「床矯正(しょうきょうせい)」は、身体的負担・経済的負担がともに少ない歯列矯正として知られています。また、取り外し可能であることから、「利便性が高い」と認識している方も多いようです。
こちらの記事では、床矯正のメリット・デメリットをまとめ、主流となっている「ワイヤー矯正」との違いを解説することにしました。歯列矯正を検討している方のお役にたてれば幸いです。
この記事の目次
1.床矯正は、どのような歯列矯正?
床矯正は1935年、オーストリアのウィーンで基礎ができた歯列矯正法です。その後、1960年代のヨーロッパでは床矯正が主流となっています。ヨーロッパの矯正歯科は、ワイヤー矯正が主流のアメリカとは対照的な道を歩んできたわけです。日本はアメリカの歯列矯正を手本としてきたため、床矯正の普及率はそれほど高くありません。
プラスチック製の本体にネジ・ワイヤーなどが付属していて、歯を動かす機構になっています。矯正器具の形状が「床に義歯を立ててつくる総入れ歯」に似ていることから、床矯正と呼ばれるようになりました。
1-1 床矯正は、どんな矯正に向いている?
床矯正の器具で、自由自在に歯の位置を動かせるわけではありません。床矯正の強みは、主に次の2点です。
・歯列の横幅を広げて、歯がきれいに並ぶスペースをつくりだすこと
・歯を内側から押して、デコボコにならないようきれいに並べること
つまり、「歯と歯の間に隙間をつくる」「内側の引っ込んだ位置にある歯を外側に向ける」という2つの方向で歯列を矯正する装置ということになります。歯が生えるスペースが不足しているケースで、「歯がきれいに並ぶスペースを作る装置」と言い換えるとわかりやすいかもしれません。
1-2 床矯正装置には「できないこと」もたくさんある!
一方で、床矯正の器具では「できないこと」もあります。床矯正が不得意としているのは、主に以下の3点になります。
・歯の位置を根元から大きく動かすこと
・1本1本の位置を細かく決めて、矯正すること
・重度の不正歯列を矯正すること
まず、床矯正装置は「歯の根元はほとんど動かさず、傾きを変える」という性質があります。歯を根元から自在に動かすような力はありません。
また、同じ位置に生えている歯を1ブロック単位で大ざっぱに動かす装置なので、1本1本の位置を決めて細かく矯正することも不可能です。あくまでも「歯が生えるスペースを確保して、だいたい正しい形状に並べる」といった装置になります。
こうした特徴から、床矯正は「軽度の不正歯列を矯正する装置」と考えたほうがよいでしょう。大きく歯列が崩れている場合、床矯正装置の力では矯正しきれません。
2.床矯正はどれくらいの年代でおこなうの?
床矯正の適用になるのは、多くが4~12歳のお子さんです。特に「乳歯が生えそろってきた時期」と「永久歯に生え変わってから成長期が終わるまで」の2期間が、床矯正に適した時期と考えられています。顎が成長する時期のほうが、「歯と歯の隙間を拡大してスペースをつくる」という目的を果たしやすいからです。
ただ、中には成人を対象とした床矯正をおこなう歯医者さんもあるので、一概には言えません。歯科医師と相談しながら、「床矯正で目的を達せられるかどうか」を判断していくことになります。
3.床矯正のメリット&デメリット
さて、床矯正は「軽度の不正歯列なら容易に矯正できる」わけですが、もう少し細かく、メリットとデメリットをまとめることにしましょう。歯列矯正をする際、床矯正とワイヤー矯正のどちらが自分に適しているのか…、予測を立てる際の基礎知識としてお役立てください。
3-1 床矯正のメリットは管理しやすいこと
まずは、床矯正の優れた点・便利な点をまとめることにしましょう。床矯正が「はじめやすく、管理しやすい」といわれている理由を列挙してみます。
・取り外し可能なので、歯磨きがしやすい
・取り外し可能なので、食事のときに不便を感じない
・矯正期間中の痛みが少ない
・ワイヤー矯正と比較して、多くの場合は費用が安い
ワイヤー矯正は「ワイヤーの下をブラッシングできない」など明確に歯磨きが困難になりますが、床矯正にはそういった問題がありません。装置ごと取り外し可能なので、「矯正装置があると邪魔なときは外してしまえばすべて解決」という易しさあります。
ただ、「痛みが少ない」という部分は単純にメリットとばかりもいえません。痛みが少ないことは、矯正力が低い事実と表裏一体だからです。歯を動かす力が小さいぶん、痛みが少ないわけです。
費用の少なさに関しては大きなメリットといえるでしょう。ワイヤー矯正はトータルで70~100万円ほどかかる例が多くなります。それに比べて、床矯正は30万円前後でおさまることが多いようです。軽度の歯列矯正であれば、床矯正で費用を抑えたほうが賢いかもしれません。
3-2 床矯正のデメリットは違和感が強いこと
しかし、床矯正には「容易さゆえの問題点」も少なからず存在します。また、総入れ歯のような大きな装置を使うことから、一定の不便さがあるのも事実です。床矯正の不便なポイントについても確認してみましょう。
・取り外しできるので、外しっぱなしにする子供も…
・発音が難しくなり、会話しにくい…
・口腔内全体に触れる大きさなので、違和感が強い…
取り外しできることはメリットであると同時に、デメリットにもなり得ます。床矯正の対象になるのは多くがお子さんなので、自分で外してしまうことも多いのです。1日に最低8時間、できれば12時間以上にわたって装着しなければならないので、「面倒になってすぐ外してしまう」というのは何としても避けるべき状況です。
また、総入れ歯と同じくらいの大きさがあるので、違和感は大きくなります。舌の動きが制約されることから、発音に困難を感じるケースもあるようです。たいていは1~2週間で慣れますが、慣れるかどうかにも個人差があります。
4.まとめ
床矯正ははじめやすい反面、「ワイヤー矯正と比べて矯正力が弱い」という特徴があります。噛み合わせを大きく整えるわけではないので、すべての人のニーズを満たせるわけではありません。
歯1本1本を細かく動かしたいのであれば、ワイヤー矯正のほうが向いています。歯科矯正に際しては、自身のニーズを踏まえて、「どのような矯正方法が適しているか」を歯科医師と相談するようにしましょう。
床矯正自体、非常に簡素化された矯正システムなのですが、治療に限界があるのも確かですので担当医と十分お話し合いの上お決めくださることをお勧めします!
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