前歯のすき間が気になり、口を開けて思い切り笑えないという人もいると思います。コンプレックスを解消したくても費用や期間のことを考えると治療に踏み切れないということも多いでしょう。 「すきっ歯」とは、中央2本の前歯の間が離れている状態のことで、歯科用語で「正中離開(せいちゅうりかい)」といいます。
「すきっ歯」といっても、原因や治療法はさまざまです。ひと昔前、すきっ歯の治療といえば歯の矯正を行うことが主流でしたが、最近では矯正以外にも、より短期間でできる方法が登場しています。
この記事では、すきっ歯の治療法とそれぞれにかかる費用、治療が必要となるケースはどういうものかを紹介していきます。
この記事の目次
1.すきっ歯の治療法
1-1すきっ歯の治療法-保険内
すきっ歯の治療は、2㎜程度の小さなすき間で、かつ虫歯があれば保険でできることもあります。歯と歯の隙間を歯と同じ色のプラスチック(レジンといいます)で埋める方法です。虫歯の箇所以外は歯をほとんど削ることなく、表面に直接プラスチックを付け、歯の形に合わせて隙間を埋めます。
メリット
- 基本は1回の通院で終了する
- 保険適応なので比較的安価
デメリット
- 薄くプラスチックを盛っているだけなので、割れたりはがれたりする可能性がある
- 長期的に見ると白いプラスチックの部分が着色してくる
- あまり隙間が大きいと、隙間を埋めるために歯を太くせねばならず、不自然になってしまうので適応できない
1-2すきっ歯の治療法-保険外
すきっ歯の治療法の多くは保険適応外となります。中でも古くから行われている方法が歯列矯正による治療です。矯正治療はワイヤーによる矯正法とマウスピースによる矯正法があります。
ワイヤー矯正法
歯の表面に矯正装置を貼り付け、針金の力で歯を動かします。歯科医院での装着後は自分で外すことはできません。
メリット
- 歯を削らずに自然な歯の形のまま、すきっ歯を治療できる
- 歯を動かす力が常に作用するのでマウスピース矯正より短期間で完了することが多い
デメリット
- 治療期間が数か月から数年と長くかかる事が多い
- ワイヤーが目立つ
医院によっては目立たないように内側に針金を付ける方法も選択できるので見た目が気になる方は相談してみましょう。
マウスピース矯正法
取り外しの出来るマウスピースを交換しながら歯を動かし、隙間を埋めていく方法です
メリット
- 目立ちにくい
「針金での矯正装置は見た目が気になる」という方にはおすすめです。
デメリット
- 治療期間が数か月から数年と長くかかる事が多い
- マウスピースをある程度の時間装着していなければ効果が出ないので、装着する習慣を守らなければ、なかなかすきっ歯が改善しない
矯正は隙間が大きい場合でも適応することができます。後述する矯正以外の方法では、隙間が大きい場合や隙間を埋めるために歯の形を太くせざるを得なくなり、不自然になってしまうからです。
セラミックを貼り付ける方法
歯の表面をわずかに削り、セラミック(ラミネートベニアといいます)を貼り付けて隙間を埋める方法です。この方法は歯と歯の間の隙間が3㎜程度までならば行うことができます。歯と歯の間があまり大きく離れていると、その分歯を太くしなければ隙間が埋まらないので、見た目が不自然になってしまいます。
メリット
- 被せ物によるすきっ歯治療(後述)に比べて歯を削る量が少なくて済む
- 治療回数が基本的に2、3回で済むことが多い(歯茎の状態によってはより回数がかかる事もあります)
- 汚れにくく、変色しにくい
デメリット
- 削る量は少ないが、表面に貼り付ける分歯が厚くなることがある
治療していない歯と比べると不自然に見えることがあります。削る量を増やすと元の歯の厚みに近づけられますが、しみる(いわゆる知覚過敏)症状が出てしまうので大きく削ることは出来ません。
- 一度付けた後のやり替えが困難
割れたり、変色してきたりしても修理が難しい場合が多いです。歯科医院でしっかりと説明を受けてから治療してもらいましょう。
被せ物による方法
歯を全周ぐるっと削って被せ物を装着し、歯の大きさや形を変えてすきっ歯を治療する方法です。元々被せ物が入っている歯が虫歯になり、保険内の材料で治療したいという場合は保険適応となる場合があります。しかし見た目の美しさを改善する目的で、健康な歯を削るという場合は保険外となります。
メリット
- 「すきっ歯だけではなく、前歯全体の大きさや並びを整えて見た目を良くしたい」という場合に適応できる
デメリット
- 歯を削る量が多い。
一度削った歯は元には戻りません。歯は削る量が多いほどもろくなりますので、よく考えて治療法を選択しましょう。
2.すきっ歯の治療費
すきっ歯の治療には保険適応のものと保険外のものがあります。治療法によっては高額になることも多いので、各治療法を比較し、よく理解した上で選択しましょう。保険内と保険外での一般的な治療費について説明します。
2-1保険適応の場合
レジン(保険内歯科材料)での修復
本来、虫歯の治療に使われる材料で、前歯の治療の際に隙間も一緒に埋めてしまうので保険内で可能。
金額:約3000円
(保険外でレジンを使用した治療を行っている歯科医院もあります。その場合1本5万円前後が多いようです。)
2-2 保険外の場合
矯正治療を行うケース
- 部分矯正
気になる箇所のみの矯正。3カ月から1年くらいの期間を要します。
金額:15~30万円。
- 全体矯正
すきっ歯だけでなく全体的に歯並びを直す場合。2、3年ほどかかり、個々のお口の中の状況や医院によって価格も期間もさまざまです。
金額:20~30万円ほどで済む場合から100万円ほどかかる場合まであります。
- ラミネートベニア
金額:8万円から15万円
- オールセラミッククラウン
金額:10~15万円
保険外の治療の場合、歯科医院によって様々です。保険外の被せ物について、不具合が生じた場合の保証制度を設けてある歯科医院も増えてきているので、よく相談してみてください。
3.すきっ歯の治療が必要なケース
すきっ歯の人が気にされているのは見た目ではないでしょうか。気にならない人はそのままにしておいて問題がない場合があります。しかし、隙間があることで何らかの支障をきたす場合は治療が必要です。
歯と歯の間に隙間があると食べかすが詰まりやすく、歯垢も残りやすいため虫歯や歯周病の原因となります。また、歯と歯の隙間によって、舌と前歯を使うサ行やタ行の発音がしにくい場合があります。
噛み合わせ全体に問題があるケースも多く、食べものがよく噛めずに飲み込むため、胃腸に負担をかけている恐れがあります。
このように、治療が必要な場合のすきっ歯のケースについて紹介していきます。
3-1隙間が小さい人
隙間が小さく、「見た目も気にならないし、不具合を感じたこともない」という人は、正しい歯磨きを実践し清潔に保っていれば治療の必要ないこともあります。
治療を行う場合は先に述べたレジンによる方法、ラミネートベニアによる方法、被せ物による方法が行われることが多いです。
隙間が小さく特に気にならなくても治療が必要なケースがあります。それは、歯周病が原因で歯茎が緩くなり歯が移動した結果、歯と歯の間が広がっているケースです。放置すると歯茎が腫れ、膿が出たり抜け落ちてしまうこともあります。
この場合はすきっ歯自体の治療もそうですが、まずは歯周病の治療を行う必要があります。「昔に比べて前歯の歯と歯の間が大きくなった」、「前歯がぐらぐらする」、「すきっ歯のところから出血する」という人は一度受診されてみてはいかがでしょうか。
3-2隙間が大きい方
隙間が大きい場合、前述したとおり、矯正治療以外の歯の形を変える方法では、隙間を埋めるために歯自体を太くせざるを得ません。
矯正治療が必要となるケースがほとんどです。矯正治療のみで行うことができる場合もあれば、矯正治療と被せ物の治療を併用する場合もあります。
3-3歯並びも気になる方
全体的に歯並びが気になる人は矯正治療による方法となります。「前歯の並びだけが気になる」という人は、前歯の被せ物の治療のみで歯並びを整えることができることもあります。
治療には高額な費用がかかるため、自力で治したいという人もいるかもしれません。ただ、自力ですきっ歯を直そうとすることは危険が伴います。
一見直ったように見えても、元に戻ったり、さらにすきっ歯が悪化したり、他の歯の並びに悪影響を及ぼしたりする可能性があります。すきっ歯がきになる方は、自己判断だけでなく一度、歯科医院に相談することが得策といえます。
4.まとめ
すきっ歯の治療法は昔に比べてバリエーションが増えてきています。治療にはそれぞれメリット、デメリットがあります。保険外の治療の場合、金額が大きくなりますので、十分に説明を受け、わからないことは事前によく聞いて、納得してから治療を受けることが大切です。
1968年 東京歯科大学 卒業
1968年 飯田歯科医院 開院
1971年 University of Southern California School of Dentistry(歯内療法学) 留学
1973年 University of Southern California School of Dentistry(補綴学・歯周病学) 留学
1983年~2009年 東京歯科大学 講師
現在に至る
執筆者:
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