歯科用語で「航空性歯痛(こうくうせいしつう)」という言葉があります。飛行機に乗った際に、気圧の変化によって歯の痛みを感じることです。飛行機以外でも、登山で高い山へ登ったときに一時的に痛みに襲われることがあります。
ただ、健康な歯であれば痛みを感じることは少なく、治療中の歯であったり、きちんと処置していなかったりする場合に、こうした症状が生まれます。
この記事では、航空性歯痛がなぜ起きるのかを詳しく紹介していきます。また、健康的な歯を保つために大切なことも伝えていきます。
この記事の目次
1.航空性歯痛が起きる理由
この章では、航空性歯痛が起きる理由について説明していきます。歯痛の原因となる気圧の変化は歯にどんな影響を及ぼしているのか、詳しく紹介していきます。
1-1 歯の神経が刺激を受けて痛みを感じる
気圧が変化すると、神経に影響を及ぼして体調不良を引き起こします。歯も同じように、歯の神経である「歯髄(しずい)」が」影響を受けて痛みが生じます。
歯髄が入っている空洞のことを歯髄腔(しずいくう)といいますが、この空洞の中は外の気圧と一定になるように保たれています。しかし、急激な気圧の変化によってこの歯髄腔の中の圧力が上昇すると、歯の痛みを伴うのです。虫歯によって穴が空いているような場合は痛みがさらに激しくなるといえます。
1-2 気圧の低い飛行機の中で発症
飛行機の中で歯の痛みを感じたことのある方は、前述の通り、気圧の影響によるものです。飛行機の場合、気圧の変化は、離陸後の上昇と着陸前の下降時の約15~30分の間に起こるとされ、高度を水平飛行したときの飛行機の中は、0.8気圧程度と低い環境になります。これは富士山の5合目くらいの高さ(標高約2,000m)に相当します。つまり、山登りの際にも同じような痛みを感じる可能性がある訳です。
1-3 痛くなる歯の状態について
飛行機に乗った際に痛くなってしまう歯の状態について、ここでまとめておきましょう。主に下記のような歯の状態の場合、痛みを伴う可能性があります。
虫歯によって穴が空いている歯
虫歯によって表面のエナメル質に穴が空いてしまった状態を「C1」と呼びます。普段は痛みを感じることが少ないのですが、気圧の変化によって痛みが出る可能性があります。
詰め物や被せ物をした状態の治療中の歯
詰め物や被せ物をした状態の歯の中は、気圧が低くなると膨張してしまいます。さらに、虫歯から腐敗したガスも入り混じって、急激な気圧の変化で痛みを感じるようになります。
虫歯が神経にまで達してしまった状態
虫歯が歯髄(神経)にまで達してしまうことがあり、この状態を「C3」と呼びます。痛みの程度には個人差がありますが、気圧の変化で痛みが増すことがあります。
歯の根っこに膿が溜まった状態
歯の根っこに膿が溜まった状態で気づかずに放置してしまうと、気圧の変化で急に痛みを感じることがあります。
親知らずの生えかけ、抜歯後
親知らずが生えかけの状態の場合、個人差はありますが、気圧の変化で痛みを感じることがあります。抜歯後も注意が必要で、抜歯後の状態が良ければ問題はないですが、飛行機に乗る予定がある場合は、親知らずの抜歯を受けるのは避けた方が無難です。
2.航空性歯痛の対処法
航空性歯痛が起きるのは、虫歯や治療途中の歯です。搭乗中に痛くならないように、旅行や出張などで飛行機を利用する前に治療を終えておくことが賢明です。
もし、飛行機に乗っている最中に歯が痛くなったら、客室乗務員の方に声掛けをして鎮痛剤をもらいましょう。ただ、これは応急処置に過ぎませんので、早めに歯医者さんに行ってきちんと治療してもらうことが何より大切です。
3.旅行前に歯科検診を受けることが大切
飛行機を利用して旅行を計画している方は、その前に一度「歯科検診」を受けておくことを推奨します。歯の痛みによってせっかくの楽しいイベントが台無しになってしまうだけでなく、機内で痛みに襲われないようにするためにも事前に検査を受けておくとよいでしょう。
旅行中に痛みを感じて、初めて虫歯があったことに気づく前に検診を受けておきましょう。定期的に検診を受けていない方であれば、約3か月前までには受診して、もし虫歯が見つかったらすぐに治療してもらうようにしましょう。
4.まとめ
旅行シーズンであれば、飛行機を利用する方は多くなると思います。気圧の影響で歯の痛みに悩まされ、旅を楽しめなくなるのは避けたいですね。歯医者さんで定期的に検診を受け、歯の健康を日頃から意識するようにしましょう。
歯科検診を受けていれば、自分では気づかなかった初期の虫歯も早期発見することができ、痛みがひどくなってから治療することもなくなります。早期の治療が何より大切です。
楽しい旅行に向かったはずが歯が痛くて楽しめないなんてことにならないように、ぜひ歯科検診を受けたり治療を完了させていただければと思います。
執筆者:
歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。