現代の歯の再生治療の方法と歯の状態で異なる治療法のかたち

現代の歯の再生治療の方法と歯の状態で異なる治療法のかたち

現在行われている「歯の再生治療」と言えば歯そのものを再生させるのではなく歯を支える歯肉や骨などの「歯周組織」の再生です。歯周病で歯を失う前に予防として行い、失った後で人工歯をいれるために行われています。

人工歯をいれるには歯肉や全身状態が良好である必要があり、継続したメンテナンスや高額な費用がかかります。そのような手間のない、自分の歯を再現するという本当の意味での「歯の再生」が将来実現する可能性があります。

やむを得ず抜いた自分の歯を将来に備えて冷凍保存するシステムは既に始まっています。

ただ、技術に頼りすぎることなく、今、自分で出来る歯を守れるよう実行していきましょう。どんな治療にしても自分の歯や歯茎が健康であることに越したことはありません。技術の進歩を享受するためにも歯科定期健診など、日頃からのケアが大切です。

この記事の目次

1.歯の再生治療の現状と費用

1-1 歯周組織再生療法

歯周病が進行すると歯槽骨と呼ばれる歯周組織(歯肉や骨)を溶かし、やがて歯が抜け落ちてしまいます。この場合、抜けてしまった歯の代わりとなるインプラントや入れ歯などを入れることができません。

そのため、インプラントや入れ歯をする前に土台の歯槽骨を再生させる必要があります。それが、歯周組織再生療法です。

ただし、あまりに重度の歯周病の場合にはこの療法は行えない場合もあります。また喫煙者も行うことができないため、禁煙の必要があります。

GTR法

広範囲に骨が溶けてしまった際に適用されます。特殊な膜により溶けた骨を再生します。以前は膜を取り除くために再手術をしなければなりませんでしたが、現在は吸収性の膜がありますのでそれを使用できれば除去手術は必要ありません。使用する膜によっては保険が適用される場合もあります。

費用:5~10万円程度

エムドゲイン法

範囲は広くないものの、骨が深く溶けてしまった際に適用されます。特殊なゲルにより溶けた骨を再生します。ゲルの主成分は子供の頃、歯が生える時に必要だった「たんぱく質」です。この成分は人体に害がなく、ゲルも吸収性のため除去手術の必要はありません。

費用:5~15万円程度

1-2 自家歯牙移植

自分の歯を、事故や虫歯など何らかの原因で抜歯した箇所に移植する治療法です。移植する歯は主に親知らずが使用されます。元が自分の歯ですので見た目が自然であることはもちろんのこと、拒絶反応などもなく起こりにくいという利点があります。

費用:10万円程度

1-3 インプラント、入れ歯、ブリッジ

歯を失った場合、何らかの治療法で歯の代わりとなるものを埋めます。代表的なものはインプラント、入れ歯、ブリッジです。

インプラント

生体親和性の高いチタン製のスクリューがついた義歯を歯茎に埋め込みます。見た目も噛み心地も自然で良いのですが、外科手術が必要であり健康状態によっては施術できない場合があります

費用:歯1本30~50万円程度

入れ歯

大抵の患者さんに適用可能で、手術などの必要もありません。ただし、目立ちやすかったり硬いものが噛みづらかったりと不都合が生じる場合があります。

費用:1万円前後

ブリッジ

抜けた歯の両隣の歯を削り、ブリッジを被せて抜けた歯を補います。そのため、両隣の歯が健康であったとしても削らなければいけません。保険が適用できるかできないかは、細かい基準があるので医師に確認が必要です。

費用:1~2万円程度(保険適用)/45~50万円程度(保険適用外)

2.歯の状態により実施できる再生療法は違う

2-1 歯が欠けた場合

歯が少し欠けた程度なら、「コンポジットレジン」を用いてすぐに修復が可能です。保険適用か適用外かは各病院により違います。

欠けた箇所が大きい場合には、金属のインレーを詰める、クラウンを被せるといった方法で修復します。

2-2 虫歯や事故で歯を失った場合

インプラントや入れ歯、ブリッジなどの治療を行います。過剰歯や親知らずがあれば自家歯牙移植で修復することが出来ます。

2-3 歯周病で歯を失った場合

インプラントや入れ歯を入れます。こちらも過剰歯や親知らずがあれば自家歯牙移植治療を行うことが出来ます。

2-4 歯周病で歯槽骨まで溶けてしまった場合

重度でなければ歯周組織再生療法で歯槽骨を再生した後、インプラントや入れ歯、ブリッジなどの治療を行います。個人差がありますが、手術より数ヶ月~1年ほどで歯周組織が再生します。

3.歯そのものを再生できる可能性について

3-1 人間の歯の再生はまだできていない

残念ながら「ヒトの歯そのもの」の再生はまだ実現していません。「歯の再生」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは「歯そのものの再生」かと思います。そんな夢のようなことが出来れば虫歯になっても歯が抜けても平気ですし怖いものなしのような気がしますね。しかし歯槽骨などの歯周組織の再生に留まっています。

3-2 マウスの歯の再生はできている

マウスの歯の再生は、2009年に成功しています。胎児マウスから歯胚(歯の元になる細胞)を取り出して培養し、成体マウスに埋め込み、歯周組織も含めて全て再生させることが出来ました。

物を噛める硬さがあり、顎と歯が正常に連携機能し、外部刺激によってきちんと痛みを感じることが出来る歯です。

4.歯科再生医療の未来

4-1 アメリカではレーザーによる再生を研究中

2014年にハーバード大学の研究チームから低出力のレーザーを使用することにより歯の再生を促せたという発表がありました。まだマウスを使った実験段階ですが、近い将来、人での臨床実験も行われるのではないかとみられています。

現段階では歯そのものは再生することができないため、折れたり欠けたりしてしまったら被せ物や詰め物をするのが基本です。もし低出力レーザーで歯が再生できるようになったらその必要もなくなる、魅力的な技術です。

4-2 ティースバンク

矯正治療で抜いた歯や虫歯などの問題がない親知らずを抜いた場合、その歯を保存してくれるシステムがあります。抜いた歯を冷凍保存してくれるので、将来、虫歯や事故などで歯を失うことになった時に自分の歯を移植することができるのです。

それが広島大学により事業化された「ティースバンク」です。全国に約400軒の協力歯科があります。2013年のデータによると移植成功率は87%という高確率になっています。20年間の保存で1本あたりの費用は約10~13万円です。

4-3 ヒトの歯の再生を目指して

2009年に東京理科大、東北大、東京医科歯科大が成功したマウスの歯の再生は、マウスの人工歯胚を動物の体内で培養するものでした。しかし実際ヒトで行うには、動物の体内で培養したものは倫理上の問題やウイルス感染などの問題もあり、現実的ではありませんでした。

そのため、2011年に日本歯科大生命歯学部と同大学新潟生命歯学部の合同研究チームが、ヒトの歯根を包む膜の細胞をシート状にしたものでマウスの歯胚を包み、歯根と歯周組織の再生を体外培養(試験管)で成功させました。ただしこれは歯根のみの再生を目指して進められた研究です。残念ながら歯は歯冠と歯根からなっており、再生に成功したとは言えません。

しかしこの時点でチームの中心であった教授は「(実験レベルなら)ヒトの歯冠、歯根、歯周組織の再生は10年20年もかからないだろう」との見解を示していました。更に、数に限りがあり発生時期も限られた歯胚そのものを増やす研究も行われていました。

実験動物では手に入る歯胚ですが、ヒトとなるとそう簡単にはいきません。また複数の歯が抜けてしまった場合には、自家歯牙移植や歯胚からの培養では足りない場合があるためです。

また、2015年12月に分割歯胚から複数の歯胚を発生させることに成功したと発表がありました。これらの技術を更に発展させ、ヒトへと応用される日が来るのが待ち望まれています。

5.まとめ

近い将来、ヒトの歯そのものも再生できる時代がやって来るかもしれません。歯周病などで歯を失ってしまったら、人工歯を入れるしかありません。また、歯茎や身体の健康状態が良好であることが必須になるなど条件を満たさなければなりません。長期的なメンテナンスや高額の費用もかかります。

不確かなものに期待をするより、今ある歯をなくさないようにするのが将来的には第一の対策といえます。そのためには歯を失うことのないように日頃から定期健診を受け、歯の健康には気を付けていきましょう。

経歴

1968年 東京歯科大学 卒業
1968年 飯田歯科医院 開院
1971年 University of Southern California School of Dentistry(歯内療法学) 留学
1973年 University of Southern California School of Dentistry(補綴学・歯周病学) 留学
1983年~2009年 東京歯科大学 講師
現在に至る

執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

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