歯周病学の智をつなぐ ー教育・研究・臨床の轍ー

~日本歯科大学・沼部教授の最終記念講義から学ぶ、予防の大切さと次世代への思い~

 

この記事の目次

はじめに

日本歯科大学で長年にわたり歯周病学の研究・教育・臨床に携わってきた沼部教授の最終記念講義が行われました。
講義では、沼部先生ご自身の歩み、日本歯科大学との深い関わり、歯周病研究の変遷、そして次世代へ知識や経験をつないでいくことの大切さが語られました。
歯周病は、単に「歯ぐきの病気」ではありません。歯を失う原因になるだけでなく、糖尿病や誤嚥性肺炎など、全身の健康とも関わる病気として注目されています。今回は、最終記念講義の内容をもとに、歯周病研究の歩みと予防の大切さを紹介します。

 

1. 日本歯科大学と沼部先生の歩み

沼部先生は、日本歯科大学に入学してから約半世紀にわたり、同大学と深く関わってきました。学生時代から大学院、助手、教授へと歩みを重ね、研究・教育・臨床の現場で長く歯周病学に携わってきました。
講義では、沼部家と日本歯科大学の関係にも触れられました。祖父、父、沼部先生ご自身、奥様、お嬢様と、沼部家5代にわたっての日本歯科大学との関わり合い、そして歯科医師としての道が受け継がれてきたことが紹介され、ひとつの家族の歴史が日本の歯科教育の歩みとも重なるような内容でした。
最終記念講義で語られたのは、単なる経歴ではありません。長年学び、研究し、教えてきた知識や経験を、次の世代へどう渡していくか。その思いが講義全体に込められていました。
また講義の随所で、恩師や同僚、後進の先生方、学生、そして大学への感謝が語られたことも印象的でした。沼部先生の歩みは、多くの人とのつながりに支えられてきたものでもありました。

2. 歯周病研究は「炎症」と「免疫」へ

沼部先生の研究は、実験的な歯肉炎・歯周炎の研究から始まりました。歯ぐきに炎症が起きたとき、細胞がどのように反応し、歯を支える組織がどう変化していくのか。こうした基礎研究が、歯周病を理解する土台になっています。
その後、アメリカ・カリフォルニア大学サンフランシスコ校への留学をきっかけに、研究テーマは免疫、とくに好中球の働きへと広がりました。好中球は、白血球の一種で、細菌などから体を守る免疫細胞です。
歯周病は、歯周病菌だけでなく、それに対する体の反応も関わる病気です。細菌に対して体がどう反応するか、つまり炎症や免疫の働きも深く関係しています。沼部先生の研究は、歯周病を「細菌の病気」としてだけでなく、「体の反応と関わる病気」として考える視点を示してきました。

3. 喫煙と歯周病の関係

講義では、喫煙と歯周病の関係についても語られました。現在では、喫煙が歯周病のリスクを高めることは広く知られていますが、以前はその考え方が十分に浸透していない時代もありました。
タバコは、歯周病を悪化させる要因のひとつと考えられています。喫煙習慣があると、歯周病が進行しやすくなったり、治療後の改善に影響したりすることがあります。
沼部先生は、喫煙と歯周病、さらに全身の健康との関係について早くから発信し、書籍や学会活動を通じて啓発にも取り組んできました。歯周病の予防には、歯みがきや歯科医院でのケアだけでなく、喫煙習慣を見直すことも重要です。

4. 歯周病は全身の健康にも関わる

歯周病は、口の中だけで完結する病気ではありません。講義では、糖尿病や誤嚥性肺炎、動脈硬化性疾患など、全身の健康との関わりについても多くの時間が割かれました。
近年、歯周病と全身疾患との関係を考える「ペリオドンタルメディシン(歯周医学)」という考え方が広く知られるようになっています。
これは、歯周病を単に口の中だけの病気として捉えるのではなく、全身の健康と密接に関わる疾患として考える概念です。
特に知られているのが、糖尿病と歯周病の関係です。糖尿病があると歯周病が悪化しやすくなり、一方で歯周病による炎症が続くと血糖コントロールに影響する可能性があります。
また、高齢者にとっては誤嚥性肺炎との関係も重要です。口腔内環境を良好に保つことは、全身の健康維持にもつながります。
講義では、日本歯周病学会が掲げた「京都宣言」、そして来年2027年の「大阪宣言」にも触れられ、歯周病研究のこれから先の未来まで見据えられていました。
研究によって多くのことが明らかになった一方で、歯周病は依然として多くの人が抱える疾患です。研究成果を実際の医療現場や社会へどう届けるのか。その重要性が改めて語られました。
京都宣言から大阪宣言へと続く歩みを伺いながら、歯周病学は「知る」だけでなく「伝える」ことも大切にする時代に入っているのかもしれないと感じました。

※こちらの記事でも沼部先生の歯周病と全身の疾患についてのお話をご確認いただけます。

5. 教育と次世代へつなぐ歯周病学

沼部先生の講義では、研究や臨床だけでなく、教育についても多く語られました。学生の学び方は時代とともに変化し、AIを使うことが当たり前になっています。
情報を得ること自体は容易になった一方で、何が本当に重要なのかを見極める力は、これまで以上に求められる時代になっています。
だからこそ、教える側も同じ資料や同じ方法を繰り返すのではなく、時代に合わせて学び方を更新していく必要があります。沼部先生は、歯周病学の知識を学生や若い歯科医師に伝えるだけでなく、卒後研修や書籍づくりを通じて、臨床の現場にも広げてきました。
最終記念講義の締め括りには、「研究で得られた知識を、教育へ、臨床へ、そして次世代へつなぐこと」、そうした「智のリレー」ともいえるメッセージが語られました。まさしく、これからの未来の歯科医療を支える土台になる価値観として記憶に残るメッセージでありました。

編集部コメント

沼部幸博教授の最終記念講義は、歯周病学の研究を振り返るだけでなく、支えてくれた人々への感謝を伝え、知識と経験を次世代へつなぐ場でもありました。
今回の最終記念講義で印象的だったのは、沼部教授が歯周病学の歩みを語るなかで、研究者としての誇りだけではなく、悔しさも率直に語られていたことです。好中球や自然免疫に関する研究の中で、先生の研究発表の後に、同じ領域の研究が世界的に評価され、ノーベル賞へつながっていく流れが起こったこと。実は、沼部先生ご自身も研究の中でその重要な現象を目にして気づいていたものの、その先の発見への一歩が踏み込めなかったこと、そういったご経験を振り返りながら、研究には「気づく力」と「問い続ける姿勢」が必要であることを、後進に向けて伝えているように感じられました。
また、講義では沼部家と日本歯科大学との長い関係にも触れられました。祖父、父、沼部先生ご自身、そしてご家族へとつながる歯科医師としての歩みは、単なる家族史ではなく、日本歯科大学とともに脈々と受け継がれてきた歯学教育の歴史の一部でもあります。そこには、大学への感謝だけでなく、ご家族への深い愛情もにじんでいました。
研究で得た知見を教育へ、教育で培った経験を次世代へつなぐこと。沼部教授の最終記念講義は、歯周病学の過去を振り返る場であると同時に、これからの歯科医療を担う人たちへ思いを手渡す場でもありました。
歯周病は、歯を失う原因になるだけでなく、糖尿病や誤嚥性肺炎など全身の健康とも関わる可能性があります。私たち編集部としても、今回の講義を通じて、口の健康を守ることの大切さをあらためて感じました。毎日のセルフケアと定期的な歯科受診を通じて、読者の皆さまにも、ご自身の口と体の健康に目を向けていただければと思います。

中原泉理事長(左)、藤井一維学長(右)とご一緒に。

次代を担う在校生より花束贈呈

 

 

 

日本歯科大学について

2026年、日本歯科大学は創立120周年という大きな節目を迎えました。
今回の沼部教授最終記念講義は、一人の研究者・教育者の歩みを振り返るだけでなく、日本歯科大学が120年にわたり受け継いできた教育・研究・臨床の歴史を感じさせる時間でもありました。
「歯周病学の智をつなぐ」という講義のテーマは、沼部教授から次世代へ、そして日本歯科大学が120年にわたり紡いできた歩みそのものを象徴しているように感じられます。

日本歯科大学ホームページ

執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

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