80歳まで自分の歯を残すためのデンタルフロス実践法

80歳まで自分の歯を残すためのデンタルフロス実践法

歯の健康を保ち続けるには、毎日寝る前にデンタルフロスを使う習慣が大切なのです。デンタルフロスは、歯ブラシでは落としにくい歯と歯の間の歯垢を除去するのに効果的で、虫歯や歯周病を防いでくれる『予防歯科』に欠かせないアイテムです。ただ、その使い方については“自己流”で行っている方がほとんどのようです。

『デンタルフロスで歯茎を傷めるのが心配…』『初めて使うので怖い…』歯茎を傷つけてしまうのではないかと懸念し、使うのをためらっている方も多いのではないでしょうか。

この記事では、デンタルフロスが毎日のオーラルケアにどれだけ欠かせないものなのか、口内環境が整えられる訳を“3つ”お伝えします。そして、今まで理解しているようで理解していなかった、その使い方までわかりやすく紹介しますので、ぜひ読んで参考にしてみてください。

この記事の目次

1.デンタルフロスを使うと口内環境が整えられる3つの訳

1-1 歯垢除去率が『約80%』という数字が示す裏づけ

歯間部の歯垢(プラーク)除去効果

「日本歯科保存学会」の学会誌『日歯保存誌』によれば、歯ブラシのみでは歯間部の歯垢が『約60%』しか落とし切れないが、歯ブラシと一緒にデンタルフロスを併用することで、『約80%』まで上昇するといわれています。

虫歯や歯周病にかかる前にきちんとした対策を行うという『予防歯科』の考え方からすると、歯ブラシのみのケアでは、真の対策にはならないのです。

データの数字は、デンタルフロスが毎日のオーラルケアに欠かせないものであることを示しており、口内環境を整えられるということを証明したものといえるでしょう。

1-2 歯間部をきれいに掃除できる機能性

歯ブラシの毛先だけでは、歯の隙間に入り込んだ歯垢をかき出すのは難しいといえます。しかし、その難所である歯間部も、糸状のデンタルフロスなら通すことが可能です。歯間部を掃除できる便利な機能性は、デンタルフロスが口内環境を整えられる要因の一つといえます。

デンタルフロスには巻きつけられた糸を切って使用する「糸巻きタイプ」と、「ホルダータイプ」の2種類が販売されています。自分の好みに合わせて使ってみましょう。

ただ、初めてデンタルフロスを使う場合、歯間部に入りやすいようにワックスが塗られたタイプがおすすめです。また、持ち手があることで使いやすいホルダータイプで試してみるのも良いでしょう。

1-3 使用後にお口の中の健康状態が確認できる

デンタルフロスを使うと、普段気づきにくいお口の中の“今”がわかります。自分のお口の中が健康な状態なのか、そうでないのかがわかるのです。自分のお口の中の状態をしっかり把握することで、口内環境を整えることが可能になるのです。

①虫歯・歯周病の症状がわかる

デンタルフロスを使用して、歯と歯の間のざらつき感や、何度も同じ歯の部分で引っかかるような感覚があった場合、それは「虫歯」の症状が生まれている可能性があります。比較的、初期の虫歯である場合が多いですが、その初期状態のときにケアすることで、虫歯の進行を防ぐことにつながっていきます。

また、デンタルフロスは歯間部に糸を通すことで、歯茎に触れて出血を起こすことがあります。出血が起きるのは「歯周病」の症状である証しです。デンタルフロスが使用後に血によって赤く染まった場合、歯茎に炎症が起きていることを自覚することができます。歯周病は知らないうちに進行する「サイレントキラー」と呼ばれる病気です。早めの段階で歯周病であることがわかれば、治療する上で大きなメリットとなります。

歯周病の対策には、歯と歯茎の境目をしっかりケアしてあげることが重要です。「セルフケア」だけでは不十分だと感じた場合には、歯医者さんで治療してもらうこともできます。

②「詰め物」や「被せ物」が歯に合っているかどうかがわかる

歯の治療で「詰め物」や「被せ物」を行った場合、その歯の間にデンタルフロスを挿入すると引っかかったり、フロスが入らないようなことがあります。それは、詰め物や被せ物が自分に合っていないというサインであり、新しいものへ変更する必要があります。

なぜなら、合わなくなった詰め物や被せ物の付近から、再度虫歯になるというケースがあるからです。デンタルフロスを使用することは、このような虫歯発生のリスクを防ぐことになるのです。

③口臭の原因になっているかどうかがわかる

歯間部には食べカスや歯垢が多く取り残されてしまいます。歯ブラシで除去できなかったその部分をデンタルフロスで掃除したあと、使用後のフロスを一度、嗅いでみましょう。もし悪臭がすれば、それが「口臭」が発生している原因になっているかもしれません。

毎日きちんと歯ブラシで磨いていても、落としきれなかった歯垢が口臭の原因になっていることがあります。今まで何となく口臭が気になっていたという方は、デンタルフロスを使ってみて、初めてその原因が明らかになることがあるのです。デンタルフロスは口臭対策の強い味方にもなるのです。

2.デンタルフロスの効果は「80歳」になったときにわかる!?

2-1 日本のデンタルフロス利用者は5人に1人

3カ国のデンタルフロス使用者の割合

2014年の「ライオン株式会社」が行ったオーラルケアに関する意識調査によると、アメリカとスウェーデンでは半数以上の人がデンタルフロスを使っているそうです。日本人と比べると、その数字の差は歴然としています。

アメリカが『60.2%』、スウェーデンでは『51.3%』という結果とは対照的に、日本では、わずか『19.4%』の人しかデンタルフロスを使用した経験がないことがわかったのです。

※参考資料:2014年「ライオン株式会社」オーラルケア意識調査

2-2 デンタルフロスを使い続けると効果は2倍に!

半数以上の人がデンタルフロスを使用しているスウェーデンでは、80歳で残っている歯の数が『15~20本』という、予防歯科をきちんと行っている結果が数字として反映されています。それに対して日本は、たったの『6~8本』。明らかに差が出た結果となりました。

毎日のオーラルケアにデンタルフロスを取り入れるだけで、その効果は2倍の影響力をもたらし、80歳になっても自分の歯でしっかりと食事を楽しむことができるのです。

3.デンタルフロスの正しい使い方

3-1 日本は欧米のように歯医者さんでオーラルケアを学んでいない

自己流でオーラルケアを行っている人の割合(3カ国)

歯医者さんでオーラルケアの指導を受けたことがある人の割合(3カ国)

日本では、デンタルフロスや歯間ブラシなどの使い方(オーラルケアの仕方)について、“自己流”で行っている人が『58.5%』と半数以上にものぼります。また、正しい使い方を『歯医者さんで教えてもらった』ことがある日本人は『36.5%』しかおらず、アメリカが『41.5%』、スウェーデンが『72.5%』という数字に比べると、3カ国でも低い結果となってしまいました。

この結果を見ればわかるように、日本ではデンタルフロスの存在は知っていても、実際に使い方を指導してもらった経験がないことから、使用に対して不安や戸惑いがあるのではと推測されます。

しかし、デンタルフロスは誰でもすぐに覚えられてすぐに実践できる「デンタルグッズ」です。予防歯科のために欠かせないものであることは、これまで紹介してきた通り明らかであるので、ぜひ覚えて毎日のオーラルケアとして習慣づけてください。

※参考資料:2014年「ライオン株式会社」オーラルケア意識調査

3-2 「2分」で覚える!デンタルフロスの実践法

デンタルフロスを一度も使ったことがない人でも、一度覚えてしまえばすぐに実践できるようになります。しかも、たった「2分」ですぐに覚えることができるので、まずは「一日1回」夜寝る前に試してみましょう。

◆糸巻きタイプの使い方の流れ

①ケースから糸を引っ張り出し、指先からひじまでの長さ「約40cm」に切る

糸巻きタイプの使い方 フロスを切る

②次に両手中指に巻きつけ、10~15cm程にピンと張る

糸巻きタイプの使い方 10~15cmの幅にする

③清掃する場所(上下の前歯・奥歯)によってそれぞれ持ち方が異なる。

上の前歯を清掃するときの持ち方

上の前歯を清掃するときの持ち方

上の奥歯を清掃するときの持ち方

上の奥歯を清掃するときの持ち方

下の前歯・奥歯を清掃するときの持ち方

下の前歯・奥歯を清掃するときの持ち方

④デンタルフロスを歯間部に入れる場合、小さくゆっくりと前後に動かして入れていく

デンタルフロスを歯間部に入れ小さく動かす

⑤「歯肉溝」と呼ばれる、歯垢の溜まりやすい部分を意識して「くの字」にして歯垢をからめ取っていく

「くの字」にして歯垢をからめ取っていく

⑥小さく動かしながら、ゆっくりと糸を引き抜く

ゆっくりと糸を引き抜く

◆糸巻きタイプの使い方を「歯医者さん提供」の動画でマスターしよう!

出典:youtube.com

◆ホルダータイプの使い方の流れ

①糸巻きタイプと同様に、ゆっくりと前後に動かして歯間部に挿入する

ホルダータイプの使い方 ゆっくりと隙間に入れる

②「歯肉溝」を意識し、上下左右に動かして歯垢を取り除く

ホルダータイプの使い方 上下左右に動かす

③小さく動かしながら、ゆっくりと抜く

ホルダータイプの使い方 ゆっくりと抜く

◆ホルダータイプの使い方を「歯医者さん提供」の動画でマスターしよう!

出典:youtube.com

3-3 デンタルフロスの頻度は「一日1回」就寝前に行うのが良い

デンタルフロスを使う頻度は「一日1回」、就寝前に行うのが良いやり方です。朝起きたときや昼食後の時間帯は、比較的忙しい時間帯であるため、夜寝る前に歯ブラシで歯を磨いたあとの“仕上げ”として行うのが目安です。歯ブラシだけでは、オーラルケアは不十分であるとお伝えしてきました。そのことを忘れず、毎日欠かさずデンタルフロスを使用するように心掛けましょう。

4.使いやすくて歯垢もスッキリ除去できる『フロス2選』

ここまで、デンタルフロスの重要性や使い方についてお伝えしてきましたが、いざ使ってみようと思ったとき、どんなデンタルフロスを使っていいのか悩まれると思います。

デンタルフロスは毎日行うケアですので、使いやすく、かつ、歯垢をしっかり除去できるものを選ぶのがポイントです。この章では、そのポイントをしっかり押さえた『フロス2選』を紹介します。

◆「スポンジタオル」で歯の汚れを拭き取っているような感覚のフロス

初めてデンタルフロスを使用する場合、歯と歯の間に上手に挿入できるのかが、重要なポイントになってきます。歯間部は歯茎にも密接していて、お口の中でもデリケートな部分です。その部分に対してストレスなく糸を通せれば、毎日のオーラルケアも自然と楽しくなるはずです。

糸巻きフロスの中でも、お口の中の水分によってふくらみ、3~4倍の太さになるスポンジタイプのフロスがおすすめです。口内でフロスが膨らむことで歯垢をからめ取りやすくなるからです。しかも、スポンジ状なので歯茎にやさしく、使用中に歯茎を傷めないかと不安な方でも安心して使用できる製品です。イメージとしては、まるで「スポンジタオル」で歯の汚れを拭き取っているような感覚で、使用後のスッキリ感を味わえます。初心者の方だけでなく、以前からデンタルフロスを使用している方も満足できる製品です。

 

◆握りやすく操作性の高い『高強度』の糸を使用したフロス

ホルダータイプのデンタルフロスは、ハンドル操作ができるという点で、糸巻きタイプよりも使いやすいといえます。特に「Y字型」のホルダータイプは、奥歯の歯間部の掃除がしやすく、デンタルフロスを初めて使う方に最適です。

Y字型のフロスの中でも、糸の強度が高く、洗うことで何度も繰り返し使用できるものがおすすめです。また、握りやすくて操作性の高いハンドルは、狭い歯間部、特に奥歯の歯間部にもしっかり挿入が可能です。

5.「デンタルフロス」と「歯間ブラシ」2つの使い分け

歯間清掃に使われるデンタルグッズとして、デンタルフロスとよく比較されるのが歯間ブラシです。2つとも歯ブラシでは除去しきれない歯垢を取るのに効果を発揮してくれますが、その使い分けについてはあまり知られていない部分だと思います。

歯と歯の間が狭い人は、歯間ブラシが上手く入らない場合があります。そういった場合、無理矢理ブラシを挿入してしまうと、歯や歯肉を傷つける結果を招いてしまいます。歯間ブラシにはサイズがいくつか用意されていて、自分のお口に適したサイズのものを選ぶことが重要になってくるのです。歯間部の狭い方には、デンタルフロスを使う方が良い選択といえるでしょう。

ただ、歯周病の症状があり、歯肉が下がってしまうことで、歯間部が広がってしまうことがあります。こうなってしまった場合は、歯間ブラシを使うことで歯周病の進行を食い止める必要があります。

用途としましては、歯と“歯肉”の間を掃除するのに適しているのが歯間ブラシであり、歯茎の炎症が原因である、歯周病の進行を防ぐのにより有用であるといえます。

デンタルフロスの場合、もちろん歯周病予防にも効果的ですが、歯と歯の間の歯垢を除去するという観点からいうと、虫歯予防に対しても効果が発揮できるといえます。自分のお口の中の状態を見極めてから、2つを使い分けてみましょう。

6.まとめ

この記事では、デンタルフロスがもたらす効果と使い方について詳しく紹介してきました。デンタルフロスを初めて使用する場合、歯と歯の間に糸を通すのが不安に感じる方は多いと思います。しかし実際に挑戦してみると、意外と簡単に使い方を覚えられ、夜寝る前の「ルーティン」として当たり前の要素になってくるはずです。オーラルケアは毎日欠かさず行うことで、効果を発揮します。日々の積み重ねが『予防歯科』にしっかりつながっていくのです。

経歴

2007年 第100回歯科医師国家試験合格
2007年 日本歯科大学 生命歯学部卒業
2008年 埼玉県羽生市 医療法人社団正匡会 木村歯科医院
歯科医師としてのホスピタリティの基礎を学ぶ。
2010年 埼玉県新座市 おぐら歯科医院
地域に密着した医院で地域医療に携わり、
小児から高齢者歯科まで治療を行う。
2011年 東京都文京区 後楽園デンタルオフィス
施設の訪問診療などにも携わる。
2015年 東京都港区 青山通り歯科 院長
現在に至る

執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

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