歯科治療への恐怖心や不安を和らげるために行う「笑気吸入鎮静法」は、歯科医師の管理下で使用される鎮静法の一つです。ただし、その詳しい作用についてはあまり知られていないかもしれません。
この記事では、不安や緊張を和らげる方法の一つとしておこなわれている笑気麻酔について詳しく紹介していきます。
この記事の目次
1.歯科医院で行う笑気麻酔とは
1-1 笑気麻酔に含まれるガス
笑気麻酔は、「笑気吸入鎮静法(しょうききゅうにゅうちんせいほう)」といいます。
「笑気」と呼ばれるガスを吸うことで気持ちがリラックスし、不安や恐怖心を軽減させた状態で治療を受けやすくします。笑気は「亜酸化窒素(N2O)」の別名です。
笑気は全身麻酔にも用いられますが、歯科医院で行う笑気麻酔では、一般的に低濃度の笑気と高濃度の酸素を混ぜて使用します。使用する濃度や時間は、患者さんの状態や治療内容、歯科医院の判断によって異なります。
1-2 笑気麻酔の流れ
笑気麻酔は、診察台を少し起こした状態で、楽な体勢でおこなわれます。歯医者さんによって多少異なるかもしれませんが、一般的な流れは次の通りです。
①笑気吸入装置につながった、専用のマスクを鼻に装着します。(※1)
②鼻だけでゆっくり呼吸し、ガスを吸入します。
③数分ほどで変化を感じ始めることがあります。
④ガスの吸入を続けた状態で治療を始めます。
⑤治療終了後マスクを外します。
⑥吸入を停止すると、徐々に通常の状態へ戻ります。(※2)
⑦フラフラしたり気分が悪かったりしないことを確認して帰宅します。
※1 蛇管(じゃかん)やカニューレといった、短いチューブ(ホース)タイプのものもあります。
※2 人によっては数分間安静にしたり、酸素を吸入したりすることもあります。
1-3 笑気麻酔の作用
笑気麻酔を受けると、少し頭がぼんやりし、緊張が和らいでリラックスした状態で治療を受けやすくなります。
人によって感じ方は異なりますが、「ボーッとした」「音が遠くに聞こえた」「ほろ酔い気分になった」「体が温かくなった」などの感覚を得ることがあるようです。笑気ガスは、ほのかに甘い香りがするとされ、「いい香りがした」と感じる人もいるようです。
全身麻酔では意識が消失し、鎮静薬の点滴を受ける静脈内鎮静法では治療中の記憶があいまいになることがあります。
しかし、笑気麻酔の場合は、基本的にはリラックスしている状態で、治療中も意識があり、歯科医師と会話できることが多いとされています。
2.笑気麻酔によって期待できること
2-1 不安感や恐怖心が軽減することがある
笑気麻酔には、不安を和らげて緊張を解き、精神的にも肉体的にもリラックスした状態に近づける作用があります。
治療中の不安や緊張を感じにくくなることで、治療を受けやすくなる場合があります。ただし、笑気麻酔だけで痛みがなくなるわけではありません。痛みをともなう処置では、必要に応じて局所麻酔などを併用することがあります。
歯科医院が苦手な人でも、笑気麻酔によって不安感や恐怖心が軽減されることで、通いやすくなったと感じる人もいるようです。歯科医院を受診することへの抵抗感が少なくなれば、むし歯や歯周病といった病気の早期発見につながりやすくなります。
2-2 持病がある人の身体への負担軽減につながる場合がある
苦手なものや緊張するものを前にすると、血圧や心拍数が上がる人は多くいます。
歯科医院が苦手で、高血圧や心疾患といった持病がある患者さんにとって、歯科治療は大きな負担となることがあります。治療への恐怖心が大きい場合、「血圧の上昇」や「動悸」といった症状があらわれることもあります。
また、緊張やストレスから「過換気症候群」といった、普段の生活では見られない症状が出てしまうこともあります。
笑気麻酔を利用することは、そのような身体への負担を軽減することにつながる場合があります。ただし、持病や服薬状況によっては注意が必要なこともあるため、事前に歯科医師へ相談しましょう。
3.笑気麻酔の費用
3-1 保険が適用されるケースがある
むし歯の治療や抜歯といった、一般的な歯科治療に使用する笑気麻酔には、保険が適用されることがあります。自己負担の割合とかける時間にもよりますが、3割負担の患者さんなら、数百円~数千円程度が目安となる場合があります。
ただし、使用する笑気の濃度や時間、診療内容、保険算定の条件によって費用が変わることがあります。
※2026年現在の3割負担の場合の保険診療の費用(ここでは初診料やレントゲンは含んでいません。区分や制度の改定でも変動しますので、あくまで目安としてください)
4.笑気麻酔の向き不向きについて
笑気麻酔が向いている人、また注意が必要な人を紹介します。これらに当てはまれば必ず笑気麻酔を受けられない、または必ず受けられるというわけではありません。心配な疾患や気になる症状、既往症を持つ方は、必ず治療前に歯科医師へ相談してください。
4-1 笑気麻酔が向いている人
・歯科治療への恐怖心や不安が強い人
・高齢者
・神経質な人
・嘔吐反射の強い人(口に治療器具が入っただけで、えづいてしまう人)
・高血圧や心疾患など内科的慢性疾患をもつ人
・歯科治療時に強い緊張を感じやすい人
4-2 笑気麻酔に注意が必要な人
・妊娠中、または妊娠の可能性がある人
・授乳中の女性
・鼻づまりやアレルギー性鼻炎などで鼻呼吸がしにくい人
・中耳炎などの中耳疾患がある人
・ぜんそくや気胸などの呼吸器疾患がある人
・パニック障害などでマスクに強い抵抗感がある人
・過換気症候群の経験がある人
・肺や腸に閉塞性疾患のある人
・てんかんの既往がある人
妊娠中や授乳中の方、てんかんの既往がある方は念のため事前に相談しましょう。
呼吸器疾患がある方は、症状や管理状態によって判断が異なります。自己判断せず、事前に歯科医師へ伝えましょう。
5.笑気麻酔による身体への影響
5-1 副作用や注意点
笑気麻酔は、歯科診療で用いられる鎮静法の一つで、比較的回復が早いとされています。ただし、副作用や体調変化がまったく起こらないわけではありません。
人によっては、気分が悪くなる、眠気が出る、ふらつく、吐き気を感じるといった症状が出ることがあります。また、鼻で吸入する方法のため、鼻づまりがある場合は十分に吸入できないことがあります。
笑気は吸入を止めると体外へ排出されやすいとされていますが、治療後の運転や仕事、家事については、歯科医院で体調を確認したうえで指示に従いましょう。
5-2 子どもに使用されることもある
笑気麻酔は、子どもの歯科治療で使用されることもあります。局所麻酔のように歯ぐきに針を刺す方法ではないため、注射が苦手な子どもの不安を和らげる目的で検討されることがあります。
歯科医院が苦手な子どもを治療に連れて行くのは、大変です。さらに、治療中に急に動くと口の中を傷つけてしまう危険性があります。
笑気麻酔は、そのような不安や緊張を軽減する選択肢の一つです。ただし、子どもの年齢、協力度、全身状態、鼻呼吸ができるかどうかによって適応が変わります。使用できるかどうかは歯科医師に相談しましょう。
6.まとめ
笑気吸入鎮静法は不安や緊張を和らげる方法で、痛みを完全になくすものではありません。ただ、治療中の緊張状態を緩和することで、患者さんの負担を軽減できる場合があります。これにより、それまで行きづらかった歯科医院へも通いやすくなり、歯の健康を維持しやすくなることが期待できます。
歯科治療に不安を感じる方は、歯科医院に一度相談してみることが大切です。
歯科医院が苦手な人は、むし歯が痛んでも我慢してしまうことがあります。しかし、むし歯は放置しても自然治癒することはありません。
痛みに耐えきれなくなって歯科医院を受診する頃には症状が悪化し、治療が大がかりになり、費用や通院回数といった負担も大きくなってしまうことがあります。
笑気麻酔でリラックスした状態で治療を受けやすくなれば、早い段階から歯科医院を受診できる可能性があり、費用や通院回数といった負担を軽減することにもつながります。
【参考サイト】
・日本歯科麻酔学会「診療ガイドライン・診療ステートメント」
https://jdsa.jp/publication/guideline/guideline_list.html
・厚生労働省 令和8年度診療報酬改定について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
・PMDA 医療用医薬品情報「亜酸化窒素」
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdDetail/iyaku/1116700X1045_1?user=1
2007年 第100回歯科医師国家試験合格
2007年 日本歯科大学 生命歯学部卒業
2008年 埼玉県羽生市 医療法人社団正匡会 木村歯科医院
歯科医師としてのホスピタリティの基礎を学ぶ。
2010年 埼玉県新座市 おぐら歯科医院
地域に密着した医院で地域医療に携わり、
小児から高齢者歯科まで治療を行う。
2011年 東京都文京区 後楽園デンタルオフィス
施設の訪問診療などにも携わる。
2015年 東京都港区 青山通り歯科 院長
現在に至る

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