前歯が痛いと、日常生活のさまざまな動作に支障をきたします。前歯は、食べ物を噛み切る、発音するといった動作に大きく関わっているためです。
この記事では、前歯が痛いときに考えられる6つの原因について、発症のメカニズムや要因、治療法などを交えながら紹介しています。悪化を防ぐ方法もまとめていますので、前歯が痛い人は参考にし、できるだけ早く歯科医院を受診するといった対処につなげましょう。
この記事の目次
1.前歯が痛いときに考えられる6つの原因
1-1 むし歯
■自覚症状
むし歯は、進行の程度によって症状に違いがあります。
初期の状態ではほとんど自覚症状はありませんが、進行していくにしたがって冷水痛(冷たい物で痛む)、甘味痛(甘い物で痛む)といった症状があらわれることがあります。
さらに進行すると、自発痛(何もしなくても痛む)が起こる場合があります。
むし歯が歯の神経まで達すると、強い痛みが生じることがあります。
■発症メカニズム
歯の表面に付着した歯垢(プラーク)の中にいる細菌が、飲食物に含まれる糖質をもとに酸を作り出し、その酸によって歯が少しずつ溶かされていくのがむし歯です。
むし歯は、細菌、歯の質、飲食物に含まれる糖質、時間などの要素が重なることで発症・進行します。
■発症要因
不適切なブラッシング習慣
磨き残しがあると、歯垢がたまりやすくなり、むし歯のリスクが高まります。
ブラッシングに不安がある人は、歯科医院で自分の口の状態に合ったブラッシング方法を指導してもらいましょう。
間食が多い
食べ物や飲み物を口にすると、口の中が酸性に傾きます。
食べ物や飲み物に含まれる酸に加えて、細菌が糖質をもとに酸を生み出すためです。
間食が多い人は、それだけ口の中が酸性になっている時間が長くなり、歯が溶けやすい環境になりやすいと考えられます。
むし歯のリスクが高い口腔内環境
むし歯のなりやすさは、歯垢のつき方、唾液の働き、食生活、フッ化物の利用状況などによって異なります。
歯科医院では、口の中の状態を確認し、一人一人に合った予防法を指導してくれます。
1-2 歯周病
■自覚症状
歯周病は、はじめに歯ぐきに限った炎症が起こります。
歯ぐきが腫れたり、歯みがきのときに出血したり、むずがゆいような違和感が生じたりすることがあります。
この状態を歯肉炎と言います。
炎症がさらに周辺組織に広がると、歯槽骨(しそうこつ=歯を支えている骨)や、歯根膜(しこんまく=歯と歯槽骨の間に存在する線維性の組織)にも影響が出ます。
この状態を歯周炎と言います。
歯周炎では、自覚症状が少ない時期と、痛みや腫れなどが出る時期を繰り返しながら進行することがあります。
■発症メカニズム
歯磨きといったケアを毎日おこなわないと、歯の表面に歯垢(プラーク)が付着します。その歯垢の中に存在する歯周病菌が毒素を出すことで、歯茎が腫れたり、出血したり、痛みがでたりします。
■発症要因
不適切なブラッシング習慣
磨き残しがあると歯垢の中の歯周病菌が増殖し、歯周病を招いてしまいます。
歯と歯茎の間といった歯垢が溜まりやすい場所は、特に丁寧にブラッシングすることを心がけましょう。
歯間ブラシといったケア用品を併用するのもおすすめです。
間食が多い
間食が多い人は口の中が酸性に傾く時間が長くなり、虫歯菌や歯周病菌が増殖しやすい環境になっています。
間食は時間を決めて取り、食べ終わった後は歯磨きやうがいをして、口の中を清潔な環境に保ちましょう。
歯垢や歯石が多い
歯垢が多い人は、その中に存在する細菌も多くなります。
歯垢は粘着性が強く、うがいをした程度では除去できません。
その上、放置すると歯石に変化し、通常のブラッシングでは取り除けなくなります。
歯垢や歯石をためないためには、歯石に変化する前の段階で、歯垢をしっかり落とすことが大切です。
口呼吸
口の中の粘膜や歯ぐきが乾燥すると、歯垢が溜まりやすくなることがあります。
また、口呼吸の人は、口の中が乾燥しやすいため炎症が起こりやすく、歯周病のリスクが高まることがあります。
鼻づまりなど原因がある場合は、必要に応じて医療機関に相談しましょう。
喫煙
タバコに含まれる有害物質が歯に付着すると、その上に歯垢が溜まりやすくなります。
一酸化炭素やニコチンといった物質は、歯周病菌への抵抗力を低下させるほか、傷口の治りを遅らせるため、歯周病を悪化させることがあります。
噛み合わせが悪い
噛み合わせが悪いと、一部の歯に強い力が加わります。
歯の根や歯ぐき、歯槽骨、歯根膜などの周辺組織に負担がかかることで、歯周病を悪化させることがあります。
唾液の分泌量の減少
唾液の分泌量が減少すると、歯周病をはじめとする口の中のトラブルが発生しやすくなります。
唾液が減って口の中が乾燥すると、細菌が増殖しやすくなるためです。
ほかにも、酸や細菌から口の中を守る唾液の働きが低下することがあります。
1-3 知覚過敏
■自覚症状
ピリッとした一過性の痛みを感じるのが知覚過敏です。
歯ブラシの毛先や冷たい飲食物、甘いもの、風などが歯に触れたときに痛みが生じます。
むし歯や歯の神経の炎症といった症状は、見当たらないことがほとんどです。
■発症メカニズム
歯の表面のエナメル質(※)が何らかの原因で欠損し、内側の象牙質(ぞうげしつ)が露出したり、歯の根の部分が露出したりすることで起こります。
※歯は、上から「エナメル質」「象牙質」「歯髄(しずい=歯の神経部分)」という構造になっています。
■発症要因
歯ぐきの退縮(たいしゅく)
歯の周辺組織が何らかの原因ですり減り、歯ぐきが下がってしまうことを歯ぐきの退縮と言います。
歯ぐきが退縮すると歯の根の部分が露出し、その部分に知覚過敏の症状が出ることがあります。
歯の破折(はせつ=折れたり欠けたりすること)
外傷により歯が破折して象牙質が露出すると、歯髄に刺激が伝わりやすくなります。
その結果、しみる、痛むといった症状が出ることがあります。
歯のすり減り
歯の表面を覆うエナメル質がすり減ると、象牙質が露出します。
歯の神経に刺激が伝わりやすくなることで、しみたり痛みを感じたりすることがあります。
歯の溶解
むし歯菌が作り出す酸や、飲食物に含まれる酸によってエナメル質が溶かされ、象牙質が露出してしまうことがあります。
象牙質から歯の神経に刺激が伝わりやすくなり、知覚過敏の症状が出る場合があります。
歯の治療
歯を削る治療をしたあと、しみたり痛んだりする場合や、治療後の咬み合わせの変化によって痛みを感じたりする場合があります。
多くは時間の経過とともに落ち着きますが、症状によっては再治療や、歯の神経を取る治療が必要になることもあります。
歯ぎしり/食いしばり
歯ぎしりや食いしばりによってエナメル質が削れたり、歯と歯ぐきの境目に欠損が生じて象牙質が露出したりすることで、知覚過敏の症状が出ることがあります。
1-4 歯髄炎(しずいえん)
■自覚症状
歯髄(歯の神経部分)に炎症が生じるのが歯髄炎です。
初期では歯がしみるような症状が出ますが、進行するにしたがって強い痛みが生じることがあります。
ズキズキと脈にあわせて痛んだり、歯が何かに触れるだけで強い痛みが出たりすることがあります。
■発症メカニズム
むし歯や歯周病といった原因で歯の内側に細菌が侵入し、歯髄に炎症が起こることで発症します。
外傷によって歯が欠けた部分から細菌が侵入したり、歯に強い力が加わったりすることで歯髄がダメージを受け、発症する場合もあります。
■発症要因
外傷
歯が折れた、顎を骨折したといった外傷があると、傷口から細菌が侵入し、歯髄炎を招くことがあります。
むし歯の進行
むし歯が進行すると、むし歯菌が歯髄まで広がって歯髄炎に発展することがあります。
歯ぎしり/食いしばり
歯ぎしりや食いしばりによる強い力で、歯が割れたり欠けたりすることがあります。
その部分から細菌が侵入して歯髄に達すると、歯髄炎になってしまうことがあります。
1-5 根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)
■自覚症状(慢性/急性)
慢性期の根尖性歯周炎では、多少違和感がある程度でほとんど痛みがない場合も多くあります。
一方、急性期の根尖性歯周炎は、強い痛みや腫れが出ることがあります。
数日して膿が排出されると、痛みが落ち着くケースもありますが、原因がなくなったとは限りません。痛みが引いても、歯科医院で診断を受けることが大切です。
■発症メカニズム
歯の根の先端に細菌が入り込み、膿がたまることで発症するのが根尖性歯周炎です。
歯髄の炎症(歯髄炎)を放置すると、やがて歯髄が壊死することがあります。
さらに放置すると、歯の内側で細菌感染が広がり、根の先に炎症が起こることがあります。
■発症要因
むし歯の進行
むし歯を治療せずに放置したままにすると、むし歯菌が歯髄に達し、歯髄炎を発症します。
歯髄炎を治療せず進行させてしまうことで、根尖性歯周炎を発症します。
根管治療(こんかんちりょう)
歯の根を消毒し、細菌による感染症を防ぐ治療が根管治療です。
歯の根や神経部分は複雑な状態のことが多く、根管治療は細かな注意が必要です。
過去におこなった根管治療後に細菌感染が残ったり、再感染が起こったりした場合、根尖性歯周炎を発症することがあります。
外傷
歯に外部からの強い衝撃が加わり、神経がダメージを受けることで根尖性歯周炎になることがあります。
たとえ歯が折れていなくても、神経が壊死すると歯の根の先端に炎症が起こることがあります。
歯ぎしり/食いしばり
歯ぎしりや食いしばりで歯や歯髄に強い力が加わると、神経が傷ついたり、歯が破折したりしてしまうことがあります。
神経が壊死する、破折した部分から細菌が侵入する、といったことがきっかけで根尖性歯周炎を招くことがあります。
1-6 咬合性外傷(こうごうせいがいしょう)
■自覚症状
咬合性外傷の主な症状は、噛んだり歯に力が加わったりしたときに生じる痛みです。
歯が揺れたり浮いたように感じたりすることもあります。
■発症メカニズム
歯ぎしりや食いしばり、噛み合わせの不具合などが原因で、歯に過度の力が加わることで発症します。
また、噛み合わせの力が正常であっても、歯周病が進行していると咬合性外傷になるケースもあります。
歯を支える側(歯ぐきや歯槽骨)が弱くなってしまい、噛み合わせる力に耐えられないためです。
■発症要因
歯ぎしり/食いしばり
歯ぎしりや食いしばりの強い力によって、歯や歯槽骨、歯ぐきといった周辺組織が損傷し、咬合性外傷を発症することがあります。
咬合不正(こうごうふせい)
咬合不正とは、顎の骨の形や歯並びといった原因で咬み合わせが正常でないことです。
咬合不正では、咬み合わせたときに特定の歯に強い力が加わります。
歯の周辺組織がその力を無理に受け止めようとして損傷すると、咬合性外傷になることがあります。
歯周病の進行
歯周病が進行すると、歯槽骨が吸収されます。
健康なときと比べて歯を支える力が弱くなるため、通常の噛み合わせの力が加わるだけでも痛みを感じるようになることがあります。
2.原因別・前歯が痛いときの治療法
2-1 むし歯の治療
■治療方法
初期のむし歯の場合、削らずに経過を観察したり、フッ化物を用いたケアやブラッシング指導を行ったりする場合があります。
歯に穴があいている場合や進行している場合は、むし歯の部分を削り、白いプラスチックを詰めて治療をおこなうことがあります。
むし歯が進行すると、治療の際に麻酔が必要になることがあります。
むし歯の範囲が広い場合、型取りをして被せものを作製し、治療する必要があります。
むし歯が神経まで到達してしまった場合は、神経の治療が必要になります(歯髄炎の治療を参照してください)。
むし歯が歯ぐきや骨よりも深い位置まで進行した場合は、抜歯が必要になるケースもあります。
2-2 歯周病の治療
■治療方法
正しいセルフケアができるように、ブラッシング指導をします。
併せて、口の中の歯垢や歯石を、専用の器具で除去します。
必要に応じて、麻酔をしてより徹底した掃除をする場合もあります。
2-3 知覚過敏の治療
■治療方法
症状が軽い場合は、しみ止めの薬を塗って経過を見ます。
症状が改善しなければ、露出している歯の根や象牙質の部分に、むし歯を詰めるのに使うプラスチックを詰めます。
まれに、ほかの方法で改善が難しい場合には神経の処置が検討されることがあります。

2-4 歯髄炎の治療
■治療方法
細菌によって炎症を起こしてしまった神経を除去し、神経があった空間(歯髄腔=しずいくう)をきれいに掃除します。
その後、歯の根の中に詰めものをし、土台を立てて被せものをします。
2-5 根尖性歯周炎の治療
■治療方法
歯の根の先に膿がたまっている場合は、膿を出す処置を行います。
このとき、状態によっては歯ぐきを切る場合もあります。
急性症状が落ち着いたら、歯の根の治療をおこない、根の中を掃除して薬液で消毒します。
症状が治まってきたら、根の中に詰めものをして土台を立て、被せものをします。
2-6 咬合性外傷の治療
■治療方法
噛み合わせを確認し、必要に応じて咬合調整を行うことがあります。
これを咬合調整(こうごうちょうせい)と言います。
必要であれば、歯ぎしり防止用のマウスピースを作製することもあります。
3.前歯の痛みを悪化させないためにできること
3-1 自覚症状が出た時点で治療する
痛みを感じた時点で、できるだけ早く歯科医院を受診しましょう。
初期の段階で治療が開始できれば、治療期間や費用の負担を抑えられる場合があります。
放置して悪化させてしまうと、抜歯が必要になるケースもあります。
3-2 定期健診を受ける
口の中の状況が悪化すれば、むし歯や歯周病を発症したり、進行したりしてしまいます。
近年は、治療だけでなく、予防や早期発見のための定期的な管理も重視されています。
そのため、継続して口の中の状況を確認し、掃除することは重要になります。
4.まとめ
前歯に痛みが出た場合、できるだけ早くかかりつけの歯科医院を受診してください。
良くないのは、我慢して放置してしまうことです。
原因によっては数日で痛みがなくなってしまう病気もあります。しかし、痛みがなくなっているその間も、病状が悪化してしまうことがあります。
また、病気にならないように継続して定期健診を受けることも重要です。
【参考サイト】
・厚生労働省 e-ヘルスネット「むし歯の特徴・原因・進行」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-02-001.html
・厚生労働省 e-ヘルスネット「歯周病とは」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-03-001.html
・厚生労働省 e-ヘルスネット「口腔の健康状態と全身的な健康状態の関連」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-01-006.html
・日本歯科保存学会「ガイドライン」
https://www.hozon.or.jp/member/publication/guideline/
2008年 長崎大学 卒業
2008年~2018年 島根大学大学院 医学研究科 修了
2008年 島根大学医学部付属病院 勤務
2010年~2011年 島根大学医学部付属病院歯科口腔外科 勤務
2012年 隠岐病院 歯科口腔外科 医長
2012年~2013年 掛合診療所 勤務
2013年~2017年 玉井歯科 勤務
2017年 湘南台デンタルクリニック 開業
現在に至る

執筆者:
歯の教科書では、読者の方々のお口・歯に関する“お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。
