口が開かない!顎関節症・歯性感染症・神経性障害など開口障害を解説

口が開かない!顎関節症・歯性感染症・神経性障害など開口障害を解説

「口が開かない」と悩んでいませんか? もし、精一杯に口を開いたとき、約4.0cm開かないようであれば、正常な状態とは言えません。4.0cmは、だいたい「人差し指・中指・薬指」の3本指の幅に相当します。この事実から、「指3本が入らなければ、顎に問題があるのではないか」と捉えられます。

思うように口が開かない…という場合、いくつかの原因が考えられます。とはいえ、もっとも確率が高いのは、顎関節症による「開口障害」でしょう。こちらの記事では、顎関節症を中心に「口が開かない原因」を解説することにしました。

この記事の目次

1.顎関節症で口が開かない!

まずは、もっとも高確率の原因から解説します。顎関節症に起因する開口障害です。同じ顎関節症でも、口が開かなくなる原因を4種類に細分化することができ、どの原因なのかで開口障害の症状が異なります。

1-1 顎関節症3型(関節円板障害 / クローズドロック)

下顎骨(かがくこつ)は頭蓋の側頭骨にはまっていて、動くようになっています。そして、下顎がスムーズに可動するように、下顎骨と側頭骨(正しくは側頭骨の下顎窩とよばれる部位)の隙間にはクッションが入っています。このクッション材を指して「関節円板」と呼んでいます。

さて、顎関節症3型は「関節円板の位置が手前にずれて、下顎骨がうまく動かなくなった状態」を指しています。下顎を動かしたとき、一時的に関節円板がもとの位置に戻るなら「復位性関節円板転位」と呼ばれます。復位性関節円板転位であれば、「ピキッ」とか「カクン」と異音がするものの、口を開けることは可能です。ちなみに、異音の正体は「関節円板が元の位置に戻る音」です。

問題は、「下顎を動かそうとしても、関節円板が元の位置に戻らない場合」です。これを「非復位性関節円板転位」と呼びます。関節円板の位置が戻らないと、痛みが出て下顎骨を動かすことができません。要するに「口が開かない」ということです。非復位性関節円板転位を起こしていると、だいたい2cmが限界になります。この状態を指して「クローズドロック」と呼ぶこともあります。

顎関節症3型によるクローズドロックを起こした場合、「突然、口が開かなくなる」という発症経過になります。

1-2 顎関節症1型(咀嚼筋障害)

下顎の関節が問題なく動くにもかかわらず、開口障害に陥ることがあります。口を開けたときに咀嚼筋(特に4つある咀嚼筋のうち咬筋)が緊張状態になっていると、咀嚼筋痛が生じます。咀嚼筋痛がひどい場合、痛みで口を大きく開けることができません。

筋性の開口障害は、気づかないうちにだんだんと進行していくのが特徴です。徐々に開口できる範囲が縮んでいき、ある日、「そういえば、あんまり口が開かない…」と気づくような経過をたどります。

1-3 顎関節症2型(関節痛障害)

顎関節には、「靱帯(じんたい)」「関節包(関節を覆っている組織)」といった軟組織が存在しています。顎関節症2型は、これらの軟組織が損傷したことで発生します。わかりやすく表現するなら、捻挫(ねんざ)のような状態です。

ただし、「口が開かない」というよりは「口を開くと痛い(開口困難)」と表現したほうが、顎関節症2型の症状をわかりやすく表していると思います。

1-4 顎関節症4型(変形性顎関節症)

顎関節を使い続けていく中で、軟骨が摩耗して骨が変形する場合があります。慢性的なダメージが蓄積した結果…と表現しても良いでしょう。多少の変形があっても自覚症状がなければ良いのですが、人によっては「口を開くと痛い」「関節から異音がする」といった症状をきたすことがあります。

2.歯性感染症で口が開かない!~炎症性開口障害

口腔内の細菌感染が原因で、炎症を起こす場合があります。たいていは歯茎が腫れて痛む程度ですが、悪化すると顎全体が腫れて「痛くて口が開けられない」という状況になることがあるのをご存じでしょうか?

開口障害・開口困難に発展する「歯が原因の感染症(歯性感染症)」には、たとえば、以下のような種類が存在します。

2-1 智歯周囲炎

斜めに生えてくるなど、歯磨きが困難な親知らずが要因の炎症です。清掃不足になった歯茎で雑菌が繁殖し、歯茎が腫れるなどの炎症を起こします。

2-2 急性歯槽骨炎

抜歯の傷口に細菌が入ると、歯を支える骨(歯槽骨)が炎症を起こすことがあります。抜歯した部位に腫れ・発赤・痛みが生じます。

2-3 顎骨骨膜炎(がっこつこつまくえん)

顎骨を覆う骨膜が炎症を起こした状態です。原因歯のまわりだけでなく、顔が大きく腫れるので、開口困難を起こすこともあります。

2-4 顎骨骨髄炎

顎骨の内部が炎症を起こすと、「顎骨骨髄炎」と呼ばれます。発熱・倦怠感といった全身症状が目立つ一方、顔の腫れはそれほど見られません。

2-5 蜂窩織炎(ほうかしきえん)

口腔内の全体に腫れ・むくみが出ます。劇症化した歯性感染症で、口が開かない状態になることも珍しくありません。喉が激しく痛むことも多く、唾液を飲みこむのも困難です。気道閉塞の危険もあるため、速やかに医療機関を受診するべき状態といえます。

3.中枢神経の障害で口が開かない!~神経性開口障害

開口筋を動かしている中枢神経系に障害が起こると、「口が開かない症状」が出ることがあります。顎・筋肉に問題があるのではなく、顎・筋肉に命令を伝達するための神経(三叉神経)に問題が起きているわけです。

3-1 痙攣(けいれん)性神経性開口障害

痙攣性の開口障害が起こる病気には、破傷風(はしょうふう)・脳出血・脳腫瘍・てんかんなどが存在します。たとえば、破傷風では、破傷風菌の毒素「テタノスパスミン」が脊髄に悪影響を及ぼし、三叉神経障害・咬筋硬直が起こります。

3-2 麻痺(まひ)性神経性開口障害

麻痺性の開口障害を引き起こす病気としては、神経炎・急性小児麻痺などがあげられます。また、神経の損傷によっても開口障害をきたす場合があります。

4.そのほかの原因で口が開かない!

開口障害をきたす要因はほかにも存在します。上述した原因以外で口が開かない場合は、以下に掲げるような要因があるのかもしれません。

4-1 外傷性開口障害

顎骨・頬骨(きょうこつ / ほおぼね)の骨折により、骨片が顎関節の動きを阻害すると、口が開かなくなることがあります。

4-2 瘢痕(はんこん)形成開口障害

口腔・顎・顔面に外傷、火傷などを負った場合、瘢痕拘縮(はんこんこうしゅく)と呼ばれる症状をきたすことがあります。腱・腱膜などの軟組織がケロイドを起こし、筋肉を弛緩させる信号(活動電位)が発生しなくなることが要因です。関節の可動域が狭まるため、口が開かなくなることがあります。

4-3 腫瘍性開口障害

口腔癌・咽頭癌など、腫瘍の発生が要因で口が開かなくなることがあります。腫瘍の浸潤によって、関節の周囲組織が圧迫されることで起こります。

5.まとめ

思うように口が開かないのは、何らかの病気にかかっているサインかもしれません。主なのは顎関節症ですが、中には「生命にかかわる病気の症状」というケースもあります。口がうまく開かない状況になったら、すぐに医療機関を受診しましょう。顎関節症による「クローズドロック」だとしても、早期に治療したほうが修復は早まります。

 

先生からのコメント

口が開かなくなったら困ってしまいますよね。この記事に書いてあることの他には、耳の疾患で口が開かないなんてこともあります。もちろん、歯医者さんで診てもらって耳の疾患を疑った場合には耳鼻咽喉科に紹介していただけると思います。反対も然りで耳鼻咽喉科にかかっても歯科を紹介されると思います。大きな病気が隠れていることもありますので、一人で悩まずにお医者さんに診てもらうことを検討してみてください。

執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

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