歯医者さんの麻酔注射は痛みを伴うイメージを持っていませんか? 歯茎に針を刺したときの痛みと、麻酔液を注入したときの痛みを覚えていて、歯医者さんに対する恐怖心が抜けない人も多くいると思います。
しかし、現代の歯科治療は、麻酔に対する考え方も、より患者さんに負担にならない対処法を取り入れているのです。
この記事では、麻酔のやり方も含めた歯医者さんで治療の中身、痛みの軽減に努めている歯医者さんの探し方も紹介していきます。歯の治療が不安な方や、治療が必要だけど、どうしても歯医者さんに行く勇気が持てない方にぜひ知ってもらいたい内容となっていますので、最後まで読んでみてください。
この記事の目次
1.歯医者の麻酔時の痛みと痛みを抑える方法
お口の中は敏感で、髪の毛一本でも反応してしまうほどです。それだけに、歯茎に麻酔の注射を刺すときの痛みが耐えられないという方もいると思います。麻酔注射の痛みには、針を刺したときと麻酔液を注入したときに感じる痛みがあります。
この2種類の痛みを軽減するための方法と、痛みを抑えられる理由を下記の表にまとめてみました。まずはこの痛みをどんな方法で軽減させるのかをざっくりと理解してもらい、詳しい中身については2章で紹介していきます。
歯医者さんによっては、麻酔時の痛みを抑えるためにこうした工夫を施して、患者さんへの配慮を行ってくれるところもあるのです。
2.痛みを抑えるのための麻酔
この章では、歯医者さんで使用する麻酔の種類を紹介し、それを利用した痛みを抑える4つの要点を詳しくお伝えしていきます。
2-1 使用する麻酔の種類
◆浸潤(しんじゅん)麻酔
歯医者さんで行う一般的な麻酔の方法が、この浸潤麻酔です。痛みを抑えたい部分の歯肉に麻酔液を注入させていきます。
◆伝達麻酔
浸潤麻酔では効きにくい下顎の奥歯の麻酔に使用するのが伝達麻酔という方法です。親知らずの抜歯のときにも用いられます。持続作用が高く、治療後の痛みにも合っているため、痛み止めの量を減らすこともできるのです。
2-2 痛みを抑える4つの要点
要点①
表面麻酔を歯茎に塗る
表面麻酔とは、いわば“麻酔のための麻酔”というべきもので、歯茎にゼリー状の麻酔を接触させ、感覚を麻痺させてしまうことで、麻酔針を刺すときの痛みを軽減させてしまうという方法です。表面麻酔を行う際は、口内に麻酔液が流れないようにするため、唾液を遮るためのガーゼとコットンを入れて行います。表面麻酔のタイプは、他にもスプレー式のものや、シールを貼り付けるものまであります。
表面麻酔は、浸潤麻酔をするほど痛みを感じない歯石取りや、歯のクリーニングにも取り入れられる手法です。
要点②
「0.2mm」の細い針を使う
歯茎に注射をされる恐怖心がある方にとって、針の太さも気になるところだと思います。基本的に歯医者さんで使われる麻酔針の太さは27ゲージ(0.4mm)か30ゲージ(0.3mm)といわれています。理由は、手動で注射器を動かす際、これよりも細い針を使うと、麻酔液を注入するときに大きな圧力が必要になってくるからです。
しかし、手動ではなく「電動注射器」を使う場合は、「33ゲージ(0.2mm)」の細い糸を使用することができ、針を刺すときのチクッとした感覚まで抑えることができるのです。
要点③
電動注射器を使う
電動注射器を使えば、「0.2mm」の細い針で麻酔液を注入することできます。なぜなら、コンピューター制御により余分な圧力が加わらず、一定の速度で麻酔液を注入することが可能なため、手動の注射器よりも痛みを抑えることができるわけです。
要点④
麻酔液を温める
麻酔液の温度が人の身体の温度より冷たいと、注入したときに痛みを感じてしまいます。それを防ぐために、機械を使って麻酔液を“人肌”に温めてから使用します。
◆「痛みの軽減」は保険適用
歯医者さんでは、患者さんの負担を少なくしてもらうために、このようなさまざまな工夫を凝らしています。しかも、これらはすべて保険診療内で行ってくれます。
要点①の表面麻酔に関しては、保険の点数として厚労省が認めていないため、歯医者さん側の負担(サービス)で行ってくれるのです。
全国の歯医者さんの中には、「痛みの少ない治療」を掲げた歯医者さんが多く存在します。歯の麻酔に抵抗感のある方は、治療の痛みに配慮してくれる歯医者さんを見つけてみてください。
3.痛みの軽減に努めている歯医者の探し方
この章では、痛みが不安な方に向けた歯医者さんの探し方を紹介します。麻酔への恐怖心で治療に行くのをためらっていると、虫歯や歯周病などの悪化にもつながってしまいます。歯医者さんで治療を受けるのが「怖い」、「痛そう…」と考えるのは普通のことです。恥ずかしがらずに、不安な気持ちを歯医者さんにしっかり伝えましょう。
痛みの軽減に努めている歯医者さんを探すポイントとして、Web上の医院の紹介ページなどで、2章で紹介した要点が押さえられているかどうかが重要になってきます。
また、治療前にカウンセリングの時間を設けて、治療方針もしっかり伝えてくれるところは、患者さんの気持ちに寄り添った歯医者さんといえるでしょう。
さらに、以下のように治療中に細かな配慮もポイントです。
◆治療中の配慮
・常に声掛けをしてくれる
・突然、口の中に強い風を当てたり、水を放出したりしない
・歯がしみた場合、綿で水分を拭き取ってくれる
・もし痛みを感じた場合“我慢”させずに、「手を挙げる」ように促してくれる
・メスを使わずに、レーザー治療を行ってくれる
患者さんの中には、『昔、通った歯医者さんの治療で痛い思いを経験した』『痛いのに無理に我慢させられた…』など、過去のトラウマで歯医者嫌いになる方もいるといわれています。
院内の雰囲気や消毒液の臭い、治療器具の「キュイーン」とする音…。昔の歯医者さんは、こうした“負のイメージ”が少なからずありました。
しかし、現在の歯医者さんは、通院される患者さんに快適に過ごしてもらえるように、テレビなどを置いて待合室の雰囲気を明るくするなど、患者さんの精神面にも細かな配慮をしてくれる歯医者さんが多くなってきているのです。治療を受けるのが「怖い」という心理を植えつけない、こういう取り組みも痛み軽減の取り組みの一つであると考えられているのです。
4.治療の恐怖心を和らげる2つの方法
3章の最後に、患者さんの精神面への配慮について記載しましたが、この章では、治療の恐怖心を和らげる具体的な2つの方法について紹介していきます。その2つが『笑気麻酔』と『静脈内鎮静法』という方法です。
4-1 笑気麻酔
笑気麻酔とは、「亜酸化窒素」と呼ばれるガスを鼻から吸い込んで気分をリラックスさせ、治療中の恐怖心を和らげていく方法です。ガスといっても30%以下の低濃度であるため、身体への負担も少なく済みます。
4-2 静脈内鎮静法
静脈内鎮静法とは、腕の静脈に投与して行う点滴麻酔の方法です。全身麻酔とは違い、意識が完全になくなるわけではありませんが、うっすらと眠ったような状態で治療を受けることができ、治療の恐怖心を和らげることができるのです。実際に眠っている間に治療が終わったという患者さんもいるほどです。歯科恐怖症の患者さん以外にも、嘔吐反射が強い方、パニック障害を起こしてしまう方にも適用されます。
この方法は麻酔医による全身管理のもと行われますが、使用される薬の身体への悪影響の心配もありません。また、問い掛けに対する反応や防御反応も保たれた状態で行うため、安全面にも配慮された治療法なのです。
2つの方法が適用される治療は主に以下のような場合です。
・インプラント手術
・歯周病のフラップ手術
・根管治療
・親知らずの抜歯
また、大掛かりなインプラント手術や、障害のある患者さんへの治療の場合など、歯医者さんでも「全身麻酔」を施して治療を進めることもあります。
5.麻酔が効きにくい場合の特徴と対処法
痛みの少ない治療を行う上で、“麻酔が効きにくい”という場合も想定しなければなりません。麻酔が効きにくい場合の特徴とは何なのかを説明し、それに合わせた対処法も紹介していきます。
5-1 「皮質骨」が硬い場合
麻酔注射を歯茎に刺しても、歯の支えである「歯槽骨(しそうこつ)」の周辺の『皮質骨(ひしつこつ)』が硬くて厚みがある人の場合、歯にとっては良いことですが、麻酔が効きづらいというデメリットが残念ながらあるのです。
対処法:「歯根膜(しこんまく)注射」を施す
『歯根膜注射』を歯根膜に注射することで、効き目を促進させることができるのです。加えて薬の量も少なく済みます。
5-2 歯茎が炎症を起こしている場合
歯茎が炎症を起こしている「酸性」の状態は麻酔が効きづらいのです。神経まで達してしまった虫歯や、歯周病の影響で歯茎の炎症が起きている場合、歯の根っこの先に膿の袋ができて、その中で強い炎症が起きていると麻酔の作用が発揮できないのです。
対処法:抗生物質を服用
歯茎の炎症を鎮めるためには、抗生物質を服用することです。そうすることで麻酔が効きやすくなります。
6.まとめ
歯医者さんの麻酔に嫌悪感を持っている方にとっては、この記事を読んで、麻酔へのイメージが少し変わったのではないでしょうか。多くの歯医者さんで、患者さんの負担を少しでも回避するためさまざまな工夫を行っています。お口の健康維持のためには、歯医者さんの力を借りて、早めの治療をすることが大事になってきます。自分に合った歯医者さんを探して、大切な歯をしっかりと守っていきましょう。
1975年 東京歯科大学 卒業
1975年~1977年 新宿ビル歯科 勤務
1978年 早川歯科医院 開業
現在に至る
執筆者:
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