歯髄炎の治療法や歯医者さんに行けないときの応急処置・予防法などを紹介

歯髄炎の治療法や歯医者さんに行けないときの応急処置・予防法などを紹介

噛むと歯が痛む、何もしなくてもズキズキ痛むといったことがあると、集中できなかったり、熟睡できなかったりして、日常生活に支障が出てしまうものです。その痛みの原因は、『歯髄炎(しずいえん)』かもしれません。歯髄炎とは、歯の神経や血管が通る『歯髄(しずい)』に炎症や感染が起こり、痛みが出ている状態を指します。この記事では、歯髄炎の治療法や、すぐに歯医者さんに行けないときの応急処置、予防法などを紹介しています。我慢できないほどの痛みが出てしまう前に、早めに歯医者さんを受診することが大切です。

この記事の目次

1.症状の度合いによる歯髄炎の治療法

強い痛みをともなう歯髄炎は、抜髄(ばつずい=歯の神経を抜く処置)をおこなう確率が高くなります。
神経を残すためにも、症状が軽いうちに歯医者さんを受診することが大切です。

1-1軽度の歯髄炎

知覚過敏の薬を塗る

比較的軽度の歯髄炎の場合、普段よりも神経が過敏になってしまい、知覚過敏の症状を起こしていることがあります。
その場合は、知覚過敏用の薬を塗って様子を見ることがあります。
温かいものや冷たいものが歯にしみる程度なら、軽度の歯髄炎かもしれません。
しかし、痛みが強くなるといったように症状の悪化が考えられる場合は、詰め物をして経過観察し、症状が落ち着いてから改めて被せ物や詰め物をする、といった治療を選択することもあります。

虫歯を治療する

虫歯で歯に空いた穴が歯髄に近づくと、歯がしみる、痛むといった症状が出ます。
このように虫歯が原因となっている場合、虫歯を治療するとともに、被せ物や詰め物をして細菌が歯髄に入り込まないようにします。

治療後に痛みが出た場合は、被せ物や詰め物を外して歯髄を治療することがあります。

1-2重度の歯髄炎

抜髄をする

重度の歯髄炎では、抜髄が必要なケースが少なくありません。

熱いものや冷たいものでしみる以外に、何もしなくても脈に合わせて強い痛みが生じるという場合、重度の歯髄炎が疑われます。抜髄をした歯は血管から栄養が送られなくなり、新陳代謝が起こらなくなるため、割れやすくなったり変色を起こしたりと、歯の寿命が短くなると言われています。

抜歯する

虫歯が歯の奥深くまで進行していて治療が難しい、歯が大きく割れてしまっていて修復が難しい、といった場合は抜歯をすることもあります。

歯髄の一部を取り除く

乳歯や生えたての永久歯の場合、歯髄の一部を残し、歯の寿命を延ばす治療を選択することもあるようです。
抜髄をすると、乳歯から永久歯への生え変わりや、歯の寿命に影響が出ることがあるためです。
歯髄の一部を残すため、全ての歯髄を除去する「抜髄」とは分けて考えられます。

ただし、成功率はそれほど高くないと言われています。
そのため、歯髄の一部を残す治療は、限られたケースでおこなわれるようです。

2.歯医者さんに行けないときの応急処置や予防法

突然、歯髄炎の痛みに襲われても、すぐに歯医者さんに行けないことがあります。
そんなときは、次のような応急処置を試しましょう。

しかし、痛みが引いても一時的なもので、歯髄炎が治ったわけではありません。
そのまま放置せず、できるだけ早く歯医者さんを受診しましょう。

2-1応急処置

痛み止めを服用する

痛みがある場合、市販の鎮痛剤で痛みを抑えられることがあります。
ただし、重度の歯髄炎では、鎮痛剤が効かないこともあります。

鎮痛剤は効いてくるまでに時間がかかるため、痛み出したらすぐに飲んでおくことをおすすめします。

※市販薬を使用する際には薬剤師の指示に従い、用法用量を守って使用してください。

患部を冷やす

血流が歯髄の神経を圧迫すると、強い痛みとなってあらわれる場合があります。
氷を濡れたタオルで包み、頬の上から患部を冷やして血の巡りを抑えると、痛みがやわらぐことがあります。
このとき、冷やし過ぎないように注意しましょう。
氷を直接当てるといったように急激に患部を冷やしてしまうと、血流が滞ってうっ血(※)を起こしてしまい、返って症状が緩和されなくなってしまいます。

※うっ血とは、特定の場所に血が多く溜まってしまう状態のことです。

噛むことを避けて安静にする

痛みのある部分には、刺激を与えないことが大切です。
食事をするときは痛くない方の歯で噛む、やわらかいものを食べるといったように、できるだけ刺激を与えないようにしましょう。

また、運動や入浴といった血行をよくする行為はできるだけ控え、安静にしていましょう。

お湯がしみる場合は水を口に含む

お湯で歯がしみるという場合は、水を口に含むことで痛みが軽減されることがあるようです。
市販の鎮痛剤の服用と併せて試してみましょう。

※【参考】福江南松歯科医師会 こんな時どうする?

2-2予防法

虫歯を予防する

虫歯の予防は歯髄炎の予防にもつながります。
毎日の歯磨きを丁寧におこない、デンタルフロスやデンタルリンスといったケア用品も併用しましょう。
口の中を清潔に保つよう、日常から心がけることが大切です。

すでに虫歯がある人は、重症化させないためにも、できるだけ早く歯医者さんを受診しましょう。

歯ぎしりや食いしばりを改善する

歯ぎしりや食いしばりといった習慣がある人も、歯髄炎を招く恐れがあります。
歯ぎしりがある人は、歯医者さんでマウスピースを作製してもらうことも検討しましょう。
食いしばりがある人は、気づいたときにやめるよう意識するとともに、運動を取り入れたり、趣味に没頭したりしてストレスを上手に解消しましょう。

3.歯髄炎の診断基準

歯髄炎の診断には、患者さんから症状を聞いたり、先生が直接歯を診たりすることのほか、次のような方法があります。

3-1歯髄炎の診断方法

温度や甘い物による刺激を与える

歯髄炎が疑われる歯に、熱いものや冷たいもの、甘いものといった刺激を与えて、痛みが出るかどうか確認します。
刺激を取り除いてから数秒で痛みが引けば、歯髄は温存できる可能性が高いとされています。

物理的な刺激を与える

歯を軽くたたくといった物理的刺激を与えて、痛みが出るかどうか確認します。
痛みが出れば歯髄炎が疑われます。

ただし、痛みが生じる場合、歯髄以外の周辺組織に炎症が広がっていることも考えられます。
そのため、X線検査(レントゲン撮影)をおこない、炎症の範囲を調べることもあります。

電気による刺激を与える

電気歯髄診断器(でんきしずいしんだんき)と呼ばれる機器を使って、歯に微量の電流を流します。
電流に反応すると、歯髄が生きていると診断されるようです。

3-2診断結果によって治療法を選択する

歯医者さんでは、「自発痛(じはつつう=何もしなくても痛むこと)といった急性症状が出ていないか」「歯髄が生きているか」「歯髄が温存可能か」などを診断します。

診断結果によって、抜髄や抜歯をするかしないかといったように、歯髄の状態に合わせた治療法を選択することになります。

4.虫歯のない歯にも起こる、歯髄炎のさまざまな原因

歯髄炎を招く大きな要因は虫歯ですが、虫歯以外にも、外傷や歯の異常といったように、歯髄炎を起こす原因はいろいろと考えられます。

4-1外傷や日常の習慣が原因で起こるケース

外傷によって歯が損傷すると、傷口から細菌が入り込み、歯髄炎を起こすことがあります。
また、日常的な歯ぎしりや食いしばりによって、歯が摩耗(まもう=すり減ること)したり割れたりしたことが原因となり、歯髄炎を起こすこともあります。

4-2過去の虫歯治療が原因で起こるケース

過去に虫歯治療をしたことがある歯が、歯髄炎を起こすことがあります。
治療に使用した薬剤や、詰め物が歯髄の刺激になってしまうことが原因です。

金属性の被せ物や詰め物が口の中に多く入っていると、ガルバニー電流(※)という現象が生じることがあります。
この現象によって起こる弱い電流が歯髄に刺激を与え、歯髄炎を招くこともあると言われています。

※ガルバニー電流とは、種類の異なる金属同士が、上下の歯で直接触れ合う、または唾液を介して触れ合うといったことが原因で発生する微弱電流のことです。ガルバニック電流と呼ばれることもあります。質の悪い銀の詰め物や酸化した金属があると、起こりやすいと言われています。

4-3歯の異常が原因で起こるケース

非常にまれではありますが、歯髄が歯の内側から象牙質を溶かしてしまう内部吸収や、歯の根の外側から歯が溶けてしまう外部吸収といったことが原因で、歯髄炎になることもあります。
内部吸収や外部吸収が起こる原因は、はっきりとはわかっていません。
しかし、打撲といった過去の外傷が原因で起こる場合があるようです。

また、生まれつき小臼歯(しょうきゅうし※1)に中心結節(ちゅうしんけっせつ※2)がある人も注意が必要です。
中心結節は噛み合わせの面に突起状に突き出ているので、食事などの際に折れてしまう事があります。
中心結節の中に神経(歯髄)が入り込んでいると、折れた箇所から神経に細菌が入り、歯髄炎になることがあります。

※1犬歯に続く2本の歯で、前から4番目と5番目に位置します。永久歯では左右2本ずつ、上下合わせて8本の小臼歯があります。
※2小臼歯にできる円すい状や棒状の小さな突起を、中心結節と言います。まれに生えてくることがある、歯の形態異常です。

4-4健康な歯に起こるケース

健康な歯でも歯髄炎になる場合があるようです。
例えば、体の他の部分で炎症が起こっている場合、その炎症を起こしている炎症細胞(えんしょうさいぼう※)が血流によって歯髄に運ばれ、歯髄炎を引き起こす、といったケースです。

※炎症を引き起こしたり悪化させたりする細胞のことを炎症細胞と言います。

5.歯髄炎の症状のあらわれ方

歯髄炎の症状のあらわれ方には、次のような特徴があります。

5-1何もしていないのに脈に合わせてズキズキと痛む

何もしていないときでもズキズキとした痛みがあれば、急性歯髄炎かもしれません。
歯髄が炎症を起こすと、血液と一緒に歯髄に送り込まれた炎症細胞が、歯髄の血管のすぐ近くを通る神経を刺激することがあります。
その結果、脈に合わせてズキズキとした痛みを感じるようになります。

5-2噛んだときに不快感や違和感がある

歯髄炎が慢性化している場合、自覚症状がそれほど出ないケースもあるようです。
噛んだときに歯に不快感や違和感はあるものの、強い痛みは出ないといったケースです。
そのため普段は気づきにくいのですが、刺激が加わることで突然痛み出すことがあります。

6.まとめ

虫歯が進行して歯髄炎が起こると、強い痛みを感じるようになります。
眠れないほどの激しい痛みが生じている場合、抜髄や抜歯を検討することも少なくありません。
歯髄炎を防ぐには、普段のデンタルケアが重要になってきます。
正しいブラッシング方法は、歯医者さんで指導してもらうことができます。

痛みの生じない小さな虫歯でもそのままにせず、知覚過敏といった軽度の症状であっても、歯医者さんにしっかりと診てもうことが大切です。
歯髄炎のつらい痛みを味わわないためにも、歯の寿命を縮めないためにも、この機会にぜひ、歯医者さんの定期健診を検討してみてはいかがでしょうか?

経歴

2007年 第100回歯科医師国家試験合格
2007年 日本歯科大学 生命歯学部卒業
2008年 埼玉県羽生市 医療法人社団正匡会 木村歯科医院
歯科医師としてのホスピタリティの基礎を学ぶ。
2010年 埼玉県新座市 おぐら歯科医院
地域に密着した医院で地域医療に携わり、
小児から高齢者歯科まで治療を行う。
2011年 東京都文京区 後楽園デンタルオフィス
施設の訪問診療などにも携わる。
2015年 東京都港区 青山通り歯科 院長
現在に至る

執筆者:歯の教科書 編集部

執筆者:歯の教科書 編集部

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