「乳歯に虫歯ができたら、歯医者さんに子どもを連れて行く」親御さんであれば当然、そうすることでしょう。しかし、難しいのは「乳歯が虫歯になっているかどうか」をどのように見極めるかです。
茶色くなったり黒くなったりすれば分かりますが、乳歯の虫歯は最初、乳白色のまま進行します。永久歯よりも進行が速いので、気がつく頃には虫歯はかなり進行していることが多くなる傾向があります。
虫歯は、悪化するほど治療が大がかりになります。削ったり痛みがあったりする治療は、子どもの「歯医者さん嫌い」を招く原因にもなる恐れがあります。
本記事では、虫歯の早期発見・早期治療につなげられるように「乳歯が虫歯かどうか」の見極め方を伝えています。親御さんが知っておきたい虫歯の基礎知識も、併せて確認していきましょう。
1.乳歯が虫歯かどうかを早期に見極めるポイントを乳歯の特徴とともに解説!
虫歯は基本的に自然治癒しないので、乳歯、永久歯に関わらず虫歯ができたら歯医者さんで診てもらうことになります。
ここで大切になるのは、「いかに早期発見できるか」です。
乳歯の虫歯は痛みを感じにくいと言われています。
また、子どもが自分で虫歯であることを伝えられるケースはほとんどないでしょう。
できるだけ早い段階で親御さんが見極め、歯医者さんで診てもらうことが大切です。
1-1.乳歯の虫歯を見極めるポイント
「虫歯」というと茶色や黒のイメージがあるかもしれません。
しかし、乳歯の虫歯は「白」または「白濁(はくだく=白く濁ったような色)」といったように、白っぽいまま進行していく特徴があります。
生えたての乳歯は白く透明感がありますが、虫歯になるとツヤが消え、白く濁って見えるようになります。
あるいは、歯と歯茎の隙間が黄色っぽくなることもあります。
この時点で、親御さんが気づいてあげることが大切です。
毎日の歯磨きの際に注意深く観察してあげましょう。
そうすることで、些細な異変にも気づきやすくなります。
少しでも濁ったような白さがあったり、歯と歯茎の間の色が黄色っぽいかな?と感じたりした場合は、虫歯を疑いましょう。
そして、早めに歯医者さんに相談することをおすすめします。
1-2.乳歯の特徴
乳歯はエナメル質(歯の表面を覆っている部分)や象牙質(ぞうげしつ=エナメル質の下にある層)が薄く、永久歯の半分程度の厚さしかありません。
乳歯は歯質が弱いため、虫歯になりやすい歯であると言えます。
また、組織の厚さが永久歯の半分程度しかないことから、虫歯になると象牙質や神経に到達するまでの期間も短くなります。
1-3.虫歯になりやすい箇所
乳歯で虫歯になりやすい箇所は次のような箇所です。
- 前歯の歯と歯の間
- 歯と歯茎の隙間
- 奥歯の溝
- 奥歯の歯と歯の間
毎日の歯磨きの中で見えにくい箇所が多いため、どうしても気づくのが遅れてしまいがちです。
予防法の項目で詳しく解説しますが、フロスを用いた自宅でのケアや、歯医者さんで定期健診を受けることが大切になってきます。
2. 乳歯の虫歯が抱える将来的なリスクとは?
乳歯は永久歯と比べて抵抗力が弱いため虫歯になりやすく、かつ、一度虫歯になると進行が早いです。
発見が遅れると、数ヶ月程度で神経まで達してしまうこともあります。
乳歯は何もせずとも、やがて永久歯へと生え替わります。
そのため、「どうせ生え替わるなら少しくらい虫歯があっても大丈夫なのでは?」と思ってしまうかもしれません。
しかし、乳歯の虫歯であっても、きちんとした治療が必要です。
乳歯の虫歯には、次のような将来的なリスクがあるためです。
2-1.子どもが歯医者さん嫌いになってしまう
乳歯が虫歯になり、発見や治療開始が遅れると、子どもが歯医者さん嫌いになってしまうかもしれません。
歯医者さんで削る、麻酔をするといった、痛みや怖さを伴う治療を受けることになるためです。
歯医者さんが嫌いになり、乳歯の虫歯の治療が思うように進まないことで
- 永久歯の成長に悪影響を与えてしまう
- 永久歯の歯並びに悪影響を与えてしまう
- 乳歯がぼろぼろになり、食事や成長に影響が出る
- 治療が大変になり余計に歯医者さん嫌いになる
といったような、さまざまなリスクが考えられます。
そうならないためにも、小さい頃から定期健診を受けることが大切です。
子どもが歯医者さんの顔を覚え、「怖いところじゃない」ということを感じられれば大成功です。
最初は、歯医者さんに通うことに慣れるところから始めましょう。
徐々に「病院」や「治療」といったことに対し、抵抗感が少なくなっていくでしょう。
2-2.永久歯の成長に悪影響を与えてしまう
乳歯の虫歯を放置し虫歯菌が神経まで達してしまうと、乳歯の下に控えている永久歯の成長に悪影響を与えてしまい、正しい形で歯が作られなくなってしまいます。
具体的には、部分的に変色していたり、表面がザラザラになったりした状態の永久歯が生えてくる恐れがあります。
そうすると、永久歯が虫歯になりやすくなってしまうのです。
永久歯が虫歯になりやすいにも関わらず、歯医者さん嫌いのまま大人になってしまえば、
虫歯や歯周病といったリスクがいっそう高まってしまいます。
2-3.永久歯の歯並びに影響を与える
乳歯の虫歯が悪化し、欠けてしまったり穴が開いてしまったり、あるいは抜けてしまったりすると、永久歯の歯並びに悪影響を与える恐れがあります。
永久歯は乳歯を押し出すような形で生えてくるのが正常です。
しかし、虫歯によって押し出す乳歯がなくなっている場合、永久歯の生えるべき方向が定まらず、傾いて生えてきてしまうことがあります。
歯並びの悪さは見た目に影響を与えるだけでなく、磨き残しを増やし虫歯や歯周病のリスクを増加させます。
2-4.顎の発達を阻害(そがい)してしまう
乳歯の虫歯が進行して痛みが出だすと、その箇所を避けて食べものを噛むようになります。
片側の歯だけで噛む、噛む回数自体を減らす、柔らかいものばかりを食べる、といったことが続くと、顎の発達が阻害(そがい=妨げ)される恐れがあります。
また、顎の骨は顔の輪郭(りんかく)を形成する大切な要素です。
上下の顎をずらして食べる習慣が身につくと、下記のようなリスクが生じやすくなります。
- 顔が左右非対称のまま成長してしまう
- 上下の顎がずれたまま固まってしまう
将来的に、顔の輪郭に影響を与えることがあります。
3.乳歯の虫歯の主な原因は?予防につなげるためにも知っておこう
乳歯の虫歯を見極めるポイントや乳歯の特徴、乳歯の虫歯が抱える将来的なリスクを解説してきました。
続いては、乳歯が虫歯になってしまう原因を見ていきます。
乳歯が虫歯になる原因はさまざまですが、そのすべてを排除することは現実的ではありません。
しかし、こうしたことが要因で虫歯になることがある、という知識を備えておくことは、予防意識の向上につながります。
3-1.キスや食べものの口移し、食器の共用などによる虫歯菌への感染
生まれたばかりの赤ちゃんのお口の中には、虫歯の原因となる虫歯菌は存在しません。
しかし、虫歯菌は感染力の強い細菌であるため、唾液によって感染してしまいます。
具体的には、次のような行為で親御さんから赤ちゃんに虫歯菌が感染します。
キス
子どもへの愛情表現のひとつとして、キスをすることがあります。
大切なスキンシップですし、たくさんの愛情を注ぐことは健やかな成長にもつながります。
しかし、キスをすることで親御さんの虫歯菌が子どもに感染してしまうことがあります。
食べものの口移しや噛み与え
親御さんによる食べものの直接的な「口移し」や、一度噛みくだいて子どもに与える「噛み与え」は、虫歯菌の唾液感染を招きます。
食器の共用
親御さんと子どもが同じスプーンやコップといった食器を共用することで、唾液で虫歯菌が感染しやすくなります。
子ども用の食器を用意してあげましょう。
3-2.お口の中が虫歯になりやすい環境になっている
おやつは時間を決めて与える、ご飯やおやつを食べた後は歯磨きやうがいをする、といったことを習慣化しましょう。
特に甘いおやつは子どもの大好物です。
ついあげてしまいがちですが、食事も含めて食べものや飲みものを口に入れるということは、虫歯菌の活動を活発にさせてしまうことになります。
虫歯菌は糖分をエサとして酸を生産し、歯のエナメル質を溶かしていきます。
たとえ少量のおやつでも何時間も食べ続けると、お口の中が常に虫歯になりやすい環境になってしまいます。
食べたり飲んだりしたら歯磨きをする、できない場合はうがいをするといったことを子どものころから習慣化することで、子どもの「歯を大切にする」気持ちを育てましょう。
3-3.正しい歯磨きができていない
乳歯も永久歯も、正しい歯磨きができていなければ虫歯になってしまいます。
特に乳歯と永久歯が混じって生えている時期は、歯並びも落ち着かず磨き残しが増えてしまいがちです。
子どもは歯磨きを嫌う傾向にありますが、そのときは親御さんがしっかり「仕上げ磨き(※)」をしてあげましょう。
食べかすは虫歯菌の大好物です。
特に食事やおやつのあとの歯磨きはできるだけ早く済ませましょう。
もし外出先で歯磨きが難しいときは、水でうがいするだけでも十分です。
また、乳歯の生え始めで歯磨き自体が難しい場合は、ガーゼなどを使ってやさしくお口の中を拭いてあげると良いでしょう。
お口の中の異物や、異物を取り除いてきれいにすることに徐々に慣れることで、歯磨きに対する抵抗も少なくなります。
※仕上げ磨きとは、子どもの頭をひざに乗せ、磨き残しがないか、虫歯になっていそうな箇所はないかをチェックしながら磨き、きれいに仕上げていくことです。大人用の歯ブラシを使っても構いませんが、大きすぎるとうまく磨けないこともあるため、子ども用の小さな歯ブラシで磨いてあげるのが一般的です。誤って歯ブラシを飲み込まないよう、防止リングがついている歯ブラシも販売されています
4.乳歯の虫歯、具体的にどんな予防方法がある?
最後に紹介するのは、乳歯の虫歯の具体的な予防方法です。
お家で実践できるもの、歯医者さんに手伝ってもらうものがあります。できるところから始めていきましょう。
4-1.歯医者さんでできる予防方法
歯医者さんでできる乳歯の虫歯予防は「定期健診」「フッ素塗布」「PMTC」などが挙げられます。
定期健診
歯医者さんでは定期健診を実施しています。
磨き残しがあれば正しい歯磨きを指導してもらえるほか、初期の虫歯が発見できれば治療を相談できます。
自宅の近くでかかりつけの歯医者さんを見つけておくことは、将来的にも役に立つでしょう。
フッ素塗布
フッ素とは、歯の再石灰化を促したり、歯質を強化したりする作用を持つ物質です。
虫歯予防作用のある歯磨き粉に配合されていることが多ため、目にしたことのある人も多いでしょう。
歯磨き粉に配合されているフッ素は低濃度ですが、歯医者さんでおこなうフッ素塗布には、高濃度のものを使用します。
また、事前に歯垢を除去してからフッ素を塗布します。
もちろん、乳歯に塗っても問題ありません。
子どもの頃から定期的にフッ素塗布をすることで、虫歯になりにくい歯を作ることができます。
ごく初期の虫歯であれば、フッ素塗布で治る可能性もあります。
PMTC
PMTCとは「Professional Mechanical Tooth Cleaning(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)」の略です。
歯科衛生士さんが専用の機械を使って、歯についた汚れ(歯垢)を除去してくれる施術のことを指します。
歯と歯の間や歯と歯茎の間といった、歯磨きが難しいところも含めてきれいに掃除してくれます。
歯垢除去の基本は日々の歯磨きですが、PMTCをおこなうことによって、歯にこびりついた歯垢を除去することができます。
また、歯の表面がツルツルになることで、歯垢が付着しにくくなる作用も期待できます。
4-2.自宅で実践できる予防方法
自宅で実践できる乳歯の虫歯予防は、「正しい歯磨き」「ケア用品」「キシリトール」などのキーワードを押さえることが大切です。
正しい歯磨き
歯ブラシを小刻みに動かして、一本一本を丁寧に磨きましょう。
歯の表面や歯茎を傷つけないように、歯ブラシを持つ力や歯を磨く力は、あくまで優しくすることが基本です。
歯並びや生え具合には個人差があるので、最適な磨き方は歯医者さんに指導してもらうと良いでしょう。
その際、仕上げ磨きについても詳しく聞いてみることをおすすめします。
ケア用品を併用する
奥歯や歯と歯の隙間といった歯ブラシでは磨きにくい箇所は、「デンタルフロス」が有用です。
デンタルフロスはナイロン繊維でできた細い糸で、歯ブラシが届きにくい場所の歯垢除去に適しています。
デンタルフロスのほか、ケア用品には「歯間ブラシ※1」や「糸ようじ※2」があります。
また、フッ素(※3)配合の歯磨き粉を使って磨いたり、歯磨き後にフッ素ジェルを塗ったりするのもよいでしょう。
※1 歯間ブラシは、糸ではなくブラシがついているタイプのケア用品です。歯と歯茎の間の汚れを取り除き、歯周病予防ができます。入れ歯やブリッジなど人工物をはめた歯や、歯の間の隙間が広い人に適しています。
※2 糸ようじは、デンタルフロスの一種で、糸で汚れを掻き出します。歯と歯の間の歯垢を取り除き、虫歯予防ができます。歯と歯の間が狭くても、デンタルフロス(糸ようじ)であればしっかり歯垢が除去できます。慣れるまでコツが必要ですが、比較的扱いやすい持ち手がついた商品も販売されています。
※フッ素とは、正しくはフッ化物と言い、虫歯予防の効果が認められている物質です。
キシリトールガム
キシリトールは天然の甘味料で、植物から発見された成分です。
砂糖と同じ甘みを感じられる上に、虫歯予防効果が認められています。
キシリトール配合のガムは多くの商品が市販されていますが、キシリトール配合量50%(※)以上のものを選ぶようにしましょう。
また、弱い下剤の効果もあるため食べ過ぎるとお腹を下すこともあるため、1日の目安量を守って取り入れてください。
ガムが食べられない小さいお子さんには、キシリトール配合のタブレットがおすすめです。
歯医者さんで販売していることもありますので、購入の際には相談してみましょう。
4-3.親御さんのお口の中を清潔に保つことも大切
前述したように、虫歯菌は唾液で感染します。
いったん感染した虫歯菌を全滅させることは、ほぼできないと言われています。
しかし、親御さんがお口の中を清潔に保つことで、子どもが虫歯菌に感染するリスクを減らすことはできます。
上記で紹介しているキシリトールやケア用品はもちろん、歯医者さんでのフッ素塗布やPMTCは、大人にも十分意味があります。
歯磨きの仕方と併せて、この機会にぜひ、お口の中のケアについて正しい知識を身につけましょう。
5. まとめ
乳歯の虫歯は白っぽいまま進行していくことが多いため、気づきにくいのが難点です。
しかし、放置して悪化してしまうと永久歯にも影響を与えるため、早期発見・早期治療が大切です。
今回お伝えした「乳歯が虫歯かどうか見極めるポイント」と併せて「原因」や「予防方法」をしっかりと把握し、大切な子どもの乳歯を守っていきましょう。
2007年 第100回歯科医師国家試験合格
2007年 日本歯科大学 生命歯学部卒業
2008年 埼玉県羽生市 医療法人社団正匡会 木村歯科医院
歯科医師としてのホスピタリティの基礎を学ぶ。
2010年 埼玉県新座市 おぐら歯科医院
地域に密着した医院で地域医療に携わり、
小児から高齢者歯科まで治療を行う。
2011年 東京都文京区 後楽園デンタルオフィス
施設の訪問診療などにも携わる。
2015年 東京都港区 青山通り歯科 院長
現在に至る
執筆者:
歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。