近年、歯科治療においては「MI治療」という言葉を目にする機会が増えてきました。歯科医院の公式サイトを確認してみると、実に多くの歯科医院が「歯に負担をかけない」「歯に優しい」といった修飾語とともに「MI治療」をかかげていることがわかります。
こちらの記事では、「MI治療とは何か」という知識に加え、「具体的にはどのような治療がMI治療に含まれるのか」といった部分まで踏み込んで解説したいと思います。
この記事の目次
1.MI治療とは何か?
「MI」というのは「Minimal Intervention(ミニマルインターベンション:最小限の侵襲)」の略です。侵襲は「身体を傷つけること」ですから、MI治療は「身体を傷つけるのを最小限にとどめた治療」を意味します。
結局のところ、医療には「身体を傷つける治療」が少なからず含まれます。「外科手術」「注射」「縫合」なども、患者さんの身体をメスで切ったり、針で刺したりする医療行為です。歯科治療における「歯の切削」も例外ではありません。体の一部を削りとるわけですから、やはり「侵襲を伴う医療行為」にあてはまります。
MI治療は、「侵襲(体を傷つけること)」を最小限にとどめる歯科治療というわけです。
2.なぜ、MI治療が重要なのか?
「あまり身体を傷つけない治療」が「何となく良いこと」なのは直感的に理解できると思います。しかし、もう少し具体的に、MI治療のメリットを知りたいと思いませんか? この項目では論理的側面から、MI治療の有用性を解説することにしましょう。
2-1 歯は二度と再生しない!
外科的処置で皮膚を切開したとしても、時間経過で修復するはずです。多少、傷跡は残るかもしれませんが、きちんと縫合すれば傷自体はしっかり塞がります。しかしながら、歯はどうでしょうか? 削ってしまった歯は、二度と再生しません。
歯科治療は結局、削ったところに金属・セラミックなどを入れているだけであり、本当の意味で治しているわけではないのです。であれば、そもそも「削る範囲をなるべく狭める」というのが、歯の健康を保つための条件となります。再生しない以上、「なるべく残す」しかありません。
2-2 歯科治療の目的は、歯を長持ちさせること!
2011年におこなわれた歯科疾患実態調査の結果を引用してみましょう。すると、75歳以上の高齢者が有している「自分の歯」は平均13.32本です。65~74歳では平均19.16本となっており、やはり20本を割りこんでいます。もともと、人間には親知らずを含めて32本、含めなくとも28本の歯がある事実を踏まえると、「歯を維持することの難しさ」が浮き彫りになった調査結果と言えるでしょう。
1989年から、日本歯科医師会と厚生労働省は「8020運動」を推進してきました。これは「80歳になったとき、20本の歯を残そう」という運動です。ここからわかるのは、「なるべく歯を長持ちさせること」が歯科治療の目的である…という事実です。
となれば、「なるべく歯にダメージを与えないこと」が歯科治療における重要なポイントになるのは明らかでしょう。神経を抜いたり、たくさん削ったりした歯の寿命は明確に縮むからです。MI治療は、「歯の寿命をなるべく縮めない治療」と言い換えることができます。
参照URL:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-04-001.html
3. MI治療には、どのような方法があるか?
MI治療の基本は「虫歯になっている部分だけをピンポイントに除去し、健康な歯にダメージを与えないこと」にあります。実際に「最小限の侵襲」を実現するために、どのような方法が用いられているのでしょうか? この章では、具体的なMI治療の例を紹介したいと思います。
3-1 「MIバー」によるピンポイントの切削
歯科医院でドリルを使用していることはご存じだと思います。ドリルの先端につける「歯を削るヤスリ」を「バー」と呼びます。MI治療を実現するための「ピンポイント切削」に適したバーを指して、「MIバー」または「マイクロプレパレーションバー」といいます。後者は長いので、こちらの記事ではMIバーで統一しましょう。
さて、MIバーには「MIダイヤモンドバー」と「MIスチールバー」の2種類がありますので、それぞれの特徴を解説したいと思います。
MIダイヤモンドバー
ヤスリ部分を小さくしてあるのに加えて、ネック部分を細くしているのが特徴です。虫歯の部分を目視しやすく、さらに削るべき箇所だけをピンポイントで削れる「取り回しの良さ」を実現しています。
MIステンレスバー
ネックを細長く設計してあるので、削る部位の視認性が非常に高くなっています。また、ステンレスは「虫歯でやわらかくなった歯質」を削りやすい反面、「健康で硬い歯質」をあまり削りません。「最小限の切削」に適した器具といえます。
3-2 「スマートバー」による選択的切削
MI治療に適した器具には「スマートバー」という種類も存在します。スマートバーは、ヤスリ部分が「ポリマー樹脂」と呼ばれる材質でできています。物質の硬さを測る指標に「ヌープ硬度」というものがありますが、ポリマー樹脂のヌープ硬度は「50」です。
虫歯になった象牙質(う蝕象牙質)は「0~30」、健全象牙質は「70~90」なので、スマートバーは「虫歯より硬く、健全歯質よりやわらかい」ことになります。
結果、スマートバーで歯を削ると、「虫歯は削れるけど、健康な歯は削れない」という状況になるわけです。あたかも「ドリル自らMI治療を実践する」というような歯科治療が実現します。
3-3 「Er:YAGレーザー」による選択的切削
「Er:YAGレーザー(エルビウム・ヤグレーザー)」は唯一、保険適用で虫歯切削に使用できるレーザー治療機器です。水分子に高いエネルギーを与え、水蒸気爆発を起こさせる性質があります。歯を削るときには、水蒸気爆発の力で削るわけです。
虫歯になった象牙質(う蝕象牙質)は健全象牙質より水分が多いので、Er:YAGレーザーに反応しやすくなります。結果、虫歯の部分を選択的に削ることができるのです。
3-4 虫歯検知液による選択的切削
虫歯検知液は、虫歯になっている部分だけを赤く染める薬液です。「どこを削り、どこを残すべきか」が視覚的に理解できるようになります。「なるべく削る範囲を狭め、可能なら神経を残す」というのがMI治療の基本です。
4.まとめ
インプラントが普及したり、より優れた詰め物・かぶせ物素材が使われるようになったりと、歯科治療の技術は日進月歩です。しかし、今でも「失われた歯を再生する方法」「本物の歯より優れた人工物」は生まれていません。やはり、生まれ持った天然歯に勝るものはないのです。自分の歯をできるかぎり長く残すためにも、歯科治療を受ける際には「MI治療に力を入れている歯科医院」を選んでみてはいかがでしょうか?
こちらの記事で紹介した医療器具を取り入れている歯科医院なら、「80歳で20本の歯を残す8020運動」につながるMI治療を受けられると思います。
歯を削る音・・・嫌ですね。歯の神経を取ると歯の寿命が10年は短くなると言われています。なるべく削る範囲を少なくしたい。歯医者みんなの希望です。しかし、そのためには何よりもそれだけで済む段階であることが大切です。進行してしまった虫歯にはやはりそれだけ侵襲を加えなくてはいけません。削る部分も多くなります。やはり痛くなる前に治療・早期治療を心がけて定期検診を受けるようにしてください。
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