歯の噛み合わせが悪いと、さまざまな口腔トラブルを招きます。ただ、一般に「噛み合わせの問題」と表現した場合、2通りの意味合いがあるようです。
一つは、歯並びの同義語として使われる「噛み合わせ」です。この意味でいうところの「悪い噛み合わせ」は「不正歯列」を意味します。もう一つは、「顎に起因する噛み合わせ」で、この用法における「悪い噛み合わせ」は「顎関節症」のことです。
こちらの記事では、2種類の「噛み合わせ」にそれぞれ焦点を当てて、「悪い噛み合わせの治療方」を考えてみたいと思います。噛み合わせの種別ごとに、歯科医院・歯科口腔外科でおこなわれる治療法を確認してみましょう。
※矯正治療(自由診療)についての説明が含まれております。また矯正治療にかかる料金については、医院によって異なる為、診療予定の医院にお問合せください。
この記事の目次
1.歯並びによる「悪い噛み合わせ」の種類
歯並びに問題がある状態を指して、「噛み合わせが悪い」と表現することがあります。歯並びが悪いことで生じる「噛み合わせのトラブル」には、たとえば、以下のような種類が存在します。
1-1 上顎前突
いわゆる「出っ歯」のことです。外見的なコンプレックスになるだけでなく、安全面・機能面の問題も生じることがあります。たとえば、口のまわりをぶつけたときに「歯が折れやすい」「前歯が口腔粘膜に刺さりやすい」などのリスクが増大するでしょう。
また、上顎前突が著しい場合、「口をうまく閉じることができず、半開きになる」という問題が出てきます。口をきちんと閉じないと、口腔内が乾燥して「唾液による自浄作用」が低下します。唾液には細菌を抑制する作用があるのですが、この作用がきちんと機能しません。結果、虫歯・歯周病になる確率が上がります。
1-2 開咬(かいこう)
上下の歯を噛み合わせても、上下の前歯が接触しない状態です。別名で「オープンバイト」と呼ばれることもあります。前歯が噛み合わないので「食べ物を噛みきることが困難になる」「一部の音が発音しにくい」など、機能面の問題が顕著です。
1-3 反対咬合
世間一般では「受け口」と呼ばれます。上下の歯は「上の歯が、下の歯にやや覆いかぶさる格好」で噛み合っています。しかし、反対咬合だと「下の歯が、上の歯に覆いかぶさる格好」になるのです。咀嚼が難しくなるほか、一部の音が発音しにくくなることがあります。
1-4 過蓋咬合(かがいこうごう)
「上の歯が、下の歯に覆いかぶさる格好」が正常なのですが、行きすぎれば別問題です。上下の歯を噛み合わせたとき、「上の歯が、下の歯をほとんど覆い隠している」というなら、噛み合わせが深すぎます。この状態を過蓋咬合と呼んでいます。
「下前歯が、上の歯・歯茎を突き上げる」「上下の歯が接触する場所に負担がかかる」などの問題が起こります。「歯の摩耗」「歯周組織へのダメージ」が懸念されます。
1-5 叢生(そうせい)
「部分的に歯が重なり合っている」「歯並びがデコボコしている」など、歯並びが乱れた状態を指しています。通称「乱杭歯(らんぐいば)」と呼ぶことが多いです。歯磨きの効率が低下するので、虫歯・歯周病リスクが増大します。
2.歯並びによる「悪い噛み合わせ」の治療方
歯並びの問題であれば、歯列矯正による治療を試みますです。「矯正歯科」に対応している歯科医院で治療を受けることができます。ただし、保険外の自由診療になるので、費用は高額になります。矯正治療にもいくつかのバリエーションがあるので、主な矯正方法を紹介することにします。
2-1 ワイヤー矯正
歯に「ブラケット」と呼ばれる器具を取り付けて、ブラケットに通したワイヤーで歯を引っ張る方法です。「歯列矯正」と表現した場合、このワイヤー矯正を指していることが多いです。費用は60~80万円くらいになります。
2-2 舌側矯正(ぜっそくきょうせい)
矯正の方法自体は、ワイヤー矯正と同じです。ただ、ブラケットを歯の裏側に装着する…という違いがあります。表側から矯正器具が見えないので、矯正中の外見を気にする人に好まれています。費用は100~120万円くらいです。
2-3 マウスピース矯正
取り外し可能なマウスピースを使って、歯列矯正をおこないます。マウスピースは透明な材質でできているので、見た目にも影響しません。ただ、ワイヤー矯正と比べれば、歯を動かす力には劣ります。費用は50~100万円程度です。
2-4 床矯正
「総入れ歯」とそっくりな矯正器具を使う方法です。本人の意志で取り外しできるのに加え、矯正方法としては安価なのが魅力です。ただし、歯の傾きを矯正するだけで、根元から移動させるほどの力はありません。費用は30万円前後です。
3.顎関節症による「悪い噛み合わせ」の種類
顎関節症は「口を開けると痛む」「口が大きく開かない」「口を開けるときに雑音がある」といった症状の総称です。そのため、原因箇所に応じて複数の種類があります。
3-1 咀嚼筋障害(1型顎関節症)
下顎骨を動かすために使う筋肉―咀嚼筋に痛み・コリが出ていると、「口を開くときに痛む(開口痛)」などの症状が出ます。筋肉は連動しているので、咀嚼筋の緊張が原因となって、肩こり・手のしびれが生じることもあります。あくまで筋肉の問題なので、顎関節から雑音が生じることはありません。
3-2 顎関節痛障害(2型顎関節症)
顎関節の靱帯・関節包が損傷していると、やはり痛みが生じます。ちなみに、関節包というのは、関節を包みこんでいる組織のことです。靱帯・関節包とも軟組織ですから、骨・関節自体に問題が起きているのとは違います。「口を開けるとき」だけでなく、「口を閉じるとき」「食べ物を噛むとき」「顎の周囲を圧迫したとき」にも痛みが出ることが多いです。軟組織の問題なので、やはり関節からの雑音はありません。
3-3 顎関節円板障害(3型顎関節症)
顎関節は「下顎骨が側頭骨にはまりこむ格好」になっています。そして、関節がスムーズに動くために、二つの骨の間にはクッション材が存在します。このクッション剤のことを「関節円板」と呼んでいます。しかし、何らかの理由で関節円板の位置がずれることがあります。この状態を「関節円板障害」といいます。
関節円板障害が起きていると、「口が2cmしか開かなくなる(クローズドロック)」「口は開くが、雑音がする」などの症状をきたします。もっとも頻繁に見られる顎関節症は、この顎関節円板障害です。
3-4 変形性顎関節症(4型顎関節症)
軟骨の損耗により、骨が変形していると「顎の痛み」「口を開くときの雑音」が生じることがあります。慢性的な顎関節へのダメージが重なり、骨の変形をきたした例です。
4 顎関節症による「悪い噛み合わせ」の治療方
顎関節症の場合、「歯科口腔外科」または「顎関節症を診療対象としている歯科医院」のいずれかで治療を受けることになります。「噛み合わせ治療」という表現をすることも多いですが、むしろ顎関節の治療です。
4-1 スプリント療法
「歯ぎしり」「食いしばり」などで顎関節に負担が蓄積すると、顎関節症を起こすことがあります。そこで、歯ぎしり・食いしばりなどのダメージを緩和・分散するためのマウスピースである「スプリント」を装着する治療方針が成立します。この方法を「スプリント療法」と呼んでいます。
4-2 マイオモニター療法
顎関節周囲の筋肉に低周波パルスを流して、筋肉の緊張を緩和する治療法です。咀嚼筋障害による顎関節症(1型)、軟組織損傷による顎関節症(2型)に奏効する傾向があります。
4-3 関節腔洗浄療法
関節は、いわば「二つの骨が噛み合っている場所」です。関節にある「二つの骨の隙間」を「関節腔」と呼んでいます。顎関節症の人は、関節腔に血液・炎症物質が滞留していることが多いので、関節腔内部を洗浄することで症状が軽快する可能性があります。そこで、関節腔に注射針を刺して、生理食塩水で内部を洗浄する「関節腔洗浄療法」をおこなう場合があるのです。関節円板障害(3型)、骨の変形(4型)に用いられます。
4-4 パンピングマニピュレーション
関節腔洗浄と同様、まずは関節腔の内部を洗浄します。その後、手動の注射器で内部に圧力をかけて、関節円板の位置を元通りに修正するのが「パンピングマニピュレーション」です。関節円板障害(3型)の顎関節症に適応します。
5.まとめ
「噛み合わせが悪い」という言葉が「不正歯列と顎関節症のどちらを指しているのか」で、治療方は大きく変わります。世間一般における「噛み合わせ」という言葉が2通りの意味を表すことから、「歯列矯正で顎関節症が治る」となどと誤解している人もいます。不正歯列がきっかけとなる顎関節症もあるにはありますが、それは一部の症例に過ぎません。
今回の記事をきっかけに「噛み合わせが有する2種類の意味」を正しく理解していただければうれしいです。
施術副作用
矯正の価格ですが、ネットなどで調べれば安いのもありますが、矯正が得意な医院かどうかなどを良く調べてからかかるのが良いでしょう!普段通っている歯科医院からの紹介が良いと思います。
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