治療時と治療後のインプラントの痛みや不安を軽減させる方法

入れ歯などと比較すると、機能的にも見た目的にも優れているインプラントですが、治療後に痛みを引き起こすケースがあります。しかし、痛みが発生するのにはいくつかの理由がありますし、正しく対処すれば大きな問題はありません。

ここでは、インプラント治療による痛みについて、その原因と対処法についてご紹介していきます。正しい知識を得てトラブルを防ぐためにも、インプラント治療を検討しているという方はぜひご一読ください。

この記事の目次

1.インプラント治療時の痛みの軽減と治療の流れ

1-1 インプラント治療時の痛みや不安を軽減する方法

インプラント治療の最中には、実は痛みはほとんど感じることがありません。不安を抱く方は多いかもしれませんが、インプラントを埋め込む手術の前には麻酔注射を施すためです。

注射時の痛みについては、歯茎に表面麻酔を塗って針を刺したときの痛みを軽減できます。針についても細い針を使用し、麻酔液を人肌に温めることで麻酔液を注入したときの痛みも緩和させます。

こうした「痛みへの配慮」を行ってくれる歯科医院は全国に多くなってきました。また、手術の不安感を取り除くために「静脈内鎮静法」や「吸入鎮静法」を併用して行ってくれる歯科医院もありますので、ぜひWEBなどでお近くの医院を探してみてください。

「静脈内鎮静法」と「吸入鎮静法」の説明については下記になります。

静脈内鎮静法

「静脈内鎮静法」とは、鎮痛薬と向精神薬を静脈内投与し、手術に対する不安や恐怖を和らげる手法のことです。意識を残している状態なので、手術中に医師の指示に従うこともできます。ウトウトしているうちに手術が終了していたという感想を持つ人が多いようです。

吸入鎮静法

「吸入鎮静法」とは、30%以下の笑気ガスと70%以上の酸素を、専用マスクで鼻から吸入する方法です。お酒に酔ったような感じでリラックスできるので、緊張感や不安感が強い人におすすめの方法といえます。保険治療で行うことができるため、料金的な負担も少なくて済みます。

1-2 インプラント治療の流れ

インプラントの治療は、虫歯、歯周病などで歯をなくした後に、チタン製もしくはチタン合金製を人工歯根として顎骨に埋め込み、それを土台にして歯を作るという治療法です。

埋め込んだ人工歯根が骨と接着するのを待ってから、その上に歯を形成していきます。早ければ2ヶ月程度で完了しますが、その前段階に顎の骨を補強する手術が必要で、1年以上かかることもあります。

手術の成否を分けるのは人工歯根の埋め込みといわれていますが、手術時間は1時間から2時間程度といわれています。

2.インプラント治療後の痛みや腫れの原因

インプラントの手術中は麻酔をしているので痛みを感じにくいですが、術後に麻酔が切れると抜歯をした後のような痛みや腫れを引き起こすことがあります。

ただ、この痛みや腫れも痛み止めなどを使用しているうちにいつの間にか軽減されるものです。もし、いつまでも痛みがなくならないようでしたら、次のような原因が考えられます。

2-1 噛み合わせ設計のミス

歯は、噛み合わせを微調整するために数ミクロン単位で日々動いています。しかし、インプラントは一度埋め込んでしまうと二度と動きません。ですから、噛み合わせに設計段階でミスがあると、インプラントに過度な負担がかかって痛みが生じます。

2-2 細菌の感染

痛みは細菌感染のサインの場合もあります。インプラントは細菌に感染しやすいので管理が重要です。とくに歯周病菌が多い人は注意が必要です。

2-3 手術のミス

インプラントを埋め込む時のミスにより、骨との間に摩擦熱を生じやすくしてしまい痛むことがあります。そのためインプラントに知見を持った歯科医師のいる歯科医院を選ぶようにしましょう。手術ミスには次のようなものがあります。

インプラントが骨と結合しない

生体防衛反応、すなわち拒絶反応によって、インプラントが骨と結合しないケースでも痛みを感じます。拒絶反応を引き起こさないためにも、無菌に近い状態で手術することが非常に重要です。

インプラントの貫通

インプラントをお口に合った深さに埋めず貫通させてしまうと、やはり痛みが起きます。事前にCTなどで十分に検査をして、深さをシミュレーションしておくことが大事です。

人工歯の破損

人工歯が破損した場合の痛みにも要注意です。これは、人工歯の設置後に噛み合わせの調整に失敗したり、インプラントと人工歯を結合している部分の締め付け方が悪かったりすることによって引き起こされます。

神経の損傷

インプラントが正しい形で埋められず、神経を傷つけることで痛みを引き起こします。場合によっては、麻痺などの症状が出てしまうこともあるでしょう。手術前のCT撮影を怠ったり、医師のスキルが不足していたりすることが原因となります。

2-4 インプラント周囲炎

インプラント周囲炎とは、歯周病菌によってインプラントを支えている顎の骨まで炎症が達してしまう症状で、強い痛みがあることが特徴です。定期的なメンテナンスを怠ることで発生しやすくなります。

2-5 誤ったセルフケアや生活習慣

間違ったセルフケアや生活習慣は、痛みを引き起こす原因となります。毎日の歯磨きを怠ったり、誤ったブラッシングをしたりしていると、人工歯のまわりにプラークがたまり炎症を起こしてしまうのです。その他、日常的に注意しなければいけないのは以下のような点です。

薬の服用を怠る

インプラントは外科手術の一種でもあるので、鎮痛剤、化膿止めの抗生物質、消炎酵素剤などの服用が必要です。手術後にはもちろんのこと、手術前に飲まなければいけない薬もあります。服用を怠ると、炎症を起こし強い痛みを引き起こすなどするため注意が必要です。

飲酒

お酒は血行を良くするため、出血や痛みを引き起こしやすくなります。少なくとも鎮痛剤や化膿止めを使っている間は飲むのを控えましょう。

喫煙

喫煙は血行を阻害して骨の形成も鈍化させるため、インプラントと骨の結合も阻害し痛みを生じさせることがあります。

激しい運動

インプラント手術後に激しい運動をすると、血行が促進されて痛みを増すことがあります。手術後は最低でも3日程度は安静に過ごすように心掛けましょう。

3.インプラント治療後の痛みへの対処法

インプラントの手術をした後は、基本的には抜歯程度の痛みしかないはずですが、それ以上の痛みや腫れが長期にわたって続くようならば、何らかの対処が必要です。

3-1 まずは歯科医師に相談

鎮痛剤を服用してもおさまらないほどの激しい痛み、1週間以上長引いている痛みなどを感じたら、まずは歯科医師に相談しましょう。しびれ、麻痺なども危険なサインです。

3-2 きちんとしたセルフケア

手術が成功していたとしても、間違ったセルフケアで痛みを生じさせてしまうこともあります。とくに手術後は以下のような点に注意して生活するようにしましょう。

飲酒や喫煙を控える

手術後は医師の許可が出るまで飲酒と喫煙は控えましょう。いずれも痛みを強く感じさせる原因になるので注意しなければいけません。

薬を指示通りに服用する

痛み止めや化膿止めなどの薬は、指示された通りに服用しましょう。手術後はとくに細菌に感染しやすくなっているので、薬でしっかりとコントロールしなくてはいけません。

やわらかいものを食べる

手術後すぐは、物理的な刺激も痛みの原因になります。インプラントと骨がしっかりと結合するまでは、できるだけやわらかいものを摂取するように心掛けましょう。

定期検診を受ける

インプラントは定期検査が重要です。痛みがある時にはもちろんのこと、痛みがなくても定期検査を受けるようにしなくてはなりません。

3-3 口内を清潔に保つ(ブラッシング)

細菌感染による痛みを予防するためには、ブラッシングで口内を清潔に保つことが大切です。手術後は、手術前以上に正しいブラッシングを心掛けましょう。

3-4 鼻を強くかまない

インプラント手術の前に上顎の骨の厚みを増す手術をした場合には、鼻を強くかむことで圧力がかかり痛みを感じるケースがあります。手術後しばらくは、鼻をそっとかむようにしましょう。

4.歯科医院を選ぶ際に大切なポイント

手術後の痛みを防ぐためには、症状にあった歯科医院を選択することが第一歩です。そのための、歯科医院を見分ける方法を紹介します。

4-1 インプラント専用の手術室

インプラント手術は無菌に近い状態で手術する必要があるため、病院の衛生環境は大きな判断基準となります。感染を防止するため、一般診療を行う診療室とは隔離された、インプラント専用の手術室が備えられている医院を探すのがポイントです。

4-2 治療内容の詳しい説明

インプラントは外科手術の一種なので、不安を感じて当然です。患者さんに対して詳しい治療内容を説明してくれる歯科医院を選択するのも大切なポイントです。

4-4 わかりやすい料金説明

インプラント治療は決して安いものではありません。料金について、納得のいく説明をしてくれる歯科医院を選択しましょう。

4-5 使用している素材

使われている素材もポイントとなります。インプラントは身体に埋め込むものなので、拒絶反応のリスクを回避するためにも、ある程度の品質の素材を使用していなければなりません。

5.まとめ

インプラントの手術後に痛みを感じた場合、まずそれが正常な範囲のものなのかそうではないのかを正しく判断する必要があります。素人にはわかりにくい部分もあるので、何かしらの違和感を覚えたら早めに歯科医院に相談することをおすすめします。

もし、危険な痛みだった場合でも、その理由を正しく理解したうえで処置をすれば問題はありません。飲酒、喫煙、ブラッシングなど自分でできることに気を配ることも大切です。

いずれにせよ、インプラント手術が成功したのであれば強い痛みは長引きませんし、自分の歯と同様に、堅いものでも気にせず食べることができます。リスクを正しく理解し、定期的なメンテナンスを心掛ければ、インプラントは日常生活の助けになってくれるでしょう。

プロフィール&経歴

目指したきっかけ:医療には関心あったが、やはり一番は両親の教育が大きかったのではないかと思う。
やりがい:大学のときは他の職種とは違う特殊性に惹かれていたのですが、実際歯科医になってからはお礼を言われる部分です。

松本歯科大学卒業後、同病院勤務。
琉球大学医学部付属病院歯科口腔外科にて
顎顔面領域悪性腫瘍治療に従事。
その後都内複数歯科医院勤務後、
麻布シティデンタルクリニックを開院。
現在に至る。

執筆者:歯の教科書 編集部

歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。