【教授に聞く】歯茎はピンクのほうが健康的?ピンクでも油断できない隠れた症状

ピンク色でつやのいい歯茎は健康的に見えますよね? それとは逆に真っ赤に見える歯茎からは健康的な印象を受けません。

では本当にピンク色の歯茎は健康な状態といってもいいのでしょうか。愛知学院大学・冨士谷盛興教授にお話を伺い、歯茎の状態について解説していただきます。

この記事の目次

ピンクだからと油断してはダメ!歯周ポケットは深くなっていることも

歯の教科書 編集部

ピンク色の歯茎は健康的なイメージがありますが、このイメージはあっているのでしょうか?

冨士谷盛興教授

はい、一般的にはそれで合っています。ただし、歯科医師による検診を「定期的に」受けていらっしゃって、今まで歯周病にかかったことがない方に当てはまります。

そして、実はピンク色だからいいとか、赤い色だから悪いということは、一概には言えないんです。見た目よりも、自身の歯茎(歯肉)の状態をしっかりと把握しておくことが大切です。

ちょっと、自分の歯肉を鏡で見てみましょう。健康的な歯肉には、ミカンの皮のつぶつぶのようなスティップリングが見られますね。これは、歯肉がコラーゲンという線維で歯槽骨(顎の骨)とつながっていて、しっかりと固定されていることで見られるんです。

しかし、見た目にはピンクできれいなんですが、スティップリングがあまり見られない場合があります。歯周ポケットを調べてみると、けっこう深くなっていることがあるんですね。ご存知のように、歯周病は歯の周囲の骨がとける病気ですから、スティップリングは消失するわけです。

歯肉のマッサージなどで血流が良くなり、結果的に炎症が抑えられているだけの状態なんですね。つまり、歯周病が進んでいない(停止している)状態だけで、歯周病が治ったわけではないんです。

こうした状態をずっと保っていられればいいのですが、何らかの事情で歯ブラシがうまくできなかったり、丁寧にできない環境に陥ったり、あるいは何か病気にかかって体の抵抗力が落ちてしまうと、一気によくない状態に傾いてしまうので気をつけてください。

歯の教科書 編集部

歯茎が赤っぽいと炎症を起こしていて、よくない状態ではないですか?

冨士谷盛興教授

体の皮膚はケガをして細菌に感染すると、炎症を起こし膿んでしまいますよね。歯肉もほかの皮膚と同じように、歯周病原菌により異常が起きれば,炎症が起き化膿してしまいます。何も特別なことではなく、体全体で起こっている信号の一つだと考えてください。

ただ皮膚と歯肉が違うのは、歯肉は硬い歯や骨の周りにくっついていますよね。骨と肉との距離がとても近いんです。それでいて毛細血管も多く、出血もしやすいですから、少し炎症を起こしただけでも、かなり腫れているように見えるんですね。つまり、よくない状態というよりは、人体からの信号がよく見える環境なんだと意識してください

ただし、歯肉は炎症状態がよく見えるだけではなくて、炎症も広がりやすいんです。

これがとても厄介なんですね。毛細血管も多いため血液に乗って、細菌や炎症物質が全身に飛んで行きやすいんです。

最近テレビや雑誌などでもよく見かけますが、歯周病を放置しておくと、その慢性炎症が全身に悪影響を及ぼし、とくに糖尿病やメタボに代表されるさまざまな生活習慣病を悪化させるんです。

歯肉は薄いですから、赤っぽく見えやすいという人もいますね。これは個人差もあります。個人差のある歯肉の色合いだけで健康状態を考えるのではなく、お口の中全体という環境を正しく理解することで、さまざまな口内トラブルを未然に防ぐことができますよ。

あらためてお答えしますが、 歯肉がピンクだからいいとか、赤いから悪いということだけではないんです。

4mm以上の歯周ポケットは危険!血液をエサにする歯周病原菌

歯の教科書 編集部

では、どういった歯茎状態に気をつければいいでしょうか?

冨士谷盛興教授

痛いとか浮いた感じがするとかいう自覚症状はなくても、歯周ポケットが深くなってしまっていることがあります。自覚症状がないだけにとても厄介です。

ポケットの深さは、自分では計ることができないので、歯医者さんで検査してもらう必要があります。

厚生労働省では、4 mm以上ある歯周ポケットが数か所あれば、歯周病が進んで悪くなっている状態としています。逆に、4 mm未満で、歯肉に発赤腫脹がなければ、健康な状態といえます。

歯の教科書 編集部

なぜ4mmからが悪いとされているのでしょうか?

冨士谷盛興教授

3mm以内でしたら、正しいブラッシングができれば、自分自身でポケット内の汚れや細菌を刷掃できるんですね。これが4mm以上となってしまうと、自分で磨くのは難しいんですね。さらに、そこに歯周病原性の高い悪玉菌の親分のようなPg菌(ポルフィロモナス・ジンジバーリス)などがはびこり始めると、状況はいよいよ悪くなります

Pg菌は、吸血鬼です! それも酸素を嫌う吸血鬼です。だから、4 mm以上の深さがあるポケット底部の酸素の少ない環境でも生きていけるのです。逆に言うと、酸素が届くような浅いポケットでは、細々と弱々しくしか生きていけないのです。

そして、ポケット底部に炎症を引き起こし、そこの歯肉を赤くただれさせます。Pg菌は、赤くただれた部分の潜血中にある赤血球の鉄分をエサにして、どんどん増殖し、細菌同盟のような集団(バイオフィルム)をつくります。

そうなると、悪玉菌はそうすぐには駆除できなくなります。すると、ずっと炎症を起こしている状態が続きますので、少し触れただけでも血が出てくるようになってしまいます。

このような、細菌による炎症がずっと続くと、前にもお話をしましたように、糖尿病、脂質異常、高血圧、高尿酸血症などの生活習慣病を助長してしまう危険性が非常に大です。さらに、これらの悪玉菌は歯肉の中や毛細血管の中にも潜り込み、全身に飛び散ることで、さまざまな悪さをするということも分かってきています。

歯周病菌はいなくならない!暴れさせずに正しく付き合う

歯の教科書 編集部

私たちが歯周病菌から口内を守るためには、どうしたらいいのでしょうか?

冨士谷盛興教授

こうした状態にならないためにも、歯医者さんで定期的に歯周病の検診を受けて下さい。歯周ポケットの深さを測定するだけではなく、歯垢や歯石の専門的除去と歯ブラシ指導を受診し、口内を清潔な状態に導くことが重要です。

そして、最終ゴールは、歯周病原菌に血液と酸素を与えないような環境を自分自身でもつくることができるよう、歯ブラシを頑張りましょう!

注意することは、歯周病原菌はいなくなるわけではありません。息をひそめて暴れ出す機会を虎視眈々と狙っていますよ。その機会を与えないためにも、ブラッシングが正しくできているか、少なくとも年1回は歯科医院でチェックしてもらいましょう。

歯の教科書 編集部

ポケット内の清掃ができる正しいブラッシング方法ってどういう方法でしょうか?

冨士谷盛興教授

歯磨き方法にはたくさんの種類があります。その中の一つの方法ですが、鉛筆をもつように歯ブラシをもって、毛先をポケット方向の斜め45°に当てて磨くやり方が有用です。

でも、正しくやらないと、逆にデリケートな歯周ポケット内の歯肉を傷つけて、病状を悪化させる危険性があります。歯医者さんでポケットの深さを測るとともに、「病状に応じた正しいブラッシング方法を教えてもらってください

歯の教科書 編集部まとめ

健康な歯茎とはどんな歯茎なのか

●ピンクだからいいとか、赤いから悪いというわけではありません。一見健康そうに見えるピンク色でも歯周ポケットが深くなっていることがあります。

●歯茎は薄く毛細血管が多いため、色味には個人差があります。そのため、赤く見えやすい人もいます。

危険を知らせる分かりやすい信号

●炎症が見えやすい歯茎ですが、放っておいていいということではありません。歯医者さんで正しいブラッシング方法を教えてもらい、症状が進行しないように意識しましょう。

定期検診で予防を重視

●歯周ポケットの深さが4mm以上になっていると、自身でケアをするのは難しいです。歯医者さんで歯垢や歯石を除去してもらい、健康的な口内環境を維持できるようにしましょう。

愛知学院大学 歯学部 特殊診療科
歯学部附属病院 審美歯科診療部
冨士谷盛興教授監修
冨士谷盛興教授からのコメント

定期的にかかりつけの歯科医院に通って、お口の中のチェックと専門的クリーニングを欠かさないことが一番です。そして、歯周病原菌に血液というエサと酸素のない住処を与えないようにして、ずっとおとなしくしてくれるような環境を保つことが重要です。

ちょっと前になりますが、雑誌「PRESIDENT」(株式会社プレジデント社)に、「リタイヤ前にやるべきだった・・・健康の後悔トップ20」というアンケート記事が掲載されていました。その堂々たる1位は、なんと「歯の定期検診を受ければよかった」です。もちろん、ここでいう「歯の定期検診」とは、歯や歯肉を含めたお口の病気に関する定期的なチェックのことです。

リタイヤ後の最大の楽しみの一つに、「食べること」に異存はないと思います。今からでも遅くありません! 後悔先に立たずということで、定期的なお口の健康チェックを心がけ、ADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)の向上を図るようにしましょう。

最近、マスコミでも頻繁に見受けられますが、虫歯や歯周病などの歯科疾患は、糖尿病や高血圧症のような生活習慣病と密接に関連しています。したがって、今後の歯科医療は、口内に限らず、全身の健康を考えた治療が重要になってきます。

虫歯や歯周病などの治療のゴールは、患者さんによってさまざまです。時には、歯科医師が提案したゴールとかけ離れていることもあります。治療法と治療後の専門的ケアと自身のケアについて主治医とよく話し合い、お互いに納得した方法を選択できる“二人三脚の歯科医療”が望ましい環境ですね。

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執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。