「重曹を入れた水でうがいをすると、虫歯のリスクが減少する」といった噂を聞いたことはありませんか? 虫歯予防だけではありません。そのほかにも、「口臭ケアに役立つ」と考えている人がたくさんいるようです。さらには、「歯磨きに使用すると着色汚れが落ちやすくなる」という話まであります。
これらの噂がすべて事実なら、重曹には大きな可能性が秘められていることになります。しかし、本当に重曹だけで「虫歯リスクの低減」「口臭ケア」「着色除去」を実現できるのでしょうか? こちらの記事では、「重曹うがい」に関する噂の真偽を検証してみたいと思います。
この記事の目次
1.「重曹うがい」に意味はあるのか?
重曹はもともと「重炭酸ソーダ」の略語であり、正式名称を「炭酸水素ナトリウム」といいます。一般家庭で頻繁に用いられる薬品で、スーパーマーケットなどで購入することが可能です。主な用途には、以下のようなものがあります。
・調理(ベーキングパウダー・あく抜きなど)
・洗濯(洗剤の補助・衣類の脱臭)
・掃除(油汚れ・焦げつきの研磨)
・消臭(靴箱の消臭など)
食品添加物として使われるほか、消臭剤・研摩剤など、あらゆる家事に役立つ存在です。とりあえず、「入手が容易であること」「日常的に使われるもので危険性がほとんどないこと」はわかりましたが、「重曹うがい」の有効性はいかがなものでしょうか?
1-1 重曹うがい検証①:炭酸水素Naは虫歯リスクを低減できるか?
重曹―炭酸水素ナトリウムは、弱アルカリ性です。ということは、炭酸水素ナトリウム水溶液でうがいをすることは有用かもしれません。虫歯の原因は「虫歯菌が作り出す乳酸」だからです。
「pH5.5以下の酸性環境」で歯のエナメル質が溶けはじめます。「pH」は酸性・アルカリ性を示す単位で、「pH7.0」が中性です。「7.0」を基準として、数字が高いとアルカリ性、低いと酸性であることを意味します。
エナメル質はハイドロキシアパタイトという物質で構成されています。「pH5.5以下の酸性環境」にさらされると、ハイドロキシアパタイトに含まれる「リン酸」と「カルシウム」が溶け出してしまうのです。この現象を「脱灰(だっかい)」と呼んでいます。
基本、人間の唾液は「pH6.8~7.0」であり、ほぼ中性を保っています。しかし、食事をすると、口腔内のpHは一気に酸性に傾きます。ほとんどの食品が酸性ですし、虫歯菌が糖質(炭水化物)を乳酸に変えるからです。食後2~3分で、口腔内は「pH4.5~5.5」になります。つまり、エナメル質が脱灰するのに十分な酸性環境になるわけです。
唾液の作用により30~40分くらいで口腔内は中性に戻ります。しかし、なるべく早く中性に戻せば、それだけ虫歯リスクは減るのではないでしょうか? そう考えると、弱アルカリ性の炭酸水素ナトリウムには、大きな可能性を感じます。アルカリ性の水溶液でうがいをすれば、口腔内を素早く中和できるからです。
以上から、「食後の重曹うがい」に関しては、多少、虫歯になる確率を下げる作用が期待できるかもしれません。
1-2 重曹うがい検証②:炭酸水素Naは口臭を緩和するか?
重曹の粉末を靴の中に入れると、靴を消臭することができます。そのほか、洗濯のとき洗剤と一緒に重曹水を投入すれば、衣類を脱臭することも可能です。これらの事実を踏まえると、重曹には十分な消臭作用があると考えられます。
ただ、問題は同じような消臭作用を口腔内で発揮するかどうか…です。重曹―炭酸水素ナトリウムが消臭できるのは、酸性の臭気だけなのです。アルカリ性の炭酸水素ナトリウムは、酸性の物質を中和することで別の物質に変え、結果的に消臭しています。口腔内で口臭を発している物質は、酸性なのでしょうか?
口臭を発する主な物質
口腔内で口臭を発している物質は多岐にわたりますが、特に大きな要因とされているのが「揮発性硫黄化合物(VSC)」です。VSCにはたくさんの種類がありますが、口腔内に存在しているのは以下の3種類です。
・硫化水素
硫黄と水素の化合物で、「腐卵臭」と表現される臭気を放ちます。
・ジメチルサルファイド
海に行ったとき、磯辺で「ドブのような悪臭」を感じることがあります。海洋プランクトンが作り出した「ジメチルサルファイド」が原因です。「キャベツが腐った臭い」と表現される臭気を放ちます。
・メチルメルカプタン
動物の糞から放出される気体で、「タマネギが腐ったような臭い」と言われることが多いです。歯周病にかかると、口腔内のメチルメルカプタンが増加します。
以上のVSCは、すべて酸性です。要するに、炭酸水素ナトリウムによって中和される可能性がある…ということになります。
ただ、口腔内のVSCが増加したということは、口腔内の不衛生・歯周病など、何らかの原因があります。あくまでも、重曹うがいの作用は「一時的な消臭」に過ぎません。根本原因の解消は期待できないのです。口臭をケアしたいときに重曹水でうがいをしても構いませんが、根本原因を取り除くことを考えれば、歯科医院に相談すべきでしょう。
1-3 重曹うがい検証③:炭酸水素Naは着色を除去するか?
炭酸水素Naは、歯磨き粉の研磨剤として使用されている成分です。研磨作用のほか、界面活性作用もあり、汚れを落とすのに役立つからです。なので、着色汚れを落とす作用は十分に期待できるでしょう。
ただ、研磨剤なので、度を超えて「重曹歯磨き」を繰り返すと、歯の表面が削れます。また、あまりに頻繁な歯磨き自体、オーバーブラッシングといってよくありません。「歯茎が後退する」「エナメル質が摩耗して知覚過敏になる」などのリスクがあります。
また、あくまでも、重曹は汚れを落とすだけです。漂白作用があるわけではないので、ホワイトニングのような作用は期待できません。あくまでも、着色汚れをある程度、落とせる可能性がある…という判断にとどまります。
2.重曹うがいをするには?
それでは、実際に重曹うがいをする方法を紹介することにしましょう。重曹はドラッグストアやホームセンターで購入する事ができます。ただ、口に入れるので、調理用の重曹を購入しましょう。
さて、うがいをするわけですから、重曹水(炭酸水素ナトリウム水溶液)を作る必要があります。
2-1 重曹水の作り方
①500mlのペットボトルに水をいれます
②計量スプーンの小さじ(真ん中)を使います。
③重曹:小さじ1杯(約3g)を投入します。
④重曹を入れて良く振ったら、重曹水の完成です。
2-2 重曹うがいをする時の注意点
重曹は食品添加物なので、有害ということはありません。ただし、濃度・分量には注意を払いましょう。
炭酸水素ナトリウムの「ナトリウム」に注目してください。塩化ナトリウム(食塩)と同じく、ナトリウムの化合物です。塩分を過剰摂取すると健康を害するのは常識ですが、実際のところ、「塩化ナトリウムかどうか」は問題ではありません。問題は、ナトリウムの摂取量なのです。
体内においては、「ナトリウム」と「カリウム」のバランスが重要です。塩分の過剰摂取が問題なのは、「カリウム量に対するナトリウム量が増えすぎるから」なのです。となれば、炭酸水素ナトリウムの過剰摂取は、塩分過多とまったく同じ…ということになります。
以上から、「重曹の濃度を増やしすぎる」「あまりに頻繁に重曹うがいをする」などは考え物…ということになります。また、重曹水は飲みこまず、きちんと吐き出すようにしてください。
3.まとめ
炭酸水素ナトリウムの性質を踏まえれば、「重曹うがいには、わずかながら口腔トラブルの確率を下げる作用が期待できる」と判断して良いでしょう。しかし、根本の解消にはならないので、実践するにしても「日常のケアにプラスする」程度の気持ちで実践してください。本気で口腔ケアをはじめるなら、予防に注力している歯医者さんに相談するのがおすすめです。
うがい以外に歯磨きもできます。重曹と植物性グリセリンを2:1の割合で混ぜるだけですが、磨き過ぎは歯を傷つけるので注意が必要です。
電話:03-3601-7051
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