口内炎は「口腔内の炎症」を意味する総称で、実際にはさまざまな種類があります。「痛みの程度」「悪化した場合のリスク」なども、それぞれ異なります。
こちらの記事では「赤い口内炎」に焦点をあてて「主な症状」「基本的な治療法」を解説することにしました。
「自然治癒を待つべきか、医療機関を受診するべきか」を判断する上での一助にお役立ていただければ幸いです。
この記事の目次
1.赤い口内炎の種類・症状
「赤い病変をともなう口内炎」には、いくつかの種類があります。中には約50%が「がん化」するリスキーな“前がん病変”も存在しますので、まずは「自分の口内炎はどの種類なのか」を特定することが大切です。
1-1 カタル性口内炎
赤い口内炎の中では、主な種類になります。口腔粘膜に赤い斑点(紅斑)が生じるのが特徴です。
斑点の境界線は不明瞭で、見た目にはぼやけた印象です。斑点の周囲が全体的に赤く腫れることも多いです。悪化すると、白っぽくただれたり、粘膜表面にひび割れができたりする場合もあります。
痛みはあまり強くありませんが、赤く腫れた一帯に「熱っぽい感覚」が生じることがあります。また「辛いもの」「酸味の強いもの」など、刺激の強い食品を口にしたとき、若干の痛みを感じる人もいます。
「熱感」「痛み」のほかに、以下のような症状を訴えるケースがあるようです。
- 《カタル性口内炎の症状》
・粘性の強い唾液が多量に分泌される
・口臭が悪化する
・味覚がにぶり、食べ物の味がわかりにくくなる
疲労・睡眠不足などによる体調悪化に、「慢性的な物理刺激」「口腔内の不衛生」などが重なると発症しやすくなります。
外見的特徴から「紅斑性口内炎」、物理的刺激で発症することから「単純性口内炎」といった別名で呼ばれることもあります。
1-2 カンジダ性口内炎
カンジダ性口内炎は、カビ(真菌)の一種であるカンジダ菌によって引き起こされる口内炎です。「カンジダ性口内炎」と呼ばれている口内炎は、白い苔状の病変を生じます。
しかし、これは「偽膜性カンジダ症」といって、カンジダ症の中の1種類にすぎません。ほかに「萎縮性カンジダ症」「肥厚性カンジダ症」があり、萎縮性カンジダ症は赤い病変をきたす口内炎です。
義歯(入れ歯)を装着している部位に発症しやすいとされる「義歯性口内炎」も、萎縮性カンジダ症の一つに含まれることがあります。
カンジダ菌が義歯の内部に入りこんで繁殖し、それが口腔粘膜に感染するわけです。義歯の洗浄に「義歯洗浄剤」を使っていない人は、萎縮性カンジダ症になるリスクが特に高くなります。
萎縮性カンジダ症の場合、義歯の床部分が接触している箇所が赤くなり、ヒリヒリとした「痛み」「熱感」を生じます。
1-3 ヘルペス性口内炎
ヘルペス性口内炎は「単純ヘルペスウイルス1型」に感染したことによるウイルス性の口内炎です。
単純ヘルペスウイルス1型は「口唇ヘルペス」「単純ヘルペス脳炎」「ヘルペス角膜炎」などを引き起こすウイルスで、口内炎の原因にもなるのです。
ヘルペス性口内炎を発症すると、口腔内・喉の奥に赤い発疹を生じます。かなりの痛みをともなうことから、食事をとるのに苦労します。
1-4 紅板症(こうばんしょう)
口腔内粘膜の一部が赤く盛りあがり、粘膜が薄くなります。
赤くなった部分の表面はつやつやしていますが、一部に潰瘍(えぐれた形状の病変)をともなうこともあります。粘膜が薄くなるときに刺激痛を感じることもあります。
紅板症は“前がん病変”といって「がんの一歩手前にあたる症状」です。紅板症の約50%はがん化すると言われています。
紅板症を生検(組織を切り取って検査すること)すると、すでに「上皮内がん(※)」と呼ばれる初期がんになっていることも多いです。口腔がんのリスクがある症状ですから、紅板症が疑われる場合は早急な医療機関の受診が必要です。
※上皮内がん(じょうひないがん)
皮膚や粘膜など、体の表面を覆っている細胞の層を「上皮」と言います。がん細胞が上皮にとどまっている状態を「上皮内がん」と呼んでいます。基本的に手術で切除可能で、転移性は低いとされていますが、悪化するとがんになることがあります。
2.赤い口内炎の治療方法
それでは、これまでに紹介した4種類の口内炎について、基本的な治療法を確認します。
2-1 カタル性口内炎の治療法
カタル性口内炎は、基本的に1週間~10日もあれば自然治癒することが多いので、自宅で経過観察するのがベーシックです。口腔内が不衛生だと長引くので、衛生管理には留意しましょう。
患部を刺激しないように「ぬるま湯」でうがいするなどして、口腔内の衛生状態を保ちましょう。あるいは、低刺激のうがい薬を使用するのもおすすめです。ただし、アルコールの入った洗口液は刺激が強すぎるので避けましょう。
そのほか、抗生物質の入った軟膏を塗布するのも有用です。雑菌の繁殖を抑えることで、炎症の悪化を防ぐことが期待できます。
※市販薬を使用する際には薬剤師の指示に従い、用法用量を守って使用してください。
2-2 カンジダ性口内炎の治療法
真菌(カビ)の感染症なので、抗真菌薬による治療をおこないます。
ステロイド・抗生物質はカンジダ性口内炎の誘発・悪化要因になるので注意が必要です。ステロイドは免疫反応を抑えてしまいますし、抗生物質は細菌には効いても真菌であるカンジダ菌には効きません。
そのため、抗生物質の使用は結果的にカンジダ菌のさらなる増殖をサポートしてしまいます。
2-3 ヘルペス性口内炎の治療法
ヘルペス性口内炎は「単純ヘルペスウイルス1型」が原因ですから、抗ウイルス薬による治療を試みます。
「アシクロビル」「ビダラビン」などの抗ウイルス薬を用いることで、ヘルペスウイルスの増殖を抑えることが可能です。
ヘルペス性口内炎の痛みを抑える際、鎮痛薬としては主に「アセトアミノフェン」を用います。「ロキソプロフェン」「ジクロフェナクナトリウム」など消炎作用の強い鎮痛薬は症状を悪化させるリスクがあるからです。
同様に、免疫を鈍らせる「ステロイド剤」も逆効果です。
2-4 紅板症の治療法
紅板症は、がん化する確率の高い“前がん病変”なので、外科的に切除するのが基本です。切除後の再発リスクもあるため、長期的な経過観察をしなければなりません。
ただし、紅板症の段階で切除し、経過観察をおこなえば、口腔がんに進展するリスクを減らせます。紅板症の段階で治療を開始できたら「早期発見できた」とプラスに受け止めるようにしましょう。
3.まとめ
口内炎は、おおよそ2週間以内には自然治癒することが多いです。ですから、全身症状がなく、局所的な炎症であれば、2週間は様子見でも良いでしょう。
ただし、「2週間が経過しても改善する様子がない」というケースでは、早期受診を推奨します。口内炎は耳鼻いんこう科や歯科(歯科口腔外科)、皮膚科などで診断・治療をしてくれます。
口内炎。痛いですね。考えるだけでも痛くなってきそうです。特に、この記事で触れているヘルペス性口内炎は、一度よくなってもウイルスはその後も体の中に潜伏しますので、体調が悪かったり疲れてくると再発することが多いです。体調不良時に頻発する場合はウイルス性かアレルギー性と考えることが多いです。
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