バイオフィルムを除去して口腔環境を保つ!虫歯・歯周病の基礎知識

バイオフィルムを除去して口腔環境を保つ!虫歯・歯周病の基礎知識

近年、歯科治療に関する説明の中で「バイオフィルム」という単語を目にする機会が増えてきました。「歯に付着した汚れのこと」と理解している人が多いようですが、詳しく意味を説明できる人はあまりいらっしゃらないと思います。

こちらの記事では、歯の健康を考える上での基礎知識として「バイオフィルムという言葉の意味」を解説したいと思います。もちろん、「バイオフィルムを除去する方法」にも言及していますので、ぜひ、参考にしてください。

この記事の目次

1.そもそも、バイオフィルムとは何か?

実のところ、バイオフィルムというのは歯科治療に限定された用語ではありません。たとえば、風呂場の排水溝にある「ヌルヌルした付着物」もバイオフィルムです。同じように、池の中にある岩の表面にある「ヌルヌルした付着物」だってバイオフィルムです。「無数の細菌によって形成される構造体」であれば、どんな場所に存在していてもバイオフィルムと呼ばれます。固体・液体の表面に付着するので、基本的には膜状の構造をしています。

バイオフィルムを構成しているのは菌体(細菌の本体)だけではありません。「タンパク質」「多糖類」など、細菌が分泌した物質が細菌の隙間を埋めています。これらの物質を「EPS(細胞外高分子物質)」と呼びます。EPSはバイオフィルム内の細菌を守ると同時に、水・養分の運搬経路にもなります。バイオフィルムの中で生きる細菌同士は共存関係にあり、さながら「細菌の街」といった様相を呈します。

1-1 虫歯・歯周病の原因になるのは「口腔バイオフィルム」

口の中にできるバイオフィルムは、正式名称で「口腔バイオフィルム」と呼びます。ただ、歯科治療に関する文脈で「バイオフィルム」と表記すれば「口腔バイオフィルム」を意味することは明らかなので、記事内では「バイオフィルム」で統一します。

口の中には、付着対象の固体(歯)があり、豊富な水分(唾液)が存在します。しかも、定期的に養分(食べ物)が供給されますから、細菌がバイオフィルムを構成する場所として申し分ありません。まさに、バイオフィルム形成に適した環境といえます。口腔内にバイオフィルムを形成するのは、虫歯菌と歯周病菌です。

虫歯菌

ストレプトコッカス・ミュータンス菌に代表される虫歯菌は、歯の表面に付着してバイオフィルムを形成します。歯の表面で「糖を酸に変える」という代謝をおこない、歯を溶かしていくわけです。

歯周病菌

ポルフィノモナス・ジンジバリス菌などの歯周病菌は、「歯周ポケット(歯と歯茎の隙間)」でバイオフィルムを形成します。歯周ポケット内の歯周病菌は歯周組織にダメージを与え、最終的には歯を支える骨(歯槽骨)を溶かしてしまいます。

1-2 「バイオフィルム」「プラーク」「歯石」はどこが違うの?

さて、バイオフィルムと似たような文脈で使われる言葉に「プラーク」「歯石」などがあります。バイオフィルム・プラーク・歯石という3つの用語には、どのような違いがあるのでしょうか?

バイオフィルム

口腔バイオフィルムを指している場合、「口腔内に住みついている細菌の塊」を指します。より正しく表現するなら、「細菌本体と、細菌が分泌した物質」の集合体です。ただ、バイオフィルムと表現する場合は、「細菌同士が情報伝達をしながら共存する構造」という意味合いがより強くなります。

プラーク

デンタルプラークという言葉を用いると、「虫歯・歯周病の原因となる細菌の塊」という意味が強調されます。つまり、物質的には「バイオフィルム=プラーク」ですが、少しニュアンスが異なるわけです。日本語では歯垢と呼ばれます。

歯石

プラークが「唾液中のミネラル」と反応し、石灰化したものです。表面に目に見えないほど細かい穴があいていることから、虫歯菌・歯周病菌の住み処になります。特に「歯周ポケット(歯と歯茎の隙間)」に歯石ができると、歯周病の原因になります。歯茎より上にできる歯石(歯肉縁上歯石)は乳白色、歯周ポケットにできる歯石(歯肉縁下歯石)は赤褐色をしています。

2.バイオフィルムを除去するには、どうすれば良い?

食事から8時間ほどで歯垢が生成されます。そして、約48時間で、歯垢が歯石に変わります。歯石になってしまうと除去は困難なので、「歯石になる前に、なるべく早くバイオフィルムを除去する」という考え方が重要です。

2-1 物理的処置でバイオフィルムを落とす!

バイオフィルムは歯の表面に付着しているので、「うがい・洗口液」で落とすことは困難です。とはいえ、ブラッシングなどの物理的処置で除去できますから、日々の歯みがきを継続することが大切です。

ただ、歯ブラシだけのセルフケアで、バイオフィルムを落としきるのは困難でしょう。「歯と歯の隙間」「歯周ポケット」など、どうしても歯ブラシが届きにくい箇所が存在するからです。「デンタルフロス」「ワンタフトブラシ」などを併用して、細かい部分までしっかりとケアするようにしましょう。

バイオフィルムの形成から48時間で歯石ができはじめるので、「2日に1回は、デンタルフロス・ポイントブラシを使った丁寧なケアを心がける」という習慣づけがおすすめです。

2-2 歯石ができてしまうと…?

歯石になってしまうと、歯ブラシでは除去できません。「スケーラー」と呼ばれる金属製の器具を使って削り落とす必要がでてきます。この処置を「スケーリング」と呼んでいます。スケーリングは歯医者さんでおこなう「歯周基本処置」の1つです。つまり、歯石除去には通院を要するわけです。だからこそ、「歯石ができる前に、きちんとバイオフィルムを落とす」という習慣づけが大切になります。

3.まとめ

「バイオフィルムを形成する細菌」が原因になることから、虫歯・歯周病はともに「バイオフィルム感染症」に属します。マクロライド系抗菌薬・テトラサイクリン系抗菌薬などを用いた薬物療法をおこなう歯医者さんも出てきていますが、やはり最優先は「歯みがきによる機械的除去」です。日々のブラッシング習慣を見直して、バイオフィルムの除去に努めましょう。

 

先生からのコメント

バイオフィルムを落とすには、歯科医院でスケーリング、クリーニング、PMTCなどを定期的に行うことが重要です。

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電話:03-3601-7051
執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

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