「口を開けるとき、顎がカクッとして違和感がある」「顎に痛みが出る」「顎から雑音が聞こえる」などの症状を総称して「顎関節症」と呼びます。決して珍しい病気ではなく、疫学的統計によれば、人口の70~80%が「顎関節に何らかの問題を抱えている」と考えられています。
こちらの記事では、「顎関節症の原因・メカニズム」を解説しています。「顎に違和感がある…」という人のために、「顎関節症の疑いがどの程度あるか」を推し量るためのセルフチェック表も掲載しているので、ぜひ、参考にしていただければ幸いです。
この記事の目次
1.痛みの原因は、顎関節症? まずはセルフチェック!
この記事を読んでいるということは、「顎の違和感・痛み」に悩んでいるのだと思います。「もしかしたら顎関節症かも…」と不安に感じているのではないでしょうか? 当然、確定的な診断を受けるには、きちんと医療機関を受診する必要があります。ただ、「顎関節症の確率が高いかどうか」の簡易セルフチェックであれば、web上で可能です。
漠然と心配していても致し方ありませんから、まずは「簡易セルフチェック」を実施してみませんか? 以下のセルフチェック表を確認して、「症状」「原因」のそれぞれに当てはまる要素があるなら、顎関節症の疑いを念頭に置いたほうが良いでしょう。特に(★印)のついた項目に当てはまっているようなら、顎関節症である確率が高いです。
【顎関節症の症状があるか!? ~セルフチェック表】
◆口を動かしたとき、特に大きく開けようすると痛みを感じる
◆痛みを感じるのは、「耳の前」「こめかみ」「頬」のいずれかである
◆口をスムーズに開閉できず、引っかかりを感じる
◆リンゴを丸かじりしたり、大きなあくびをしたりが困難である
◆常日頃から、肩こり・頭痛に悩まされている
◆3本指(人差し指・中指・薬指)を縦にそろえて、口に入れることができない(★)
◆口を大きく開閉すると、「カクッ」「ピキッ」などの音がする(★)
◆下顎を左右に動かすと、「ピキッ」「ジャリッ」などの音がする(★)
【顎関節症の原因があるか!? ~セルフチェック表】
◆今、上下の歯が接触している(2~3mm離れているのが正常)
◆睡眠中の歯ぎしりを指摘された経験がある
◆ふとした拍子に、歯を食いしばっていることがある
◆左右のどちらか一方でばかり噛む癖がある
◆ふだん、精神的ストレスを感じることが多い
2.顎関節症の原因は? 顎を痛める5つの悪習慣
顎関節症は、「1つの明確な原因により発症する」というものではありません。虫歯なら「虫歯菌」、インフルエンザなら「インフルエンザウイルス」と原因をあっさり特定できる疾患もありますが、顎関節症はそうではないのです。
そうはいっても、「顎関節症を発症しやすくなる原因(リスクを高める生活習慣)」はいくつか知られています。この章では「顎関節症の発症・悪化リスクを高める原因」を5つ紹介したいと思います。
2-1 歯列接触癖(TCH)
基本は、何もしていないとき、上下の歯は少し離れています。だいたい2~3mmほど離れているのが正常で、この隙間を「安静時空隙(あんせいくうげき)」と呼びます。
そもそも、上下の歯が接触する(噛み合う)必要があるのは、「食べ物を噛むとき」と「会話で口を動かしているとき」くらいです。何もしてないとき、わざわざ歯に圧力をかける必要などありません。そのため、上下の歯が接触している時間は、「1日あたり合計20分未満」が適正とされています。
しかし、人によっては「常に上下の歯を噛み合わせる癖」「頻繁に上下の歯を接触させる癖」を持っている場合があります。このような癖のことを「TCH」と呼ぶのです。TCHは歯・歯周組織・顎関節にダメージを与える悪習慣であり、さまざまな口腔トラブルを招く原因となります。
2-2 歯ぎしり・食いしばり
人間の噛む力は想像以上に強く、普通に噛むだけで「体重と同程度の圧力」がかかります。そして、歯ぎしり・食いしばりなど、不自然に強い力を加えているときは、体重の約2倍に相当します。
歯ぎしり・食いしばりの癖があると、歯・歯周組織・顎関節に(体重50kgと仮定して)100kg相当の圧力をかけることになります。歯ぎしり・食いしばりを繰り返すことで、ダメージが蓄積するのは間違いありません。
特に睡眠中の歯ぎしりに注意してください。無意識のうちに強い力がかかりますので、歯・歯周組織・顎関節へのダメージは相当のレベルです。睡眠中の歯ぎしり(睡眠時ブラキシズム)が疑われる場合、歯科医院で歯ぎしりの力を分散するマウスピース(ナイトガード)を作ってもらったほうが良いでしょう。
2-3 偏咀嚼(左右片方でばかり噛む習慣)
左右のどちらか一方でばかり噛む癖がついていると、顎に負担がかかりやすくなる…と考える歯科医師も多いです。片側の咀嚼筋が緊張する一方、反対側が緩みがちになり、顎のバランスが崩れる…と考えられています。
ただ、偏咀嚼に関しては「左右の筋肉は連動しているので、それほど影響はない」と考える歯科医師もいるようです。
2-4 横向き寝・頰づえなどの悪習慣
「毎日、同じ側を下にして、横向きに寝ている」「同じ側でばかり、頻繁に頰づえをついている」といった悪習慣も、顎関節の負担を増やすと考えられています。日常的に同じ方向から押されることで、顎のバランスが崩れる…という理由です。
ただ、横向き寝・頰づえに関しても、「影響の大きさ」は諸説あります。近年は「TCH、歯ぎしりなどに比べれば、影響は限定的」と考える歯科医師が増えているようです。
2-5 神経質で、ストレスの多い環境にある
慢性的にストレスを受けていると、「睡眠時ブラキシズム(歯ぎしり)」の頻度が向上する…と考える人もいます。また、ストレス下に置かれていると筋肉が緊張しやすくなり、「顎関節を動かしている咀嚼筋がダメージを受けやすくなります。
「ストレスを感じない」というのは不可能だと思いますが、ストレスを溜めこまず、適度に発散できる生活習慣を心がけてください。
3.顎関節症には4つの種類が…!それぞれのメカニズム
顎関節症という用語は「スムーズに口が開かなくなったり、顎関節に痛みを感じたりする症状」の総称です。そのため、顎関節症の原因・メカニズムは1つではありません。人によって、顎関節症の原因・メカニズムは異なるのです。
とはいえ、「100人いれば100通り…」というわけではありません。顎関節症の発症メカニズムは、4種類に大別することができます。この章では、4種類の顎関節症それぞれに関して、発症メカニズムを解説することにしましょう。
3-1 咀嚼筋障害(1型顎関節症)
顎関節を動かしているのは、「咀嚼筋」と呼ばれる筋肉です。咀嚼筋障害は「咀嚼筋の痛み・コリが原因で、顎関節症の症状が出た状態を指します。「口を開くと痛む(開口痛・開口困難)」が主な症状で、悪化すると肩こり・頭痛・手のしびれなどを伴うこともあります。あくまでも筋肉が原因なので、「関節から音がする」という症状はありません。
3-2 顎関節痛障害(2型顎関節症)
関節は「骨と骨が結合した場所」です。結合部であるには、骨以外の軟部組織も存在しています。骨同士をつなげている「靱帯(じんたい)」、関節を覆っている「関節包」などが、関節の軟部組織です。顎関節痛障害は、靱帯・関節包などの軟部組織が損傷を受けた状態を指します。顎関節を捻挫した状態…と表現するのが、わかりやすいでしょうか。軟部組織が原因なので、やはり「関節の雑音」は生じません。
3-3 関節円板障害(3型顎関節症)
関節は「骨と骨が接して、動く構造」になっています。しかし、骨同士が直接擦れ合うことはありません。骨同士が擦れるようでは、痛くて関節を動かすことなど不可能です。そのため、関節には「骨と骨の間を埋めるクッション材」が存在しています。膝関節であれば、軟骨・半月板がクッションの役割です。
顎関節でクッションの役割を果たしているのは、「関節円板」と呼ばれるものです。側頭骨と下顎骨の隙間で、クッション材として機能しています。関節円板障害は、「関節円板の位置がずれて、顎関節がスムーズに動かなくなった状態」です。
ほとんどの場合、口を動かそうとすると、関節円板がもとの位置に戻ります。この状態を「復位性関節円板転位」と呼びます。復位性関節円板転位の人は、顎を動かしたときに「パキッ」「シャリッ」などの異音が聞こえます。この異音は「ずれている関節円板がもとの位置に戻るときの音」です。
症状が悪化すると、口を動かそうとしても、関節円板の位置が戻らなくなることがあります。この状態を「非復位性関節円板転位」と呼びます。非復位性関節円板転位の状態では、口を大きく開けることができません。どう頑張っても2cm程度しか開かず、食事・会話さえ困難になります。関節円板障害による開口障害を指して、「クローズドロック」と呼んでいます。
3-4 変形性顎関節症(4型顎関節症)
長期間にわたるダメージが蓄積すると、「顎関節の軟骨が摩耗する」「骨自体が変形する」といった問題が起こります。レントゲン撮影で顎関節の変形が認められる場合は、変形性顎関節症と呼ばれる状態です。変形性顎関節症では「口を開くときに痛む」「口を開閉するときに異音が聞こえる」といった症状をきたすことがあります。
4.まとめ
顎に違和感・痛みがある場合、まずは顎関節症を疑う必要があります。セルフチェックなどをおこなって「顎関節症の疑いがある」と感じたのなら、早めに医療機関を受診するようにしてください。顎関節症の診療は、歯科医院・歯科口腔外科でおこなわれています。ただ、全ての歯科医院が対応しているわけではありません。まずは「顎関節症の診療をしてもらえるかどうか」を事前に問い合わせると良いでしょう。
医療機関の受診ですが、歯科大学病院などでは顎関節症に精通した医師に診てもらうことができますので、事前に調べてから行くのが良いかと思いますし、普段通っている歯科医院で紹介してもらうのも良いでしょう!
電話:03-3601-7051
執筆者:
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