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歯槽骨が溶けるメカニズム~歯周病がなぜ歯を失うことにつながるのか?

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一般に「虫歯よりも歯周病のほうが歯を失うリスクが高い」といわれています。これは、歯周病が歯を支える骨―「歯槽骨(しそうこつ)」にダメージを与えるからです。支えとなる歯槽骨がなくなってしまえば、歯を保存することはできません。「いくら頑丈な家でも、土地が陥没すれば無事に建ってはいられない」といったところです。

こちらの記事では、歯を支えている歯槽骨の重要性をお伝えするとともに、「なぜ、歯周病によって歯槽骨が失われるのか」を解説したいと思います。

1.歯槽骨はなぜ失われるのか?~骨芽細胞と破骨細胞

骨は、常に新しく作られたり、吸収されてなくなったりを繰り返しています。ふだん、骨の量が変化しないのは「新たに形成される量」と「吸収される量」が拮抗しているからです。骨を形成する細胞を「骨芽細胞」、骨を吸収する細胞を「破骨細胞」といいます。歯周病によって歯槽骨が失われるときには、この破骨細胞の働きが深く関わっているのです。

1-1 本来、身体は菌に対抗できる…!

人間には免疫力がありますから、歯周病菌を含めた病原菌を排除しようとします。免疫細胞には、異物を攻撃する働きがあるからです。人間の免疫には、大きくわけて次の2種類が存在します。

自然免疫

特に命令を受けなくても、自動的に異物を排除する方向で動くのが自然免疫です。簡単にいえば、病原体を捕食します。この「捕食して殺菌すること」を指して「貪食(どんしょく)」と呼んでいます。貪食をおこなっているのは、白血球の一種である「マクロファージ」「好中球」などです。

獲得免疫

獲得免疫は、感染したことがある病原体に対して、「その病原体を倒すための物質(抗体)」を用意して戦う免疫システムです。「マクロファージ」「樹状細胞」などが病原体を感知すると、病原体(抗原)の特徴を「ヘルパーT細胞」に伝達します。「こいつが敵だ」と提示する役割を負っていることから、マクロファージや樹状細胞のことを「抗原提示細胞」と総称しています。

抗原の提示を受けると、ヘルパーT細胞は指揮官として病原体と戦います。病原体を破壊する「細胞傷害性T細胞」、抗体を作成して撃ちだす「B細胞」などを動員して、病原体を攻撃するわけです。

1-2 歯周病菌による炎症が長期化すると…

本来、骨芽細胞と破骨細胞の働きは拮抗しています。しかし、「RANKL(破骨細胞分化因子)」と呼ばれる物質が増加すると、破骨細胞が優位の状態に変わります。「破骨細胞が骨芽細胞に対して優位」という状況が長く続けば、その部位の骨は失われていきます。「歯周病による歯槽骨の吸収」は、まさに破骨細胞優位の状況がつくられることが原因なのです。

この項目では、歯周病により破骨細胞優位の状況がつくられるメカニズムを解説することにしましょう。

免疫システムによる歯槽骨破壊

歯周ポケットの歯周病菌が増加してバイオフィルム(細菌のかたまり)が形成されると、歯周病菌の細胞内毒素(LPS)による刺激が生じます。すると、歯肉結合組織の中で、病原体に抵抗するための細胞―「Th1細胞」が増殖します。Th1細胞は「炎症性サイトカイン」を分泌し、歯周組織に炎症反応を起こします。

炎症は、もともと「病原体と戦うための状態」です。病原体が炎症を起こすのではなく、「免疫システムが炎症を起こして、そこで病原体と戦う準備を整える」と理解してください。しかし、歯周組織の炎症が長期化すると、大きな問題が生じます。炎症によって活性化されたマクロファージ・Th1細胞が産生する「インターロイキン1β」「TNF-α(腫瘍壊死因子)」などの物質には、歯周組織のRANKLを増やす働きがあるからです。

RANKLと「破骨細胞前駆細胞(破骨細胞の前段階)」が結合すると、破骨細胞が増え、歯槽骨が吸収されていきます。「インターロイキン1β」「TNF-α(腫瘍壊死因子)」には破骨細胞を活性化する働きもあります。この状態が長期的に持続すれば、やがて歯槽骨の大半が吸収され、歯を支えることができなくなってしまうわけです。

歯周病菌の細胞内毒素(LPS)などによる歯槽骨破壊

骨芽細胞ばかりが働き続けると、骨密度が過剰に高くなり、骨髄が狭くなるなどの問題を引き起こします。実際、骨芽細胞ばかりが働き、破骨細胞が働かなくなる病気で、「アルベルス・シェーンベルグ病(大理石骨病)」というものがあります。なので、もともと骨芽細胞ばかりが働くのを防ぐためのシステムが備わっています。それが、「骨芽細胞がRANKLを産生し、破骨細胞を形成する」というシステムです。

さて、歯周病菌の細胞内毒素(LPS)には、骨芽細胞・破骨細胞前駆細胞に作用して、破骨細胞の形成を促す働きがあります。さらに、破骨細胞のアポトーシス(細胞自然死)を抑制して延命させる働きまで持っています。その結果、LPSは破骨細胞優位の状況をつくりだし、歯槽骨の吸収を促進してしまうのです。

また、歯周病菌が有する「PGN」という物質、代表的な歯周病菌―「ジンジバリス菌」が産生するジンジバインなどにも、破骨細胞の形成を促進する働きがあります。

物理的な「力」による歯槽骨破壊

人間の体には、常に物理的ストレスが加わっています。足の骨なら「体重を支える負担」、歯槽骨なら「噛み合わせるときの負担」です。骨細胞は、こういった物理的な負担を感知して、必要に応じてRANKLを生成しています。物理的負担に合わせて「骨を吸収し、再形成するプロセス」を踏んでいるわけです。要するに、物理的負担に適合するように、骨をつくり変えているわけです。

歯周病で歯周組織が弱っていたり、噛み合わせ不良で不自然に力がかかったりすると、その部分の歯槽骨に過度な物理的負担がかかります。ラットの実験で、「炎症部位に物理的負担がかかるとRANKLの産生量が増加する」ことがわかっています。このとき、「歯と歯槽骨の隙間」にあたる歯根膜の細胞が増加しており、その歯根膜細胞にRANKLを産生する働きがある…と考えられています。

参照URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/perio/57/3/57_120/_html/-char/ja/#B25

2.歯槽骨を守ることが、歯を守ることにつながる!

虫歯と違い、自覚症状に乏しいまま進行する歯周病は、早期発見・早期治療が大切です。なるべく定期健診に通い、「歯周ポケットに歯石が溜まっていないか」「歯茎からの出血は見られないか」などを確認するようにしましょう。

とはいえ、近年は歯槽骨の骨吸収が進んでいる場合でも、歯を救えるケースが出てきています。「歯周組織再生療法」といった歯槽骨を再生する治療法を適用できる場合があるので、なるべく早めに歯医者さんに相談してみてください。

3.まとめ

歯槽骨は、歯を支える屋台骨のような存在といえます。「歯周病が歯を失う最大のリスク」と言われているのも、歯槽骨が吸収されてしまうからです。歯槽骨を守る重要性を理解し、歯周病の定期健診に通うようにしましょう。10年先、20年先も自分の歯で噛むためには、「歯槽骨の吸収を防ぐこと」が何より大切です。

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