深い虫歯を放置していると、歯の根元付近に膿が溜まることがあります。これは、虫歯菌が歯の根元に炎症を起こし、「根尖病変(こんせんびょうへん)」を形成したことが原因です。早く治療しないと、やがて歯を失う原因になるかもしれません。
基本的に、根尖病変が起きている場合は「根管治療」をおこないます。世間一般で「根の治療」とか「神経の治療」などと呼ばれている処置です。こちらの記事では「歯茎に膿が溜まっている場合の根管治療」について解説することにしましょう。
この記事の目次
1.どうして、歯茎に膿が溜まるのか?
歯茎に膿が溜まる原因は、多くの場合、虫歯です。それも重度の虫歯になり、歯の内部が虫歯菌に侵されているときに膿が溜まります。まずは、虫歯が進行し、歯茎に膿が溜まるまでのメカニズムを解説することにしましょう。
1-1 重度の虫歯では、歯の内部が汚染される…!
初期の虫歯なら、歯茎が腫れるようなことはありません。それどころか、放っておいてもズキズキ痛むほどの虫歯になっても、すぐに歯茎が腫れるわけではないのです。神経が生きているうちは、歯の内部が汚染されることはありません。
しかし、重度の虫歯を放置していると、やがて神経は死んでしまいます。この時点で事実上、歯は死んでいます。死んでしまった歯を「失活歯」と呼びます。死んだ神経は腐り、たいていは液状化してなくなります。すると、神経が入っていた空間(歯髄腔)は単なる空洞になります。失活歯は虫歯菌に抵抗できませんから、空洞内にはどんどん虫歯菌が入りこみます。歯の内部が汚染されていくわけです。
1-2 神経を抜いているなら、治療済みの歯も要注意!
注意が必要なのは、「重度の虫歯」だけではありません。過去に治療を受けた歯も、虫歯菌に汚染されやすい歯といえます。特に危険なのは、「神経を抜いて根管治療をおこなった歯」です。治療の過程で神経を除去したとしても、失活歯であることに変わりはありません。
虫歯が再発することを「2次カリエス」といいます。詰め物・かぶせ物の裏側で再発すると、早期発見は困難です。神経がなくなっている歯は、痛みを感じません。見えない場所で虫歯が再発した場合、患者さんが自分で気づくのは困難を極めます。結果、気づかないうちに虫歯が進行し、歯の内部が虫歯菌の巣窟になってしまうわけです。
1-3 歯の内部が汚染されると、どうなる…?
神経の入っていた空間(歯髄腔)からは、根管と呼ばれる細い管が伸びています。根管は「神経・血管の通り道」であり、歯の根元(歯根)方面に続いています。歯の内部に侵入した虫歯菌は、根管を汚染し、どんどん歯根方向に押し寄せていきます。そして、最終的に歯の根元に感染し、そこで炎症を起こすわけです。
炎症を起こした歯茎は赤く腫れ、悪化すると膿が溜まるようになります。炎症部位の周辺では「歯を支える骨(歯槽骨)」が溶けるので、レントゲンでは歯の根元が黒く映ります。その部分だけ骨がないからです。この状態を「根尖病変」と呼びます。
膿が溜まると、内側から圧迫する力が働き、強い痛みを覚えることがあります。また、歯茎に膿の出口が形成され、「白い腫れ物」になる場合もあるでしょう。膿が出てくる白い腫れ物を「サイナストラクト」と呼んでいます。
2.膿を伴う根尖病変には、感染根管治療!
根尖病変が生じて歯茎に膿が溜まっている…。そういう場合は、一刻も早く歯科治療を受ける必要があります。根尖病変が拡大すると、歯を保存できず抜歯に至ることもあるからです。歯を失わないためにも、早急な歯科医院の受診が不可欠といえます。
2-1 虫歯の治療をすれば、歯茎の膿も止まる!
歯茎が腫れて膿が溜まる原因は、虫歯による根尖病変です。歯茎に問題があるわけではありません。そのため、治療が必要なのは、歯茎ではなく歯になります。
「なぜ、歯を治療すると、歯茎の症状が止まるの?」と不思議に感じる人もいるかもしれません。それは、「どうして、炎症がいつまで経っても治らないのか」を考えると理解できます。普通、炎症による腫れは、時間経過で解消します。免疫が働き、細菌を倒すからです。しかし、根尖病変による腫れは、待てど暮らせど収まりません。
別に、口腔内の炎症に対して、免疫が働いていないわけではありません。根尖病変を起こしている細菌に対しても、きちんと免疫は働いています。しかし、汚染された歯の内部から、どんどん細菌がやってくるので、いつまで経っても戦いは終わりません。細菌をいくら倒しても、次から次に援軍がやってきて、キリがないからです。
だからこそ、「歯の治療をして、これ以上の細菌が来ないようにする」という考え方が必要になります。敵の基地を叩いて、援軍を送らせない…ということです。そうすれば、免疫機構が「今、炎症を起こしている細菌」を倒して、戦いは終わります。
2-2 感染根管治療で、歯の内部を無菌化!
内部が汚染された歯の治療に際しては、「歯の内部を無菌化する治療」をおこないます。ファイル(針の先端がヤスリのようになった治療器具)を差しこみ、根管内を清掃するのです。
ファイルによる処置には、2つの目的があります。1つは、虫歯菌に感染した「汚染象牙質」を取り除くことです。歯の内部を無菌化するには、虫歯菌の棲み処になった箇所を除去しなければなりません。もう1つは、根管を統合・拡大することです。歯内には、細く曲がりくねった根管がたくさん通っています。そのままでは処置ができないので、根管を削って「太くて真っ直ぐな1本の管」にまとめるのです。
「汚染歯質の除去」と「根管拡大」が終わったら、薬剤で根管を洗浄します。根管内を無菌状態にするためです。何度か洗浄を繰り返して無菌化できたら、再感染を防ぐための薬剤を詰めこんでいきます。この作業を「根管充填」と呼びます。隙間なく薬剤を詰めることで、再び根管内が感染するのを防ぐわけです。
ここまでに解説した一連の処置を指して、「感染根管治療」と呼んでいます。感染根管治療が功を奏せば、根尖病変も消えて膿は出なくなります。
3.根管治療でも膿を解消できない場合がある…!?
ただ、「根管治療をすれば、必ずしも膿が出なくなる」というわけではありません。虫歯が進行しすぎていたり、根尖病変が拡大していたりすると、根管治療で歯内を無菌化するのは困難になります。この章では、根管治療で事態を解消できない場合の治療方法を解説することにしましょう。
3-1 根尖病変・虫歯が歯周ポケットにつながっている
根管治療が意味をなすのは、「病変が歯・歯茎・歯槽骨にとどまっている場合」だけです。根尖病変・虫歯が歯周ポケットにつながっていると、治療する方法はありません。歯周ポケットというのは「歯と歯茎の隙間」のことで、歯周病菌などの棲み処になる場所です。
感染根管治療の目的は「歯の根元に細菌が入ってこないようにすること」でした。根尖病変・虫歯が歯周ポケットにつながっている場合、歯の内部を無菌化しても、細菌の流入を止めることができません。細菌が歯周ポケットから侵入するからです。
現状、「歯周ポケットの無菌状態を維持する方法」はありませんし、「歯周ポケットと根尖病巣・虫歯を遮断する方法」もありません。病変が歯周ポケットと直結している症例では、残念ながら抜歯になります。
3-2 根管治療の効果が十分に見込めない場合
根管が複雑に歪曲している場合などは、上部からファイルを入れる根管治療だけで歯内を無菌化するのは困難です。ファイルが届かない箇所が多く、汚染歯質を十分に取り除けないからです。
また、治療済みの歯に根尖病変が生じた場合、歯の状態も重要です。歯に穴・ひび割れがあるなど損傷が著しいケースでは、基本的な感染根管治療が困難になります。かぶせ物の土台を削る衝撃に耐えられず、歯が割れてしまう恐れがあるからです。
基本的な根管治療で無菌化できない場合、「歯根端切除術」の適応になります。歯茎を切開して歯根を露出させ、歯根の先端3mmほどを切除する術式です。歯根の切断面から薬剤を詰める「逆根管充填」をおこなうことで、歯内の無菌化を図ります。
3-3 根管治療・歯根端切除術ともに困難な場合
根管が複雑に曲がりくねっているのに加え、歯根端切除術も困難…という症例が存在します。大臼歯をはじめ、歯槽骨が歯根をしっかり覆っている歯は、骨を開削して歯根を露出させるのが困難です。
また、上顎臼歯は「歯根が副鼻腔(鼻の脇にある空洞)に達している例」があります。副鼻腔を露出させるわけにもいきませんから、歯根端切除術の適応は不可能です。
こういった症例では、「意図的再植」と呼ばれる術式を適応します。一言で説明するなら「いったん抜歯して、根元側から歯を治療し、再び元の場所に戻す治療」です。意図的に同じ場所への移植をおこなうことから、意図的再植と呼ばれます。埋めこんだ歯が必ずしも定着する保証はないので、最後の手段となります。ただ、現在の技術では90%以上の成功率であり、決して分の悪い賭けではありません。
歯牙移植に似ているので自由診療だと思っている人もいますが、意図的再植に関しては、条件を満たせば保険診療になります。条件は「根尖病変のある小臼歯・大臼歯であり、歯内療法(根管治療)が困難、なおかつ解剖学的な理由から歯根端切除術もできない場合」となっています。(ちなみに歯牙移植も条件を満たせば保険診療)
かつては大臼歯だけが保険適応でしたが、2016年の診療報酬改定により小臼歯にも保険適用が認められました。ちなみに、保険診療における治療費は「歯根端切除術」として請求されます。(要するに、費用は歯根端切除術と同じ)
4.まとめ
歯茎が膿を持っている原因は「歯の内部が汚染されていること」です。そのため、虫歯を治療することが、健全な歯茎を取り戻すことにつながります。早めに根管治療を受けて、歯を残せるように心がけましょう。
神経を抜いた歯の場合、虫歯の再発に気づくことが困難です。気づいたときには手遅れ…という恐れもありますから、失活歯があるなら定期健診を受けるようにしましょう。レントゲン撮影をすれば、虫歯の再発をすぐに見つけることができます。早め早めに対処すれば、そうそう歯を失うことはありません。
根管治療は基本となる大切な治療です。十分な経験と学識が必要ですので、担当医の先生と十分お話しして行うとよいでしょう。
執筆者:
歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。