嚥下障害の治療法と障害が起きる3つの原因、関係する病気

嚥下障害の治療法と障害が起きる3つの原因、関係する病気

「嚥下(えんげ)」とは、食べ物を噛んで、飲み込むまでの一連の動作を指します。この過程で何らかの問題があり、喉に食べ物が引っかかったり、むせてしまったりすることを「嚥下障害」と呼んでいます。

嚥下障害が進むと食事の時間が長くなるだけではなく、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)という気管内に流入、または残留した食べカスによって引き起こされる深刻な感染症を併発する恐れがあります。嚥下障害が起こったときには、早い段階で原因をつきとめ、適切な治療を行うことが重要です。

この記事の目次

1.嚥下障害の治療法

嚥下障害の治療法は、栄養摂取に加え、水や食べ物、唾液、胃液などが誤って気管に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」防止の観点により、正しく「噛む・飲み込む(嚥下)」動作を獲得するためのリハビリか手術が選択されます。この章では、嚥下障害の治療法について紹介していきます。

1-1リハビリによる治療

リハビリによる治療は「間接訓練」と、「直接訓練」に分けられます。通常は間接訓練から開始され、様子を見ながら徐々に直接訓練の機会を増やしていく方法が基本です。

間接訓練

間接訓練は実際の食べ物を使わずに行います。例としては以下の通りとなっています。

・リラクゼーション

身体がこわばっていると誤嚥しやすくなるため、頸や肩を中心とした上半身のストレッチ運動を行い、正しく嚥下する環境を整えます。

・口唇、舌、頬の運動

口唇、舌、頬の可動性を拡大し、筋力強化を図ります。

・喉のアイスマッサージ

喉に例刺激を与え、嚥下反射(食べ物が気管に入らないように食道へ導くための運動を起こす反射)を誘発します。

・嚥下反射促通手技

頸もとに手を添えて、嚥下にかかわる筋肉に刺激を与えて運動が起きやすくなるようにします。

・バルーン訓練

主に、喉の開きが悪く食べものが通過しにくくなっているケースに用いられる手法です。球状または筒状のバルーンを使って、喉の奥のストレッチを行います。

・呼吸、喀痰訓練(かくたんくんれん)

呼吸にかかわる筋肉を強化し、喉に痰(たん)や食べ物がひっかかってしまった時に排出を促します。

・姿勢保持訓練

姿勢が崩れると誤嚥しやすくなるため、食事しやすい姿勢を設定するとともに、その姿勢を20~30分間保持できるよう訓練を行います。

直接訓練

直接訓練ではやわらかいものから段階的に食事をとっていきます。

・食事形態の調整(段階的嚥下訓練)

ミキサー食、ゼラチン寄せ、とろみ食など、誤嚥を最小限に止めるための食事形態を段階的に取り入れながら、通常の食事に近づけていきます。

・複数回嚥下訓練

一口につき複数回にわけて飲み込む方法を習得し、口腔や喉頭内に食べ物が残るのを予防します。

自分で行えるリハビリ 

病院でのリハビリだけではなく、家庭でもリハビリを取り入れることで嚥下障害の改善、予防を期待することができます。食事前に行うとより効果的です。

・口唇、舌、頬の運動

肩の力を抜いて口唇を大きく横に広げたり、頬を膨らませるなどして周辺の筋力を強化します。舌は、口唇をなぞるように動かしたり、鼻に近づけるなどして舌の柔軟性を高めると良いでしょう。

・呼吸訓練

お腹に手を当てて深い呼吸(腹式呼吸)を繰り返します。腹式呼吸は、食べ物が喉にひっかかった時の喀痰を助けます。

・発声練習

「ぱ行」「ら行」「た行」「か行」の発音は、口唇や舌、頬周辺の筋力を鍛えるのに最適です。

・口腔ケア

歯ブラシで舌や歯茎を刺激すると、嚥下にかかわる神経や筋肉の動きを活性化すると言われています。口腔内の衛生状態が保たれ、誤嚥性肺炎の予防にも繋がります。

1-2手術による治療

手術になるケースとは

誤嚥や誤嚥性肺炎をたびたび繰り返している場合や、重度の意識障害や認知症などの理由で、リハビリでの改善が難しく、全身の栄養状態を悪化させる恐れがあると判断されたケースに対しては、手術の適用が検討されます。

嚥下障害に対して行われる手術には、誤嚥の原因となっている部分を除去する「嚥下機能改善手術」と、誤嚥を消失させる「誤嚥防止手術」の2種類に分けられます。

手術の種類とリスクについて

「嚥下機能改善手術」の代表的な術式には、食道の入り口を広げる輪状咽頭筋切断術や、食べ物をスムーズに食道へ送ることを目的とした喉頭挙上術などが挙げられますが、いずれの術式も嚥下機能を元通りに取り戻すものではないため、術後のリハビリが必須となります。

「誤嚥防止手術」は、嚥下機能改善手術では改善が見込めない重度のケースに適用されます。この術式では、気管と食道を分離させる過程で発生機能を失ってしまうため慎重な判断が必要です。

1-3 治療の相談や実際に治療を行ってくれる場所

嚥下障害の治療を専門としている歯科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科で治療を受けることができます。また、神経内科・外科でも相談に応じる場合があります。

歯科

嚥下障害の治療に加え、咬合(噛み合わせ)の確認や入れ歯の調整、虫歯や歯周病が多く口腔内が不衛生になりやすいケースでは、歯科受診を選択します。

耳鼻咽喉科

耳鼻咽喉科を受診した75歳以上の高齢者のうち、約1/3が誤嚥があったという報告があるように、嚥下障害と耳鼻咽喉科の強い関連性が指摘されています。鼻づまりの症状から、嚥下障害に繋がる喉頭・咽頭の異常が発見されるケースもあります。

リハビリテーション科

脳卒中や神経筋疾患の患者さんを対象とするリハビリテーション科には、嚥下障害に詳しい医師・看護師・療法士などが多数在籍しています。訪問リハビリの一環として嚥下訓練を行っている施設もあります。

2.嚥下障害が起きる3つの原因

嚥下障害の原因は、「器質的要因」、「機能的要因」、「心理的要因」の3つが原因であると考えられています。しかし、実際には原因が複数に及んでいたり、最後まで原因を特定できない場合も多くあります。

そして、一人ひとりの状態に応じた治療計画書に基づき、医師・歯科医師・看護師・歯科衛生士・栄養士・言語聴覚士・理学療法士・作業療法士など様々な専門職と連携しながら進められるのがベーシックです。

2-1 器質的要因

口腔・咽頭・胃内部の形態異常により食べ物がうまく通過できない(先天性奇形、口内炎、喉頭ガンなど)

2-2 機能的要因

神経・筋肉の障害により食べ物を上手く噛めない・飲み込めない(脳血管障害、脳性マヒなど)

2-3 心理的要因

精神的な理由で生じるもの(うつ病、ヒステリーなど)

3.歯医者さんで嚥下障害の程度を知る

嚥下障害の内容や程度は、医師または歯科医師による問診や口腔内の診察、嚥下機能検査、内視鏡検査などによって総合的に判断されます。

嚥下障害の検査法

・問診

既往歴や現在の健康状態、服薬内容、食事内容に加え、食事の時のむせ、鼻への逆流、痛みの有無などについて具体的に質問し、嚥下障害の兆候があるかどうか確認します。また、嚥下障害改善の可能性を判断するために、日常生活の自立度や認知機能の検査を行う場合もあります。

・診察

診察では、食事に必要な体力や筋力、姿勢保持機能を診るほか、口腔内や喉頭、咽頭に形態異常がないかどうか直接観察します。

・嚥下機能検査

唾液を繰り返し飲み込み(空嚥下)、30秒以内に何回嚥下できるか数える「反復嚥下テスト」や少量(30ml~100ml)の水を飲む様子を観察し、嚥下や呼吸の様子を観察する「水飲みテスト」が行われます。また、症状によってはゼリーやプリンなどの固形物を食べて誤嚥の有無を確認する「食物テスト」を併せて行う場合もあります。

・嚥下内視鏡検査

内視鏡を用いて、食べものが食道を通過していくまでの一連の様子をリアルタイムで観察する方法です。誤嚥の有無はもちろんのこと、口腔、喉頭、咽頭、食道の形態異常や機能低下を特定することが可能になります。

4.嚥下障害と関係する病気

4-1 脳血管疾患

脳血管疾患とは、脳内に走る血管に異常によって生じる脳機能障害の総称です。血流が滞り酸素や栄養分が脳細胞に行き届かなくなると、運動マヒや言語・聴覚障害、認知機能障害など様々な症状が現れます。嚥下障害を引き起こす疾患の約4割が脳血管疾患であると言われ、脳血管疾患と嚥下障害が深く関連していることが明らかになっています。

4-2 神経筋疾患

パーキンソン病や多発性筋炎、筋ジストロフィーなど、神経の伝達経路や神経と筋肉の接合部分の異常によって生じる神経筋疾患では、嚥下に必要な筋力や嚥下反射機能が低下し、誤嚥が起こりやすくなります。内服薬の副作用により嚥下障害が生じるケースも少なくありません。

5.まとめ

嚥下障害を克服するには、長期的なプランを立てることが大切です。嚥下障害は、重度化すると栄養失調や肺炎など、生命を脅かす深刻な事態を引き起こす恐れがあります。原因疾患や全身状態、年齢などにより予後は異なりますが、根気よくリハビリを続けていけば予防だけではなく改善も可能です。医師や看護師、栄養士、療法士など多職種と連携しながら、長期的なプランを立てて嚥下障害の克服を目指していきましょう。

経歴

2007年 第100回歯科医師国家試験合格
2007年 日本歯科大学 生命歯学部卒業
2008年 埼玉県羽生市 医療法人社団正匡会 木村歯科医院
歯科医師としてのホスピタリティの基礎を学ぶ。
2010年 埼玉県新座市 おぐら歯科医院
地域に密着した医院で地域医療に携わり、
小児から高齢者歯科まで治療を行う。
2011年 東京都文京区 後楽園デンタルオフィス
施設の訪問診療などにも携わる。
2015年 東京都港区 青山通り歯科 院長
現在に至る

執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

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