「口の中が乾燥している」「口臭がひどくなった」などの悩みを抱えているなら、原因はドライマウスかもしれません。別名「口腔乾燥症」とも呼ばれていて、「唾液の分泌量が減り、口腔内が乾燥する症状」を指す言葉です。
唾液は口腔内の健康を保つ上で重要な働きをしています。こちらの記事では「唾液の重要性」とともに、ドライマウスの原因・治療法をまとめることにしました。
この記事の目次
1.唾液の働きを知る!なぜ、ドライマウスが問題になるのか…?
唾液は、私たちの口腔環境を維持する上で、さまざまな役割を負っています。「ドライマウスが悪化すると、どんなふうに困るか」を意識するためにも、まずは「唾液の働き」をまとめることにしましょう。
1-1 抗菌物質で細菌の増殖を抑える!
唾液にはさまざまな抗菌物質・殺菌物質が含まれています。代表的なのは、リゾチームやラクトフェリンでしょう。リゾチームは細菌の細胞壁を分解する作用を持っており、直接的に殺菌することができます。細胞壁が壊されると、細菌の細胞が溶解するからです。
ラクトフェリンは、口の中に存在する第二鉄イオンと結合する働きがあります。細菌を含め、大半の生物は生きるために鉄を必要とします。ラクトフェリンは、細菌が必要とする鉄をあらかじめ奪うことによって、細菌の増殖を抑えるわけです。
そのほかにも、ヒスタチン、ディフェンシン、免疫プログリン(抗体)など、唾液にはさまざまな抗菌物質が含まれています。唾液は、歯周病などの口腔トラブルを抑えるための防波堤として機能しているのです。
1-2 口の中が酸性に傾くのを防ぐ!
歯の表面にあるエナメル質は、「pH5.5以下の酸性」で溶けはじめます。口の中が酸性に傾くことが、虫歯の第一歩になるわけです。虫歯菌が歯を溶かすのは、「糖質を乳酸に変えて、口腔内を酸性にする」というメカニズムによります。ですから、虫歯を防ぐためには、口腔内が酸性に傾くのを防がなくてはなりません。
食事をすると、口の中が酸性に傾きます。食品は基本的に酸性ですし、糖質を含んでいるからです。しかし、食事をしたからといって必ずしも虫歯になるわけではありません。食後、唾液の分泌量が増えて、口の中の酸を薄めてくれるからです。つまり、唾液の働きにより、口腔内の酸が中和されていることになります。
1-3 消化吸収をサポートする!
消化器官というと「胃腸」と想像する人が多いですが、実は口腔内も立派な消化器官です。唾液には「アミラーゼ」という消化酵素が含まれていて、炭水化物を麦芽糖(マルトース)に消化しています。炭水化物を効率的に消化吸収するためにも、唾液の働きは欠かせません。
また、消化酵素の働きだけでなく、「噛み砕いて飲みこみやすくする」という物理的な側面も重要です。唾液があるからこそ、おかゆのように柔らかく噛み砕くことができます。飲みこみやすいように柔らかくまとめることを「食塊形成(しょっかいけいせい)」と呼んでいます。
1-4 潤滑油として、口腔内の組織を守る!
唾液には、口の中が傷つかないようにする潤滑油の役割もあります。口の中が乾ききっていると、舌・口腔内が摩擦によって容易に傷ついてしまいます。唾液に一定の粘性があることで、口腔内の組織が守られていることになります。
2.ドライマウスの症状
前述のとおり、唾液は口腔内で重要な役割を負っています。口の中が乾燥するというのは、要するに唾液が不足するということです。つまり、「唾液が果たしていた役割が、果たされなくなること」を意味します。その結果、主に以下のような症状が現れます。
2-1 虫歯・歯周病リスクの増大
ドライマウスになると、「口の中の細菌を抑える作用」と「口腔内が酸性に傾くのを防ぐ作用」が同時に低下します。そのため、細菌が増殖しやすく、口腔内が酸性になりやすい環境が続いてしまうわけです。当然ながら、ドライマウスの場合、虫歯・歯周病のリスクは明確に増大することになります。
2-2 口臭の悪化
「口の中の細菌を抑える作用」が低下することで、口腔内の細菌量が増加します。また、唾液によって口の中が洗い流される頻度も減り、歯垢が付着しやすくなります。結果、歯垢の中でどんどん細菌が増殖し、口腔内の衛生状態が悪化します。不衛生な状態は、口臭の悪化に直結します。
2-3 咀嚼・嚥下が困難になる
ドライマウスによって唾液が不足していると、「食べ物を効率的に噛んで飲みこむ力」が失われます。特に乾燥した食べ物を口の中でひとまとまりにするには、水分が不可欠です。小麦粉に水を加えれば餅状になりますが、水分がなければ粉のままです。
同じように、口の中に水分がなければ、「1つにまとまったカタマリ」として飲みこむことができません。結果、効率的に噛んで飲みこむことができなくなるのです。特に乾いた食品を咀嚼・嚥下することに困難を感じます。
2-4 舌炎・口内炎の慢性化
唾液は口の中で潤滑油の役割を果たしていますから、ドライマウスになると口腔内の摩擦が増加します。結果、舌・口腔粘膜が少しの刺激でも傷つくようになります。慢性的に刺激を受け続けるので次第に炎症を起こし、舌炎・口内炎に発展することも出てくるでしょう。しかも、摩擦による刺激がなくならない以上、炎症は慢性化する傾向にあります。
3.ドライマウスの基本的な治療法とは…?
ドライマウスというのは症状の名前であり、「ドライマウス」という病気が存在するわけではないのです。そのため、ドライマウスの根本治療は容易ではありません。この章では、ドライマウスの主な原因をまとめ、それぞれの治療方針を見ていくことにしましょう。
3-1 「噛む回数が少ない」or「噛む力の低下」
唾液はいつも一定量が分泌されるわけではありません。食事中は唾液が増え、何もしていないときは減ります。そして、「食事中に唾液が増える」という現象の引き金になっているのは「噛むこと」です。つまり、よく噛むことで、自然と唾液の分泌量が増加するわけです。
きちんと噛まずに食べたり、柔らかく噛み応えのないものばかり食べたりすると、だんだん噛む力が低下していきます。噛む力が失われれば、徐々に噛む癖がなくなり、噛む回数も減っていくでしょう。この悪循環が長く続くと、ドライマウスを引き起こすことがあります。
対処法…噛む回数を増やす 義歯による補綴(ほてつ)など
よく噛んで食べるように心がければ、「噛む力」は修復していきます。軽度のドライマウスならば、噛むことを習慣づけるだけでも多少は変わってくるでしょう。また、「歯を失ったことで噛む機能が低下している」などの物理的要因がある場合、義歯(入れ歯)をつくるなどして、噛む機能を取り戻しましょう。入れ歯のように「失われた歯を人工物で補う治療」を補綴と呼びます。
3-2 「口呼吸」「口を開けて寝る癖」などによる口腔乾燥
口呼吸の癖があったり、口を開けたまま寝る癖があったりすると、口腔内が乾燥します。安静時は、自然に鼻呼吸をするのが正しい呼吸法です。
対処法…マスク・閉口テープなどで鼻呼吸の習慣づけ
睡眠時にマスクをしたり、口を閉じるためのテープをつけたり、「口腔内の乾燥を防止する」という方向の対処をしましょう。鼻呼吸を促すためのグッズが市販されているので、試してみるのも良いと思います。
3-3 服用している薬の副作用
処方薬・市販薬を問わず、用いられている内服薬に「口が渇く」という副作用があります。そのため、日常的に服用している薬の副作用で、ドライマウスになることがあります。
対処法…医師・薬剤師に相談
処方薬は必要があって処方されているはずなので、「ドライマウスだから…」という理由だけでやめるわけにもいきません。主治医に相談して、副作用を抑えられないか検討してもらってください。市販薬が原因と思われる場合には、まず薬剤師に相談すると良いでしょう。
3-4 全身疾患の症状として現れるケース
糖尿病、腎臓病、肝硬変、膠原病(こうげんびょう)、シェーン・グレン症候群などは、症状の1つとしてドライマウスを伴うことがあります。この場合、全身疾患の治療を継続し、治癒を目指すことになります。
対処法…人工唾液による対症療法
全身疾患の治療をしながら、「ドライマウスに関しては対症療法で症状を抑える」という方向性になります。スプレー・軟膏タイプの口腔潤滑剤(人口唾液・代用唾液)を用いる方法です。また、漢方薬の「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」に一定の有効性を認める医師もいます。
4.まとめ
唾液の分泌量は加齢によっても減少しますから、ドライマウスは誰にとっても他人事ではありません。唾液が口腔内で果たしている役割の重要性を知り、健康なうちから「よく噛む」「自然な鼻呼吸を心がける」など、ドライマウスの予防に努めましょう。
ドライマウスは近年増えている口腔疾患です。虫歯を多発させてしまったりしてしまうリスクの高い疾患です。おかしいな?と思ったら一度、大学病院等にドライマウス外来等がございますので、ご相談に行くとよいでしょう。
執筆者:
歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。