妊婦さんでも歯医者に通える?妊娠中の歯科治療を徹底解説

妊婦さんでも歯医者に通える?妊娠中の歯科治療を徹底解説

妊婦さんは、あらゆる場面で「胎児への影響」を考えて行動しなければいけません。自己判断で市販薬を服用するわけにもいきませんし、医療機関を受診した場合も、受けられる治療は限られています。現実、医師もあまり薬を処方したがりません。常に「万が一」を考えるからです。

しかし、もし、妊娠中に虫歯・歯周病が悪化した場合、どうすれば良いのでしょうか? 虫歯がズキズキと痛んでいるのに、出産まで耐える…というのは並大抵のことではありません。何とか、歯医者さんで治療を受けることはできないものでしょうか? こちらの記事では「妊婦さんの歯科治療」に関する基礎知識をお届けしています。

この記事の目次

1.妊婦さんでも歯医者で歯科治療を受けられる!

結論から言うならば、妊婦さんでも歯科治療を受けることは可能です。ただ、普通と同じようにどんな治療でも受けられる…というわけではありません。まずは、「どのような条件において、どのような治療を受けられるのか」を確認してみましょう。

1-1 基本的に歯科治療に適しているのは妊娠中期!

歯科治療をするのに適した時期は、安定期に入って以降の「妊娠中期」です。具体的には妊娠5か月~7か月にあたる期間です。この期間であれば、歯科治療(虫歯・歯周病の治療)に関して、それほど大きな制約はありません。

ちなみに、「妊娠中期が歯科治療に適している」というのは、字義どおりの意味です。「妊娠中期にしか治療がおこなえない」というわけではありません。妊娠初期・妊娠後期でも、十分な配慮のもとに歯科治療をすることは可能です。ただ、より低リスクに、より快適に歯科治療を受ける…という部分に焦点を合わせるなら妊娠中期が良いでしょう。

当然ながら、よほどの症状に悩まされていない限り、「妊娠初期の口腔トラブルは応急処置にとどめて、安定期に入るのを待つ」とか「妊娠後期の虫歯は応急処置にとどめて、出産を終えてから本格的に治療する」といった選択をするほうが合理的です。

ただ、耐えがたいほどの痛みに襲われているなら、妊娠初期・後期でも歯科治療をおこなったほうが良い場合もあります。最終的には歯医者さんで判断を仰ぎ、「リスクと有益性のうち、どちらが上回るか」という視点で考えることになるでしょう。

1-2 なぜ、妊娠初期・後期にはリスクがあるの?

それでは、妊娠初期・後期の歯科治療にどのようなリスクがあるのかを確認してみましょう。当然ながら、初期と後期ではリスクの方向性・要因とも異なります。

妊娠初期(~4か月)

妊娠初期は、胎児の身体が構成される時期です。薬剤・レントゲンの影響を懸念する考え方が根強く、あまり率先して医療行為をおこなえない期間になります。

ただ、どうしても治療が必要な場合には、歯科医師の判断に従って治療を受けてください。歯科用のレントゲンはX線量も低いですし、そもそも腹部に照射するわけではありません。万が一を懸念して「なるべくレントゲン撮影を避ける」という方針が主流になっていますが、実際のところ、医師・歯科医師の誰もが「ほとんど影響はない」と考えています。

一方、薬剤の影響については注意深く考えなくてはなりません。妊娠14週目までは、薬剤の催奇性を受けやすく、慎重な投与が望まれます。身体の器官がつくられる「器官形成期」にあたるからです。ただし、妊娠4週目までのごく初期において、薬剤の影響は「流産あるいは無影響(All or None)」となり、催奇性の問題ではなくなります。時期ごとに、起こり得る影響が異なる…という事実を知っておきましょう。

しかしながら、薬剤の投与が常にNGというわけではありません。「母体の病気を治療しないことにより、胎児に悪影響が及ぶ恐れ」も無視できないからです。たとえば、妊婦さんが3日以上にわたって40℃前後の高熱を出すと、胎児に危険が及びます。この状況で薬剤による解熱を試みるのは、むしろ合理的な選択でしょう。どう考えても、「治療の利益」が「薬剤投与のリスク」を上回るからです。このように、すべてはリスク&リターンのバランスによって判断されるべきだといえます。

そのほか、悪阻(つわり)により、口腔内に治療器具を入れるのが困難になる…などの問題も考えなくてはいけません。妊娠初期の歯科治療は、いろいろとハードルが高いのも事実でしょう。

妊娠後期(8か月~)

妊娠後期は、「胎児への影響」というより「母体の負担」を考える必要があります。お腹が大きくなっていて、診療ユニットの上に寝るだけでも身体的負担がかかる状態です。

歯科治療を受けるときは、診療ユニットの上で仰向けになるのが普通です。この姿勢は、妊娠後期の妊婦さんにとって負担の大きい姿勢になります。腹部の血管が圧迫されてしまい、長時間、仰向けの体勢を続けることはできません。

妊娠後期の妊婦さんが仰向けの体勢を続けると、「仰臥位性低血圧症候群(ぎょうがいせいていけつあつしょうこうぐん / SHS)」を起こすことがあるのです。具体的には、妊娠子宮が脊柱(せきちゅう)右側の大静脈を圧迫して、心臓に戻る静脈血の量が減ります。結果、心拍によって送り出す血液量も不足し、低血圧を招くのです。

ちなみに、仰臥位性低血圧症候群が疑われる場合、右心房に戻る静脈血量を元に戻す必要があります。速やかに、妊婦さんを「仰向け(仰臥位)」から「左下の横向き(左側臥位)」にして、右心系の血流を促さなければなりません。

母体への負担を考えると、なるべく「妊娠中期に治療しておく」または「出産後までは応急処置にとどめる」といった方策が望ましいでしょう。しかし、妊娠初期と同様、最終的にはリスクとリターンの問題です。「治療の利益」がリスクを上回るようであれば、歯科医師の判断に従って歯科治療を受けてください。

2.妊婦さんの歯科治療において注意したいことは?

妊婦さんの歯科治療をする上で、特に注意が必要なのは「薬剤の投与」です。そこで、この章では、妊婦さんへの薬剤処方について確認することにしましょう。「妊娠中に投与するべきではない薬剤」と「必要に応じて投与できる薬剤」について、知っておくことは有益だと思います。処方するのは歯医者さんですが、「自分の身体、自分の状況を自分の頭で理解すること」はとても重要です。

2-1 妊娠中に投与できない薬剤とは?

当然ながら、「胎児への催奇性が指摘されている薬剤」「胎児毒性の認められている薬剤」を使用するわけにはいきません。歯医者さんで処方されることの多い鎮痛剤(鎮痛消炎剤)、抗菌剤(抗生物質)に関して、確認してみましょう。

妊婦さんに投与できない鎮痛剤

基本的に「酸性非ステロイド性消炎鎮痛薬」に分類される鎮痛剤は避けられます。たとえば、以下のような鎮痛剤が「酸性非ステロイド性消炎鎮痛薬」に該当します。胎児の動脈を収縮させて、チアノーゼを起こさせるリスクなどが指摘されています。

◆サリチル酸系
アセチルサリチル酸(商品名:アスピリン)など

◆プロピオン酸系
ロキソプロフェン(商品名:ロキソニン)、イブプロフェン(商品名:イブ)など

◆酢酸系
インドメタシン、ジクロフェナクなど

妊婦さんに対して鎮痛剤を投与する場合、アセトアミノフェンの単独処方が好まれます。消炎作用がなく、鎮痛作用だけの薬剤です。アセトアミノフェン単独の鎮痛薬があるので成分を確認してみるとよいでしょう。

ちなみに、主な有効成分がアセトアミノフェンでも、「ACE処方」と呼ばれる市販薬を服用してはいけません。ACEは「A:アセトアミノフェン」「C:カフェイン」「E:エテンザミド」を配合した消炎鎮痛剤であり、エテンザミドが「酸性非ステロイド性消炎鎮痛薬」に該当します。ACE処方の鎮痛薬としては「商品名:セデス」などが知られています。

妊婦さんに投与できない抗菌剤

一部の抗菌剤は、催奇性・胎児障害が指摘されているため、妊婦さんへの投与が避けられています。以下のような抗菌剤が、リスクの高い薬剤とされています。

◆テトラサイクリン系
ミノサイクリン塩酸塩、ドキシサイクリン塩酸塩水和物など

◆ニューキノロン系
レボフロキサシン(商品名:クラビット)、シプロフロキサシン(商品名:シプロキサン)など

◆クロラムフェニコール系
クロラムフェニコール(商品名:クロロマイセチン)

◆サルファ剤
サラゾスルファピリジン(商品名:サラゾピリン etc.)

妊婦さんに抗菌剤を用いる場合には、「ペニシリン系」「セフェム系」のいずれかを最小限に処方するのが普通です。

2-2 レントゲンの影響は大丈夫…?

歯科用のレントゲンであれば、照射範囲に腹部が含まれないので問題はないと考えられています。さらに、腹部にはX線がほとんど透過しない「鉛製のエプロン」をかけるので、過度な心配はしなくて大丈夫です。

そもそも、歯科用レントゲンのX線量は低く、1年間のうちに自然界から浴びる放射線量(日本では1.4ミリシーベルト)の1%にも達しません。基本的に、歯科用レントゲンならば問題はないと考えて構わないでしょう。

2-3 歯科治療における麻酔は大丈夫…?

歯科治療に用いられる局所麻酔薬は、基本的に「2%リン酸リドカイン製剤(商品名:キシロカイン)」です。基本の局所麻酔として用いるぶんには、胎児への影響はほとんどないと考えられています。

3.まとめ

以上から、「きちんと配慮してくれる歯医者さんを選べば、妊婦さんでも必要な治療は受けられる」というのが結論になります。妊娠中、虫歯・歯周病にならないのが望ましいですが、残念ながら、妊娠中は口腔トラブルの発生率が上がる傾向にあります。

◆女性ホルモンの増加による歯周病の進行
◆つわりによるオーラルケアの困難
◆味覚変化による、酸性食品の摂取頻度増加

このような理由により、妊娠中は口腔トラブルが起こりがちです。事前に妊婦さんの治療に力を入れている歯科医院を見つけておくほうが賢明でしょう。

 

先生からのコメント

妊娠中の方が歯が痛くなってかかりつけの歯医者さんが無いということになった場合、生体モニターなどを設置してあるクリニックを探すのも良いかと思います。もし万が一何かあった時に対応できる道具と準備があるということはとても大切です。もちろん、大前提として普段から歯科検診を受けて管理をしておく必要があると思います。

執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

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