親知らずの膿は智歯周囲炎?原因や治療法、抜歯・保存の判断基準まで解説

「親知らずから膿が出て不安になった」という人もいるのではないでしょうか?

◆横向きや斜めに生えてきた
◆一部が歯茎に覆(おお)われたまま

といった場合、親知らずやその周辺に炎症が起こりやすくなります。炎症が悪化すると歯茎が腫れたり、膿が出てきたりすることがあります。

この記事では、親知らずやその周りから膿が出る原因や治療法を紹介するとともに、親知らずの抜歯や保存が検討されるケースについても触れています。親知らずの膿で困っている人はぜひ、参考にしてください。

この記事の目次

1.親知らずやその周りから膿が出たら「智歯周囲炎」かも

1-1 親知らずやその周りに炎症が起こりやすいのは?

現代人は、食生活の変化などにより、昔の人と比べて顎の骨が退化したと言われています。顎の骨が退化するということは“歯が生えるためのスペース”が狭くなることを意味します。

親知らずが斜めや横向きに生えてきたり、歯茎に埋もれてしまったりなど、まっすぐに生えてくる人が少なくなったと言われているのは、このためです。

特に、親知らずが第二大臼歯(奥歯)と接触している場合、親知らずと第二大臼歯との間に“歯ブラシが届きにくい場所”ができてしまうことがあります。

その場所に食べカスなどの汚れが溜まると、歯垢(しこう=プラーク※)が作られ、虫歯菌などの細菌がどんどん増殖していきます。

親知らずやその周りに炎症が起こりやすいのは、このように不衛生になりがちだからです。

※歯垢は細菌の塊
歯垢を食べカスと思っている人も多くいますが、実際には食べカスだけではありません。歯垢の70~75%程度は細菌で、20%程度は細菌が作り出した粘着性のある物質と言われています。このことからも「歯垢=細菌の塊」ということが言えます。

1-2 歯茎が細菌に感染して智歯周囲炎に

親知らずの周りで細菌が増え続け、歯茎にまで感染が広がると「智歯周囲炎(ちししゅういえん※)」を発症するリスクが生じます。

「歯茎が腫れて痛む」といった症状にとどまることもありますが、何度も繰り返したり長期化したりすると、親知らずやその周りから膿が出てくることがあります。腫れる、触ると痛むなども、智歯周囲炎の症状です。

※智歯
親知らずの別称です。ほかにも「8番」「第三大臼歯」などと呼ぶことがあります。

2.親知らずから膿が出たら~智歯周囲炎の治療法~

2-1 抗菌薬の服用

症状が比較的軽い場合、抗菌薬を服用して炎症の消炎を試みることが多いです。智歯周囲炎は口の中に棲む複数の菌による感染症なので、幅広い菌に作用する「ペニシリン系」「セフェム系」といった抗菌薬を使うのが基本です。

2-2 切開排膿

「膿瘍」といって、多くの膿が溜まってしまった状態であれば、歯茎を切開して膿を排出する切開排膿をおこなうことがあります。物理的に膿を排出することで、症状の解消を目指します。

その場合、いったん抗菌薬で炎症を抑え、症状が落ち着いたところで歯茎を切開する方法があります。炎症がひどいと麻酔も効きづらいので「まずは炎症を抑えてから処置をする」という順番です。レーザーにより無麻酔でやることもあります。

2-3 抜歯

抗菌薬を服用したり、歯茎を切開して膿を排出したりしても、親知らずが残っていれば再発するリスクはなくなりません。再発を繰り返す場合、親知らずを抜歯するという選択肢も出てきます。抜歯する場合も、まずは腫れや炎症を抑えるために抗菌薬などを服用して、症状が落ち着くのを待ちます。

歯茎の中に埋もれている、頭の部分だけ生えている、斜めに生えているなど、親知らずの状態によって抜歯の難しさが変わってきます。横向きで歯茎の深い部分に埋まっているといった場合、抜歯後1週間程度は腫れや痛みをともなうことがあるため、タイミングについては先生とよく相談しましょう。

3.親知らずは膿の有無に関わらず抜歯する?保存する?

親知らずは、膿んでいる・いないに関わらず「抜歯した方が良い」とする考え方と「抜歯しなくても良い(保存する)」という意見があります。そのため、迷ってしまう人がいるかもしれません。それぞれ、どのようなケースで抜歯や保存を検討することがあるのか解説します。

3-1 親知らずの抜歯が検討されるケースとその理由

《横向きや斜めに生えており虫歯リスクがある》

親知らずが、斜めや横向きに生えて第二大臼歯と接触している場合、歯ブラシが届かないスペースができ、虫歯になりやすくなります。どちらかが虫歯になってしまうケース、2本まとめて虫歯になってしまうケースがあります。

そのままでは治療器具が届きにくく、十分な治療を受けられないか、治療できたとしても再発リスクが残ってしまいます。

親知らずを抜歯することで、親知らずや第二大臼歯の虫歯リスクを減らせる場合があります。

《歯並びに影響を与えてしまうリスクがある》

歯は、自分が向いている方向に伸びていきます。つまり、斜めに生えはじめた親知らずは、斜めに伸びることになります。第二大臼歯に向かって生えた親知らずが伸びて、第二大臼歯をグイグイと押すようにして手前(前歯側)に移動させてしまうことがあります。

移動した第二大臼歯がさらに手前の歯を押してしまうなど、連鎖的に全体の歯並びに影響を与えるリスクが出てきます。

《第二大臼歯の寿命を縮めてしまうリスクがある》

親知らずが横向きに近い角度で生えてきた場合、第二大臼歯の寿命を縮める恐れがあります。親知らずが第二大臼歯の歯根を圧迫するからです。

歯根は、強く圧迫されると侵食され、溶けて吸収されたように短くなっていきます。これを「歯根吸収」と言います。

歯根が短くなった歯は、寿命が縮む傾向にあります。歯を支える力が弱くなり、抜けやすくなるからです。親知らずが第二大臼歯の歯根を圧迫している場合、抜歯を提案されることがあります。

3-2 親知らずの保存が検討されるケースとその理由

《上下まっすぐ生えていてきちんと咬み合っている》

親知らずが上下きちんと生えており、咬み合わせにも問題がない場合、特に抜歯を考えなくても良いとされています。ただし、第二大臼歯のさらに奥に生えているため、歯ブラシが届きにくいといったリスクはあります。入念にケアするよう心がけましょう。

《歯茎に埋もれていて周辺組織に影響を与えそうにない》

親知らずが顎の骨の中に埋まっており、周りの歯や骨などに悪影響を与えるリスクが低く、かつ腫れや痛みといった症状がない場合、抜歯をせずに様子を見ることが多いです。

《歯列矯正によってきちんと咬み合う可能性がある》

親知らずが斜めや横向きに生えていたとしても、生え方や周りの歯の状態次第では、歯列矯正によってきちんと咬み合うように治せることがあります。

《移植や土台などで使える可能性がある》

たとえば第二大臼歯を失ってしまった場合、親知らずを土台にしてブリッジをかけたり、移植したりすることで歯の機能を取り戻せることがあります。

3-3 抜歯するかどうかは先生とよく相談して慎重に判断を

抜歯によって腫れたり痛んだりするなど、身体的な負担はゼロではありません。また、歯は一度抜いてしまうと元には戻せません。

歯列矯正による治療が可能か、移植や土台にすることが可能かといった点は、親知らずの状態、周りの歯の状態などによって変わってきます。親知らずを抜歯するかどうかは、歯医者さんを受診したときに先生とよく相談し、メリット・デメリットも踏まえて慎重に判断しましょう。

4.まとめ

親知らずやその周辺に膿が見られる場合、智歯周囲炎などの炎症が原因となっていることがほとんどです。智歯周囲炎を放置して悪化させると、炎症が広がって顎や頬が腫れたりすることもあります。

親知らずや周辺が膿んでいる・腫れて痛むなどの場合、できるだけ早く歯医者さんを受診しましょう。

コメント

親知らず、斜めになっていたり、歯茎がかぶっていたりして、食べたものが詰まりやすい環境の場合も多いので、歯ブラシ等で清潔に保つことが大切だと思いますが、強く歯ブラシ等で傷つけても、炎症になることも多いです。最終的には、まっすぐ生えてこない場合は抜歯になる事が多いです。ただ、場合によっては親知らずを他の部位に移植することもあるので、歯科医師と相談して下さい。

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執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。