日本人の歯を失う原因を確認してみると、原因の第1位は「歯槽膿漏などの歯周病」です。抜歯に至る原因の37%を占めており、第2位の「虫歯(29%)」、第3位の「破折(18%)」に大差をつけています。
統計から判断すると、歯槽膿漏は歯が失われる最大のリスクファクターであるという結論が導かれます。こちらの記事では歯槽膿漏の症状を解説した上で、治療法にも言及します。
参照URL:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-04-002.html
歯槽膿漏って何?歯周病との違いとは
歯槽膿漏と歯周病は、世間ではどちらも「歯を失う恐れがある歯茎の病気」として認識されています。歯槽膿漏と歯周病はほぼ同じ意味ですが、正式な歯科用語としては「歯周病」が使われます。「歯槽膿漏」というのは昔の言葉で、かつて、歯茎が痩せ、時には膿んで、歯が抜け落ちる症状は老化現象の1つと見なされていました。
しかしながら後に、歯茎が痩せて、歯が抜け落ちる症状は細菌感染が原因であるとわかりました。歯茎の腫れ、歯磨きのときの出血、歯の脱落といった諸症状は、細菌が引き起こす一連の感染症だと結論づけられたのです。結果、歯周病菌が引き起こす症状全体を「歯周病」という1つの用語で呼ぶようになりました。
以上から、昔、歯が抜け落ちるほどの重度歯周病を「歯槽膿漏」と呼んでいたというのが結論です。
歯槽膿漏の症状
ここでは、歯周病が悪化し、歯槽膿漏に至るまでの症状を解説します。歯槽膿漏に至った段階での症状はもちろんのこと、明らかな歯槽膿漏に至るまでに、どのような症状が出るのかも知っておくべきです。そうすれば、歯が脱落するほど重症化する前に、手を打てる可能性があります。
軽度歯周病の症状
歯周ポケットの深さ
4mm前後
軽度歯周病の特徴
この段階では、ほとんど自覚症状がありません。
軽度歯周病の症状
・歯茎の赤味がやや強くなる
・歯茎にわずかな腫れが見られる
・歯磨きのときに出血することがある
軽度の段階での症状はごくわずかで、「赤くなったような気がする」「腫れているような気がする」というレベルなので、患者さんが自分で気づくのは不可能でしょう。
中等度歯周病の症状
歯周ポケットの深さ
6mm前後
中等度歯周病の特徴
歯周ポケットの奥で炎症が発生し、歯を支える骨―歯槽骨が溶けはじめています。慢性的に炎症を起こしていると、その部分にある骨は溶けてなくなります。体内にある破骨細胞という細胞が、骨を吸収してしまうからです。
中等度歯周病の症状
・歯茎が痩せて下がってくる
・歯茎が赤黒く腫れてくる
・歯磨きのとき、出血量が増加する
中等度の歯周病になると、歯茎が明らかに赤黒くなってきます。歯磨きの出血量も増え、毎回のように出血するので、本人も気づくことが可能でしょう。ただ、痛みはないので「大丈夫だろう」と放っておく人が多いのも事実です。
歯槽膿漏(重度歯周病)の症状
歯周ポケットの深さ
7mm以上
歯槽膿漏の特徴
歯槽骨が半分~2/3ほど溶けており、もはや歯を支えることが困難になっています。歯槽膿漏は、歯を失う一歩手前です。早急に適切な治療をおこなわないと、歯を失うことになります。
歯槽膿漏の症状
・歯茎がぶよぶよになる
・歯がグラグラする
・口臭が強くなり、膿が出ることもある
歯がグラグラする、膿が出るなど、目に見えて症状がひどくなっていますが、この段階に至っても、日常的に痛みが出ることはありません。痛みがないため「放っておこうと思えば放っておける」という部分が、歯周病の怖さです。
歯槽膿漏の治療法
歯周病・歯槽膿漏になってしまったら、どのような治療をおこなうのでしょうか?ここでは、進行度別にどのような治療を実施しているのかを解説いたします。
軽度・中等度歯周病の治療
軽度・中等度ならば、それほど大がかりな治療にはなりません。歯周病菌は歯周ポケット内の歯石に棲みついているので、歯周ポケットの歯石を除去すれば歯周病菌を減らすことができます。
スケーリング
軽度の歯周病には、主にスケーリングをおこないます。「スケーラー」と呼ばれる鉤針のような器具で、歯周ポケット内の歯石を掻きとります。スケーリングであれば、麻酔は必要ありません。
ルートプレーニング
中等度の歯周病には、ルートプレーニングがおこなわれます。「キュレット」と呼ばれる細く鋭利な器具で、歯周ポケットの奥深くにある歯石を除去する治療です。深いところまで器具を入れるので、局所麻酔をするのが普通です。
歯周ポケット掻爬術
歯周ポケット内の歯石・感染組織が大量にある場合、歯周ポケット掻爬術が選択されることがあります。局所麻酔をして、スケーラー・キュレットを差しこみ、感染組織を掻きだしていきます。麻酔をしているので、感染した歯茎・セメント質(歯根の表面)・歯石をまとめて掻きとることが可能です。処置後、きれいになった歯根と歯茎が再び癒着し、健康な状態に戻ることを期待します。
歯槽膿漏(重度歯周病)の治療
重度の歯周病に対しては、歯周外科治療が第一選択になります。歯周ポケットの深い位置にまで感染組織が広がっているので、外側から器具を差しこむだけでは十分な治療をすることができません。
歯肉剥離掻爬手術(フラップ手術)
歯茎を切開して剥がし、歯根を露出させます。その後、露出した歯根を目視したまま、歯石・感染した歯茎・汚染セメント質を除去するのです。歯根をきれいに清掃したら、剥がした歯茎を元通りにくっつけて縫合します。
まとめ
歯槽膿漏は、要するに重度歯周病ということをご紹介してきました。歯槽膿漏は、歯を失う一歩手前です。そのまま放置すると歯を失いますから、早急に適切な治療を受けなくてはなりません。歯槽膿漏に対しては、歯肉剥離掻爬手術などの歯周外科手術をおこなうのが普通です。できることなら、日ごろから定期健診を受けて、軽度のうちに歯周病治療を受けるようにしましょう。
1980年 岐阜歯科大学 卒業
1980年 (医)友歯会ユー歯科 箱根、横浜、青山、身延の診療所に勤務
1984年~1994年 アクアデルレイ ダイビングショップ 非常勤スタッフ
1985年 コージ歯科 開業
1996年 日本大学松戸歯学部生化学教室研究生
~2002年 歯学博士
2014年 昭和大学 客員講師
現在に至る
電話:03-3601-7051

執筆者:
歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。