関連痛とは?原因がないのに歯が痛む、不思議な症状を解説

関連痛とは?原因がないのに歯が痛む、不思議な症状を解説

上の歯が痛いと思っていたのに、歯医者さんに行ったら「下の歯が虫歯」と言われた…。そのような経験はありませんか? 人間の痛覚はアバウトなので、実際に炎症が起きている場所が痛むとは限りません。このような「別の場所が痛む現象」を指して、「関連痛」と呼んでいます。

関連痛のほかにも、「実際には痛くないはずの場所が痛む」という現象は存在しています。こちらの記事では、関連痛をはじめとする「不思議な痛み」を解説することにしました。「歯の健康」はもちろんのこと、「人体の不思議」を知る一助としてお役立てください。

この記事の目次

1.関連痛とは何か?

関連痛の定義は「問題が起きているのとは別の場所が痛むこと」です。関連痛が発生する原因としては、「収束投射説(しゅうそくとうしゃせつ)」が有力です。

たとえば、「皮膚表面」と「内臓」の二か所を想定してください。それぞれに痛みを伝える神経が通っています。「痛みを伝える神経」のことを、正式名称で「侵害受容ニューロン」といいます。「皮膚表面」と「内臓」の侵害受容ニューロンが、脊髄で同じニューロンに繋がっている…としたら、どうでしょう?

痛みの情報が大脳に伝わるとき、「皮膚表面」と「内臓」の痛みが同じになるかもしれません。つまり、本当は内臓が悪いのに、「皮膚が痛い」と感じることがあり得ます。これが、収束投射説による関連痛の説明です。

1-1 よく知られる関連痛は、「アイスクリーム頭痛」

よく知られている関連痛に「アイスクリーム頭痛」があります。アイスクリーム・かき氷などを食べたとき、頭がキーンと痛くなることがあります。きっと、誰でも一度は経験があることでしょう。

冷たいものが喉を通ると「三叉神経(さんさしんけい)」が刺激されますが、脳が三叉神経の刺激を「頭の痛み」と誤認することで頭痛が起こります。結果、頭には問題がないのに、一時的な頭痛を覚えるわけです。

1-2 虫歯の痛みも、関連痛を起こしやすい!

歯の痛みは、もともと関連痛を起こしやすい痛みとして知られています。実際、冒頭でも示したように「上の歯が痛いと思っていたのに、虫歯になっているのは下の歯だった」という例はわりと頻繁に見られます。

これは、「上顎神経」と「下顎神経」が耳のあたりで1つに繋がるからです。上顎神経、下顎神経に「眼神経」を加えた3つの神経は、元をたどると三叉神経という神経になります。三叉神経が枝分かれして、上顎神経・下顎神経・眼神経になっているわけです。そのため、「上顎神経の痛覚」と「下顎神経の痛覚」を混同することがあるのです。

そのほか、「1本の歯が痛いのに、周囲全部に痛みを感じる」という例も散見されます。上の奥歯1本が虫歯になっているだけなのに、「周りの歯」「頬全体」「目の周囲」などが痛むこともあります。これも関連痛によるものです。このように、「関連痛が周囲に波及し、実際より広い範囲が痛んでいる状態」を「放散痛(ほうさんつう)」と呼びます。歯痛は放散痛を起こしやすいので、この事実を指して「歯の痛みは放散性が強い」と表現します。

1-2 肩・首・顔の筋肉が原因!「筋・筋膜性歯痛」

歯に痛みを感じる関連痛には、「筋・筋膜性歯痛」と呼ばれる症状も存在します。「歯を強く噛みしめる癖(クレンチング)」「過度のストレス」「口呼吸」などが重なり、肩・首・顔の筋肉が緊張することが原因です。

痛みの原因は筋肉がこわばっていることですが、関連痛として「歯が痛い」と感じることがあります。これが筋・筋膜性歯痛です。多くの場合、「ここを押すと痛む」という部位があり、その部位を「トリガーポイント」または「圧痛点(あっつうてん)」と呼んでいます。

急性の筋・筋膜性歯痛には、「中枢性筋弛緩薬」「抗炎症薬」「トリガーポイント注射による神経ブロック」などがおこなわれます。慢性化している場合、温熱・電気刺激・マッサージなどの理学療法が用いられることも多いです。筋・筋膜性歯痛のように、「歯に原因がないのに歯が痛む状態」のことを「非歯原性歯痛(ひしげんせいしつう)」と総称します。

1-3 ほかにもある!口腔内の関連痛

口腔内の関連痛は、上述した2つの例だけではありません。ほかにも多くのバリエーションが存在します。「歯の痛み」と誤認しやすいものには、たとえば、以下のような痛みがあげられます。

・三叉神経痛
・群発頭痛
・偏頭痛
・帯状疱疹
・上顎洞炎(副鼻腔炎の一種)
・心筋梗塞
・狭心症

中には、生命にかかわる病気も含まれていますから、「歯に異常が見られないのに歯痛がある」という状況が長期間にわたって続く場合は、念のために医療機関を受診したほうが良いでしょう。

2.関連痛以外にもある!虫歯がないのに歯が痛む症状

「虫歯ではないのに歯が痛い」という症状をきたすのは、関連痛だけではありません。ほかにも、「本当は痛くないはずの歯が痛む」という例は存在しています。

2-1 非定型歯痛

「器質的原因が存在しないのに歯が痛む状態」を「非定型歯痛」といいます。器質的原因とは「組織の炎症・損傷など、物理的に理解できる要因」のことです。歯科治療をきっかけに痛み出すこともあり、40代以降の女性に好発します。鎮痛薬は無意味で、三環系抗うつ薬・抗精神病薬(神経遮断薬 / メジャートランキライザー)などが一定の鎮痛作用を生みます。別名を「突発性歯痛」ともいいます。

2-2 疼痛性障害

「疼痛性障害」は「身体表現性障害」と呼ばれる心因性障害の一種です。器質的原因が見られないのに痛みが現れており、精神疾患が強く疑われる場合は、疼痛性障害である確率が高いです。抗うつ薬・抗不安薬(マイナートランキライザー)による薬物療法のほか、認知行動療法などがおこなわれます。

3.まとめ

人間の痛覚は、あまり正確性の高い感覚とはいえません。本当は痛くないはずの場所が痛んだり、器質的には何ともないのに痛んだり、わりとアバウトです。ただ、時には「心筋梗塞・狭心症の関連痛」として歯が痛むこともあります。「きっと何ともない」で済ませることなく、痛みが続くようなら医療機関を受診するようにしてください。

 

先生からのコメント

他院でここが痛いと言ったのに違う歯を治療されたと不安を覚えて当院に来院される方がいらっしゃいます。レントゲン写真や口腔内写真・視診・触診など総合で判断して関連痛ですよと説明するとご理解いただけることが多いです。関連痛は医者をも悩ませる症状で、人体の神秘ともいえることだと日々実感しています。歯が痛くて心臓?と思う人もいるかもしれませんが、手遅れになってそのまま命に直結する場合もあるため、痛みが出たら医者に診てもらう。我慢はしない。そう思っていただけるとよいなと思います。

執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。

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