埋伏歯がもたらすリスクとは?口腔内の健康を守るために

歯が正しく生えてこないで、骨・歯茎の中に埋まっている状態を「埋伏歯」または「未萌出歯(みほうしゅつし)」といいます。全体が埋まっている埋伏歯を「完全埋伏歯」、一部が表面に出てきている埋伏歯を「不完全埋伏歯(半埋伏歯)」と呼びます。

こちらの記事では、「埋伏歯に起因する口腔トラブル」「埋伏歯の治療法」を解説することにしました。「なかなか生えてこない永久歯がある」という方は、ぜひ参考にしてみてください。

この記事の目次

1.埋伏歯とは何か?

埋伏歯は、「正常に生えてこないで、全部または一部が埋まったままの歯」です。乳歯が埋伏歯になることは珍しく、埋伏歯になるのはたいてい永久歯です。もっとも埋伏歯になりやすいのは智歯(親知らず)です。そのほか、上顎(うわあご)の前歯・犬歯も埋伏歯になる確率が高い歯として知られています。

1-1 埋伏歯が生じる原因は…?

現代人は、柔らかいものを食べることが多く、成長期に顎が発育しにくくなっています。「噛む圧力がかかることで、顎が成長する」という側面があるのですが、現代っ子はやわらかいものばかりを食べているので、あまり顎が大きくなりません。その結果、「そもそも歯が正常に生えるだけのスペースがない」という状況になっています。

十分なスペースがないと、きちんと歯が弓なりに並ぶことはできません。結果として、デコボコした並び(不正歯列)になったり、一部の歯が外に傾いて生えたり(出っ歯・八重歯など)、埋もれたまま生えてこなかったり(埋伏歯)するわけです。

そのほかには、「歯の周辺にある骨・歯茎が肥厚している」「歯が骨と癒着している」など、歯が正常に成長するのを阻害する要因がある場合もあります。ただ、多数の埋伏歯がある場合は、遺伝・先天異常・栄養障害なども疑ったほうが良いでしょう。

1-2 埋伏歯の種類別!起こり得る口腔トラブルを確認

埋伏歯の存在は、いったいどのようなトラブルをもたらすのでしょうか? 実のところ、すべての埋伏歯が口腔トラブルの原因になるとは限りません。埋伏歯の中にも、「トラブルを起こしやすいもの」と「あまり問題を起こさないもの」が存在しています。この項目では、埋伏歯の種別ごとに、「起こり得る口腔トラブル」を確認してみましょう。

完全埋伏歯(水平埋伏)

「水平埋伏」は「横向きで埋まっている」という意味です。奥深くで埋まっているぶんにはトラブルにならないことも多いのですが、浅い位置で水平埋伏している歯は、隣接する歯に悪影響をもたらすことがあります。

埋まっている歯は、自分が向いているほうに生えようとします。つまり、横向きの歯は「横に移動しようとする」わけです。結果、隣接する歯の根っこをぐいぐいと圧迫する恐れがあるのです。物理的に圧迫されると、歯の根っこは溶けてなくなっていきます。

この現象を「歯根吸収」と呼びます。歯根が短くなった歯は、寿命が縮む傾向にあります。水平埋伏した歯は、隣接する歯の寿命に悪影響をもたらすことがあるわけです。

また、歯根だけでなく、隣接する歯全体を圧迫するケースもあります。この場合、隣接する歯は、押された方向に移動していきます。押されて移動した歯は、さらに隣の歯を圧迫することになります。こうして、全体の歯並びに悪影響が及び、不正歯列の原因になることがあるのです。

特に親知らずが水平埋伏している場合、「水平埋伏智歯」と呼称します。

完全埋伏歯(含歯性嚢胞)

向きにかかわらず、「袋状の病変が生じ、その中に歯が入った状態」で埋まっているものを「含歯性嚢胞(がんしせいのうほう)」と呼びます。上向きで真っ直ぐ埋まっているなら歯を残せる可能性がありますが、斜め・横向きの場合は基本的に抜歯となります。

完全埋伏歯(上向きor深い位置)

真上を向いている完全埋伏歯に関しては、あまり口腔トラブルの原因にはなりません。また、斜め・横を向いていても、深い位置にとどまっていれば、周囲の歯に悪影響をもたらさないこともあります。

親知らずなど端にある歯なら問題なくても、それ以外の歯が生えてこないと、歯並びには一定の悪影響をもたらすことも多いです。歯が生えてこないと、両隣の歯が傾いてくるなどして歯列が乱れるからです。

過剰埋伏歯

もともと生える必要のない歯が生えてくることがあります。こういった余分な歯を「過剰歯」と呼びます。上前歯の間に生える「正中過剰歯」、親知らずのさらに奥に生える「第四大臼歯」などが、やや高い確率で生じる過剰歯として知られます。過剰歯はふつうの歯より小さかったり、埋伏していたり、正常な生え方をしないケースが大多数です。

不完全埋伏歯

「斜めに生えてきて一部が埋まっている」などの不完全埋伏歯は、高い確率で口腔トラブルの要因になります。表面で斜めになっていれば、隣の歯を圧迫することが多くなりますし、歯磨きの邪魔になることもあります。

「歯磨きの邪魔になる」というのは、大きな問題になり得ます。斜めに生えた歯の周囲に歯ブラシが届かず、周辺に歯垢が溜まりやすくなるからです。結果、周囲の歯が虫歯になったり、歯茎が炎症を起こしたりします。特に親知らずの周囲が炎症を起こす場合を指して「智歯周囲炎」と呼んでいます。

2.埋伏歯治療法は?

埋伏歯が周囲に悪影響を及ぼしている(あるいは、及ぼすことが予想される)場合、どのような処置がおこなわれるのでしょうか? この章では、埋伏歯の基本的な治療法を確認することにしましょう。

2-1 完全埋伏歯(水平埋伏)→開窓・牽引or抜歯

親知らずを除く歯が水平埋伏している場合、「開窓・牽引」で歯を保存する人も多いです。歯茎を切開して埋伏歯に矯正装置を取りつけ、周囲の歯を支点に引っぱります。自由診療になりますが、埋伏歯を牽引するだけなら5~15万円くらいが目安です。

ただ、牽引だけで、埋伏歯が正しい位置に生えるとは限りません。「そもそも、歯が生えるのに十分なスペースがない」というケースも多いからです。その場合、きれいに生えるようにするためには全体の歯列矯正を要します。全体の矯正をする場合、30~80万円ほどの費用がかかります。

歯の保存をおこなわない場合は、抜歯になります。横向きの歯は普通抜歯が難しいため、歯茎を切開し、「歯冠(歯の頭部分)を切除してから、歯冠方向に引き抜く術式」を要することが多いです。歯は生えている方向にしか抜けないので、横向きの歯を上に引き抜くことはできません。

2-2 水平埋伏智歯→水平埋伏智歯抜歯術

親知らずが水平埋伏している場合、抜歯になります。横向きに生えている歯を上に抜くことはできないので、水平埋伏智歯抜歯術を要します。歯が生えている方向にしか抜けませんが、水平埋伏智歯は多くの場合、手前の歯(12歳臼歯)に向かって生えています。そのままでは、手前の歯が邪魔で抜けないので、特殊な抜き方をしなければなりません。

まず、歯茎を切開し、歯冠を切除します。歯の頭を切り落とせば、「親知らずと12歳臼歯の間」に隙間ができます。この隙間を利用して、親知らずを手前に引き抜くわけです。

2-3 含歯性嚢胞→開窓療法or嚢胞摘出術

含歯性嚢胞の場合は、状況によって2通りの治療法にわかれます。上向きに埋まっているようなら、歯茎を切開して埋伏歯の頭を出します。その後、正しい位置に誘導して、正常歯になるよう導きます。これを「開窓療法(かいそうりょうほう)」と呼びます。

横向き・逆さに埋まっている場合、歯を保存することはできません。嚢胞摘出術を実施し、嚢胞と歯を摘出することになります。

2-4 過剰埋伏歯→抜歯

埋伏しているのが過剰歯であれば、抜歯します。上向き・斜めに埋まっている程度なら普通抜歯で対応可能でしょう。横向きに埋まっている場合は「歯茎を大きめに切開する」など、やや大がかりな処置が必要になります。

2-5 不完全埋伏歯→牽引or普通抜歯

「斜めに生えて一部が埋まっている」程度なら、たいていは牽引することで正しい生え方にすることが可能です。親知らずが不完全埋伏歯になっている場合は抜歯しますが、普通抜歯で対応できます。不完全埋伏歯は虫歯・歯肉炎などの要因になりやすいので、なるべく早めに対処しましょう。

3.まとめ

埋伏歯は、周囲の歯に悪影響を与え、全体の歯並びを悪化させる要因になります。そのほか、斜めに生えている歯は歯磨きの邪魔になり、周囲に虫歯・歯肉炎をもたらす恐れがあります。「生えてくるはずの歯がなかなか生えてこない」など埋伏歯の疑いがある場合、早めに歯医者さんに相談するようにしてください。

 

先生からのコメント

埋伏歯への対応は歯科口腔外科専門の抜歯など熟練した技術を要するため、お近くの大学病院や歯科口腔外科を専門とする歯科医師にご相談するとよいでしょう。

執筆者:歯の教科書 編集部

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