親知らず抜歯の完全ガイド|智歯周囲炎・ドライソケットの対処法も!

親知らず_抜歯

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一部が歯茎に埋まったままだったり、斜めに傾いて生えてきたり、親知らずは「口腔トラブルの原因になりやすい歯」と認識されています。そのため、生えてきた時点で抜歯する例も多く「親知らず=抜歯するもの」と考えている人も少なくありません。

昨今、顎の小さい人が増えて、親知らずが真っ直ぐ生える人の割合が減少しています。結果、たいていの人が、少なくとも1本は親知らずを抜歯しています。ただ、抜歯するのが当たり前になったとはいえ、抜歯に恐怖感を抱く人は少なくありません。

そこで、こちらの記事では、「親知らずの抜歯」に関する基礎知識を解説することにしました。「親知らずを抜くときの不安感」と「抜歯後の痛み」を最小限に抑えるためのポイントをまとめています。

目次

1.親知らずを抜歯するのはなぜか?

2.智歯周囲炎のリスクを解説!

3.状況別!親知らずの抜歯方法を確認

4.ドライソケットを防ぐ!抜歯後の注意点

5.親知らずの抜歯後、気をつけること

6.親知らず抜歯後の食事はどうする?

7.状況別!抜歯後の痛み方

8.まとめ

1.親知らずを抜歯するのはなぜか?

世の中には「親知らず=抜歯するもの」と認識している人がたくさんいます。実際に、多くの人が抜歯を受けているので、決して間違った認識ということもありません。しかし、どうして、「生えてくる歯を当然のように抜歯する」という状況になっているのでしょうか? まずは、親知らずを抜歯する理由を解説することにしましょう。

当然ながら、真っ直ぐきれいに生えてきた親知らずまで抜歯する必要はありません。抜歯の対象になるのは「口腔トラブルの原因になる場合」です。口腔トラブルの原因になるのは、「斜めに生えてきた親知らず」と「歯茎に埋まっている親知らず」です。

斜めに生えた親知らずの多くは「一部が歯茎に埋まっている状態」になっていて、「半埋伏智歯」と呼ばれます。それに対して、全体が埋まっている親知らずを「完全埋伏智歯」といいます。完全埋伏智歯の中で「横向きで埋まっているもの」については、特に「水平埋伏智歯」と呼称します。

この章では、半埋伏智歯・完全埋伏智歯・水平埋伏智歯のそれぞれについて、「どんな口腔トラブルの要因になるか」をまとめたいと思います。

1-1 斜めに生えてきた親知らず~半埋伏智歯

厳密には、必ずしも「斜めに生えた親知らず=半埋伏智歯」というわけではありません。斜めに生えてきて、全体が歯茎から出てくるケースもあります。しかし、「斜めで全体が生えてきた親知らず」と「半埋伏智歯」は、基本的に同じ種類の口腔トラブルを引き起こします。そこで、記事内ではひとくくりに記載することにしました。

さて、斜めの親知らずは、原則として「手前の歯」の方向に傾いています。親知らずの手間にある歯は「第二大臼歯(12歳臼歯)」です。この「第二大臼歯の方向に傾く」という性質が、さまざまな口腔トラブルを引き起こします。

第二大臼歯との歯間が虫歯になる…!

親知らずが第二大臼歯の方向に傾いていると、「第二大臼歯と親知らずの隙間」が拡大します。もっと正確に表現するならば、「歯の根元付近には隙間が空いて、上部では密着している」という状態になります。

歯ブラシは「面全体を磨く形状」になっているので、中途半端な隙間があると、その部分をうまく磨くことができません。そのため、「第二大臼歯と親知らずの隙間」に歯垢(プラーク)が溜まりやすくなります。歯垢は「細菌の塊」ですから、当然、虫歯リスクが増大するはずです。

こうして、「第二大臼歯と親知らずの隙間」が虫歯になるわけですが、重要なのは「第二大臼歯と親知らずがまとめて虫歯になる」という問題です。親知らずを抜歯しておけば1本(それも、あまり必要性のない歯)を犠牲にするだけで済んだのに、放置したがゆえに2本も虫歯になってしまう…。どう考えても、抜歯したほうが合理的です。

歯茎が細菌に感染して、智歯周囲炎を発症…!

斜めになった親知らずは、周囲の歯磨きを困難にします。特に半埋伏智歯の場合、歯茎に埋まった部分がまったく磨けなくなり、親知らず周辺がきちんと清掃できません。すると、親知らず周辺の歯茎にプラークが溜まっていきます。

さて、どんどん増殖した細菌が歯茎に感染すると、どうなるでしょうか? 親知らず周囲の歯茎が炎症を起こし、赤く腫れたり、痛みを生じたりします。この症状を指して「智歯周囲炎」と呼んでいます。かなりの痛みを伴う場合もありますし、炎症が拡大すると口腔全体が腫れることもあります。

第二大臼歯を押して、歯列全体に悪影響を及ぼす…!

親知らずが第二大臼歯の方向に傾いている…という事実は、何を意味するでしょうか? 歯が生えるときは、自分が向いているほうに伸びます。ということは、親知らずは第二大臼歯に向かって伸びます。結果、親知らずは第二大臼歯に接触し、さらにはグイグイと圧迫することになるのです。

歯は、継続的に押されると移動します。ということは、親知らずに押された第二大臼歯は、だんだんと手前に押されることになります。当然、第二大臼歯が手前に動けば、連鎖的に第一大臼歯が圧迫されます。こうして、玉突き事故のように歯が押されるようになり、やがては歯列全体に悪影響を生じるわけです。

1-2 歯茎に埋まっている親知らず~完全埋伏智歯

今度は、完全埋伏智歯のうち「歯茎に埋まっているもの」です。歯が表面まで出てこないまま、「完全に埋まっている状態」を想定してください。一部が埋まっている「半埋伏智歯」に比べると、それほど重篤な口腔トラブルは起こしません。深い位置で埋まっているぶんには、口腔トラブルの原因にならないことも多いです。

それでは、浅い位置で埋伏している「上向きの親知らず」が引き起こす「負の影響」を確認してみましょう。

歯茎に違和感・痛みが出ることがある…!

上向きの親知らずが歯茎の中に埋まっている場合、歯茎に違和感・痛みを覚えることがあります。親知らずが上に伸びようとした結果、歯茎を突き上げているからです。浅い位置で埋まっているときに、歯茎の違和感・痛みが顕著になります。

ただ、上向きで埋まっている親知らずなら、抜歯の必要はありません。歯茎を切開して、親知らずを表面に出してあげれば、歯として問題なく機能します。きちんと噛み合わせる相手の歯があるなら、保存したほうが良いでしょう。「歯茎を切開して、歯を表面に出す手術」を「開窓術」と呼んでいます。

1-3 横向きで埋まっている親知らず~水平埋伏智歯

完全埋伏智歯の中でも、「横向きに埋まっているもの」です。斜めに傾いている親知らずと同様に、ほとんどは手前の歯(第二大臼歯)のほうを向いています。となると、半埋伏智歯と同じように「第二大臼歯への影響」を考えなくてはなりません。

ちなみに、水平埋伏智歯が深い位置で埋伏しているぶんには、周囲の歯に影響しないケースも散見されます。口腔トラブルの原因となるのは、主に「浅い位置に埋まっている場合」です。では、水平埋伏智歯はどのような口腔トラブルを招くのでしょうか?

第二大臼歯の寿命を縮める…!

完全に埋まっているとはいえ、水平埋伏智歯にも「生えようとする動き」はあります。しかしながら、通常の歯のように、上に生えることはありません。歯は「自分が向いている方向に移動する性質」を持っているからです。ほとんどの水平埋伏智歯は第二大臼歯のほうを向いているので、第二大臼歯に向かって横移動します。

すると、水平埋伏智歯は、歯茎・歯槽骨(歯を支える骨)に埋まったまま、第二大臼歯の歯根を圧迫することになります。歯根というのは、「歯の根っこ」です。さて、歯根を圧迫された第二大臼歯はどうなるのでしょう?

実は、歯根には「物理的に圧迫されると溶ける」という性質があります。厳密には「体内に吸収される」と表現したほうが正確ですが、いずれにせよ、歯根が短くなっていくことに変わりはありません。この現象を「歯根吸収」と呼びます。

歯根吸収それ自体は、別に病気でも何でもありません。乳歯が永久歯に生え替わるとき、自然に抜け落ちたと思います。これは、下から永久歯に圧迫されて、乳歯の歯根が吸収されたからです。圧迫された歯根が短くなっていくことは、自然な現象といえます。

ただし、永久歯の歯根が吸収されるのは、大問題です。「親知らずが横向きに移動し、第二大臼歯の歯根が圧迫される」というのは、本質的にイレギュラーな出来事です。そのまま歯根吸収が進めば、第二大臼歯の脱落を招く恐れもあります。第二大臼歯の寿命を縮めてしまわないように、親知らずを抜歯するのが賢明でしょう。

含歯性嚢胞をつくる…!

水平埋伏智歯には、歯茎・歯槽骨の中で袋状の病変に包まれているものがあります。袋状の病変を「含歯性嚢胞(がんしせいのうほう)」と呼びます。「顎の骨に隆起を生じる」「顎の骨が吸収されて、ペコペコした薄いプラスチックのような質感になる(羊皮紙様感)」などの自覚症状を伴うことがあります。

長く放置すると、嚢胞が大きくなって周囲の歯がグラグラすることがあります。また、上顎の嚢胞が拡大した場合、鼻腔の両脇にある空洞―上顎洞が炎症を起こす例もあるので要注意です。上顎洞炎が慢性化したものは、一般に「蓄膿症(ちくのうしょう)」と呼ばれています。

含歯性嚢胞になっている歯が「上向きの歯」「やや斜めになっている歯」なら、歯茎を切開(開窓術)して、正常な位置に誘導(牽引)することが可能です。しかし、水平埋伏智歯が含歯性嚢胞を形成している場合、歯の保存はできません。残念ながら、抜歯することになります。

2.炎症を起こした親知らずを放置するのはNG!智歯周囲炎のリスク

半埋伏智歯など斜めに生えた親知らずは、周囲の衛生状態を悪化させる要因になります。前述のとおり、親知らず周囲の歯茎が細菌感染を起こすことがあり、この症状は「智歯周囲炎」と呼ばれています。

さて、この智歯周囲炎ですが、単に「親知らずの周囲が腫れる」だけでは済まない場合があるのをご存じでしょうか? 稀(まれ)なケースではありますが、感染が拡大すると口腔全体に炎症が起きたり、全身症状を発症したりすることもあるのです。

2-1 智歯周囲炎が拡大すると、どうなる?

細菌というのは、必ずしも一箇所にとどまってくれるわけではありません。智歯周囲炎の症状が、全身症状に拡大する恐れもあります。歯科関連の症状が全身症状を伴うほどに拡大した場合、「歯性感染症」と呼ばれます。智歯周囲炎をきっかけとする歯性感染症には、以下のような種類が存在します。

化膿性リンパ節炎

口腔内の炎症が悪化すると、頚部リンパ節(首筋のリンパ)にも腫れ・圧痛が出てきます。全身症状として発熱を伴うことが多いです。

顎骨骨膜炎(がっこつこつまくえん)

顎の骨を覆っている骨膜が感染すると、「顎骨骨膜炎」を生じます。抜歯した周囲だけでなく、顔が広範囲に腫れることが多いです。上顎の骨膜炎なら「眼の周囲」、下顎なら「顎の下」まで腫れて、圧痛・拍動痛を示します。「拍動痛」というのは、脈拍に合わせてズキズキと痛むような痛み方を指す言葉です。

顎骨骨髄炎(がっこつこつずいえん)

顎の骨の内部が炎症を起こした場合、「顎骨骨髄炎」と呼ばれます。抜歯した周囲の歯がグラグラしたり、周囲一帯が拍動痛を示したりします。歯茎・顔の腫れはそれほど目立ちませんが、「38~39℃の高熱」「全身倦怠感」など全身症状が強く現れる傾向です。

蜂窩織炎(ほうかしきえん)

口腔内の炎症が劇症化したものに「蜂窩織炎」があります。口腔内に腫れ・むくみが生じ、口を開けられないほどの激痛を伴います。喉の痛みも強く、満足に唾液を飲み込むことさえできません。高熱を伴い、全身症状も顕著です。別名で「フレグモーネ」と呼ばれます。

2-2 歯性感染症は、どのように治療するのか?

リスクを提示して終わりでは、いたずらに恐怖を煽(あお)るだけなので、歯性感染症の一般的な治療方法にも触れておきたいと思います。歯性感染症の疑いがある場合、まずは「炎症の程度」を検査することになるでしょう。

炎症の程度を知るためには、「血液中のCRP量(C反応性タンパク量)」役立ちます。炎症が起きていると、体内に免疫細胞から放出されるタンパク質―サイトカインが増加します。そして、サイトカインに刺激されることで、CRP量が増えるのです。この事実から「CRP値=炎症の度合いを知るための指標」となっています。

さて、健康な状態であればCRPは、基準値である「0.3以下」を示すはずです。CRPが0.3を超えているなら、炎症が起きていることがわかります。ちなみに、CRP値が10.0以上になっている場合、一般に入院加療を要します。蜂窩織炎を起こしているような場合、入院になることも珍しくありません。

細菌性感染症なので、抗生物質による治療がおこなわれます。抗生物質には内服薬と注射薬がありますが、重症例では点滴が選択されます。歯性感染症は口腔内に棲んでいる複数菌に感染しているので、幅広い細菌に対して殺菌作用を持つ「セフェム系」「ペニシリン系」の抗生物質が用いられます。

2-3 智歯周囲炎の根本治療は、親知らずの抜歯

全身症状が出るのは稀(まれ)なケースですが、親知らずの周囲が腫れる程度の智歯周囲炎は決して珍しくありません。不完全埋伏歯を放置すると、高い確率で智歯周囲炎などのトラブルを起こします。

親知らずが「斜めに生えていて、歯磨きを困難にしている」という場合、根本的な解決策は抜歯しかありません。実際、原因歯を抜歯しない限り、智歯周囲炎は再発する傾向にあります。いったん炎症が治まったところで、再びプラークが溜まれば「元の木阿弥」だからです。

ただし、原則として智歯周囲炎が起きている最中に抜歯することはできません。歯科医院を受診した場合でも、いったんは抗生物質・鎮痛剤を処方して、炎症が鎮静化するのを待つことになります。炎症が起きている部位は麻酔が効きにくいですし、下手に抜歯すると、今度は抜歯の傷口に感染するかもしれません。以上から、「炎症が治まるのを待って、それから抜歯する」という治療方針が一般的です。

3.状況別!親知らずの抜歯方法を確認

抜歯対象となる親知らずには「不完全埋伏歯」「水平埋伏智歯」などの種類が存在します。生え方によって抜歯方法が異なりますので、状況別の抜歯法を解説することにしましょう。ちなみに、「上向きの完全埋伏歯」については「開窓術による保存」が一般的なので、ここでは除外します。

さて、抜歯方法によって抜歯難易度が変わってきますが、抜歯難易度は歯科医師の主観で決まるわけではありません。抜歯難易度の基準は、厚生労働省が告示する「診療報酬点数」によって、客観的に定められています。まずは、3段階にわかれている抜歯難易度の基準を解説することにしましょう。

3-1 抜歯難易度は3段階!普通抜歯・難抜歯・埋伏歯

抜歯は簡単なほうから順に、「普通抜歯」「難抜歯」「埋伏歯」となっています。処置にかかる時間・労力が異なるので、診療報酬(処置の費用)に差がつけられているのです。

普通抜歯

通常の抜歯手順で事足りる場合は、普通抜歯となります。仮に斜めに生えていたとしても、特に抜歯を難しくする理由がない場合は普通抜歯です。「ヘーベルという器具を使い、テコの原理で歯根を歯槽骨から脱臼させる」という手順で抜歯できるなら、どのような生え方をしていても普通抜歯として扱います。

ちなみに、親知らずなど臼歯を普通抜歯する場合の保険点数は「260点」です。「1点=10円」なので2,600円ですが、健康保険で3割負担になるので、患者さんの負担額は「780円」となります。ただし、780円は「抜歯費用」であり、実際に受診すれば初診料・検査料などが上乗せされます。

難抜歯

「歯根が湾曲・肥大している場合」「歯根が歯槽骨と癒着している場合」などは、骨を削る処置(骨開削)が必要です。歯茎・骨を切開する手順が含まれるので、抜歯窩(抜歯した傷口)は大きくなります。骨開削を伴う抜歯は「難抜歯」として扱われます。

難抜歯をおこなった場合、「難抜歯加算:210点」という保険点数が加算されます。親知らずの抜歯は「260点」なので、難抜歯だと「260+210=470点」です。費用自体は4,700円ですが、3割負担なら「1,410円」になります。もちろん、実際に抜歯するときはレントゲン費用などが追加されます。

埋伏歯

親知らずが「横向きで、歯槽骨に埋まっている状態」を指して「水平埋伏智歯」と呼びます。水平埋伏智歯を抜くときは、「歯茎を切開し、親知らずを分割してから除去する」という手順を踏みます。これを「水平埋伏智歯抜歯術」といいます。傷口が大きくなる上、やや大がかりな骨開削を要します。

埋伏歯の抜歯における保険点数は「1,050点」です。費用総額は1万500円ですが、多くの人は3割負担なので「3,150円」になります。ただし、下顎の骨は硬く処置が困難なので、下顎の親知らずを抜歯するときは「下顎智歯加算:100点」が追加されます。下顎の埋伏智歯を抜歯するなら、「1,050+100=1,150点」となり、3割負担なら「3,450円」となります。

3-2 不完全埋伏歯は、基本的に普通抜歯!

斜めに生えている親知らずの多くは、普通抜歯となります。単に「斜めになっている」というだけなら、特に骨開削が必要にはなりません。普通抜歯で済めば、抜歯自体は5~10分もあれば終わります。

3-3 歯根が歯槽骨に癒着していれば、難抜歯!

斜めの親知らずのうち「歯根が歯槽骨に癒着しているもの」に関しては、難抜歯になります。多くは、歯科治療に使うタービンなどで歯槽骨を削りながら抜歯します。ただ、骨が薄い場合は抜歯器具(ヘーベル)で骨を除去することもあります。抜歯自体は10~15分で終わるのが普通です。

3-4 水平埋伏智歯は、水平埋伏智歯抜歯術!

埋伏歯の項目でも説明したように、水平埋伏智歯には「水平埋伏智歯抜歯術」を適応します。「第二大臼歯を向いて横向きに埋まっている歯」を抜歯するのは簡単ではありません。歯は生えている方向にしか抜けないからです。

生えている方向にしか抜歯できない以上、水平埋伏智歯を上方向に抜くことはできません。だからといって、生えている方向に抜く…というのも不可能です。今度は第二大臼歯が邪魔になり、抜歯することができません。

そこで、歯茎・歯槽骨を切開し、「埋まったままの状態で歯を分割する処置」をおこないます。具体的には「歯冠(歯の上部)」と「歯根(歯の下部)」に二分割します。ノミとハンマーのような器具で歯を2つに割るわけです。分割すれば、とりあえず歯冠は取り除くことができます。

歯冠がなくなったら、今度は歯根を抜きます。歯冠のあった場所に隙間ができていますから、その隙間を利用して「生えている方向に引き抜く」という動作が可能です。このように歯根を抜去すれば、水平埋伏智歯を抜歯することができます。複雑な手順を踏むので、処置には40分~1時間を要します。

4.ドライソケットを防ぐ!親知らず抜歯後の注意点

ここまでは「親知らずの抜歯方法」を解説してきましたが、ここからは「抜歯後の注意点」をまとめたいと思います。歯を抜くのは最短5分で終わることもありますが、抜歯後の傷口はそう簡単にふさがりません。実際、麻酔が切れてからの痛みに耐えかねた…という人も珍しくないようです。「抜歯後の痛み」を最小限に抑えるためには、どのような点に注意すれば良いのでしょうか?

親知らずの抜歯後、何より気をつけたいのは「傷口をドライソケットにしないこと」です。「抜歯後の注意点」とされる物事の7~8割は、ドライソケットを予防するためのポイントである…と表現しても過言ではありません。

現実問題、ドライソケットになると、抜歯後の痛みが強くなる上、痛む期間も長引きます。通常なら「2~3日で痛みが弱まり、1週間でほとんど痛くなくなる」という経過をたどりますが、ドライソケットになると「2~3日でむしろ痛みが悪化し、激しい痛みが最大1ヶ月ほど続く」といった悪夢のような経過をたどることになります。

まずは、これほどまでに治癒を遅らせる要因―「ドライソケット」について理解を深め、何としても予防する方向に持っていきましょう。

4-1 ドライソケットとは何か?

Webで「親知らずの抜歯」について調べてみると、「ドライソケットにならないように…」といった記述を頻繁に見かけます。親知らずを抜歯する人たちが恐れる「ドライソケット」とは、いったいどのような症状なのでしょうか?

ドライソケットは、正式名称を「抜歯窩治癒不全(ばっしかちゆふぜん)」といいます。「抜歯窩」は「歯を抜いた傷跡」のことで、「治癒不全」は「きちんと治らない」という意味です。要するに、抜歯の傷口がきちんとふさがらない症状を指します。

通常の皮膚なら、傷がふさがるときは「かさぶた」ができます。しかし、実際に傷口を止血・修復しているのは「かさぶた」ではありません。傷口の止血・修復をおこなっているのは、「かさぶた」の内側にある「血餅(けっぺい)」です。「かさぶた」は血液が乾いて凝固したことによる副産物に過ぎません。

傷ができると、「フィブリン」と呼ばれる繊維状タンパク質が、周囲の赤血球・白血球・血小板などを捕まえ、くるみこんで「ゼリー状の塊」を形成します。フィブリンの働きで形成された「ゼリー状の塊」が「血餅」です。傷口の止血・修復をするためには、欠かせない存在といえます。

さて、口腔粘膜は常にしめっているので、血液が乾くことはありません。よって、口の中の傷口に「かさぶた」は形成されないわけです。しかし、それでも止血・修復のために血餅は形成されます。つまり、抜歯後の傷口は血餅によってふさがれることになります。

無事に血餅が傷口をふさいでくれれば、だんだんと治癒に向かいます。しかし、何らかの事情で血餅が形成されなかったり、血餅が外れたりしたら、どうなるのでしょう…? 皮膚の傷なら「かさぶた」が表面に貼りついているので、簡単に血餅が外れる心配はありません。しかし、抜歯後の傷口には血餅がはまっているだけです。ちょっとした弾みで、外れてしまうこともありそうです。

そう、「抜歯後の傷口で、血餅によってふさがれていないもの」こそ、多くの人に恐れられているドライソケットです。ドライソケットという言葉は、「血餅が形成されなかった傷口」または「血餅が外れた傷口」を指しています。

4-2 抜歯後の傷口がドライソケットになると…?

さて、親知らずを抜歯した傷口がドライソケットになると、どのようなリスクが生じるのでしょうか? ドライソケットが生じた場合の「具体的なリスク」について確認することにしましょう。

抜歯後の疼痛(とうつう)が増大・長期化

もっとも広く知られているのは、痛みです。先ほども説明したように、ドライソケットになった傷口は、抜歯後2~3日で痛みが増大します。しかも、痛みは2週間~1ヶ月にわたって持続します。

歯は歯茎に生えているわけではなく、歯槽骨(しそうこつ)と呼ばれる骨から生えています。その傷口がふさがらないということは、「骨まで直通の穴があいている状態」を意味します。当然、食べ物・飲み物がドライソケットの中に入れば、歯槽骨が直接刺激されることになります。骨の痛覚は皮膚・粘膜より敏感ですから、激しい痛みが生じるのは当然といえるでしょう。

歯槽骨が細菌感染!歯槽骨炎を発症

歯槽骨まで直通の穴があくということは、「歯槽骨が細菌に感染するリスクを負う」ということです。それほど頻繁に起こるわけではありませんが、実際に「ドライソケットに食べ物に入り、食べ物に付着していた細菌が歯槽骨に感染する症例」があるのです。

歯槽骨に炎症が発生することから、この状態を「急性歯槽骨炎(きゅうせいしそうこつえん)」と呼んでいます。歯槽骨炎を起こすと、抜歯した周囲に発赤・腫れ・圧痛が生じます。「圧痛」というのは、指・舌などで押したときに痛むことを指します。

智歯周囲炎の項目でも同じことを記載しましたが、口腔内の炎症が拡大すると、発熱・倦怠感などの全身症状をきたす場合があります。歯槽骨炎が拡大すれば、やはり重篤な全身症状を伴う「歯性感染症」になるケースがあるのです。

それでは、歯槽骨炎が悪化した場合に起こり得る感染症を列挙することにしましょう。

※歯槽骨炎が拡大した場合に起こりえる「歯性感染症の種類」は、基本的に智歯周囲炎が拡大した場合と同じです。そのため、以下の解説は「智歯周囲炎の項目」で記載した内容を再掲します。

化膿性リンパ節炎
口腔内の炎症が悪化すると、頚部リンパ節(首筋のリンパ)にも腫れ・圧痛が出てきます。全身症状として発熱を伴うことが多いです。

顎骨骨膜炎(がっこつこつまくえん)

顎の骨を覆っている骨膜が感染すると、「顎骨骨膜炎」を生じます。抜歯した周囲だけでなく、顔が広範囲に腫れることが多いです。上顎の骨膜炎なら「眼の周囲」、下顎なら「顎の下」まで腫れて、圧痛・拍動痛を示します。「拍動痛」というのは、脈拍に合わせてズキズキと痛むような痛み方を指す言葉です。

顎骨骨髄炎(がっこつこつずいえん)

顎の骨の内部が炎症を起こした場合、「顎骨骨髄炎」と呼ばれます。抜歯した周囲の歯がグラグラしたり、周囲一帯が拍動痛を示したりします。歯茎・顔の腫れはそれほど目立ちませんが、「38~39℃の高熱」「全身倦怠感」など全身症状が強く現れる傾向です。

蜂窩織炎(ほうかしきえん)

口腔内の炎症が劇症化したものに「蜂窩織炎」があります。口腔内に腫れ・むくみが生じ、口を開けられないほどの激痛を伴います。喉の痛みも強く、満足に唾液を飲み込むことさえできません。高熱を伴い、全身症状も顕著です。別名で「フレグモーネ」と呼ばれます。

歯性感染症は、どのように治療するのか?

リスクを提示して終わりでは、いたずらに恐怖を煽るだけなので、歯性感染症の一般的な治療方法にも触れておきたいと思います。歯性感染症の疑いがある場合、まずは「炎症の程度」を検査することになるでしょう。

炎症の程度を知るためには、「血液中のCRP量(C反応性タンパク量)」役立ちます。炎症が起きていると、体内に免疫細胞から放出されるタンパク質―サイトカインが増加します。そして、サイトカインに刺激されることで、CRP量が増えるのです。この事実から「CRP値=炎症の度合いを知るための指標」となっています。

さて、健康な状態であればCRPは、基準値である「0.3以下」を示すはずです。CRPが0.3を超えているなら、炎症が起きていることがわかります。ちなみに、CRP値が10.0以上になっている場合、一般に入院加療を要します。蜂窩織炎を起こしているような場合、入院になることも珍しくありません。

細菌性感染症なので、抗生物質による治療がおこなわれます。抗生物質には内服薬と注射薬がありますが、重症例では点滴が選択されます。歯性感染症は口腔内に棲んでいる複数菌に感染しているので、幅広い細菌に対して殺菌作用を持つ「セフェム系」「ペニシリン系」の抗生物質が用いられます。

4-3 ドライソケットを防ぐために!傷口を守る8つの注意点

ここまで、「ドライソケットに隠されたリスク」を解説してきました。もっとも、歯性感染症にまで発展する例は稀(まれ)です。ほとんどの場合、痛みが増大するだけで、全身症状をきたすようなことは滅多にありません。しかし、「激しい痛み」に加えて「万が一の感染リスク」が存在する…という事実は、「何としてもドライソケットを防ぎたい」と考えるのに十分な根拠たり得るでしょう。

そこで、ドライソケットになる確率を減らすために役立つ「8つのポイント」を紹介したいと思います。

①抜歯当日の入浴・飲酒・激しい運動を避ける

血餅というのは、「血液がゼリー状に固まったもの」です。そのため、出血量が多すぎると、うまく固まらなくなります。入浴・飲酒・運動はいずれも、血管を拡張し、血のめぐりを活発にする傾向があります。結果、出血量が増えすぎてしまい、血餅の形成不全につながるわけです。

基本的に、抜歯当日の飲酒・激しい運動は絶対にNGです。入浴についてはバスタブに浸かるのを避けて、ぬるい温度のシャワーにとどめるなどしてください。

②経口避妊薬(ピル)の服用は慎重に

女性の場合、経口避妊薬の服用が、血餅形成を妨げることがあります。経口避妊薬の主成分であるエストロゲン(女性ホルモン)には血管を拡張する働きがあるため、出血量が増加しやすくなるのです。

しかし、月経困難症の治療薬として処方される「超低用量ピル(商品名:ヤーズetc.)」をはじめ、体調管理のためにピルを服用する人もいます。服用する理由によっては飲まないわけにもいかないでしょう。このあたりは、抜歯前に歯科医師・医師と相談しておくようにしてください。

③抜歯当日の喫煙を避ける

出血量が多すぎると「血が固まりにくくなる」という問題が起きますが、逆に出血量が少なすぎても血餅形成不全を起こすことがあります。「血餅を形成するための血液が足りない」という状況を招く恐れがあるからです。

タバコに含まれるニコチンには、血管を収縮させる作用があります。抜歯直後に喫煙すると、出血量が減り、血餅の形成不全を誘発する恐れが出てきます。少なくとも抜歯から2~3時間、可能なら抜歯当日は喫煙を控えるようにしましょう。

④抗血小板薬・抗凝固薬は、血餅形成を阻害

抗血小板薬・抗凝固薬など、いわゆる「血液をサラサラにする薬」は血餅形成を阻害することがあります。血が固まりにくくなる薬品なので、血餅の形成が妨げられるのは自明です。ただ、持病をコントロールするために服用する薬なので、自己判断で服用を止めてはいけません。服用している薬について、事前に歯科医師と相談しておきましょう。

⑤指・舌などで血餅をいじるのはNG

ここまで「血餅形成不全の要因」を列挙しましたが、「いったん形成された血餅が外れる」という例も存在します。むしろ、ドライソケットの要因としては、「血餅の脱落」が多数を占めています。

抜歯後の傷口が気になるのはわかりますが、指・舌などで傷口をいじると、血餅脱落の原因になります。ドライソケットのリスクを増やすだけなので、絶対に傷口をいじらないようにしてください。

⑥抜歯の傷口にはブラシを当てるのはNG

抜歯後、歯を磨くときには十分な注意が必要です。抜歯した周囲をブラッシングするとき、歯ブラシを血餅に接触させてはいけません。毛先が血餅に引っかかり、血餅を脱落させるケースがあるからです。抜歯から2~3日は、傷口の周囲を磨かない…ぐらいの配慮が必要になります。

⑦ブクブクうがいをするのはNG

抜歯当日~翌日は、口の中に血の味がします。激しい出血は止まっても、翌日あたりまで少量ずつ出血するからです。そのため、口をゆすぎたくなる機会が多いと思いますが、いわゆる「ブクブクうがい」をしてはいけません。水圧で血餅が外れるリスクがあるからです。口をゆすぎたいときは「水を口に含ませて、吐き出すだけ」のやさしいうがいを心がけましょう。

⑧何かを吸いこむような動作はNG

抜歯後は、口の中に何かを吸いこむような動作をしてはいけません。「ストローで飲み物を飲む」「舌打ちのような要領で口の中を吸う」など、口腔内を陰圧(吸引する圧力)にする動作すべてがNGです。傷口にはまっている血餅が吸い出されて、ドライソケットになるリスクがあります。

5.痛みを抑える!親知らずの抜歯後、気をつけること

抜歯の最中は、麻酔が効いているので痛みの心配はありません。問題なのは抜歯後、麻酔が切れてからです。実際、親知らずの抜歯後、痛みがピークを迎えるのは「抜歯当日の夜」といわれています。

麻酔が切れるのは、一般に「抜歯後2~3時間」と解説されます。しかし、実際には麻酔方法によって、作用時間が変動します。「浸潤麻酔」と「伝達麻酔」のどちらを採用したかによって、作用時間が変わってくるのです。…といっても、別に麻酔薬の種類が異なるわけではありません。異なるのは「注射する部位」です。

歯科麻酔に使われる薬剤は、ほとんどの場合、「リドカイン」と呼ばれる局所麻酔薬です。「麻酔成分―リドカイン」に「血管収縮剤―エプネフリン(アドレナリン)」を加えた麻酔薬(商品名:キシロカイン)が多用されています。血管収縮剤が入っているのは、血のめぐりを抑えて、患部に麻酔薬を長くとどまらせるためです。要するに、作用時間を引き延ばすため…ということになります。

循環器疾患がある患者さんの場合、血管収縮剤が心臓に負担をかけるので、メピバカイン(商品名:スキャンドネスト)という麻酔薬を用いることがありますが、健康な人に対しては、リドカインが基本です。

さて、リドカインを歯科麻酔として使用する場合、たいていは「浸潤麻酔(しんじゅんますい)」という注射方法をとります。これは、歯の根元付近にある「傍骨膜(ぼうこつまく)」にリドカイン製剤を注射し、神経に浸潤する(染みこんでいく)のを期待する方法です。多くの場合、浸潤麻酔で十分に抜歯が可能です。

ただ、下顎の奥歯を抜歯するときは、例外になることがあります。浸潤麻酔では十分な麻酔作用が得られないことがあるのです。特に「骨格のしっかりした男性」の場合、下顎奥歯には浸潤麻酔が効きにくい傾向があります。骨密度が高く、麻酔液があまり染みこんでくれないからです。

そこで、浸潤麻酔では作用が不十分という場合、伝達麻酔をおこないます。伝達麻酔は、下顎歯槽神経の神経叢(しんけいそう:神経が集まっている束)に直接、麻酔液を打ちこむ方法です。下顎に注射する場合、別名で「下顎歯槽神経ブロック」と呼ぶこともあります。伝達麻酔なら、骨密度に関係なく、抜歯に十分な麻酔作用を得られます。ただ、作用範囲・作用時間が拡大し、舌・唇などを含めた広範囲が最大6時間ほどマヒすることもあります。

以上から、麻酔が切れるまでの時間は「浸潤麻酔で2~3時間、伝達麻酔で3~6時間」と認識するのが正解です。

それでは、抜歯後―「麻酔が切れてから、痛みのピークが終わる翌日まで」の時間をどのように過ごせば良いのでしょうか? 傷ができているわけですから、さすがに「まったく痛みを感じないようにする」というのは難しいでしょう。しかし、痛みを抑えるために、何か有効な手段はないものでしょうか? この章では、抜歯後の痛みをなるべく抑えるための基礎知識をお伝えしたいと思います。

5-1 麻酔が切れる前に、最初の鎮痛剤を服用する!

なるべく痛みを和らげたいのなら、抜歯後、麻酔が切れる前に1回目の鎮痛剤を服用しておきましょう。痛みを感じはじめると、神経が過敏になり、鎮痛剤の作用を実感しにくくなります。鎮痛剤の作用を早く、しっかりと得たいなら、痛みが出てくる前に服用したほうが合理的なのです。

ちなみに、処方薬の鎮痛成分としてはロキソプロフェンが代表的です。ロキソプロフェン(商品名:ロキソニンetc.)は服用後、約47分で血中濃度が最大になります。そこで、「麻酔が切れる1時間前に服用する」というのがおすすめです。

もちろん、麻酔が切れるまでの時間は、分量・体質・体調で変動しますから、一概に「何時間で切れる」とはいえません。しかし、目安として浸潤麻酔をおこなったなら抜歯後1時間、伝達麻酔なら抜歯後3時間くらいで最初の鎮痛剤を服用すると良いでしょう。

5-2 抜歯後、傷口に押しあてたガーゼを30分噛み続ける!

抜歯後、止血のためにガーゼを当てられ、「30分くらい噛んでいてください」と言われるはずです。ガーゼ・脱脂綿を傷口に押しあてる方法は「直接圧迫止血法」と呼ばれています。傷口を止血するために有効なので、きちんと30分間、噛んでいるようにしてください。早めに止血できれば、それだけ痛みも軽くなる傾向があります。

ただ、「止血のために有効だから」と1時間も噛んでいてはいけません。度が過ぎると、今度はガーゼに染みこんだ大量の唾液が止血を阻害します。短すぎず、長すぎず、約30分の圧迫止血が有効なのです。

5-3 食事をとって良いのは、麻酔が切れてから!

抜歯後、麻酔の作用が残っているうちに食事をするのは避けましょう。感覚がない状態で食事をすると、「舌・頬粘膜(きょうねんまく)を噛む」などの事故につながります。抜歯の傷口が痛む中で、余分な外傷の痛みまで背負いこむのは賢明な選択とはいえません。

飲み物は摂取しても構いませんが、「熱いコーヒー」「スープ」などは避けてください。麻酔が効いている間は、痛みだけでなく温度も感じなくなります。熱さに気づかないまま口の中にとどめて、火傷を負う恐れがあります。

6.親知らず抜歯後の食事はどうする…?

抜歯後に注意するべき点としては「食事のメニュー」が挙げられます。もちろん、食欲があればしっかりと食べていただきたいのですが、一部、「ドライソケットのリスクを増大する食品」が存在します。この章では、抜歯当日~翌日に避けるべきNGメニューを解説することにしましょう。

6-1 麺類・ゼリー状の栄養食品はドライソケットを招く…!

もっとも注意していただきたいのが、「麺類」と「ゼリー状の栄養食品」です。麺類にはもちろん、お腹にやさしい食品とされる「うどん・そば」の類いも含まれます。「ゼリー状の栄養食品」は、金属製のパウチに入っているゼリー食品を指しています。「うどん・そば」「ゼリー状の栄養食品」は、いずれも病中・病後に好まれる食品ですが、なぜ抜歯後のメニューとしてはNGなのでしょうか?

理由は「食べるとき、吸いこむ動作をするから」です。「ドライソケットになる原因」の中で「吸いこむような動作はNG」と解説しました。傷口にはまっている血餅が吸い出される恐れがあるからです。麺類・ゼリーを吸いこむときに血餅が外れる恐れがあるから、NG食品なのです。

6-2 バゲット・煎餅など、硬い食品は痛みを増大する

バゲット、煎餅、クラッカー、ビスケットなどの硬い食品は、避けたほうが無難です。特に「噛んだときに破片のようになる食べ物」は傷口に食いこみやすく、不意に激痛が走る原因になります。

また、ドライソケットのリスクも無視できません。血餅は物理的接触で簡単に脱落することがあります。硬い食べ物が血餅にぶつかると、血餅がはがれてドライソケットになるかもしれません。

6-3 香辛料(特に唐辛子)の含まれた刺激物は、痛みの原因に

抜歯後は、香辛料を含んだ食品も避けたほうが良いでしょう。傷口に香辛料(特に唐辛子など辛味成分の強いもの)が触れると、痛みが増大します。辛味ほどではありませんが、塩味・酸味も傷口にしみることがあります。傷口がふさがってくるまで、辛味・塩味・酸味の強い食品は控えめにしましょう。

また、辛味などの刺激で傷口が痛んだとき、辛味を洗い流そうと「ブクブクうがい」をするのは絶対にNGです。今度は水圧で血餅が脱落する恐れが出てきます。こういった2次被害を防ぐためにも、刺激物は避けたほうが賢明です。

7.抜歯後の痛み方は、親知らずの状況次第で変わる

抜歯後の痛みは、親知らずの位置・生え方で大きく異なります。すべての親知らずが同じように抜歯できて、同程度に痛むわけではありません。この章では、「親知らずの位置」「抜歯難易度」による痛み方の違いを解説したいと思います。

7-1 下顎の親知らずは、抜歯後の痛みが強い!

親知らずの抜歯は、上顎と下顎で大きく異なります。基本的に、「下顎の親知らず抜歯は、上顎より困難」と考えてください。下顎骨は骨密度が高く、相当の硬さがあるからです。抜歯のときに力を要するぶん、抜歯後の痛みも強くなります。

特に、親知らずの歯根が歯槽骨と癒着している場合、この傾向は顕著になります。骨密度の高い骨を開削するにあたっては、ハンマー・ドリルなどを用いなければなりません。抜歯のときにかかる身体的負担が大きくなるのはもちろん、傷口も大きくなりがちです。

7-2 抜くのが難しい親知らずは、抜歯後の治癒が遅い!

抜歯難易度と「抜歯後の痛み」は比例する傾向にあります。抜歯方法の項目でも記載したように、抜歯難易度は「普通抜歯」「難抜歯」「埋伏歯」の3段階に分かれています。

普通抜歯

普通抜歯で済んだ場合、傷口の痛みは2~3日で緩和され、1週間もあれば、ほとんど痛みはなくなるでしょう。歯茎の傷口も1ヶ月以内にはふさがります。

おおむね、抜歯から5日~1週間あたりで、「(抜歯した側を避ければ)何を食べても大丈夫」という感覚になるのが普通です。

難抜歯

多くは抜歯後に縫合しますが、痛みが緩和されるまでに1週間ほどかかるケースが多いです。歯茎の傷口がしっかりとふさがるまでは、1~3ヶ月を要すると考えてください。

人によって傷口の回復速度は異なりますが、抜歯から1週間くらいは「刺激物」「硬い食べ物」「ストローなど、吸いこむ動作」を避けるようにしてください。ある程度、自由に食事ができるまでには10日前後かかると思います。

埋伏歯

痛みが緩和されるのに1週間~10日、傷口が完全にふさがるまでには半年ほどかかる人もいます。個人差はありますが、「治癒はかなり遅くなる」と考えてください。特に「下顎の水平埋伏智歯」を抜歯したときは、抜歯後の痛みが強くなる傾向にあります。

「刺激物」「硬い食べ物」「ストローなど、吸いこむ動作」をしても問題ないレベルに回復するには10日~2週間かかるのが普通です。何を食べてもそれほど痛みを感じない…という状態になるには1ヶ月近くかかる人も珍しくありません。

8.まとめ

抜歯後に痛むこともあるので、なかなか「親知らずを抜歯しよう」と決断することができない人もいると思います。しかし、斜め・横向きに生えた親知らずを放置すると、親知らずの周囲が炎症を起こして「智歯周囲炎」になるリスクもあります。

智歯周囲炎が悪化すると、全身症状を伴う歯性感染症になることがあります。炎症の原因を放置するのはリスキーである…と言わざるを得ません。最近はどこの歯医者さんも、痛みが出ないように最大限、気を遣ってくれます。よほどの難抜歯でなければ、抜歯後の痛みもそれほど耐えがたいものになりませんから、あまり怖がらずに歯科医院を訪れてみると良いでしょう。

また、「抜歯がどうしても怖い」といった歯科恐怖症の患者さんには、半分眠ったような感覚で処置を受けられる「鎮静(セデーション)」をしてくれる歯科医院も多いです。現代の歯医者さんは「怖くない治療」「痛みを抑えた治療」に力を入れているので、あまり肩に力を入れず、まずは相談してみましょう。

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