オーラルケアで虫歯・歯周病予防~歯磨きのコツはイエテボリテクニック!

虫歯・歯周病を予防するためには、オーラルケアが不可欠です。たとえば、虫歯は本当の意味で治ることがありません。歯そのものは再生せず、失った部分を金属・セラミックなどで埋めることしかできないのです。治療が必要になる前に、きちんとケアするほうが合理的だと思います。

もともと人間には親知らず4本を除いても28本の歯があります。しかし、日本人は長寿のわりに、歯が長持ちしません。残存する歯の平均本数は、「65~74歳」で19.2本、「75歳以上」で13.3本となっています。

こちらの記事では、「少しでもたくさんの歯を残すために」という観点で、オーラルケアの基礎知識をお伝えしたいと思います。ご自身はもちろん、お子さんの虫歯予防にもお役立ていただき、今のうちから歯を残す努力をはじめていただければ幸いです。

この記事の目次

1.オーラルケアの基本は毎日のブラッシング!

言うまでもありませんが、オーラルケアの基本は「歯磨き」です。ここで大切なのは「歯ブラシで磨くこと」が何より重要で、「歯磨き粉にこだわる」「洗口液で口をゆすぐ」などの行動はすべて二の次であるという事実です。

実のところ、「歯磨き粉をどれにするか」より、歯ブラシで物理的に歯を磨くことのほうが重要性は高くなります。これは、虫歯・歯周病の原因が「口腔バイオフィルム」であることに由来します。

1-1 バイオフィルムと戦え!口腔環境を守るために

バイオフィルムというのは、一言で言うなら「細菌の集合体」です。細菌本体と「細胞外高分子物質(EPS)」で構成されていて、全体としては「ヌルヌルと粘性のある付着物」です。固体・液体の表面に、膜のような形状で付着する性質があります。ちなみに、細胞外高分子物質というのは、細菌が分泌した多糖類・タンパク質などの総称です。

細胞外高分子物質は「水分・栄養分を運ぶ役割」「バイオフィルム内部の細菌を守る役割」を果たしています。内部の細菌同士は共存・共栄の関係にあり、バイオフィルムは、さながら「細菌の国家」です。細菌たちで協力して、身を守りながら暮らしている…ということです。

実際、バイオフィルムに対して、洗口液の殺菌成分などはほとんど無力です。細胞外高分子物質に守られているので、殺菌作用が及ぶのは表面にいるごく一部の細菌だけなのです。大半の細菌は生き残り、平然と増殖を続けることでしょう。「口をゆすぐだけで、虫歯を防ぐ」などというのは、しょせん夢物語です。

1-2 バイオフィルムを除去するのは、物理的な清掃!

「じゃあ、どうすればバイオフィルムを除去できるの?」という質問の答えは、「歯磨きによる物理的なブラッシング」です。バイオフィルムは洗口液の殺菌成分をシャットアウトできますが、歯ブラシによる物理的な力には抵抗できません。

歯磨きのときにバイオフィルムを除去しているのは、「歯磨き粉の成分」ではなく「ブラッシングの摩擦」です。歯磨き粉を気にするよりも、まずはブラッシングに力を入れてください。もちろん、歯ブラシの毛先が開いているようなら、すぐに新しいものに取り替えましょう。毛先を歯面にくまなく当てることが、バイオフィルム除去の基本です。

1-3 歯を磨くときには、バス法がおすすめ!

虫歯菌は歯の表面、歯周病菌は「歯周ポケット(歯と歯茎の隙間)」にバイオフィルムを形成します。歯周ポケットをきちんと磨くためには、「バス法」と呼ばれるブラッシング方法が良いでしょう。

バス法では、歯ブラシの毛先を歯周ポケットに向けて、斜め45°の角度で当てます。歯ブラシを持つ手はやわらかいペングリップにして、あまり力を入れず、小刻みに毛先を動かしてください。汚れを掻き出すイメージで、毛先を歯周ポケットに当てます。

ただ、歯ブラシだけでは「歯と歯の間」を磨ききれないので、なるべくデンタルフロスを併用するようにしてください。歯磨きのあと、フロスで歯間のバイオフィルムを落とせば、より効率的に虫歯・歯周病を予防できます。

実際、「80歳で20本の歯が残っている人」がたくさんいるスウェーデンでは、51.3%の人がデンタルフロスを使用しています。日本は19.4%ですから、その差は歴然。毎日の歯磨きにフロスによるオーラルケアを追加すれば、より虫歯・歯周病のリスクが減少するはずです。

参照URL:https://www.lion.co.jp/ja/company/press/2014/pdf/2014050.pdf

2.虫歯・歯周病予防に役立つ「オーラルケアグッズ」とは?

毎日の歯磨きが何より大切…なのは間違いありませんが、虫歯・歯周病のリスクをより減らすために、もう一歩、踏みこんだケアをしたいところです。そこで、虫歯・歯周病予防に有用なデンタルケア法を紹介することにしましょう。

2-1 フッ素(フッ化物)を活用した虫歯予防!

前述したとおり、「歯磨き粉の殺菌成分」はあまり役に立ちません。バイオフィルムを形成した虫歯菌に対して、あまり殺菌力を発揮できないからです。しかし、「歯磨き粉なんて何を使っても同じ」という結論にはなりません。歯磨き粉は、きちんと選ぶべきです。

歯磨き粉を選ぶ基準は、「歯を強くする成分―フッ素」が入っているかどうかです。フッ素はエナメル質を強化して、虫歯菌に溶かされにくい状態を作り出してくれます。正しくは、エナメル質を構成する「ハイドロキシアパタイト」を「フルオロアパタイト」に変化させて、耐酸性(酸性環境でも溶けにくい抵抗力)を強めるのです。

実際、公益財団法人 ライオン歯科衛生研究所の発表によれば、フッ素配合(フッ化ナトリウム / 濃度1,100ppm)の歯磨き粉を使用することで、歯冠虫歯が41%、歯根虫歯が67%減少したとのことです。ちなみに歯冠虫歯は「噛み合わせる面の虫歯」、歯根虫歯は「歯の根元の虫歯」を指しています。

参照URL:https://www.lion-dent-health.or.jp/basic/basic14.htm

2017年3月まで、日本国内におけるフッ素濃度上限は1,000ppmでした。しかし、今では海外と同じ1,500ppmに引き上げられており、国内でも1,450ppmのフッ素濃度を有する歯磨き粉が入手可能になっています。

スウェーデンのように5,000ppmの製品が売られてはいませんが、それでも、1,000ppmが上限だったときに比べれば、より虫歯予防が容易になったと考えて良いでしょう。

2-2 クロルヘキシジンを活用した歯周病予防!

歯周病菌に対する殺菌作用が期待される成分として、クロルヘキシジンがあります。うがい薬などに含まれる殺菌成分です。前述のとおり、口腔内の細菌はバイオフィルムに守られていますが、歯磨き後に使用すれば一定の作用は期待できるかもしれません。実際、口腔内の殺菌にクロルヘキシジンをすすめる歯科医師は多いです。

ただ、国内で販売されているクロルヘキシジン含有のうがい薬は、あまりクロルヘキシジン濃度が高くありません。そのため、どの程度の作用が期待できるか…には諸説あるのが現状です。

スウェーデンでは、複数の歯科大学が発表した「クロルヘキシジン含有のうがい薬」が市販されていますが、その製品と同レベルのクロルヘキシジン濃度は、日本では認められていません。

3.今日からはじめるオーラルケア~イエテボリテクニック!

「せっかくオーラルケアの記事を読んだのだから、今日から実践したい」という人に向けて、おすすめのケア方法をまとめることにしましょう。紹介したいのは、「イエテボリテクニック」と呼ばれる手法です。

まず、フッ素入り(できれば濃度1,450ppm)の歯磨き粉を1.5g、歯ブラシにつけます。ただし、お子さんは0.5gにとどめてください。その上で、バス法によるブラッシングを採用し、3分間、歯を磨きます。

大事なのは、最後です。あんまり口をゆすぐと、フッ素が流れてしまいます。そこで、口内の泡を吐き出さずに、そのまま10ml程度の少量の水を口に含んでください。泡を吐き出さないまま、わずかな水で軽くゆすいで終わりです。歯磨き後、2時間は飲食を避けてください。

以上が、スウェーデンにおける歯科研究の筆頭―イエテボリ大学が推奨する方法(イエテボリテクニック)です。どうしても口をゆすぎたい人は、水のかわりにフッ素洗口液でゆすぎましょう。それなら、いくらゆすいでもフッ素がなくなりません。

4.まとめ

虫歯・歯周病を予防するには、ブラッシング&フッ素がカギになります。記事内でも紹介したイエテボリテクニックを身につけて、より効率的なオーラルケアを習得してください。虫歯・歯周病は、治療するより予防するほうがずっと負担が少なく済みます。

先生からのコメント

口腔内のケアは基本3か月を超えない範囲で行っていくのが好ましいといわれております。皆さんが普段通っている歯医者さんの先生、もしくは歯科衛生士さんによく相談してみてください。

執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。