために自宅でできる治療法と、歯医者でできる治療法をそれぞれ紹介していきます。

どのような治療法がもっとも合っているのかを知るためにも、ぜひ最後まで読んでみてください。

この記事の目次

1.顎関節症を治す方法

顎関節症には、軽度のものから重度のものまで、さまざまな状態があります。それぞれの段階によって必要な治療法も異なります。

1-1 自分でできる方法

「かたいものを食べたら顎が痛くなった」程度の軽い顎関節症ならば、放置したままでも自然に治ることもあります。

ただ、軽度以上の顎関節症であっても、生活を見直しながらのセルフケアを行うことが重要です。マッサージや湿布、姿勢矯正などが自宅でできる主な治療方法です。

1-2 歯医者で行える方法

自宅でのケアも大事ですが、顎関節症はその原因を正しく突きとめることが非常に重要です。なぜならば、根本的な原因に対処しなければ、一度はよくなったように見えても非常に再発しやすい症状だからです。

歯科医院での治療は、まず検査で原因を特定し、それに基づき正しい治療法を選択するという手法が用いられます。

2.自宅でできる治療法

自宅でできる治療法は、顎関節症の原因となっているであろう歯ぎしり、噛み癖などの悪い習慣を取り除き、緊張を緩和させることがメインになります。主な治療法としては、以下が挙げられます。

2-1 マッサージ

顎の筋肉の痛みをとるために、顎のまわりを優しくマッサージして血行を良くします。弱った筋肉をさらに痛めることのないように力加減に注意しましょう。

2-2 湿布

通常は温湿布を用いますが、急性顎関節症の場合には冷湿布を使用します。ただし冷やし過ぎも血液循環を滞らせてしまうので注意が必要です。

2-3 姿勢矯正

猫背になっていたり、顎を突き出すような姿勢になったりしていないか、立っている時はもちろん座っている時にも気をつけましょう。長時間にわたって同じ姿勢をとり続けることのないように、時々ストレッチをして緊張をほぐすようにしましょう。

3.歯医者さんで行える治療法

自宅でもある程度のことは行えますが、たとえば冷湿布と温湿布のどちらを用いるべきなのかなど、素人では判断に迷うことも多々あります。

原因と症状を正しく判断して治療をスタートさせたいならば、歯医者さんに相談してみるのが賢い選択です。歯医者さんならば、さらに多種多様な治療法も用意されています。

3-1 認知行動療法

顎関節症の原因となった悪習慣、悪癖などを患者さんに自覚させ、主体的に取り除くように行動させる療法です。

3-2 物理療法

痛みを軽減させるために、患部を温めたり冷やしたりします。

3-3 運動療法

口を開閉させたり、顎をなめらかに動かしたりする訓練をします。頬杖、うつぶせ寝、片噛み、歯ぎしり、食いしばりの禁止などの生活指導も併用されます。パソコンや冷蔵庫に「食いしばらない!」と、張り紙をさせるなどのリマインダー法も用いられます。

3-4 スプリント療法

歯列を覆うスプリントという装具を装着し、顎関節の筋肉への負担を軽減し、食いしばりや歯ぎしり由来の顎関節を治療します。スプリントにはスタビライゼーション型、アンテリアリポジション型、ディスクリキャプチャリング型など、症状にあわせて多種多様なタイプがあります。

スタビライゼーション型

上下の歯列を均一に接触させるタイプのスプリントです。下顎が安定し、咀嚼筋をはじめとした筋肉が和らぎ、顎関節症の治療につながります。

アンテリア リポジショニング型

下顎が前方に動くように促し、顎の関節にある「関節円板」の位置を是正させることによって負担を減らすスプリントです。

ディスク リキャプチャリング型

顎関節症になると、顎の関節に障害が出て、正常に口を開けなくなることがあります。この症状を緩和したり、再発を防いだりする目的で使用されるのがこのスプリントです。

3-5 薬物療法

筋肉がかたまってしまっている場合には、筋弛緩剤、痛みが強い時には鎮痛剤などを使用します。夜間の歯ぎしりを軽減するため入眠剤を用いることもありますし、抗不安薬、抗うつ薬などを投与するケースもあります。

3-6 マニピュレーション法

手技によって、顎関節にある関節円盤を正しい位置に戻そうとする治療法です。運動療法や薬物療法と組み合わせて行うこともあります。

3-7 外科療法

どのような治療を用いてもよくならない顎関節症は外科療法、すなわち手術が施される場合もあります。関節内に針を刺して関節内部の炎症の原因を洗い流す関節腔内洗浄療法、骨と骨の癒着をはがす関節鏡手術などがあります。より詳しい内容は「顎関節症で手術が必要なのか?診察から治療まで徹底分析」

4.顎関節症の治療にかかる費用と期間

顎関節症がどの程度深刻なのかによって、治療にかかる費用も期間も異なります。各歯科医院によって、さまざまな治療法が用いられているため、非常にバラつきがあります。

4-1 費用

顎関節症に必要な治療費の一例として、ある歯科医院をサンプルに挙げてみます。まず、歯を削って咬み合わせを治療するだけならば数百円から2,000円程度で済みます。しかしもし、矯正となったら100万円前後は必要です。マッサージ、マウスピース、運動療法、薬物療法などはいずれも数千円、高くても10,000円程度となります。

問題は外科療法です。この歯科では、顎関節鏡下受動手術14,400円、開放受動術45,000円、顎関節鏡下円盤整位術42,000円、開放円盤整位術56,600円、顎関節形成術72,00円。いずれも保険適用3割負担の場合の手術ですが、保険外の治療法ともなるとさらにバラつきがあります。

4-2 期間

まずはじめに運動療法、薬物療法、スプリント療法などが用いられ、それでも変化がないようであればマニピュレーション法が施されます。これらの治療を、3~6ヶ月行って改善が見られない場合には、外科療法を施すことになります。

数日間の入院が必要になりますし、手術後も薬物療法、運動療法、マニピュレーション法などによるリハビリテーションが必要になり、治療期間は年単位にわたります。

5.顎関節症を歯医者さんで治療する理由

歯科医院には顎関節症を治療するさまざまなメソッドがあります。自宅でのセルフケアにはないメリットがあるということを覚えておきましょう。

5-1 自分で治すこともできるが時間がかかる

歯科医院で顎関節症を治療すれば、最速で1度の通院で解消されてしまうこともあります。もしなかなか治らなくても、早ければ3ヶ月で手術による抜本的にアプローチしようという結論に至ることもあります。

顎関節症は、自宅療法だけで解消できることもありますが、どうしてももっと長い時間が必要です。

5-2 根本的な原因を解消しなければ再発も

また、歯医者さんならば、根本的な原因を正しく突き止めた上での治療を受けることができます。素人判断のセルフケアでは、原因を間違えたままずっと誤った療法を続け、いつまでたっても治らないということもあります。

一度は楽になったように感じても、すぐに再発してしまうということも珍しくありません。歯医者さんで根本的な原因を取り除くことができれば、再発のリスクを抑えることが可能です。

ただし、歯医者さんでしかるべき治療をした後に、自宅療法を正しく取り入れることも大切です。顎関節症は生活習慣病の一種であり、自宅でのケアを怠ることも、また再発の一因となるでしょう。

6.まとめ

このように、顎関節症の治療には歯医者さんでしっかりと原因を突き止めてもらった上で、状態にあったな治療を受けることが何よりも大切です。治療にはさまざまな方法があり、かかる期間も必要な費用も実にさまざまです。

顎関節症を自宅で解消させるための方法もいろいろとあり、確かにどれも効き目がないわけではありませんが、それだけに頼るのは危険です。

時には外科療法が必要になってしまうこともありますが、それは顎関節症患者のうちの、わずか2~4パーセントほどにすぎません。まずは歯医者さんに相談してみることをおすすめします。

経歴

1968年 東京歯科大学 卒業
1968年 飯田歯科医院 開院
1971年 University of Southern California School of Dentistry(歯内療法学) 留学
1973年 University of Southern California School of Dentistry(補綴学・歯周病学) 留学
1983年~2009年 東京歯科大学 講師
現在に至る

執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。