口内フローラという言葉を聞いたことがありますか? 腸内フローラというワードもよく耳にしますが、いったい何のことを指しているのか分からないという方もいるかと思います。
口内フローラとは、口内フローラが乱れるとどうなるのかなど、鶴見大学・花田信弘教授に解説していただきます。また、口内フローラを健康的に保つ体操や、食材も明らかになります。
※前回の記事「“3DS治療”とは?自宅で口内細菌を除去」
口内フローラとは何?バランスが崩れることのリスク
口内フローラという言葉を耳にすることがありますが、何のことを指しているのでしょうか?
口内にすんでいる細菌の集団・細菌叢(そう)のことを口内フローラとよびます。
絶妙なバランスで、口内フローラは成り立っているのですが、歯を磨かないと有害菌(悪玉菌)が増加します。歯を磨くと有用菌(善玉菌)が増加します。
※歯を磨くと有用菌(善玉菌)である1、2、3番の細菌が相対的に増加し、歯を磨かないと有害菌(悪玉菌)である14番以降の細菌が増加します。14番は口臭や大腸がんに関連する菌です。18〜20番は歯周病菌の中でもとくに危険な菌です。
口内フローラのバランスが崩れるとどうなってしまうのでしょうか?
歯周病菌の菌体成分であるLPS(エンドトキシン)が血中に入ってしまうエンドトキシン血症が発症し、動脈硬化、認知症など生活習慣病のリスクが高くなります。
また、エンドトキシン血症が発症した状態で新型コロナウイルスに感染するとサイトカインストームと敗血症から死亡の危険性が高くなります。
※3週間にわたって歯磨きを行わなかった実験結果です。血中エンドトキシンが0.74EU/mlに上昇しています。これは、ほとんど腎臓病と同じレベルの濃度です。しかし、歯科衛生士による歯のクリーニングを行った後、再び歯磨きを3週間行うことで、正常値に戻りました。
歯肉炎指数を見ることで、このエンドトキシンがどこから来ているのかが分かります。歯磨きをしていない時期に1.16まで上がっていることから、歯肉炎がエンドトキシンの原因だといえます。
口内フローラの環境を守る!ケア、体操、食材を紹介
口内フローラのバランスを保つために大切なことは何ですか?
歯は4面あるので、歯と歯の間を磨くのがポイントです。そのためには、歯ブラシだけではなく、デンタルフロスや歯間ブラシを活用したセルフケアが大切になってきますね。舌磨きも忘れてはいけません。
唾液の分泌が口内フローラを整えてくれるというお話があります。唾液の分泌を促すためには、どのような取り組みをするといいのでしょうか?
唾液をだすという話なんで、唾液を出すには、舌の運動も重要なので、今井一彰医師考案の口を動かす「あいうべ体操」を推奨します。
まずは、大きな口を開けて「あ」。
唾液の分泌を促す「あいうべ体操」。大きく口を開けて「あ」
次に口角を伸ばして「い」。
唾液の分泌を促す「あいうべ体操」。口角を伸ばして「い」
そして、口をすぼめて「う」。
唾液の分泌を促す「あいうべ体操」。口をすぼめて「う」
最後に、ベロを出して「べ」です。
唾液の分泌を促す「あいうべ体操」。ベロを出して「べ」
この体操は、ずいぶん普及してきていて、いい結果が出ていると聞いています。
口内フローラが乱れる原因菌の増殖を抑えることができる食材などありますか?
カテキンは推奨できます。お茶に含まれているポリフェノールの一種ですね。抗酸化物質の一つですし、抗菌性もありますので、よろしいかと思っています。
歯の教科書 編集部まとめ
口内フローラとは?
●口内フローラとは、お口にすんでいる細菌の集団です。
●歯を磨かないと、有害菌(悪玉菌)が増加してしまいます。
口内フローラが乱れるとどうなる?
●歯周病菌の菌体成分・LPS(エンドトキシン)が血中に入ってしまう可能性があります。
●エンドトキシン血症が起こると、動脈硬化、認知症などのリスクが高まります。
●エンドトキシン血症は、新型コロナウイルス感染での死亡リスクを高めます。
口内フローラのバランスを保つためには?
●デンタルフロスや歯間ブラシを活用し、歯と歯の間を磨くことが大切です。
●唾液の分泌を促す「あいうべ体操」も、口内フローラの調整に役立ちます。
●カテキンは、口内フローラを乱す原因菌を抑える作用が期待できます。
口内には、さまざまな細菌がバランスを保って共存しています。歯磨きを怠ることで、そのバランスが崩れ、多くの病気を誘発する原因になっていまいます。
日々のセルフケア、原因菌を増やさない食事などにも気を配り、口内フローラの環境を健康的に維持できるようにしましょう。
1981年:九州歯科大学歯学部 卒業
1885年:九州歯科大学大学院歯学研究科 修了
1985年:九州歯科大学歯学部 助手/講師
1987年:米国ノースウェスタン大学医学部微生物・免疫学講座 博士研究員
1990年:岩手医科大学歯学部 助教授
1993年:国立感染症研究所 口腔科学部長
2002年:国立保健医療科学院 口腔保健部長
2008年:鶴見大学歯学部 教授
現在に至る。
※この間、日本歯科医学会学術委員会副委員長、健康日本21計画策定委員、内閣府新健康フロンティア戦略賢人会議専門委員を務める。
現在、日本歯科大学客員教授、明海大学大学客員教授、東京理科大学光触媒研究センター客員教授、長崎大学、東京医科歯科大学非常勤講師を併任。
執筆者:
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