新型コロナ対策として、口腔ケアの可能性が注目されています。
この記事では「感染症対策としての口腔ケアの重要性」、「コロナ禍で懸念される健康への影響」について東京医科歯科大学 大学院 医歯学総合研究科 健康推進歯学分野 相田潤(あいだ じゅん)教授に解説していただきます。
この記事の目次
新型コロナウイルスはのどや目だけでなく「口腔」からの感染の可能性も
そのため新型コロナウイルスの感染対策としても、口腔のケアは重要です。
「舌苔(ぜったい)」と呼ばれる舌の上に付いた汚れや、歯周ポケットにもウイルスの受容体(ウイルスなどが侵入してきたときに最初に結び付く分子)が発見されました。
そのため舌苔を抑制することや、歯周病を改善することが感染リスクを抑える可能性があるのではないかといわれています。
ただし、まず重要なのはいつも言われている、マスクの着用や手洗い、人が集まるところでの換気、そしてワクチン接種ですので、感染予防としてはこれらの点は当然おさえたうえで、口腔ケアも実施していただきたいと思います。
歯みがき以外で感染対策が期待できる口腔ケア
舌苔とは、プラークや皮膚の剥落したものが舌に付いてできます。舌苔を抑制するには歯みがきをするついでに優しく舌を磨いてあげると良いでしょう。
より舌を傷めないために、専用の舌ブラシというのもあります。ポイントとしては鏡で舌の汚れがあるか確認し、汚れの部分にあまり力を入れ過ぎずに、舌を傷つけないくらいの力で磨いてあげるということが大切です。
また「洗口液」も有用でしょう。歯みがきの仕上げなどに洗口液を使ってあげると、舌苔などある程度取るのに有用かと思います。
口腔ケア製品としての「洗口液」が、新型コロナウイルスの感染対策にどこまで抑制できるかというのは、まだよくわかっていません。
「舌苔を抑制する」ということであれば、一般的に市販されている洗口液で有効成分・薬用成分の入っているものであれば、お口の中の汚れを落とすことには有用であると言えるでしょう。
コロナ禍が健康に与える影響|精神的ストレスは口腔の健康と密接に関係
その研究結果について臨床の歯科医師先生とお話ししていると、『強い噛みしめをしている人が増えて、歯が痛んだり、つめ物やかぶせ物が割れてしまったりといった患者さんが受診している気がする』ということを仰っている先生もいました。
新型コロナウイルスの感染が拡大する以前にも産業保健の場でもストレスと口腔の健康については研究されていますので、いずれにしてもストレスが口腔の健康に影響するという可能性はあると思います。
日本ではコロナ禍で長期的にみると歯科受診が若干増えていると言われています。歯科疾患、特に虫歯や歯周病は有病率が高く、そもそも持っている人が多い病気です。
「歯科疾患実態調査」という国の調査でも「日本人の約3割の人に治療が必要な虫歯がある」という報告があります。
それに加えて歯周病を持っている方もいらっしゃるので、そういった潜在的な問題を持つ方がコロナ禍のストレスでより問題が大きくなって痛みが出るといったことがあるのではないかと思います。
高齢者を対象とした研究では「家にずっと閉じこもっていると健康に悪い」ということがわかっています。高齢者の方が骨折による入院をきっかけに歩けなくなり「要介護」状態になってしまうという話もありますが、これは筋肉を使わないせいで衰え、歩くのも難しくなることが原因として多いです。
こうしたことは高齢者に限った話ではなく、家にいる時間が長くなると、入院ほど極端な話ではないにしても全身の筋肉が弱り、歩くと疲れたり転びやすくなったりという健康影響は起きると思います。
これにかんしては座りっぱなしにしない、軽い運動をするというようなことを意識すると良いでしょう。
人との交流が減るということも、ストレスを溜めて健康を悪くするということがわかっています。これに対しては、テレビ電話などオンラインで会話をすることも、健康に良いということもわかってきました。何らかの交流をもって社会的に孤立しないようにする、ということが大事だと思います。
経済的困窮で健康格差が生まれる懸念も
このコロナ禍でも経済的に困窮しているとされる方が非常に苦しい状況に置かれている、若い人と女性で自殺率が増えてきているということがわかっています。
「災害の直後は自殺が減る」ということは世界中で言われているように、新型コロナウイルスの発生直後、2020年の4月頃は自殺率が減りましたが、その後業種によって休業が余儀なくされるといったことで経済的に貧しくなる人が増え、恐らくそれにより自殺が増えているという現状があります。
そういったことの影響を緩和するにはどうしたらいいか知見を得るというのが、私が研究する「社会疫学」の分野では大きなテーマと考えています。
私はこれまで経済的状況によって、もしくは貧困とは関係がなくても、医療費の負担額の違いで歯科医院の受診状況が変わるということを研究してきました。今回のコロナ禍においても歯科受診が難しくなった人というのも増えているはずなので、実際本当にどれくらい増えているのか、こういった状況を緩和するためにどうしたらいいのか、もちろん歯科受診だけではなくて、そういった経済的状況による健康影響を緩和するにはどうしたらいいかということを考えていきたいと思います。
東日本大震災の後の研究でも、家族や友人を地震や津波で亡くした方はストレスが大きいということがありました。しかしこうしたことを考慮したうえで、数年単位で中期的に見ると、経済的に苦しいことが、うつやメンタルヘルスに大きく影響していたことがわかっています。
このコロナ禍の経済的苦境においても同様のことが起こる可能性があるので、それをどうにかするための知見を得ることが一番の課題と考えています。
歯の教科書 編集部まとめ
この記事ではコロナ禍における口腔ケアの重要性と、コロナ禍で懸念される健康への影響について東京医科歯科大学 大学院 医歯学総合研究科 健康推進歯学分野 相田潤(あいだ じゅん)教授に解説していただきました。
新型コロナウイルス(COVID-19)はのどや目からだけでなく、舌苔や歯周ポケットなど口腔からも感染する可能性があります。
歯みがきに加え、舌みがき、洗口液でのうがいを行って口腔内を清潔にしておくことは歯科疾患だけでなくそのほかの感染症の予防にもある程度効果が期待できるといえるでしょう。
また外出自粛や在宅ワークによるストレスが口腔の健康に影響を及ぼす可能性もあるため、適度な運動や息抜き、オンラインを活用して家族・友人と交流をもつようにすることも大切です。
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 健康推進歯学分野 教授
【略歴】
2007年4月 東北大学大学院歯学研究科 国際歯科保健学分野 助教
2010年4月 University College London Visiting Researcher
2011年11月 東北大学大学院歯学研究科 国際歯科保健学分野 准教授
2012年10月 宮城県 保健福祉部 参与(歯科医療保健政策担当 )(兼務)
2014年10月 東北大学大学院歯学研究科 臨床疫学統計支援室 室長(兼務)
2018年4月 東北メディカル・メガバンク機構 地域医療支援部門 准教授(兼務)
2020年8月 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 健康推進歯学分野 教授
執筆者:
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