歯の痛みの原因はさまざまですが、その原因がはっきりしないと不安のまま痛みと闘わなければいけません。歯痛は、虫歯や歯周病などの歯科疾患が原因のものばかりではないのです。身体の一部が異常をきたして歯の痛みに結びつく場合や、ストレスが発端である場合も考えられます。
この記事では、5つの症状から歯痛の原因を探り出していきます。さらに、治療後に感じる歯の痛みや、精神面が影響して起きる痛みについても紹介していきます。自分のお口の中や身体の状態を確認して、正しい改善策を見つけ出していきましょう。
この記事の目次
1.5つの症状でわかる歯痛の原因
この章では、歯痛の原因について症状別に詳しく紹介していきます。自分が感じた歯の痛みは一体何が原因なのか、わかりやすく5つの症状に分類し、それぞれ治し方も記載しています。自分の歯の痛みがどれに当てはまるのか、見つけてみてください。
1-1 冷たいものや温かいものがしみる
冷たいものや温かいものがしみて歯が痛むという場合、「知覚過敏」の可能性や、虫歯のレベルが「C2」まで進行している場合が考えられます。詳しい症状については下記で紹介していきます。
◆知覚過敏
症状
・歯の表面の象牙質が露出してしまい、敏感に反応してしまうことで歯がしみる
・冷たいものや温かいものがしみるが、痛みは一時的で、たたいても痛くない
治療方法
知覚過敏を治すには、知覚過敏用の歯磨き粉を使用して磨いてみたり、フッ素を塗って象牙質の表面を修復するなどして治療に努めます。1~2ヶ月程度で症状が改善されていきます。
◆虫歯レベル「C2」
※「C」とは虫歯を意味している歯医者さんの専門用語『カリエス』の頭文字から取っている。「C2」とは、虫歯がエナメル質の奥にある象牙質まで進行してしまった虫歯レベルのこと
症状
・象牙質には神経とつながっている管があるため、冷たいものや温かいものの刺激が伝わって痛みを引き起こす
・冷たいものや温かいものがしみて、慢性的な痛みを感じる。歯をたたくと響くように痛む
治療方法
レベル「C2」の虫歯治療は、虫歯の部分を削って詰め物を入れて修復します。治療の際に麻酔を行わないと痛みが生じますが、現代では、虫歯の部分を削らずに治療する方法も生まれています。
知覚過敏の場合、痛みを感じるのは一時的で、歯を直接たたいても痛みを感じません。虫歯の場合は慢性的な痛みを伴い、たたくと響くように痛むのが特徴です。
1-2 ズキズキと常に痛みが生じている
虫歯が歯髄まで進行してしまうと、歯に激痛が走ります。この状態は、ズキズキと常に痛みを感じている「C3」のレベルです。このような症状が突然やってきて、すぐに歯医者さんに行けないような場合、応急処置として「ロキソニン」などの痛み止めの薬を飲んで、一時的に歯痛を鎮める方法があります。
症状が落ち着いても薬で痛みを抑えているだけですので、すぐに歯医者さんを予約して、治療を施してもらう必要があります。
治療方法
虫歯が歯髄まで達してしまったこのレベルは、治療期間も5日間程かかります。「リーマー」と呼ばれる針状の器具を使い、歯髄の中をほじるようにして治療していきます。
1-3 噛むと歯が痛む
歯痛の中には、噛んだときに歯が痛むというパターンもあります。それは、虫歯や歯周病、歯ぎしりや歯にひびが入ったことが影響して「歯根膜炎(しこんまくえん)」になることが原因です。
歯根膜炎とは、歯の周辺に存在する、物を噛んだときの硬さや軟らかさを判別するための膜が、細菌によって侵されたり、強い力が加わることで炎症を起こしてしまう症状のことをいいます。それぞれの症状の解説と治し方について、下記で詳しく紹介します。
◆虫歯
症状(歯根膜炎)
歯根膜が虫歯菌に侵されることで、噛んだときに痛みが生じてしまう
治療方法
歯の神経が細菌に感染してしまっているので、感染した神経を抜き、神経の管を消毒する治療を行う
◆歯周病
症状(歯根膜炎)
歯周病が悪化して歯の周辺の骨が溶けてしまうと、歯を支えきれずに噛んだときに痛みを伴う
治療方法
歯石除去や外科的な治療を施し、歯の周辺の骨を修復していく
◆歯ぎしり
症状(歯根膜炎)
歯ぎしりをする癖があるような人は、歯に強い力が加わり、歯が揺さぶられることによって噛んだときに痛みが出る
治療方法
歯ぎしりを行わないようにすることが大事で、硬い食べ物は控える。夜寝ている間は、マウスピースをはめた治療で対応する
◆歯のひび
症状(歯根膜炎)
歯にひびが入って割れてしまっているような場合、噛むたびにひびが広がって、鈍い痛みを感じる
治療方法
歯のひびが広がらないようにするため、接着剤で固定し、被せて補強する
虫歯が原因で噛むと痛い場合、「1-2」で紹介した虫歯レベル「C3」の状態であり、虫歯が歯髄まで進行してしまったことを意味しています。噛むと痛いだけでなく、何もしなくてもズキズキと痛む場合もあります。
また、歯周病が原因で噛むと痛いと感じる場合は歯周炎(歯周病の中期)が進行している可能性があります。歯周炎の他の症状として、歯茎の腫れや赤みがひどく、歯茎の退縮により隙間ができてしまって、歯が長く見えたりもします。
1-4 歯茎が原因で歯が痛む
歯痛には歯茎の異常が引き起こしているパターンも存在します。歯茎が異常をきたす理由には、虫歯や歯周病、親知らずなどが関わっている可能性があります。下記で詳しく説明していきます。
◆虫歯
症状
歯の根っこの先の骨の中に虫歯菌が入ることで、骨の中に膿が溜まり、歯茎の腫れを引き起こして痛みを感じる
治療方法
歯茎を切開して、膿を出す治療を行う
◆歯周病
症状
歯周病が進行して歯茎に膿が溜まってしまい、歯茎が腫れて痛みを伴う
治療方法
歯茎を切開して、膿を出す治療を行う。痛みが繰り返されないように、早めの治療を心掛ける
◆食片圧入(しょくへんあつにゅう)
症状
歯間部に食べカスが溜まって歯茎が圧迫されると、痛みが生じてしまう
治療方法
歯間部に食べカスが挟まらないようにケアする。デンタルフロスや歯間ブラシが効果的
◆親知らず
症状
親知らずの生え方が斜めに生えたり、横に生えたりすると、歯垢が溜まりやすい場所ができてしまい、歯茎が腫れて痛みを伴う
治療方法
磨きにくい親知らずはワンタフトブラシを使って歯垢を除去するのが有用。歯医者さんと相談し、必要ならば抜歯も検討する
虫歯によって歯茎に異常がきたした場合、歯の根っこまで虫歯菌が進行した「C4」の状態といえます。「C4」とは、虫歯菌によって歯冠部まで溶けてしまい、歯髄が死んでしまった状態です。ここまでくると痛みさえも感じなくなってきますが、根っこに膿ができると強烈な痛みが押し寄せてきます。
また、痛みの原因が歯周病の場合、悪化すると歯茎に痛みを感じ、膿まで排出するようになります。歯のぐらつきや口臭まで発生していくと、最悪、歯が抜け落ちる危険性もありますので早めの対策が必要なのです。
1-5 身体の一部が原因で起きる歯の痛み
身体の一部が異常をきたして歯の痛みにつながることがあります。痛みを取り除くには、原因となっている病気を治すために各医院との連携が必要になってきます。
◆副鼻腔炎(ふくびこうえん)
症状
上の歯の奥歯の根に接している副鼻腔が炎症を起こすことで、歯痛が起きる
治療方法
抗生物質を服用して治す
◆咀嚼筋(そしゃくきん)の痛み
症状
咀嚼筋は物を噛むための筋肉であり、この中の歯に近い部分の咬筋(こうきん)や側頭筋(そくとうきん)が痛み出すと歯痛が起きる
治療方法
筋肉の緊張をほぐすためのマッサージを行う
◆帯状疱疹(たいじょうほうしん)
症状
水ぼうそうができる帯状疱疹は、ウイルスによる神経の炎症であり、これが原因で、虫歯の症状に似た強い痛みを伴う
治療方法
皮膚科と連携して治療を行う
◆三叉(さんさ)神経痛
症状
血管が圧迫されることで、顔の感覚をつかさどる三叉神経が異常をきたすと、ピリッとした歯の痛みが続くことがある
治療方法
耳鼻咽喉科と連携して治療を行う
◆偏頭痛や脳腫瘍
症状
偏頭痛や脳腫瘍などは脳神経に関わるので、頭痛の症状や、頭が重いと感じたりすると、歯痛が起きることがある
治療方法
脳神経外科と連携して治療を行う
◆狭心症や心筋梗塞
症状
狭心症や心筋梗塞を起こすと、息苦しさや疲労で、歯痛につながってしまう
治療方法
循環器外科と連携して治療を行う
2.歯の治療後に感じる痛み
歯の治療をしたあとなのに、感じる歯痛…。この章では、そんな治療後の痛みの原因についても紹介していきます。治療後の痛みの具体的な中身については下記のようなケースが考えられます。
◆虫歯の治療後の痛み
虫歯の治療を行ったあとは神経が過敏になっているため、冷たいものや温かいものがしみて痛みを感じるという場合があります。
治療方法
治療した部分に冷たいものや温かいものが当たらないようにすることが良いのですが、ほとんど2、3日で、しみる症状は改善されます。症状が何年も続き、我慢できないようなケースは、神経を取るという処置も考えられます。
◆ギリギリで神経を残した場合の痛み
ギリギリで神経を残すという治療をした場合、残された神経の一部に細菌が入ることで痛みが生じてしまうことがあります。
治療方法
痛みが一時的であれば、鎮痛剤を服用して様子を見るケースが妥当です。痛みが続いて我慢ができない場合は、神経を取る処置を行います。
◆神経を取ったあとに起きる痛み
神経を取る治療を行ったあとも痛みを感じる場合があります。その原因は、歯の根っこの治療(根管治療)を行った際、器具で根の中を傷つける場合があるからです。その傷ついた箇所が治るまでの間、痛みが続くというわけです。
また、神経は複雑な構造をしているため、すべてを取り除けなかったり、細菌が取り残されて痛みが生じるというケースがあるのです。
治療方法
痛みが一時的ではなくずっと続いている場合、根管治療のやり直しが必要になってきます。膿が溜まってしまっても、根の治療だけで改善できないような場合、歯茎を切開して膿の袋を取り出す「歯根端切除術(しこんたんせつじょじゅつ)」と呼ばれる処置を行います。
3.精神面が影響して歯痛が起きる
歯痛の原因として、精神的なことが影響する場合があります。ストレスが蓄積され、それを発散できないでいるような場合、それが歯の痛みにつながってしまうのです。現代社会では、鬱病(うつびょう)を発症してしまうケースも多く見られ、“心の病”は深刻な問題でもあります。
歯科疾患ではないのに歯が痛いと感じたら、それは「非定型(ひていけい)歯痛」の可能性があります。なぜ、ストレスが原因で歯痛が起きるのか? それは、ストレスによって血液中の「カテコールアミン」の量が増加し、歯の周辺の血管が充血してしまうことで痛みを感じるといわれています。歯それ自体に何の異常もない場合、日頃ストレスを溜めていないか、自分自身でチェックしてみることも大切なのです。
治療方法
“ストレスフリー”の生活を送ることは難しいですが、ストレスの発散方法を自分で見つけ、それを実行できる環境を保持することが大事です。やはり、歯が痛む場合には、歯医者さんに相談してみるのが良いでしょう。歯医者さんの選び方に関しては、下記の記事を参考にしてください。
4.まとめ
歯痛の原因はいろいろありますが、この記事では5つの症状から原因を探り出し、追究していくことで改善策を提示していきました。また、治療後の歯の痛みや、精神面が影響して起こる痛みについても触れてきました。自分の歯痛の原因はどれなのか、それを見つけ出した上で対策を行っていきましょう。
QAサイトで虫歯の痛みについて質問している方がいますので、そちらも参考にしてください。
1968年 東京歯科大学 卒業
1968年 飯田歯科医院 開院
1971年 University of Southern California School of Dentistry(歯内療法学) 留学
1973年 University of Southern California School of Dentistry(補綴学・歯周病学) 留学
1983年~2009年 東京歯科大学 講師
現在に至る
執筆者:
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