最近は、レーザー治療器を保有する歯科医院も増えてきました。患者さんにも「レーザー治療」の存在を知っている人が増えてきたように思います。多くの人が「レーザー治療だと、痛みが少ないらしい」というレベルの知識は持っているのではないでしょうか?
こちらの記事では、「レーザー機器の種類」「どのような治療に用いられるか」など、歯科用レーザーの基礎知識をお届けしています。少しでも痛みが少ない治療を受けたい…と考えている方々の参考になれば幸いです。
この記事の目次
1.虫歯を削れるのは、エルビウムヤグレーザー!
いわゆる「虫歯のレーザー治療」で用いられるのは、エルビウムヤグレーザー(Er:YAGレーザー)です。2017年現在、「歯の切削」において認可を受けている唯一のレーザーになります。
2008年4月、エルビウムヤグレーザーを用いて虫歯処置をおこなった場合、「う蝕歯無痛的窩洞形成加算」という診療報酬が加算されるようになりました。2017年9月現在、う蝕歯無痛的窩洞形成加算が算定されると、基本の点数に「+40点」の加算が発生します。保険点数は「1点=10円」ですが、普通は3割負担なので、患者さんの負担は「+120円」です。
1-1 なぜ、エルビウムヤグレーザーは歯科治療に向いている?
エルビウムヤグレーザーには、水分子にエネルギーを与えて、水蒸気爆発を起こす力があります。水蒸気爆発の力で、虫歯になった歯質を削るわけです。虫歯になった象牙質は、健全な象牙質より水分の含有量が多くなります。そのため、水蒸気爆発により、選択的に虫歯の部分を削ることが可能になるわけです。
「歯の内部に存在する水分を水蒸気爆発させる機種」のほか、「外部から注水し、その水を水蒸気爆発させる機種」の2通りがありますが、歯の切削に用いる限りにおいて、あまり違いを意識する必要はないでしょう。
また、エルビウムヤグレーザーのエネルギーは水分子によって吸収されやすい…という特徴があります。人間の身体は約60%が水分なので、「水分子に吸収される=組織の表層で吸収される」と捉えて構いません。レーザーのエネルギーが「表面近くの水を水蒸気爆発させること」に消費されやすく、組織の深部にダメージを与えにくいわけです。
実際、生体に対して複数のレーザーを照射する実験においても、「エルビウムヤグレーザーの作用は組織表面だけに限定される」という結果が出ました。炭酸ガスレーザー(CO2レーザー)では炭化層が、ネオジムヤグレーザー(Nd:YAGレーザー)と半導体レーザー(Diodeレーザー)では炭化層・熱変性層が生じており、組織の深い部分にも影響が及んでいました。
ただ単に「歯が削れれば良い」というなら、能力的には(やって良いかどうかは別にして)炭酸ガスレーザーでも切削可能です。しかし、レーザーのエネルギーによりエナメル質が熱変質を起こす恐れが出てきます。
変質しなかった部分との間に亀裂が入るなど、健全な歯質に悪影響をもたらすかもしれません。こういった理由から、歯などの硬組織を切削するには、表面だけに作用するエルビウムヤグレーザーが適しているのです。
1-2 歯周病治療にも、エルビウムヤグレーザーが使える!
また、2011年4月には、エルビウムヤグレーザーによる歯周病治療が保険適用となりました。歯周病になると「歯と歯茎の隙間(歯周ポケット)」に歯石が溜まり、歯石の中で歯周病菌が増殖していきます。歯周病菌による炎症は、歯を支える骨―歯槽骨が溶ける原因になり、最終的には歯を失います。
一般に、重度の歯周病に対しては「フラップ手術」と呼ばれる外科治療をおこないます。歯茎を切開して歯根を露出させ、感染組織・歯石を掻き取る術式です。このとき、歯根にエルビウムヤグレーザーを照射すると、水蒸気爆発の力で効率的に歯石除去・殺菌が可能になります。スケーラー(金属の器具)で掻き取るより効率的です。
2016年現在、外科治療においてエルビウムヤグレーザーを用いると、「Fop及びGTR1次手術時歯根面レーザー応用加算」として、診療報酬に「+60点」が加算されます。保険適用3割負担だと、患者さんの負担は「+180円」です。
2.自由診療においては、炭酸ガスレーザーなども活躍!
歯科治療において用いられるレーザーは、エルビウムヤグレーザーだけではありません。そのほかに、炭酸ガスレーザー、ネオジムヤグレーザー、半導体レーザーなどが使われることもあります。ただし、これらは保険適用になっていないレーザーです。
ただ、「必要に応じて、保険外のレーザーを追加費用なしで使用する歯科医院」もあります。必ずしも、「保険外のレーザー=高額」とは限りません。保険外というのは、「保険診療では患者さんに費用請求できない」という意味合いです。必ずしも、自由診療(自費)になるわけではありません。
この章では、多くの歯科医院が導入している炭酸ガスレーザーに絞って、「どのような用途に用いられるのか」を解説することにしましょう。
2-1 炭酸ガスレーザーは、軟組織に適したレーザー!
炭酸ガスレーザーは「軟組織に適している」と表現されることが多い機器です。軟組織というのは皮膚・粘膜・歯肉などの総称になります。骨・歯などの硬い組織ではなく、やわらかい組織を切開するのに向いている…ということです。「レーザーメス」と表現すれば、実態が掴みやすいと思います。
血液を凝固させる性質があることから、止血に優れています。「切開と同時に止血する」ということになり、少々の切開なら縫合の必要もありません。軟組織の切開に関していえば、とても利便性の高い機器といえます。
2-2 口内炎の治療に炭酸ガスレーザーを活用!
基本的に、口内炎はステロイド剤などで消炎(→自然治癒の促進)を目指します。しかし、何度も同じ場所に繰り返すようなケースでは、炭酸ガスレーザーで患部を灼くこともあります。
特に、白い潰瘍が現れる「アフタ性口内炎」を繰り返しているようなケースでは、炭酸ガスレーザーによる治療が選択されることも多いです。「レーザーを照射した瞬間に口内炎の痛みがなくなった」と感じる人が多く、すぐに口内炎を治したい…という患者さんに適した方法です。
2-3 歯肉切除でも炭酸ガスレーザーが活躍!
虫歯が歯茎の下で進行している(縁下カリエス)場合、その部分の歯茎を切除しなければなりません。昔は電気メスで切除するのが普通でしたが、近年は炭酸ガスレーザーを使うことが増えています。実際、レーザーで切ったほうが、より早く修復する傾向にあります。
この使用法からもわかるように、炭酸ガスレーザーは「メスの代わりに軟組織の切開を担う機器」と考えれば、だいたい実情に即しています。
3.まとめ
エルビウムヤグレーザーを中心に、歯科治療におけるレーザー治療の位置づけはどんどん重要になってきています。記事内で説明した以外にも、「根管治療における歯内消毒」「顎関節症の痛み緩和」などにレーザー機器を使用する例があります。
ただ、保険適用外の用途でレーザーを使用するなら、歯科医師の説明をよく聞き、費用・期待される作用などに十分納得の上で治療を受けてください。
レーザー治療は虫歯治療や歯周病の治療に有効とされており、今日、日本でも取り入れているクリニックが多く見られるようになってきました。様々な用途で使われていますので、担当の歯科医師によくお話を聞いてみるとよいでしょう。
執筆者:
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